「あきら…」
「せっ…千本木!?」
時間は小一時間ほど前に遡る。
俺と千本木が付き合いはじめて、もうすぐ半年。千本木とのデートにも大分慣れてきた。
今日は二人で映画館へ。
千本木にポップコーンを買ってもらって上機嫌な俺は、少し油断していたのかもしれない。
ベタな恋愛映画のピークも過ぎ去り、もうすぐエンディングロールが流れるという頃。
いきなり千本木が俺の手を握ってきた。
「ちょ…っ千本木!」
「しー…。」
唇に人差し指をあてウインクをしてくる千本木に、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
「離せよっ…。」
自分でも顔が赤くなるのがわかる。
恥ずかしい…
その時、不意をついて千本木が俺の唇を奪った。
「んっ…ちょっと!何すんだよ!!」
不幸中の幸いか、一番後列の端に座っていたため、周囲の人は気付いていない。
「いいの?そんな大きな
声出すと、周りにバレるぞ??」
「で…でもっ。」
あれ…?今。千本木の目が、眼鏡の奥で妖しく光った気がしたぞ…。
「あきら…じゃあ聞くけど。このままココで続きをするのと、二人っきりになって続きするの、どっちがいい?」
「なっ…。どっちみち続きはするんじゃないか!卑怯だぞ!!」
「いいよ、どっちも嫌だって言うんなら今すぐここでするから。」
なんて強引なんだ!そんなの…どっちも嫌に決まってるのに。でもココで続けられたら、いつ誰にバレるかわかったもんじゃない。
「わかった!わかったから…ココは嫌だ…。」
千本木はにぃっと笑う。
「じゃ、映画が終わったら行こうか。」
「どこにだよ!」
「二人っきりになれる場所に。」
うぅ…胃が痛い。
俺は隣で「早く映画終わらないかな〜。」なんて楽しげにしてる千本木をよそに、胃の痛みで映画のエンディングなんて目にも入らなかった。