トメ吉君が失踪した。
会社は誰を社長代理にするかで上へ下への大騒ぎ。誰もトメ吉君の事を本当に心配なんかしていない。
部長も口では心配していたけど、本心ではどうでも良い風だった。社長代理に真っ先に立候補してたし。
もっとも実力で言えば部長以外に務まる人はいないだろうけど。部長の経営センスは人間離れしてるって評判だし、他の人達は口先だけだし。
……でも、なんで失踪してしまったのだろう?
最近は彼とケンカした覚えは無い。第一そんな事で彼が失踪する訳が無い。会社の経営で悩んでいた節も無い。
……そういえば、彼と最後に会ったのはいつだろう?
ずっと前のような気もするし、ついこの間のような気もする。
最近頭の中がもやもやする。何か私以外のものが頭の中にいるみたいに。
……そういえば、昨日はなんで会社に泊まったんだっけ?
そうだ、確かトメ吉君に呼び出されたんだ。会社に戻って、研究練に来てくれって。部長について話したい事があるって。
駅からタクシーに乗って、会社の正門の前で降りて、呼び出しのあった研究練に向かって歩いて……
そこから今日の朝、仮眠室で起きるまでの間の記憶が曖昧になっている。
……そうだ、研究室にトメ吉君がいたんだ。部長がいつも出入りしている、部長だけが使っている研究室の中で。
その研究室の中に、生き物みたいに蠢く気持ち悪い塊がたくさんいて……トメ吉君は凍りついたように立ち尽くしていて……
私は思わず怖くなって逃げ出してしまった。そして部長にぶつかったんだ。
そしたら部長が「怖がらなくて良いよ」って……でも私は震えが止まらなくて……部長の姿がありえないものにみえてきて……
……部長?
違う。私のいる部署に部長はいなかった。トメ吉君が部長を兼ねていたんだ。じゃああの人は一体誰?
……人?
違う!あれは人じゃない!あんな人間いるわけない!
あの水ぶくれのような頭……濁ったビー玉のような眼……蛇のような蛆のようなたくさんの触手……
その触手が、私の服の……下着の隙間から……中に……
……中に……?
何これ……スカートの下から……何か入って……中で……動いて……部長……いつの間に……?
……そうだ、あの時見られたんだ……トメ吉君に……部長に……されているところ……
……トメ吉君、悲鳴を上げて走り去って……多分それっきり戻らなかったんだ……
でも、その前から……見られる前からなにか……トメキチくんも……おかしくなってて……
けんきゅうしつにいたのは……あのきもちわるいかたまりは……てけり・り、てこえは……
……ぶちょう、なにをしゃべっているの……しょごす、てなに……あのきもちわるいかたまり、ぶちょうがつくったの……?
るるいえ、てなに……くとぅるふ、てなに……ぶちょうの、ほんとのおなまえなの……?
……もう……どうでもいいよ……もっとして……そともなかも……からだもこころも……ぜんぶ……ぶちょうにあげる、よ……
……ふんぐるい……むぐるうなふ……くとぅるふ、るるいえ……うが=なぐる、ふたぐん……いあ……いぁ……ぃぁ…………
「……では次のニュースです。現在急成長を遂げているIT企業、×社の新社長が本日決まりました……
この×社は数週間前に社長が失踪し……その後正常な経営を続ける為……急遽社長代理を新社長にするという異例の……
新社長の……氏の経営センスは人間離れしてるとの評判で……現在社長夫人の……あき子さんは懐妊されているとの事で……」
「ただ今入りましたニュースです……山麓の樹海にて、×社前社長の……トメ吉氏が発見されました……
救助した隊員の話では、奇妙な文章の書かれた紙を持ち……病院に送るまで度々奇声を上げ……現在精神鑑定を……」