「帰ってきたぞー」
そんな声とともにドアが開く。
玄関に入ってきたのは緑の体毛にフサフサと覆われた、人とは言い難い生き物。
「お帰り、今日は早かったね」「ああ、最近はドサ回りの依頼も減ったからな」
その生き物は居間へのそのそ向かい、そこで足を止める。
そして他人の目が無いのを確かめると、全身をビクビク震わせた。
すると足元まで覆う体毛がズズズと上がっていき、その中から白くスラリとした脚が現れた。
体毛は尚も収束を続け、その中から人間の体とおぼしき姿が露わになる。
やがて全ての体毛が緑なす艶やかな長髪に変化した時には───そこに全裸の女性が立っていた。
背中を覆う長髪はサラリと揺らぎ、露わになった素顔は整った美しい顔立ちに気だるさを漂わせ、
均整の取れた肢体は豊満な乳房と双腎を際立たせた。
「ふぅ──」
「お疲れさま、はい着替え」
「そんなの要らん、メシくれメシ」
裸の女性がドッカとあぐらをかく。
「駄目だよ、そのままじゃ困るじゃないか」
「困る?誰が困るというんじゃ?家の中でどんな格好をしようと儂の勝手───」
面倒くさそうに応える女性の目がある一点で止まった。
「───なんだ、困るのはお前の方か」
「ば、馬鹿言ってないで早く着てよ!!」
「しょうがない、しかしこの程度で欲情するとはまだまだ未熟じゃのぅ」
「ほら、ご飯できたよ!」
女性が着衣を整えてる間に、料理がちゃぶ台に並べられる。
「おおー今日も旨そうじゃのー」
「じゃ、いただきますするよ」「おう、いただきます」「いただきます」
食前の礼を捧げ、二人は箸を取った。
「ああ〜食った食った、」
食事を終えた女性は満足した表情で腹をさすった。
「そりゃ五杯もおかわりしたらねぇ」
「ほんとは少し足らんのじゃが仕方ない、贅沢は言えん」
脚を投げ出して片腕を畳につき、爪楊枝で歯を扱く様はまるでオヤジそのまんまである。
「僕の稼ぎがもっとあればモリゾーさんにいっぱい食べさせてあげられるのに───」
申し訳なさそうに俯く青年。食器を片付ける手が微かに止まる。
「ふん、若造が何を偉そうに」
女性──いや、モリゾーがどうでもいいと言わんばかりに頭を振った。
「何が悲しゅうてお前の稼ぎを当てにせにゃならんのじゃ。お前と儂が
力を合わせて暮らしていける、それで十分ではないか」
モリゾーは更に続ける。
「だいたいお前にはいつもお前が思っている以上に世話になっておる。食事といい、住まいといい、それに……」
「……………」
「ま、お互い様という事じゃ、何も気に病む事はないわい」
満面に笑みを浮かべるモリゾー。優しく諭すような微笑み。
青年は何も言えなくなる。これ以上の言葉は不用だった。暫し奇妙な沈黙が流れた。
「なぁ、泰雄」
モリゾーが青年の名を呼ぶ。
「やはり食い足りん。先にお前の寝床で待ってる」
そう言うとすっくと立ち上がりモリゾーは居間を後にした。
残された泰雄の心中にああやっぱり、という思いと淫靡な期待が入り混じる。
泰雄は気持ちを切り替えると、食事の片付けに勢いいそしむのだった。
それは約一年前の事だ。
自宅に帰った泰雄を信じられない物が待っていた。
全身を覆う緑の体毛、ずんぐりとした容姿、関心の有無に関わらず、日本中で有名な存在。
「遅かったな泰雄」
「………」
「なんじゃ、ボケーッとしよって、挨拶くらいせんか」
一体なんと言えばいいのか。
「今日からここに世話になる。まぁ知っとると思うが、儂はモリゾーと言うんじゃ、宜しくな」
あまりに唐突かつ突然の事態に立ち尽くしたままの泰雄。
これが泰雄とモリゾーとの生活の始まりだった。
「あ…あの……」
ようやく泰雄が口を開いた。
「な…なんで…あなたがここに…? ていうか、世話になるって???」
戸惑う泰雄の前に、モリゾーは一枚の書類を差し出した。
怪訝な面持ちで書類を受け取った泰雄だったが、それを読むうちに表情がみるみる驚愕に変わっていく。
「ちょっ……何これ?!なんで!?」
「なんでも何もない、今日から儂はここで暮らす。別にタダで
住みつく訳じゃないぞ、長い目で見れば得だと思うがな」
「得って……」
有無を言わせないモリゾーの言いぐさに、泰雄はただうろたえるばかり
だったが
辛うじて次の言葉を紡ぎ出した。
「ええっと…キッコロもやはり、他の人の所に…?」
「あいつの場合は応募が多くて大変だったな。もっとも、儂には一通も来なかったが…」
そう呟くモリゾーの言葉端と眼差しがふと寂しげだったのを、泰雄は感じていた。
(ああ……)
「お前いま、ああやっぱりと思ったじゃろ?」
「うっ?!」
図星を当てられ泰雄が呻く。
モリゾーはそんな泰雄を一瞥すると、さっきから煎れていた茶を口に運んだ。
「……………」
居間に腰を下ろし、茶を啜るモリゾーを前に泰雄は考えていた。
書類の文面を見る限りでは、モリゾーは泰雄の家を選んだだけで強制的に住みつく権利は無い。
しかし、泰雄が拒否したらモリゾーは何処へ行くのだろうか。
万博のキャラクターが寝食の宛てに困るとは思えないが、こうして民間人の世話にならざるをえない
何らかの事情があるのだろう。
それに、泰雄は両親を早くに亡くし、兄弟も無く天涯孤独の身の上だった。
モリゾーと暮らすのに特別不都合などなかったのだ。
しばらく黙考を続けた後、泰雄が口を開いた。
「……わかりました。モリゾーさん、今日からここに住んで下さい。食事と寝る場所くらいなら大丈夫でしょう」
望んだつもりも見返りを期待した訳でも無い、彼──この時はまだ“彼”だった──に頼られたのも
おそらく何かの縁なのだろう。不安や動揺は拭えないものの、泰雄は腹を括る決心をした。
「そうか。それでいいんじゃな?」「はい…」「そうかそうか」
緑色のけむくじゃらの生き物は座ったまま泰雄に向きを変えると、片手を差し出した。
「え……?」
「何をボサっとしておる。こういう時にやる事と言えば決まっとるじゃろ」
モリゾーに指摘され、泰雄は慌てて握手を交わした。
「改めて挨拶する、儂はモリゾー、今日から世話になる。宜しくな」
「あ……どうも、僕は梢泰雄、こちらこそよろしく……」
泰雄の言葉に大きな顔が満面の笑みを浮かべる。
その下で交わされた二つの手。それが奇妙な同居の始まりだった。
「おーいメシはまだか〜?」
「はーい、もうすぐできまーす!!」
大慌てでモリゾーの食事の準備をする泰雄。
モリゾーの一回の食事の量たるや泰雄の数倍であり、それをこしらえる為に
泰雄は今日も朝早くから慌ただしいことこの上なかった。
モリゾーは出るのも帰るのも泰雄より早い。
したがって、朝はモリゾーが出るより早く起き、帰ったら直ちに先に待っているモリゾーの為に
食事を作るのが泰雄の日課となった。
当然食費はかなりのものだったが、モリゾーを受け入れた事でギャラの幾ばくかが
泰雄に渡されたため家計を圧迫する事はなかった。
(やはり万博のキャラって給料いいんだな)
通帳に振り込まれた額を見て泰雄はつくづく思った。
ギャラの一部というその額は、泰雄が働いて受け取るそれを大きく上回っていた。
もっとも、それらはほとんどがモリゾーの食費として使われるのだが。
「ねぇ、モリゾーさん」
食事中、泰雄はモリゾーにある疑問を語った。
「モリゾーさんはこんなにギャラもらってるのにどうして人の家にお世話になろうと思ったの?
モリゾーさんなら僕じゃなくてもっといろいろ世話してくれる人を付ける事だって──」
「泰雄」
泰雄の言葉をモリゾーが遮った。
「儂と暮らすのが嫌になったのか」「ち、違うよ、ただ、僕なんかでいいのかなって、つい……」
「金だけではどうにもならん事もある。お前は金の為に儂を置いてる訳ではあるまい」
「そりゃそうだけど…」
「なら気にするな。せっかくのメシがまずくなる」
そう言うとモリゾーは黙々と食事に専念した。
泰雄もそれ以上問う事はしなかったが、ただモリゾーの言葉に新たな疑問が湧き上がった。
(金でもどうにもならない事ってなんだろう……それって僕を選んだ事に関係あるのかな……)
食事をしながら泰雄は思いを巡らせる。
それから数日後、その疑問は意外な答えとなって彼を仰天させるのだった。
その日、急な仕事が入ったせいで泰雄は帰りが遅くなってしまった。
腹を空かして待っているであろうモリゾーを案じ急ぎ帰宅すると、居間にモリゾーの姿は無く
ちゃぶ台の上に置き手紙があった。
『もう腹が減って動けん。メシはいいから今日はもう寝る』
どうやらモリゾーは待ちくたびれて自室に下がったらしい。
泰雄には泰雄の事情があり仕方のない事だったとはいえ、待っていたモリゾーの事を思うと
彼の心中は申し訳ない気分でいたたまれなかった。
正直泰雄も腹を空かしていたのだが、自分だけ食う気にはなれず、間もなく彼も床に着いた。
───やがて泰雄が眠りに就いてしばらく経った頃だろうか。
彼の部屋のドアが音も無くソッ…と開き、何者かが忍び足で踏み込んできた。
白くしなやかな脚は泰雄に向かって歩み寄り、寝ている彼の所で止まると
またがるように膝を下ろし、そのまま覆い被さる体勢で両手を着いた。
「ふむ、よう眠っておるのう」
あどけない寝顔を眺め、妖艶を帯びた顔立ちが微かに破顔した。
背中からサラサラと流れ落ちる長髪が、一糸まとわぬ身体を包み込む。
なだらかかつメリハリのある曲線を描く肢体、相応の質量で重力に引かれながらも形のよさを
保つ乳房、そして長髪と同様の色合いを持つ柔草に覆われた秘苑───それはまごうことなき女性だった。
「メシは食わんでもこのままではいられんしな、初めてじゃろうと思うが、許せ泰雄」
艶のある声で呟いた唇はその直後、己を泰雄の唇に重ねてきた。
「ム゙ッ?!! ム゙…! ムヴ…ゥゥ………」
突然の口づけに泰雄は一瞬目覚めかけたが、何故か再び微睡みの中に落ちてしまった。
女は両手を泰雄の顔に添えると紅い唇を更に貪るように絡めてきた。
入り込んだ舌は口腔を余すところなく舐めまわし、女の唾液の味が口中に広がっていく。
「ハァ…ハァ…フゥ…ンフゥン……」
「ング…フゥ……フゥ…ン…ンン…!」
深く濃厚な口づけを交わす互いの口から熱い吐息がこぼれる。
初めて味わう異性とのキス、だがどういう訳か、今の泰雄には夢うつつの出来事としか認識できない。
ぼんやりと霧に包まれたような意識の中、泰雄は目の前の女性に求められるまま
自らも口づけに応え舌を絡ませていった。
口づけを始めてどれくらいの時が経っただろうか、ようやく女が唇を離した。
唇の間に架かるヨダレの橋が、先ほどまでの行為の濃厚さを物語る。
「ふぅ…もうそろそろ出来上がったかのう……」
女は唇を舌で拭うと、顔の真下に泰雄の股間がある位置まで後ろに下がっていった。
そして指先を彼の下半身の着衣の裾にかけると下着ごと一気に引き下ろした。
腰の端を掴まれショートパンツとトランクスがズルリと引き下ろされる。
次の瞬間、抑えられていた男根が勢いよく跳ね上がった。
ビクッ!ビクビクビクン!!
力強く漲り、凛々とそそり立つ泰雄のペニス。それを眺める女の口から驚嘆の声が洩れる。
「おお〜〜……見かけによらず立派なモノを持っておるのう〜〜」
それは20代にしては童顔で少年と言ってもいい容貌の泰雄からは
想像し難いくらい立派かつ見事な一物だった。
(ふむ……これほどのモノの初めてを頂けるならメシを抜かれたのもまんざら悪くないな)
泰雄のペニスをまじまじと眺めながら女はしばし感慨に耽っていたが、不意に
クスッと悪戯っぽい微笑みを浮かべると、両手を男根に伸ばした。
白くしなやかな指が幹に触れる。
「ッッ…!! ぅ…! ぅぅぅ…!!」
陰茎への刺激に呻きがこぼれる。だが女は躊躇することなく行為を続ける。
左手で陰茎を包むように柔らかく握ると、右手の指先でそそり立つ筋を撫でさすりながら
握った手で幹をゆっくり扱き上げた。
女から受ける刺激に性感は昂ぶり、男根はより天に伸び硬度を増した。
「ふふふ」
しばらくして、弄くったモノの反応を見つめる女の目に異様な輝きが宿る。
男根を扱いていた手は更なる刺激を加えるべく、今度は筋をなぞっていた右手で亀頭を掴んた。
「ッッッあ゙ッぐぅうぅぅ〜〜ッッ?!!!」
悲鳴のような呻きとともに泰雄が弓なりにのけぞった。
柔らかい感触は熱く固くたぎる先端を包むと、キュッキュッとリズミカルに
揉みまわし、それと同時に幹を扱く左手の動きに勢いをつけた。
「クッ!ゥ…!クゥゥ…!!ぅあぁぁぁっっ!!」
食いしばった口から上気した吐息が洩れ、いつの間にか四肢はつんのめり両手が敷布を握り締める。
初めて受ける他人からの愛撫に泰雄は目を覚ますことも眠りにつくこともならず
ただただ喘ぎ、もがき、身をよじらせる。
「ふふふ、つらそうじゃの、ふふふふ」
泰雄を責める女の声に興奮のトーンが混じる。
一物に注がれる眼差しは欲情に満ち、興奮で容貌と全身が紅潮し、舌が幾度となく唇を舐めた。
ふと気づくと、亀頭を揉みしだく手から粘液の絡む音が聞こえてくる。
泰雄の絶頂が近い。悟った女は愛撫を止めると、おもむろに上半身を彼の上に乗り上げてきた。
「よっ、と……こうじゃったかの」
二つのたわわな肉房が泰雄の上に乗り上がると、その間から剛直の先がビクンと突き出た。
充血し硬く張りつめた亀頭を濡らしながら、カウパーは鈴口からジワジワと溢れてくる。
女は抱えるように乳房を両手を添えると、ゆっくりしかし力強く谷間に向かって寄せ上げた。
ギュウウウッ、ズリュウウウッッ!!
「アウウウッッ?!」
泰雄の全身がまたもつんのめる。
みっちりと張りのある柔乳が挟み込んだペニスをギュッと圧迫し、白く滑らかな肌に陰茎が擦り上げられる。
いったん両手は緩まると再び乳房を寄せ、熱くたぎる剛直を胸の谷間で何度もしごき上げた。
「はううッッ!!! く…!くぅぅぅ……!!!」
「ふふふ、どうじゃ女の胸に挟まれてしごかれる気分は、ふふふ、」
「うぁっ、あっ、はぁっ、あぁぁあぁあああ〜〜!!!」
泰雄の苦しげな、しかし切なげな喘ぎに興奮し、女はより激しく谷間のペニスを責めたてる。
垂れて乳房を濡らしたカウパーも柔肌と陰茎の摩擦を滑らかにし、泰雄の性感を更に刺激した。
寝室に青年の喘ぎとも呻きともつかない声が響き、その中に混じる肉の擦り合う音。
剛直を挟む肉房は寄せられるたびにムギュムギュと形を変えたが、弾むような張りと
当初の形の良さを崩すことはなかった。
薄い嚥脂色の先端はいつの間にか硬く勃ち上がっており、それは男根をしごく行為によって
女の性感も刺激された事を如実に表していた。
膝をつき、上半身を泰雄の下半身に覆い被さるという体勢上、後方に剥き出しになった女の秘苑がキュッと締まる。
その奥では潤いを帯びた蜜が徐々に湧き出しつつあった。