「ん………ここは……どこ?」  
トレーシーが目を覚ますと、知らない部屋にいた。  
あたりに視線を巡らすと、どうやら物置のような場所らしく、彼女は部屋の中心にあるベッドで寝ていたようだ。  
起き上がろうとするが、思うように体が動かない。  
「あれ…?」  
自分の体を見渡すトレーシー。  
すると、すぐに起き上がれない原因がわかった。  
「縛られてる…?」  
手足はそれぞれベッドの四方から伸びたロープで固定され、ちょうどΧ字の形で仰向けに固定されていた。  
「何でこんな事に……」  
(確か…図書館に本を返してドラッグストアに行く途中、おにいちゃんを見かけて…)  
――――――――――― 「はい、確かに。また利用してね。」  
係員のお姉さんに本を返し、出口に差し掛かった所でかぜ薬が切れていた事を思い出す。  
「そうだ、買いに行かないと…」  
そう呟きながら空を見る  
(最近は物騒だからあまり一人で街へ行くなって言われてるけど……まだお昼だし、ドラッグストアまではそんなに遠くないから……大丈夫だよ。)  
楽観的に考えるトレーシー。こういうところは母親譲りなのだろう。  
だが、この判断がこの後待ち受ける悲劇の始まりだと彼女は知る由もなかった…  
 
 
図書館を出たトレーシーはそのままドラッグストアに向かっていた。  
「ん?あれは……」  
視線の少し先にはトレードマークの赤い帽子に青と黄の縞々模様の服。  
手を振りながら呼び掛けると、向こうも気付いたらしく駆け寄って来る。  
「こんな所で何してるんだ、トレーシー?」  
「かぜ薬を買いに行くとこだよ。」  
「そうか。」  
そういいながら辺りを見渡すネス。  
「どうしたの?」  
「いや、ところで一人で来たのか?」  
「うん、そうだよ。」  
それを聞きネスは少し困った顔をする。  
「前にも言ったけど…」  
「わかってるよ。シャーク団に絡まれるぞ!ってことでしょ?」  
「それもあるし、最近は街の動物達が人に襲いかかる事も増えてきてるんだよ?それなのに一人でいたら危ないじゃないか。それに…」  
(もう…また始まっちゃった……)  
その後も黙々と話し続けるネスを見ながらトレーシーは思う。  
こうなるとネスは止まらない。放っておけば延々と話は続くだろう。だが、それはトレーシーのことを大切に思うが故の行動。その思いを理解し、トレーシーは嬉しくなるが、不意に心に影が差す。  
(でも…それは妹としてだよね…)  
トレーシーはネスの事が好きだ。妹としてでなく、一人の少女として…。だが、ネスにとってトレーシーは『妹』であり、それ以上でもなく、それ以下でもない。  
(いけないことだって分かってるけど……でも……)  
「トレーシー?どうしたん…」  
トレーシーの様子に気付き、呼びかけるネスだったが、トレーシーに遮られる。  
 
「ごめんね、おにいちゃん…次からは気を付けるよ。」  
「あ、ああ…こっちこそ長々と話してごめん…。」  
「謝らなくていいよ…私のこと心配して言ってくれてたんだから嬉しいよ。」  
そう言い満面の笑みを浮かべるトレーシー。  
「そ、そうか…」  
トレーシーの素直な言葉に顔を赤くするネス。  
「……まあ…せっかくここまで来たんだ。一緒にかぜ薬を買って家に戻ろう。」  
「うん。」  
そう言うとトレーシーはネスの手を取って歩き出した。  
(このくらい…いいよね…)  
はじめは戸惑っていたネスだが、結局手を繋いで歩く事にした。  
 
ネス達が去った後、路地裏から少年達が姿を見せる。  
それぞれ背格好は異なるが、そのサメの背びれを象徴した独特のヘアースタイルはまさしくシャーク団の証だ。  
「妹か…」  
「けっ、仲のよろしい事で…」  
「へへへ…最近やられっ放しだったからな…ちょうどいいぜぇ。」  
下卑た笑いを浮かべながらリーダ格らしき少年が呟いた。  
「どうすんだ?」  
「さらうに決まってんだろぉ?」  
その言葉に、それを傍らで聞いていた別の少年が反応する。  
「お、おい、そんな勝手な事したらフランク様に…」  
「あー?そんなもん、ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃなぁ。それにオメーもやられっ放しじゃ気が済まねーだろぉ?」  
「まあ…それもそうだな。」  
「で、どうやってさらうんだ?」  
「まあ待て、俺にいい考えがある……」  
 
 
ドラッグストアで買い物を終えたネス達は家に向かって市内を歩いていた。  
「……って事があってね…」  
トレーシー話に耳を傾けていたネスだが不意に立ち止まる。  
「え?どうしたの?おにいちゃ……」  
言いかけて止まってしまうトレーシー  
視線の先には三人の少年。  
彼らこそ、オネットで最も出会いたくない存在、シャーク団だ。  
「…………」  
不安そうなトレーシーを無言で背に庇うネス。  
「久しぶりだなぁネス!この前の借りは返させてもらぜぇ!」  
リーダー格らしき少年が叫ぶ。  
「おにいちゃん……」  
「トレーシー、少し離れてて…」  
「でも……」  
「大丈夫、すぐ終わるから。」  
「う、うん、わかった…。」  
有無を言わせぬ態度にトレーシーは頷く  
それを見たネスは、一度トレーシーの頭を撫でると少年達に向かって歩いていった。  
トレーシーはその場から離れ、遠くからネスの姿を見守る。  
しばらくして、戦闘が始まった。ネス一人に対し、相手は三人。数的に不利なネスだが、PSIを使いどうにか応戦する。徐々に相手のスタミナが切れ、動きが鈍くなった所でネスが反撃に出る。  
「おにいちゃん……」  
ネスの姿に心配そうに見守るトレーシーだが、その背後に忍び寄る影があった。  
「え…?」  
トレーシーが背後の気配に振り向くと、そこには二人の少年がいた。  
(この髪型は…シャーク団!?)  
 
ネスは戦いに気を取られこちらの様子に気付いていない。  
とっさに叫ぼうとするが、手で口を塞がれ、そのまま二人がかりで路地裏に担ぎ去られてしまう。  
「上手くいったようだなぁ…」  
ネスの攻撃をかわしながらその様子を傍目で見ていたシャーク団の少年はそう小さく呟くと、仲間に合図を送る。  
「へ!!今日はこの位にしてやるぜぇ!」  
「覚えてな!!」  
「けっ!」  
それぞれ思い思いの捨て台詞を吐き、その場を去っていく少年達。  
「ふー。」  
一息つきあたりを見渡すネスだが、異変に気付く。  
トレーシーの姿がないのだ。  
「どこにいるんだ?」  
(帰ったのだろうか…いや、トレーシーの事だ、助けを呼びに言ったのかもしれないな…)  
しばらくあたりを探すネスだったが、ふと何かが目に留まる。  
それは、砂塗れになったかぜ薬だった。  
「これは…。」  
嫌な予感がするネスだが、今はどうする事も出来なかった。  
 
 
路地裏を走る二人組みの少年。彼らの腕の中には少女が一人。  
「こんなに上手くいくとは思わなかったぜ。」  
「だな。」  
「んんーんー!」  
ジタバタともがくトレーシーだったが、二人がかりで押さえつけられているため、どうにもならない。  
(こうなったら……)  
―ガリッ  
「イテッ!」  
「どうした!?」  
口を塞いでいた手に噛み付き、怯んだ隙に逃げ出す。  
「くそ、待て!!」  
慌てて追いかけるが、トレーシーはすでに大通りに向かって走っていた。  
(はあ……はあ……あと少し…あと少しで大通り……そこまでいけば……)  
大通りまで目と鼻の先に来ていたトレーシー。だが、  
「あっ…!」  
不意に足が縺れ、こけてしまった。  
また走り出そう立ち上がるが、目の前にはシャーク団の少年が立っていた。  
「ぜーはー…ぜーはー…さっきはよくも…噛み付いてくれたな!!」  
そう言い、睨み付けてくる少年の雰囲気に飲み込まれ、トレーシーはその場から動けなくなってしまう。  
「ひっ……」  
「お返しだ!」  
―ドゴッ  
トレーシーは鳩尾を強打され、声も出せずその場に崩れる。  
「ちっ、兄妹揃ってムカつく奴等だな。」  
「まあいいじゃねーか、後でお楽しみが待ってんだからよ。」  
「へっ、それもそうだな。」  
気を失ったトレーシーを肩に担ぎ、ニヤつきながらその場を後にする少年達だった。  
 
――――――――――――――――――――――――――――――  
 
「そうだ…あのまま私…」  
自分の身に起きた出来事を思い出し、トレーシーは誰も居ない部屋で独り小さく呟く。  
「今、何時だろう…」  
もう一度辺りを見渡すが、部屋に時計は無く、外の様子を見ようにも、窓が無いのでどうにもならない。  
天井にはむき出しの電球が一つ。小さく辺りを照らしている。  
「んっ痛っ…」  
少し体勢を変えようと体に力を込めたトレーシーだったが、殴られた箇所が痛み、声を上げる。  
そんな時、何者かの話し声が部屋の外から聞こえてきた。  
そして、その声は次第に大きくなり、数人の足音が静かな部屋に響き渡る。  
「え…まさか…」  
トレーシーは青ざめる。自分をこんな目に合わせた人達かもしれない…  
そして、足音は部屋の前で止まった。  
ゴクリ…と息を呑むトレーシー。思わず握り締めていた手は冷や汗で湿っている。  
ガチャガチャ…と鍵を開ける音が響き、そして、数人の少年達が談笑しながら入って来た。  
「お!?やっとお目覚めかい?」  
ヘラヘラと下卑た笑いを浮かべながら、ベッドに拘束されたトレーシーを取り囲む少年達。  
「な…なんで…こんな事を…?」  
恐る恐る少年達に問い掛けるトレーシー。  
「へへへ…何でかってぇ?お前の兄貴にでも聞いてみな。」  
「お…おにいちゃんに?」  
「お前の兄貴には散々世話になったんでねぇ…そのお返しさ…」  
 
ヘラヘラ笑いながら少年は続ける。  
「お前を人質にしてなぁ、あの糞兄貴をボコボコにしてやるって話しさ…」  
初めは、よく分からないといった表情のトレーシーだったが、話しを聞くに連れて、徐々に血の気が引いていく。  
「そ…そんな…ひどい…」  
思わずそう口走ったトレーシーだったが、それを聞いて、さっきとは別の少年がいきり立つ。  
「はぁ?ひでーのはどっちだ!?俺達は毎回あいつにボコボコにされてんだぞ!分かってんのか?」  
急に怒鳴られ、ビクッ…と身を竦ませるトレーシー。  
「おいおい…そんなに大声出すなよなぁ。怯えちまってるじゃねえかよ…」  
「あ、ああ、すまん…つい。」  
リーダ格の少年に窘められ、怒鳴った少年は静かになる。  
「まあ、そう言う訳でさぁ…大人しくしてたら何もしねぇよ。」  
そう言って、静かに震えているトレーシーの頬を撫で上げる少年。  
ひぃ…とか細い悲鳴を上げ、少年の手から逃れようとするトレーシーだったが、体の自由が利かない為、ただ耐えるしかない。  
 
「おい、話が違うじゃねえか。」  
そう言って異を唱えるのは別の少年。  
トレーシーは、その少年の顔に見覚えがあった。  
あの時、噛み付いた少年だ。  
あと少しの所で追いつかれ、殴られて気絶してしまった時の事を思い出す。  
(さっきはよくも…噛み付いてくれたな!!)  
そう言って睨み付けられた時の記憶が脳裏に蘇り、恐怖に震えるトレーシー。  
(助けて、おにいちゃん…)  
心の中で、兄に助けを求めるトレーシーだったが、その思いが伝わる事は無かった。  
まあ、待て…と異を唱えた少年を片手で制し、リーダー格の少年はトレーシーの耳元で囁く。  
「このままだとよぉ…お前の兄貴がボコボコにされるのは分かるよなぁ?」  
恐怖のあまり、無言で頷く事しか出来ないトレーシー。  
「ものは相談なんだがよ…取引しねぇか?」  
え?…と、少年の意外な言葉に目を丸くするトレーシー。  
「お前が俺達の言う通りにするってんなら、兄貴にゃ手をださねえよ。」  
 
(怖いよ……でも…言うとおりにすればおにいちゃんは…)  
トレーシーは心の中で葛藤する。  
「どうする?お前次第だぜぇ…」  
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、少年はトレーシーの反応を伺う。  
「まあ、無理にとは言わないぜ…兄貴をボコれば済む話からなぁ…」  
それを聞いて、トレーシーの意は決まった。  
「…します…言う通りにしますから、おにいちゃんだけは…」  
小さいながらもハッきりと決意を言葉にするトレーシー。本当は怖くて怖くてどうしようもない。だが、大好きなおにいちゃんが危険な目に遭う位なら…と。  
「そうかい…もう一度確認するが、本当に俺達の言う通りにするんだな?」  
へへへ…と、ギラギラした目つきで聞き返してくる少年。  
その目つきに一瞬怯んでしまうが、はい…と小さく呟くトレーシー。  
それを聞いて傍に控えていた少年達が色めき立つ。中には雄たけびを上げるものも居れば、口笛を吹き鳴らすものもいる。  
急に騒然となった少年達に、不安の色が隠せないトレーシー。  
「そう怯えるなって…まあ、嫌なら別にいいぜ…兄貴に責任取ってもらうだけだからなぁ…」  
不意にベッドの拘束から開放される。体が自由になり、ベッドの上で縮こまるトレーシー。手首に付いたロープの跡が生々しい。  
(今なら逃げ出せるかもしれない…でも、失敗したらおにいちゃんが…)  
出口までは少し距離がある。それに、少年達の人数は四人。逃げ出すのは難しいだろう。  
「じゃあさっそく、俺達の言う事を聞いて貰おうか…」  
不意に声を掛けられ、我に返るトレーシー。  
「全裸になれ。」  
「え!?」  
「聴こえなかったかぁ?服も下着も脱いで全裸になれって言ったんだ。」  
「そ、そんな…ここで…ですか…?」  
顔を真っ赤にし、躊躇いがちに聞き返すが、少年の意思は変わらない。  
 
「ああ、俺達の前でだ。」  
ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべながら少年は続ける。  
「嫌とは言わせねぇぜ…大事な兄貴がどうなって…」  
「わ、わかりました!…脱ぎますから…おにいちゃんだけは…」  
少年が話し終わる前に、トレーシーが遮る。従うしか無かった…。  
スカートのジッパーを下ろしていくトレーシー。  
スルルル…と、真っ白な素足を晒しながら落ちていくスカート。ブラウスにショーツ一枚となった可憐な少女の姿に、少年達は色めき立つ。  
少年達の熱い視線を感じトレーシーは、今にも火がつきそうな程顔を真っ赤にする。  
「どうした?続けろよ。」  
思わず動きを止めてしまったトレーシーに、少年が冷たく言い放つ。  
「それとも、脱がしてやろうかぁ。」  
少年の言葉を聞き、慌ててブラウスのボタンに手を掛けるトレーシー。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
同時刻。  
ネスはいなくなったトレーシーを必死になって探していた。  
砂塗れになったかぜ薬を目にしてから、妙な胸騒ぎがしてならないのだ。  
「家にはいなかった…。」  
大通りを走りながらネスは呟く。あの後確認の為に、一度家に戻ったのだ。だが、そこにトレーシーの姿は無かった…。  
気が付くと、あの時の場所に来ていた。  
辺りを見渡すが、トレーシーの姿は無い。  
また走り出そうとした時、後ろから急に声を掛けられる。  
「え?」  
振り向くネス。そこにいたのは、あの時絡んできたシャーク団の一人だった…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
「へへへ…なかなかの揉み心地だぜ…」  
トレーシーは全裸になり、少年達に躰中を弄られていた。  
「うぅ…」  
トレーシーは必死に耐えていた。そうしなければ、おにいちゃんが酷い目に遭うから…と。  
「あんまりたいしたことねー胸だな。」  
トレーシーの胸を弄っていた少年が呟く。  
「しょうがねーだろ、ガキなんだからよ。」  
ハハハ…と笑い合う少年達。  
「お前は胸ばっかだな…俺はこっちを頂くとするよ。」  
そう言って、トレーシーの秘所へと手を這わす別の少年。  
「い…嫌っ…」  
あまりの恥ずかしさに足を閉じるトレーシーだったが…  
―パチィィン  
不意に頬を打たれ、あまりの痛さに涙ぐむ。  
「誰が足を閉じていいっていったぁ?」  
平手を見舞った少年が冷たく言い放つ。  
逆らえないと観念して、おずおずと足を開く。  
「おおおーすげー。」  
秘所を間近で見ていた少年が感嘆の声を上げる。  
それを聞いて他の少年達もそこへ視線を向ける。  
「つるつるだぜ。」  
「ああ。」  
トレーシーは瞼をギュッと閉じ、耐えていた。出来るものなら耳も塞ぎたかったが、そんな事をしたらまた打たれてしまうかもしれない…と思い出来なかった。  
「さーて…さわり心地はどうだろうか…」  
 
キュッ…と閉じられた秘所を押し広げ様子を伺う少年。目を閉じているため分からないが、秘所にあたる生暖かい吐息で、少年がギリギリまで顔を近づけているのが分かる。顔を真っ赤にして恥辱に耐えるトレーシー。  
不意に感じるヌルッ…とした生温い感覚。ハッと目を開き、妙な感触がした方に目を向ける。  
「え!?」  
(そんな…舐められてる!?)  
「や…やめて…はぐっ…」  
頬が熱い。しばらくしてヒリヒリとした痛みが襲う。  
また打たれたのだろう…と、トレーシーは他人事の様に思う。  
胸にもネトネトした感覚が広がる。胸も舐められているのだろう…。  
トレーシーの心は限界まで来ていた。10歳の少女がこれ程までの恥辱に耐えれるはずが無い。  
トレーシーは意識はどこか遠くに行っていた。  
(なんでこんな事になったんだろう…)  
トレーシーの脳裏に昼間の出来事が蘇る。  
図書館に本を返した後、かぜ薬が切れている事を思い出して、買いに出た事。  
(そうだね…あの時ちゃんとおにいちゃんの言いつけを守っていればこんな事にはならなかったよね…)  
大好きなおにいちゃんの姿が浮かんでくる…。  
(いつも心配かけてごめんねおにいちゃん…今もきっとわたしの事を探し回ってるんだろうな…)  
不意に、トレーシーの名を呼ぶネスの声が聞こえてきたような気がした。  
(おにいちゃん…どこにいるのかな…)  
―トレーシー!!  
(おにいちゃんの声だ…)  
「トレーシー!!」  
(おにいちゃん………え?)  
トレーシーは我に返った。  
「お…おにいちゃん!?…なんで!?」  
 
トレーシーの視線の先には、ロープで後ろ手に縛られたネスの姿があった。  
「そんな…どうして…」  
「へへ、感動のご対面だなぁ…」  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「お前の妹預かってんだけどな…」  
不意に、告げられるシャーク団の少年の言葉にハッとするネス。  
気が付くと少年に掴み掛かっていた。  
「くっ…おいおい…妹がどうなってもいいのか?」  
少年を手から開放するネス。  
「どういう事だ!?」  
「妹を返して欲しけりゃ、黙ってついて来な。」  
連れて来られたのは、路地裏にある寂れた物置小屋。  
扉が開かれ中に入ったネスはとんでもない光景を目の当たりにする。  
部屋の中心のあるベッドの上で、少年達の成すがままになっているのは…。  
「トレーシー!!」  
妹の名を叫ぶ。だが、反応が無い。  
「お前ら!!トレーシーによくも!!」  
いきり立ち、今にも殴り掛かろうとしていたネスに、リーダー格の少年が叫ぶ。  
「待ちな!!」  
トレーシーの首元に突きつけられるナイフ。  
「こいつがどうなってもいいのかぁ?」  
ヘラヘラと笑いながら少年は続ける。  
 
「バットを捨てな!」  
「くっ…」  
ネスは従うしか無かった…。  
後ろ手に縛られ、トレーシーの元へ連れてこられるネス。  
「トレーシー!!」  
そこで辱めを受けているのは紛れも無くトレーシーだ。だが、目は虚ろで呼び掛けても反応が無い。  
「くそっ…トレーシーに何をした!?」  
「別に…気が付いたらこのざまだ。」  
「お前ら!!」  
「おい、大好きなお兄ちゃんだぜ。」  
少年の呼び掛けにも反応が無い。  
「ほーら、大好きなお兄ちゃんに見せてやりなよ…これが私のアソコです…ってなぁ。」  
少年達はトレーシーの股を開かせ、ネスの方へ向ける。  
「トレーシー…」  
トレーシーの秘所は少年達の唾液でグチョグチョに濡れていた…。秘所だけではない胸の周りもそうだ。そして何よりネスを憤らせたのは、顔の傷だ。何度か打たれたのだろう。頬は真っ赤に腫れ上がっていた…。  
「お前ら!!」  
ネスは怒りを通り越し、殺意を覚えた。  
ネスは縛られているが、PSIがある。念動波を食らわせれば、少年達などひとたまりも無いだろう。だが、それだとトレーシーも巻き込まれてしまう…。  
「トレーシー!!」  
今のネスには、妹の名を叫ぶ事しか出来なかった…。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
「トレーシー…」  
正気に戻った妹の姿を見て、ホッとした表情を浮かべるネス。  
「大好きなお兄ちゃんにアソコを見られた感想はどうだぁ?」  
その時初めて、トレーシーは兄の前に自分の秘所を晒している事に気付き、うろたえる。  
「や、だめ、見ないで!!」  
慌てて足を閉じたトレーシー。それを見たリーダー格の少年が呟く。  
「だれが、足を閉じていいって言ったぁ?」  
「ひぃっ……」  
また打たれる!!そう思い身構えるトレーシーだったが、その後起こった事はそれ以上の事だった。  
「やれ。」  
リーダー格の少年が冷たく言い放つ。  
それを聞いてネスの傍に控えていた少年が、ネスのバットを振りかぶる。  
「うぐぁっ…」  
「おにいちゃん!!」  
思わず駆け寄ろうとした所を、傍にいた少年達に押さえ込まれる。  
「前に取引したよなぁ…言う事を聞かなかったら、お前の兄貴をボコるってよぉ…」  
「わ、わかりました、何でも言う事を聞きますから…おにいちゃんに酷い事しないで…」  
トレーシーは悲痛な声で懇願する。  
「ああ…分かればいいんだよ…」  
そう言って少年はズボンのチャックを下ろし、陰茎を取り出す。それは見事にそそり立ち、天を突いている。  
思わず目をそむけてしまうトレーシー。  
「ぐぁっ…」  
「お、おにいちゃん!?」  
ネスは背中を二度も強打され、苦しげに呻いている。  
「お前らぁ、こいつを押さえ付けておけ…開通式だ。」  
 
「止めろ!!」  
ネスは叫ぶ。だが、またもや背中を強打され、言葉を続ける事が出来ない。  
「嫌!!離して!!」  
これから自分の身に起こる事を想像して、トレーシーは激しく抵抗する。だが、がっちりと押さえ込まれているため身動きが取れない。  
「さぁて…始めるとするか…」  
トレーシーの秘所に陰茎を宛がう少年。  
「嫌!!止めてぇぇぇぇ!!!」  
「トレーシー!!」  
だがその時。  
―ドガッッッ!!  
突然の物音に、その場にいた者全てが一斉に、音のした方向を見る。  
扉が外から蹴破られ、その倒れた扉の上を歩いて男が一人、部屋に入ってくる。  
その人物を見て、シャーク団の少年達に動揺が走る。  
赤色のジャケット。サメの背びれを象徴するように固められた見事な金髪。そして手の中で舞う様に回るナイフ。  
扉の傍にいた少年が恐る恐るといった表情でその男の名を呼ぶ。  
「フ…フランク様!?」  
ペッ…と、噛んでいたガムを少年へ向けて吐き捨て、無言でサングラス越しに睨みをきかす。  
「ひぃっ……」  
それだけで声を掛けた少年は腰を抜かし、その場にへたり込む。  
フランクと呼ばれた男はゆっくりと、ベッドに向かって歩いていく。  
「フランク様…どうしてここへ…」  
リーダー格の少年が、無言で近づいて来るフランクに恐る恐る問う。  
 
少年の問いには答えず、無言で少年の髪を鷲掴む。  
「い…痛ててて……」  
そしてそのまま少年をベッドから引き摺り下ろし、地面に叩きつける。  
「ぐえっ……」  
受身も取れぬまま、うつ伏せの状態で地面に叩きつけられ、少年は蛙が潰れた様な悲鳴を上げる。  
トスッ…と、少年の目の前にナイフが突き刺さる。  
「どうして来たかって…?」  
ここに来てようやく言葉を発するフランク。手には少年の持っていたナイフがクルクルと舞っている。  
「オメーらが勝手なまねするからだろうが!!!」  
ヒュン…と、音を立てて飛んだナイフが少年の耳のすぐ傍に刺さる。  
それを目の当たりにし、ビクッと震えたかと思うと、股間の辺りを黒く濡らす少年。フランクの叫び声を合図に、外で待機していたシャ−ク団員が部屋に詰め掛ける。  
慌しくなった部屋の中でフランクが叫ぶ。  
「人質を取るような狡い奴は!!シャーク団を名乗る資格はねぇ!!」  
そう言い放つフランク。  
少年達は、部屋に入って来たシャーク団員に取り押さえられていく。  
「おにいちゃん!!」  
体が自由になり、ネスの元へ飛び込んでくるトレーシー。  
ネスを縛っていたロープはいつの間にか解かれており、お互いを抱きしめあう二人。  
少年達を取り押さえ、撤収を始めるシャーク団員。  
ネスの元へ歩いてくるフランク。トレーシーを背に庇い、ネスはフランクと対峙する。  
「部下が勝手な事をしたな…」  
フランクは続ける。  
「だが、詫びる気はねぇ!!」  
シーン…と静まり返る部屋。暫しの間、睨み合う二人。本当は今すぐにでもフランクに殴り掛かりたい思いだった。だが、彼が来なければ、トレーシーはもっと酷い目にあっていただろう…。相反する思いに、心の中で葛藤するネス。  
 
「文句があるならゲーセンに来い!!いつでも相手になってやる!!」  
そう言い残し、フランクはシャーク団員と共に部屋を跡にした。  
静かな部屋に二人取り残された、ネスとトレーシー。  
「おにい…」  
呼び掛ける途中で急に抱きしめられるトレーシー。  
「ごめん…本当にごめんよ…僕の所為で…」  
ネスは泣いていた。  
「ごめんよ…」  
尚も謝り続けるネス。  
(おにいちゃん…)  
そんな兄を見て、トレーシーも泣いていた。  
「わたしは…大丈夫だよ……だからね…そんな泣かないで…」  
ネスの頭を撫でながら、トレーシーは言った。  
暫くの間、二人はお互いの温もりを感じ合う様に抱きしめ合った…。  
 
 
 
数日後、ネスはゲームセンターの前にいた。  
フランクと決闘する為だ。  
一度深く深呼吸すると、ネスは静かにゲームセンターの中に入って行った。  
 
 
 
終  
 
 

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