その日の授業中、苺の様子がおかしかった。
教科書もノートも開かずに、うつむいたまま咳き込んでいる。
昼休みの時間、寿々子達が心配そうに話し掛けると「朝から熱っぽい」「風邪かも」と答えた。
保健室に行こうとするが、足がふらつき思うように歩けない。倒れかかったところを思わず助け起こした。
「島岡君、保健室までつきそってあげて」「そうだな、お前なら抱えて運べるだろ」
千織さんと崎さんに言われ、成り行きで俺が連れて行く事になった。
肩を貸し、苺が転ばないようゆっくり歩き、何とか保健室に着く。
しかし肝心の先生が居ない。多分職員会議だろう。とりあえずベッドに苺を寝かせる。
と、苺が何か喋ろうとしていた。「ありがとう」と言おうとしたらしい。だが声がかすれ、ろれつが回らなくなっている。
額に手を当てると、かなりの高熱。風邪じゃない、多分インフルエンザだ。
ぐったりしている。このままじゃ死ぬかもしれない。最悪の予感が脳裏を過ぎった。
戸棚から冷却シートを取り出し、額に貼る。しかし熱が引く気配は無い。
シートの説明書には、額以外に腋、首、足のつけ根(つまりは股)にも着けると効果的と書かれていた。
しかし首はともかく腋や股につけるには服を脱がせるしかない。そんな事をしたらどう思われるか。まして人に見られたら。
が、苺は高熱で意識を失いかけている。やるしか無い。
まず首に一枚。次に腋に貼る為、服のボタンを外す。服の隙間からブラジャーが覗くが、意識して見ないように努める。
隙間から手を入れ腋に貼ろうとするが、思うようにいかない。やむを得ず服を少し脱がせる。
あまり体を見ないようにして、手早く両腋にシートを貼る。次は股だ。
スカートに手をかける。外したのちなるべく見ないように手探りで作業する。
途中おかしなところにふれてしまったらしく苺がかすかに喘いだが、かまわず作業を続け、何とか両股にシートを貼る。
これで大丈夫なはずだ。ほっと一息をつく。
その瞬間、見ないように努めていた苺の姿が丸ごと目に飛び込んできた。
まだ幼さが残るものの、少しずつ大人の女性に成長しつつあるのが見て取れる。
熱で上気しているのと着衣の乱れも相まって、妙に色っぽい。思わず唾を飲む。
苺以外の何も目に入らなくなる。手を伸ばす。
と、背後から肩をつかまれた。
思わず振り返る。寿々子だ。無表情でこちらを見つめている。
弁明しようとしても多分無駄だろう。状況はどう見ても襲おうとしたようにしか見えない。実際襲いかけた。
「……どの辺から、見てた?」精一杯平静を装って尋ねる。
「服のボタンを外したところから」無表情のまま答えた。
しかしそこから見ていたなら少しは誤解を解けるかもしれない。そう思って口を開きかけたが、寿々子が手を掴む方が早かった。
「後は私がやるから、教室に戻って」そういわれて保健室から追い出された。まあ当然だろう。しかし何かわびしい。
翌日から俺はしばらく学校を休んだ。誤解されたのがショックだった訳じゃなく、インフルエンザをうつされたのだ。
連れてった後も、割と長い事同じ部屋の同じ場所にいた訳だから、当たり前と言えば当たり前だ。
苺に施した作業を自分にも施し、3日3晩部屋で一人横になっていた。そのおかげか、苺ほど酷い状態にはならずにすんだ。
休んで5日ほどたった頃に部屋に誰か尋ねてきた。寿々子だった。手にはお見舞い用のメロンを持っている。
寿々子の話に寄れば、苺はすっかり回復したらしい。メロンはそのお礼として届けてくれるよう頼まれたものだと言う。
俺が休んでいた間の事について少し話した後、寿々子は帰っていった。保健室での事は誰にも話さずにいてくれた様だった。
二人に感謝しつつ、早速メロンを頂く。そのつもりだった。
「島岡ー生きてるかー?お、美味そうなもんあるなぁー」
入れ違いで崎さんが来て、メロンをほぼ全部食われるとは、夢にも思わなかった。