分かったよ、と俺はため息混じりに言った。  
 邪悪な笑みがもれそうになるのを、必死に堪えながら。  
「でも、今晩だけだぜ。それに、ちゃんと礼はしてもらうからな」  
 モリゾー、キッコロと名乗った奇妙な妖精は、こくこくと必死に頷いた。  
 リビングに通してお茶を出してやり、詳しい事情を聞いてみる。  
 どうやらこの妖精たちは半年間に渡る大きな仕事を終え、今は再就職先を探しているらしい。  
 だが、人間社会での生活は厳しく、あてのない旅に出ているのだという。  
 路銀もつき、食料もなく、警察や浮浪者、野良犬などに追い立てられ、何とか助けてくれる人はいないかと方々を訪ね歩き、たまたまチャイムを押した家が、俺のところだったというわけだ。  
「できれば、食べ物を恵んでいただきたいのデスガ……」  
「ま、しゃあねーな。カップ麺でよければ、何個かあるぜ」  
 数日前、スーパーで大量に買ってきた八八円のカップ麺を出してやると、妖精たちは涙を流しながらすべて食べつくした。  
 ……お湯も入れずに、バリバリと。  
 モリゾー五つ。キッコロ一つ。  
 こ、このデカイ奴は。ひとの情けにつけ込みやがって!  
 ――などという言葉や態度はおくびにも出さず、俺はにこやかに聞いた。  
 
「ところで、おまえたちは兄妹なのか?」  
「いえ。森の木々のようなものデス」  
「森の木々?」  
「はい。オラたちが住む森には、さまざまな木がありマス。杉、樫、クヌギ、カエデ、銀杏……それらはすべて違う木デスガ、森の仲間であることは間違いありまセン」  
「ようするに、仲間なんだな」  
「は、はい」  
 モリゾーは窮屈そうに正座したままこくりと頷いた。  
「それで、なんか特技とかあるのか?」  
 俺の問いに、キッコロが目を輝かせながら答えた。  
「ヘンシン、デキル!」  
「ほー、そりゃすごい。ちょっとやってみ」  
 キッコロは軽快な動きでテーブルの上に飛び乗ると、可愛らしい声で、何やらモジョモジョと呪文を唱えた。  
 ――と、突然室内につむじ風が巻き起こり、俺は思わず両腕で目を覆った。  
 それからしばらくして、恐る恐る目を開けてみると、  
「――!」  
 そこには、そいつがいた……。  
「食料、ありがと。何でも言うことききます」  
 テーブルの上に跪き、無邪気な微笑を浮かべながら。  
 
 

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