「ひゃぅ…あ…いや…」  
いつもの調教部屋。ポーラは全裸の状態で壁に繋がれ、無人で動くロボット達の責めを受けていた。  
ロボットの持つ刷毛を通して伝わる冷たい感触。ロボット達は彼女の二つの膨らみから秘所にわたり、隅々まで薬品を塗りたくっていった。  
「ひっ…うぅ…」  
冷たい刷毛の感覚に必死に耐えるポーラだったが、不意に与えられた感覚に思わず声を上げる。  
「ふぁぁぁ…な、なに!?…ああっ」  
薬品の塗られた部位が激しく振動し、ポーラを責め立てていく。  
「ああっ…あっ…いや…だめぇ…」  
広い部屋に響き渡る少女の嬌声。その様子をガラス越しに見ながら、モノトリーはプライベートルームでくつろいでいた。  
今回は、特定の電流を流す事で振動する薬品を使った調教だ。無人で動き続けるロボット達を使い、ポーラを快楽責めにしていた。  
―コンコン  
控えめなノックの音。  
「入れ。」  
「失礼します…。」  
部屋に入ってきたのはエツコだ。  
「調教中は入って来るなと言った筈だが?」  
「申し訳ございません…至急ご報告をしなければならない事がありまして…」  
「何だ?」  
言付けを破ってまでやって来たのだ、余程の事なのだろう…。訝しげに報告を聞く。  
「例の少年達がボルヘスの酒場に侵入したとの報告がありました…。」  
「何だと!?」  
報告を聞いてモノトリーは血相を変える。  
「酒場のマスターは何をしていたんだ!?」  
「門前払いをしようと試みたそうですが、少年達のあまりの気迫に進入を許してしまった様です…。」  
「くっ…使えん奴だ…今すぐ車を出せ、すぐに酒場へ向かう!!」  
「分かりました、すぐに手配します…。」  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
ネス達は今、おかしな街を彷徨っていた。おかしな街…そうとしか表現できない、不思議な街だった。  
ボルヘスの酒場に入ったところまでは覚えている。  
二人の侵入を食い止めようとする酒場のマスターを強引に押し切り、カウンターの中を調べた時…  
気が付くとこの街にいた。  
「ハロー!そして…グッドバイ!」  
住人に話しかける度、空間を越えてどこかに飛ばされる。  
「一体どうなってるんだ…」  
ネスが小さく呟く。  
「僕にも分からない…今、分かってるのは、街の名前とここでのルールだけだ…」  
ムーンサイド…それがこの街の名前だ。一面ネオンで装飾された真っ暗な街。街並みはフォーサイドに酷似している。だが、全く別の街だ。  
そして、この街のルール…はいがいいえで、いいえがはい…。  
それ以外全く分からない。  
「あ!あれは…」  
「どうした!ジェフ?」  
突然声を上げたジェフにネスが問い掛ける。  
「今モノトリーに似た男が…」  
「なんだって!?どこに!」  
「あそこだ!」  
ジェフの指差した方向に目を向けるネス。モノトリーの顔は新聞でしか見た事が無いが、確かに似ている。そして何より、その男の目の前にあるのは…  
「マニマニの悪魔…」  
 
 
不気味に輝く黄金像…あれはハッピーハッピー村で見たものと同じ物だ。ネスは確信した…あの男こそモノトリーだと…。  
「モノトリー!!」  
ネスは駆け出していた。  
「待て、ネス!」  
慌ててネスを追いかけるジェフ。  
だが…  
「くそっ…どうなってるんだ!?」  
視線の先にモノトリーはいる。しかし、見えない壁に阻まれ、そこに辿り着く事が出来ないでいた。  
「仕方が無い…別の道を探すんだ…」  
「くそっ…」  
見えてるのに辿り着けない…そんな歯痒さを感じながらも、今はジェフの言う通りにするしかなかった…。  
――同時刻  
モノトリーは焦っていた。  
彼らがここに辿り着くのも時間の問題だ…  
もしこの黄金像が破壊されてしまったら…そうなれば彼の今の地位は跡形もなく消え去るだろう。  
「マニマニの悪魔よ…私に力を授けてくれ…」  
モノトリーは弱々しく呟いた。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「マニマニの像なら、このすぐ先にある。だけど俺が邪魔して…おやおや、これは驚いた!まゆ毛つながりの金歯さん!こんなガキども、ほっといてバーボンでもひっかけにさあ、行きましょうぜ!」  
どうにか進入方法を発見したネス達。  
その勢いのままモノトリーの元へと向かう。  
「いたぞ!」  
ジェフが叫ぶ。  
「モノトリー!!」  
ネスもモノトリーの姿を見つけ、全力で駆ける。  
モノトリーもネス達の存在に気付きうろたえる。  
「付きまとうな!わ…私はモノトリーなんかじゃない!」  
「黙れ!!」  
ネスはモノトリー目掛けてバットを振りかぶる。  
「ひぃっ…」  
間一髪でネスのバットをかわすモノトリー。だが、ネスのバットはその勢いのまま黄金像に直撃した。  
―ビキッ…  
黄金像に亀裂が走る。  
「あぁぁぁ……」  
それを見てモノトリーが悲鳴の様な声を上げる。  
「どこだモノトリー!!」  
ネスは叫ぶが、既にモノトリーの姿は無かった…。  
「ネス!見てみろ!」  
ジェフの声に振り返るネス。  
視線の先で、黄金像が不気味な光を発していた。  
(奴はあの人形から悪魔のパワーを受けてるんだ。)  
トンチキの言葉が脳裏に蘇る。  
「そうか…こいつを壊せば…」  
ネスは渾身の力を込めてバットを振り落とした…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
自分のオフィスに戻ったモノトリー。  
「な…何だ?…力が抜けていく!?」  
「モノトリー様!!」  
その場に膝をつくモノトリーを見て、エツコが駆け寄ってくる。  
モノトリーはこの時悟った…マニマニの悪魔が破壊された事を…。  
「はぁ…はぁ…」  
肩で息をするモノトリー。今の彼にかつての面影は無い…。  
髪は色素が抜け白髪になり、まるで一気に歳をとってしまった様だ。  
モノトリーはその時になって初めて、自分がしてきた事の罪深さを悟った。  
「ああ…私は何という事を…」  
「モノトリー様!お気を確かに!」  
エツコの声が遠くに感じる。だが、ここで気を失うわけにはいかない…。  
「ポーラ…ポーラの元へ行かなくては…」  
モノトリーはエツコに支えられながら、ポーラの元へ向かった。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「はぁ…あっ…あ…あぁ…」  
モノトリーがいなくなった後も、ロボットによる調教は続いていた。  
何度も何度もイカされ…失神してもまた起こされ…地獄の様な責めが続き、ポーラの精神は限界まで来ていた。  
(ぁぁ……だ…め……くる…し……)  
だがその時、ロボット達の動きが一斉に止まる。  
(な…なに……?)  
―ガチャ…  
部屋の扉が開き、誰かが入って来る。  
ポーラは朦朧とした意識で突然の訪問者に目を向けた。  
そこにはエツコに支えられて歩く、男の姿があった。  
「エツコ…私はいいから…ポーラを…」  
「…分かりました。」  
モノトリーをその場に残し、エツコはポーラの元に駆け寄った。  
「ん……」  
拘束から開放され、倒れ込むポーラをエツコが支える。  
「ポーラ!しっかりして!」  
「エツコ…さん…?」  
虚ろな表情でエツコの顔を見るポーラ。  
「……」  
「ポーラ…?」  
ポーラはエツコの腕の中で気を失った。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「ううん…」  
一番最初に目に映ったは真っ白な天井。  
「気付いたのねポーラ!」  
「ここは…?」  
朦朧とした意識で、自分の身に起こった出来事を思い出そうとする。  
(…そうだ…私はあのまま気を失って…)  
次第に意識がはっきりしてくるポーラを見て、エツコはホッとした表情を浮かべる。  
「ここは医務室よ…それより体は大丈夫?」  
ポーラはエツコを見る。  
「エツコさん…」  
エツコは心配そうな表情でポーラを見つめている。テレパシーが使えるようになった今、彼女が本当に自分の事を心配してくれているという事をひしひしと感じる。  
「はい…大丈夫です。」  
「良かった…。」  
そう言って、優しげな笑顔を浮かべるエツコを見て、この人は本当は悪い人ではないとポーラは確信する。  
ちょうどその時だ。部屋の扉が開き、見知らぬ男が入って来る。  
「気が付いたのか…」  
「はい、先程…モノトリー様…」  
「…え…?」  
 
ポーラはその時初めて、部屋に入ってきた男がモノトリーだと気付いた。  
無理も無いだろう…黒かった髪は真っ白になり、一気に老け込んでしまった彼の姿に、かつての面影は無かったのだから…。  
「ポーラ…今まで本当にすまなかった…」  
そう言ってポーラのベッドの前に跪き、深々と頭を下げるモノトリー。  
「モノトリー…さん?」  
「許して欲しいとは言わない……だが、本当に今まですまなかった…」  
モノトリーに今までされてきた仕打ちを思い出すポーラ。だが、それでも…目の前で深々と頭を下げている彼を責める気にはなれなかった…。  
「私は大丈夫です…顔を上げて下さい…」  
「すまない…本当にすまない…」  
そう言って何度も何度も頭を下げるモノトリーを、ポーラは無言で見つめていた…。  
その後、ポーラはモノトリーから全てを聞いた。ハッピーハッピー村にあった黄金像を手にし、邪悪な力を手に入れた事。それを手に入れる為、トンチキを騙し殺そうとした事。他にも様々な悪事に手を染めてきた事を告白した。  
「私は今までに、沢山の罪を犯してきた…許され切れない程に…」  
それまでモノトリーの話を無言で聞いていたポーラは、彼を諭す。  
「モノトリーさん…大事なのはこれからです…自分の過ちに気付いたのなら…これから良くしていけば良いと思います。」  
「ポーラ君…」  
モノトリーはポーラの言葉を、静かに聞いていた…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
それから数日後の事だ。  
「モノトリー様!!」  
慌てた様子でエツコが部屋に駆け込んで来た。  
「どうした?」  
「例の少年達がこのビルに進入し、既にこの階に来てます!!」  
「そうか…ついにこの時が来たか…」  
椅子に腰掛けていたモノトリーは穏やかな様子で呟いた。  
「モノトリー様、私達が食い止めている間に早くお逃げ下さい!!」  
「……」  
だが、モノトリーは自分の椅子から動こうとしない。  
「モノトリー様…?」  
その様子に、エツコは不安そうな表情を浮かべる。  
「いいんだ…それよりエツコ…君は早く避難しなさい…」  
「そんな事は…」  
彼女はモノトリー専属のメイドだ。主人を置いて逃げる事など、彼女には出来なかった。  
「これは命令だ。」  
だが、モノトリーの有無を言わせぬ態度に、エツコは従うしかなかった…。  
「……分かりました。」  
そう言って部屋を去ろうとするエツコだったが、モノトリーに呼び止められる。  
「エツコ…」  
「はい…。」  
「今までありがとう…そしてすまなかった…」  
「モノトリー様…」  
背中を向けながら話すモノトリー。  
 
「さあ、行きなさい…」  
「…はい。モノトリー様も御達者で…」  
もしかしたら、もう会う事が出来ないかもしれない…。だが、彼の最後の命令を遂行するべく、エツコは部屋を跡にした…。  
「モノトリーさん…」  
その様子をずっと見守っていたポーラが、小さく呟く。  
「エツコには色々と迷惑を掛けてきた…せめて彼女だけでも…」  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
モノトリービルへの侵入を果たしたネス達。  
マニマニの悪魔を破壊した事で、市民に掛かっていた暗示は解け、モノトリービルへの侵入は容易だった。  
48階に辿り着き、その階を守っているガードロボ達を次々と撃破し、快進撃を続けるネス達だったが、モノトリーのオフィスまで後一歩のところで、思わぬ苦戦を強いられていた…。  
「ガチャガチャ、ピーピー、ボロボロ、ズルズル、ドンガラガッシャン、ポッピー」  
「くっ…こいつ…今までの奴とは違う…」  
ネスが忌々しげに呟く。  
ネス達が今戦っているのは、モノトリーのオフィスへの侵入者を排除する為に配置されたロボット。  
今まで倒してきたガードロボ達とは違うタイプのロボットだった。  
弱そうな外見とは裏腹に、他のガードロボ以上の強さを秘めた、いわば最後の門番だ。  
ネスのバットを軽々とかわし、その隙を狙ってミサイルを撃って来る。  
「危ない!!」  
「うぐっ…」  
ネスは膝を付く、咄嗟にシールドでガードしたとはいえかなりの衝撃だ。  
「ネス!大丈夫か!?」  
「ああ…何とかね…」  
心配して駆け寄ってくるジェフに苦笑を浮かべて答えるネス。  
 
そんな時だ。  
突然!男達が部屋になだれこんで来た…トンズラブラザーズだ!  
ラッキーはロボットの後ろに素早く回りこんだ。  
「スイッチを切ったら止まったぜ!ははははは…わかりやすいやつだ!」  
「お前、頭いいな。」  
ロボットは機能を停止した。  
「こんな簡単に倒せるなんて…」  
ネスとジェフは呆気にとられていた…。だが、すぐに我に返る。  
「皆さん、どうしてここへ!?」  
ジェフがラッキー達に話しかける。  
「オレ達、お前らに借りがあるからな、お礼がしたいんだ。いくらでも力になるぜ!」  
「そうそう、金はなくても力はあるんや。」  
「さあ、となりの部屋に踏み込もうぜ。」  
ネス達はラッキー達の力を借り、モノトリーのオフィスへ乗り込んだ。  
「……」  
モノトリーは無言で彼らの前に立っていた。  
その姿を見るなり、ネスはモノトリーに掴みかかり、壁際まで追い込んだ。  
「モノトリー!!貴様!!」  
ポーラの事、トンチキの事で怒り爆発のネスは拳を振り上げた。  
「やめて!!」  
少女の声がオフィスに響き渡る。  
「ポーラ君…」  
モノトリーが小さく呟く。  
「モノトリーさんは悪くないの…ただ、操られてただけなのよ…だから…ネス…彼を責めないで!」  
「くそっ…」  
―ドガッ!!  
振り上げた拳はモノトリーには当たらず、オフィスの壁にぶち当たった。  
 
「ネス…」  
拳を握り締め、フルフルと小刻みに震えているネスにポーラが呼びかける。  
「ああ…操られてた事はわかってるさ…でも…トンチキさんはもう戻って来ないんだぞ!!」  
そう言って俯くネス。そんな彼にポーラは何も言えなかった。  
部屋中がシン…と静まり返り、誰もが無言で立ち尽くす。  
(トンチキさん……)  
ネスは心の中で、トンチキの姿を思い出していた。  
彼のおかげで今こうして、モノトリーの元に来る事が出来た。  
ポーラは無事だった…だが、その為に払った犠牲はとても大きなものだった…。  
と、その時突然部屋のドアが開いた。  
「おいおい…人を勝手に殺すなよな…」  
そういいながら部屋に入ってくる男。  
その場にいた誰もが声の主へ目を向ける。  
サングラスにアロハシャツのその姿は…!  
「そ…そんな…」  
ネスは驚きの声を上げる。  
「トンチキさん!?」  
「ああ…俺は世界一のドロボー、トンチキさ。勿論、幽霊なんかじゃないぜ。」  
そう言ってニカッ…笑う彼は、紛れも無くトンチキだ。  
「い…一体どうして?あのまま死んでしまったかと…」  
ジェフの問い掛けに、笑いながらトンチキが答える。  
「まあ…俺もそのつもりだったんだけどな…気が付いたら病院のベッドの上にいたんだな。」  
二人と別れた後、トンチキは大通りで力尽きた。だが、それを見つけた市民達の手によって病院に担ぎ込まれたのだった。  
「そんな報告は聞いていないが…」  
 
モノトリーもトンチキが生きている事が信じられず、そう小さく呟く。  
その呟きを聞き、トンチキは笑いながら答える。  
「ハハハハハ…みんながみんな、あんたの言いなりじゃなかったって事さ。」  
「そうか…」  
「それよりネス。そろそろ離してやったらどうだ?」  
「あ…はい…」  
トンチキに窘められ、ネスはモノトリーを掴んでいた手を離した。  
自由になったモノトリー。  
「すまなかった…謝り尽くしても謝り切れない程、君達には申し訳ないことをした…」  
彼はその場にいる者達に深々と頭を下げた。  
「こうして頭を下げてるんだ。ポーラも俺も無事だったんだ…許してやってもいいんじゃないか?」  
「…そうですね。」  
トンチキの言葉に、ネスは頷いた。  
「ネス…モノトリーさんは、本当は悪い人じゃないわ。とにかく話を聞いてあげて…。」  
ポーラに促され、ネスはモノトリーの話を聞く事にした。  
モノトリーは少しずつ話し始めた。マニマニの悪魔の事…そして、それから与えられた謎の言葉…。  
「幻の中には謎のような言葉が含まれていてその中にはネス君、君達の名前もあった。『ネスをお前の手でくい止めろ』とか…  
『サマーズへゆかせるな』とか。『ピラミッドを見せるな』…私にはよくわからないが、君達をサマーズにゆかせぬようにしたいらしい。  
…悪魔の…ギーグとか…も聞こえたが…悪魔の方は、君達がサマーズにゆくと困るらしい。…とすれば逆に、なんとしてもサマーズに向かうべきなのだろう。」  
「サマーズか…海を越えなければならないな…」  
モノトリーの話を聞き、ジェフが呟く。  
「それなら、私のヘリコプターを使ってくれ。ヘリポートを開けよう。」  
そう言ってモノトリーは、ヘリポートへの通路を開いた。  
 
ヘリポートに着いたネス達。だが、ヘリコプターは急に動き出す。  
「な…あれは…!?」  
「とんま野郎のネス!じたばたしても遅いぜ!バイバイ!お人よしに戻っちまったモノトリーじいさんにはもう用はないね。おれ、ヘリコプターに乗れてうれしいぜ!おしりペンペーン!アッカン、ベロベロベー!」  
ヘリコプターに乗っているのはポーキーだった。ヘリコプターはそのまま遠くへ飛び去っていった…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
モノトリーのオフィスに戻ったネス達は、モノトリーに事の次第を話した。  
「ポーキー君がヘリコプターを…大丈夫だろうか…」  
不意に、ポーラがふらつく。  
「ポーラ?どうした!?」  
「……。ちょっと眩暈がしただけよ。大丈夫。…サマーズに行くためには…。スリークに戻る必要があるわ。今、強くそれを感じたの。」  
「スリークか…」  
―トゥルルル……  
その時、オフィスの電話のベルが鳴る。  
「失礼…」  
モノトリーは受話器を取った。  
「私だ…」  
モノトリーは無言で話を聞いていた。  
「そうか…分かった。私の事は構わないから、君達は安全な場所に避難しなさい。」  
そう言ってモノトリーは受話器を置く。  
「何があったんですか?」  
ただならぬ雰囲気に、ジェフがモノトリーに問い掛ける。  
 
「…市民が、暴動を起こしている様だ…私に会わせろと、ビルに押しかけている…」  
「おいおい、そりゃあちぃとばかしヤバくねーか?」  
「君達も速く逃げなさい…ここにいては巻き込まれてしまうだろう…」  
「あんたはどうするんだ?」  
「私はここに残る…自分が蒔いた種だ…」  
そう言って、自分の椅子に座るモノトリー。今、市民は暴徒と化している…このままではモノトリーもただでは済まないだろう。  
だが、モノトリーはそれに殉ずる覚悟の様だ。  
「そんなの駄目です!!」  
ポーラだ。その場にいた者は一斉にポーラを見る。  
「……」  
モノトリーは無言でポーラの顔を見上げる。  
「前にも言ったじゃないですか…大事なのはこれからです…。でも、今逃げなかったら、それさえ出来なくなってしまいます!」  
確かにポーラの言う通りだろう…今、市民と接触してしまえば、最悪殺されるかもしれない…。  
「だから…一緒に逃げましょう…やり直しはまだききます…」  
「ポーラ君…」  
ポーラの説得によってモノトリーは考えを改めた。だが…  
「しかし、どうやって…」  
ビルには市民が詰め掛けている。脱出は困難だろう…。  
「ははは、やっとオレ達の出番だな。」  
そう言って笑うのはラッキーだ。  
「こういう事はオレ達に任せな。トンズラはオレ達の十八番だぜ。」  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「さあ、どいたどいた。トンズラブラザーズのお通りだぜ。」  
詰め掛けた市民の間を掻き分けながら、一行は出口へと向かう。  
「キャー、トンブラよ!」  
「サイン下さい!!」  
突然現れたトンズラブラザーズにサインをねだる市民達。  
「おいおい、そんな一度には出来ねーぜ。順番に並んでくれよ。」  
「そういう事だ…わりぃが先に行っててくれ。」  
そう言ってネス達に衣装ケースを託し、サインを受けるラッキー達。  
作戦通りだ。  
ネス達は既に待機していたトラベリングバスに乗り込んだ。  
しばらくしてラッキー達がやって来る。  
「上手くいったな。」  
トラベリングバスを走らせモノトリービルを後にする一行。  
「そろそろいいぜ。」  
ちょうどフォーサイドのトンネルを越えたところで、ラッキーがネス達に話しかける。  
すると、衣装ケースからモノトリーが出てきた。  
「ハハ、それにしても上手い事考えたな。」  
そう言って笑うトンチキ。運転席に座っているラッキーが得意げに話す。  
「こういう事は慣れてるからな」  
トンネルを抜け、バスは橋の上を走っていた。フォーサイドの街並みが遠くに見える。  
「本当にこれで良かったのだろうか…」  
モノトリーが小さく呟く。  
「まあ、そんなに気にするなよ。」  
「しばらくトンズラして、ほとぼりが冷めた頃に戻ればいいさ。」  
モノトリーは、徐々に小さくなっていくフォーサイドの街並みを無言で見つめていた…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
一行はスーリクの町に着いた。  
「ついたぜ!イエイ、オレ達たいした事はできなかったけどお前達の味方さ。苦しいときはおれ達の歌を思い出してくれよ。どっか遠い空の下で、トンズラブラザーズがコーラスにつけてると思ってさ。」  
「ありがとう、ラッキーさんにトンブラのみんな…。  
「またツーソンに戻ったらヌスット広場に来いよ。歓迎するぜ。」  
「トンチキさん…じゃあ、僕達はここで…」  
ネス達はトラベリングバスを降りた。  
「皆さんお元気で…。」  
「ああ、お前達もしっかりやれよ。」  
ネス達をその場に残し、トラベリングバスは去っていった。  
 
ツーソンに向かうトラベリングバス。  
その中で向かい合って座っているトンチキとモノトリー。  
「ところでよ…あんた、行く当てはあるのか?」  
「…いや…ないな。」  
トンチキの問いに、静かに答えるモノトリー。  
「そうか…なら、うちに来ないか?」  
トンチキの意外な言葉に、モノトリーは驚く。  
「な!?」  
「あんたなら客分として扱ってやるよ。」  
「し、しかし、私は君にとんでもない事を…」  
「ハハ、まだそんな事考えてるのか…そんな昔の事は気にしてねーよ。」  
しばらく無言で考え込むモノトリー。  
 
「どうだ?いい話だろ?」  
「…ああ、そうさせてもらうよ。」  
「よし、そうと決まれば話は早い。よろしく頼むぜ、相棒。」  
そう言って手を差し出すトンチキ。  
「ああ、こちらこそよろしく。」  
モノトリーはトンチキの手を握り返す。  
「ヒューいいねーこれぞ男の友情。」  
その様子を見ていたトンブラのメンバーがはやし立てる。  
「金も大事だけど友情はもっと大事だね。」  
「そんなあんた達に曲をプレゼントするぜ」  
ラッキーの提案にメンバーは皆頷く。  
「曲はどうする?」  
「ぴったしの曲があるぜ…これはまだ未発表だから、あんた達が初めての観衆だ。」  
「タイトルは『グッドフレンズ・バッドフレンズ』だ。じゃあいくぜ!」  
バスの中でトンブラの生演奏が始まる。  
「ハハ、なかなかシャレた曲じゃねーか。」  
曲を聴きながらトンチキが言う。  
モノトリーは静かに聴き入っていた。  
「…確かに…いい曲だ…。」  
軽快な音楽を奏でながら、バスはツーソンへのトンネルに入っていった。  
 
 
終  
 

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