「桃井さん?」  
 目が覚めると、目の前に僕が寝ている。あぁ、僕も寝ちゃったんだ。そうか、  
さっき僕は僕と(でも中身は桃井さん)としちゃったんだ……。  
 
 僕は僕の姿をした桃井さんの左肩に寄り添うように体を寄せる。桃井さんの  
寝息が聴こえるくらいに。自然と涙が溢れてくるけど、それをこらえて桃井さ  
んの左腕に僕の左手を添えた。  
「今だけ、いいよね。」  
小さくつぶやくと、そのまま桃井さんの温もりを感じながら、また眠りに落ち  
そうになった。  
 
「へっくしょん!!」  
「あぁ、寝ちまったみたいだな。って、なんで上原が隣で寝てるんだよ。」  
 桃井さんのくしゃみで僕も目をあける。ちょっと残念だったなと思いながら  
も、ベッドから体を起こすと、胸が丸見え……。僕はとっさにシーツをつかん  
であらわになった胸を隠したけれど、恥ずかしさとどうしたらいいかわからな  
くて、顔を赤らめてうつむいてしまった。  
「そっか。俺たちしちゃったんだったな。」  
 桃井さんは僕の様子を察してくれたのか、僕の肩に手を回してそっと寄せて  
くれた。  
「……桃井さん、風邪引いちゃってない?大丈夫?」  
 まだ桃井さんの顔を見ることはできなかったけど、なにか話をしなくちゃ。  
「あぁ、大丈夫だよ。それよりお前の方こそ大丈夫か?」  
「うん、桃井さんの体頑丈だから、これくらいじゃ風邪なんか……」  
「じゃなくて。」桃井さんは僕の話をさえぎるように話した。  
「じゃなくて、おまえ初めてだったんだろ。って当たり前か。その、いろいろ  
痛くないか?」  
「う、うん。大丈夫みたい。桃井さん優しかったし…。」  
 僕は相変わらずうつむいたまま、体に巻いたシーツをギュッと握りしめると、  
桃井さんは僕の肩に回した手を自分の方に引き寄せ、その手を僕の頭に置いて、  
桃井さんは話しだした。  
「まさか、こんなことになるとはな。俺はもう済ませちゃってたからいいけど、  
おまえは今回がはじめてだったんだよな。それにしても初体験が女の体ってい  
うのはどうなんだろな。」  
 そんなこと、僕にもわからないよ。ただ、僕は好きだった桃井さんとできた  
んだから、後悔はしてないよ。すごく幸せな瞬間(とき)だったし。でもそれは  
言えないよね……。また、涙が溢れてきた。  
 
「でさ。女の体って、気持ちいい?」  
「え゛……。」  
「いやー、気持ちよさそうなおまえの顔見てたら、女もいいのかなぁって思っ  
てさ(笑)」  
 ……やっぱりこの人ダメだ…。  
 
「あっ!」  
「ちょ、ちょっとなにを……。」  
 
 
 俺は俺の体を知りたくなった。もちろん以前は俺の体だったんだが、その時  
は大して気にもしなかったし、あまり女らしいこともしなかった。でも目の前  
にいる俺の体を見ていたら、無性に興味が湧いてきて…。  
 
「おまえ、胸大きくなった?」  
 シーツの上から両手で胸を軽く揉んでみる。その動きに合わせるように上原  
は息を吐きながら  
「はぁはぁ……、う、うん……。」  
 今まで何人かのお姉さんのを見てきたけど、こいつのが一番大きいんじゃな  
いのか?いや、占いのネーチャンが一番でかかったか。でもこいつのは柔らか  
いし張りもあるし。  
 俺は嫌がる上原のシーツをはぎ取り、ベッドに押し倒した。上原は何か叫ん  
でいるが関係ない。これは俺の体なんだから。  
 
 
「桃井さんっ!」  
 いくら叫んでも桃井さんは僕の言うことを聞いていない。それよりも桃井さ  
んは僕の体のあちこちに指先に這わせだした。僕の体のどこが敏感に反応する  
か調べるように。  
 首筋には息を吹きかけられ、腰には撫でるように指先を滑らせる。僕はその  
指の動きに反応するように体を右に左によじらせる。僕の意思じゃない。体が  
勝手に動いてしまう。  
 でも初めての時とは違う。初めての時は桃井さんは勢いで一気にという感じ  
だったけど、今は繊細でこっちの方が僕はいいかな。なんて何を考えてるんだ。  
「わっ!」  
桃井さんは僕の両手を取り上体を起こすと、僕の後ろに回って覆いかぶさるよ  
うに手をまわして、僕の胸を…。  
 
 
 俺はこいつの胸を後ろからわしづかみにして揉みしだく。途端に息づかいが  
荒くなってきた。途中首筋にキスをする。その度に小刻みに体を震わせるのが  
わかる。  
「キャッ!!うぅぅ……。」  
 俺は固くなった乳首をぎゅっと指で摘んだ。こいつ、体を大きく反らしてう  
めき声ともつかない声を上げると、俺の腕をすり抜けてベッドに倒れ込んだ。  
 やっぱり胸だな。  
 
「なぁ、じぃさん、機械直してるんだろ。」  
 俺はシーツを上原に掛けてやりながら話しだした。返事はない。  
「おい!」「知らない……。」  
「知らないって、おまえ早く直せって行ってるんだろ?」  
「…桃井さん、ひどいよ。今まで僕がいくら頼んでも聞いてくれなかったのに、  
今度は女がいいから変われって。」  
「……すまん。でも理由はともかく戻るって言ってるんだからいいだろ。それ  
に、……。」  
「それに、なに?」  
「それに、俺のその、女としての初めての相手はおまえに頼みたいんだ…。」  
「えぇ?!」  
「おまえも知ってると思うけど、女だった時、男が寄って来ても全部ぶっとば  
してただろ。今の男は軟弱なヤツばっかりで俺のタイプじゃないんだよ。でも  
今のおまえの体は俺が鍛えていたから、俺の理想に近いんだ。だから戻ったら  
おまえに頼みたいんだ。」  
 
 僕はどうしたらいいんだろう。  
 もちろん元の体に戻りたいし、桃井さんとできるなんて信じられないことだ  
けど、なんか違うんじゃないかなぁ。でもこの機会を逃したらもう戻れないか  
もしれないし、とにかく戻ってからもう一度桃井さんと話をすることにすれば  
いいか。  
「理由が不純だけど、体を戻すのが先だし、仕方ない。いいよ。」  
 
僕たちは、おじいさんのもとに急いだ。  
 
 
「じぃさん、機械直ったかー。」  
「菜々子!ひさしぶりじゃのー。以前おまえが壊したおかげで、また最初から  
やり直しじゃよ。でも上原君にせかされて、だいたいできあがっているんじゃ  
が、あと…」  
「なんだ。できてるんならすぐに戻してくれ。上原も戻りたいって言ってるし。」  
「いや、まだ。お、おい!」  
 俺は上原の手を引いてカプセルの中に入ると、近くにあったスパナを投げた。  
それは放物線を描きながらじぃさんの横をすり抜けて、スイッチレバーを押し  
上げた。  
 
ビビビビ………………ズドォォォーーン!!!  
 
「イテー、じぃさん!俺たち戻ってるか?」  
 聞き覚えのある高い声。そうか、俺の声だ。  
 
「イタタタ、桃井さん、大丈夫?」  
 え?僕の声だ。戻ってる?鏡、鏡。と思ったら僕の姿じゃなくて、桃井さん  
の姿の桃井さん(ややこしいな)も鏡を見ていた。僕も鏡を見てみたら確かに僕  
が写っていた。  
「桃井さん!僕たち戻ったんだね!!」  
 僕はよろこびながら桃井さんに声を掛けた。  
「そうだな。まぁとりあえず、トイレに行ってくる。」  
「え???」  
 
 
 だいたい1年ぶりの俺の体か。上原の体になじんだせいでまだしっくりとこ  
ないけど、なんか懐かしいな。でも上原も言っていたけど、確かに胸も大きく  
なっているし、尻も前より丸く大きくなってるみたいだな。  
 以前はもともと女だったからなんとも思わなかったのが、上原の体にいたせ  
いですっかり男性化しちまって、女の体に興味が出てきて何人かのお姉さんと  
もやったけど、この俺の体が一番胸もでかいし、肌も吸いつくように柔らかい  
し、こりゃたまらんな。  
 俺は両手を胸の上に置いた。そして指を動かし始める。  
「あぁ…。」  
 ヤバイ。思わず声をあげるところだった。やっぱり胸の感度はいいみたいだ  
な。  
「桃井さん!」  
 なんだよ!せっかく気持ちよくなりかけてたのに。  
「桃井さん、僕もトイレに入りたいんだ!早く出て。」  
 ったく、うるさいなぁ。まぁお楽しみはこれからだ。わかったよ。  
 
 
 ふぅ。なんとか僕の元の体に戻ったみたいでよかったぁ。えと、そうか、  
チャックを下ろして、………。やっぱり座ってしよ…。  
 桃井さんの体に慣れちゃって自分の体って感じがしないし、これ、触るのな  
んかヤだな。男ってなんでこんなのついてるんだろ。しょうがない、紙で拭い  
てと…。  
 
 まぁ、自分の体なんだから、そのうちに感覚も元に戻ってくるさ。でもアレ  
はなぁ…。  
 そうだ、桃井さんは?  
 桃井さんのことだから、さっそく自分の体というか女性の体を眺めてるんだ  
ろうか。まさかね。いくらなんでも、自分の体なんだから、そんなことしてい  
るわけないか…。  
 そんなことより、桃井さんとこれからのことをどうするか話をしないと。  
 
 僕は桃井さんの部屋に行ってドアをノックした。  
「桃井さん、上原だけど。」「おぅ、入れ!」  
 かわいい声なんだけど、口調は男のままなんだよね。って、以前からそう  
だっけ。僕はブツブツとつぶやきながらドアを開けると……。  
「桃井さん!」  
 桃井さんは、姿見の前で裸のまま仁王立ち状態…。僕はとっさに後ろに体を  
向けた。  
「あ、あの……。」「いやー、男の体もいいけど、女もいいなぁ!」  
 桃井さんはにこやかな口調で話すけれど、僕は目のやり場に困るんだけど。  
「なんだおまえ、俺の裸見て、赤くなってる?」  
「あ、当たり前でしょ!」  
 今まで桃井さんの体の中にいたからすっかり見慣れていたつもりだったけ  
ど、やっぱり本人のその姿は僕にしてみれば衝撃的だったわけで…。  
             ボタボタボタ…  
 僕は鼻血を吹いていた…。  
 
「ったくー。」  
 桃井さんはティッシュの箱を僕に放り投げた。  
「桃井さん、お願い。体を隠してっ。」  
「ったく、しょうがないな。やっぱり、刺激が強すぎたか。」  
 桃井さんはベッドのシーツを体に巻き付けてベッドに腰掛けた。僕もちょっ  
と間をあけてベッドに座った。  
「あ、あの、これから…」  
 桃井さんは僕の話を聞かずに話しだす。  
「俺の裸を見て鼻血を吹いたってことは、しっかりと男として反応してるって  
ことだよな。」  
「えっ? そ、そうかな…。」  
「1年俺の体にいたのに、女になることもなく、かといって男らしいわけでも  
なく。」  
 僕は桃井さんの言葉に涙が出そうだったけど、  
「桃井さんこそ、すっかり男っぽくなっちゃったけど、今は女の子なんだから  
『俺』じゃなくて『あたし』っていいなよ。」  
「……そうか。でも今さら言うのもなんか女みたいで気持ち悪いんだよな。」  
「だから、桃井さん、女なんだってば!」  
僕たちは、顔を見合わせて声をあげて笑った。  
 
 その笑っている桃井さんのシーツの合わせ目から、胸が半分見えている。僕  
はとっさに目線をそらした。やばい!鼻を押さえないと、また鼻血が。  
 僕はひとりでバタバタしていると、なにか今までと違う忘れていた感覚がよ  
みがえる。それは股間からだった。僕は驚いてソコに目がいってしまったんだ  
けど、桃井さんもすぐにそれに気づいたらしい。  
「じゃぁ、始めようか。」  
 
 桃井さんは照明を消すとシーツを体に巻いたままベッドに横になった。でも  
僕はどうしたらいいかわからなくて、オロオロするしかなかった。  
「ほんと、頭のいいおぼっちゃんなんだな。」  
 桃井さんは話しだした。  
「頭で考えるんじゃなくて、本能のおもむくままにすればいいんだよ。おまえ  
男なんだろ?こんな清楚で可憐ではかな気な少女を目の前にして、何もしなく  
ていいのか?」  
 そ、そうか。今、僕は男なんだ。僕がリードしなければ。でも……。  
「いいから、シャツを脱いで横に来な。」  
「は、はい。」  
 僕は言われるがままに、シャツを脱いで桃井さんの横に腰掛けると、桃井さ  
んはいきなりシーツを僕にかぶせて押し倒した。  
 
 しょうがない。しばらくは俺がリードするしかないか。  
 俺は横になった上原の上半身に自分の体が重なるようにあずけた。胸がつぶ  
れて体重がかかっているのを感じる。そう。今、俺の体は女なんだ。この柔ら  
かな白い肌は俺、いや、あたしのものなんだ。。  
「えっ?」  
 上原があたしの背中に両手をまわして抱きしめてきた。動けない。なんでそ  
んな力が?そうか、今まで上原の体はあたしが鍛えていたからだ。いくらあた  
しに力があるっていっても、その鍛えられた男の力にはかなわないんだ。  
 しばらく、上原の広い胸の中にあたしはうずもれていた。  
 
「上原…。」  
 あたしは顔を上げて話しかけた。  
「あ、ごめん。痛かった?」  
 上原はあたしを離して上体を起こした。あたしもつられて体を起こす。  
「あのー、目のやり場に困るんですけど…。」  
 そう言いながらシーツを掛けてくれた上原。  
「桃井さんに言われたことが、なんかわかったみたいだよ。」  
 言葉は優しいけれど、その目はさっきまでのとは違う、自信に満ちたような  
落ち着いた目つき。まさか…。  
「桃井さん!」  
 上原はあたしの肩に両腕をまわし引き寄せる。抵抗する間もなく、上原はあ  
たしの唇に自身の唇を重ねてきた。もうあたしがリードする必要なんかない。  
 あたしは目を閉じて、まだ少しぎこちない上原に身をまかせた。  
 
 僕は忘れていた記憶がよみがえってきた。  
 僕たちが入れ替わる前、僕は桃井さんを遠くから見ているだけだったけれど、  
いつかは桃井さんを抱きしめてキスをしたり、僕の腕の中で……なんてことを  
想像していたのが、今現実になっている。  
 確かに僕には男としての経験はないけれど、入れ替わっていた時に桃井さん  
が僕にしてきたことを今度は僕がすればいい。しかも桃井さんより僕の方が桃  
井さんの体は詳しいんだから。  
 
 僕は桃井さんと唇を重ねたまま両腕を背中にまわして強く抱きしめると、桃  
井さんは小さく声をあげそのまま僕にもたれかかってくる。僕は腕の力を抜い  
て桃井さんをベッドに横にした。  
「上原…。」  
「ちょっと待って。」  
 僕はベッドから離れるとズボンとトランクスを脱いだ。  
 桃井さんが鍛え上げた僕の体。そしてしばらく忘れていたアレ。  
「僕は男だな。」  
 フッ と口元から笑みがこぼれると、僕は桃井さんの待つベッドに。  
 
「桃井さん。」  
 僕は桃井さんの横に滑り込んで声を掛けたけれど、反応がない。  
「…桃井さん、まさか緊張してる?」  
「そ、そんなことあるわけないだろ!オレ…、あ、あたしが緊張なんてするわ  
けない…よ。」  
 そうか、思い出した。元に戻る前に桃井さんが言っていたように、男まさり  
(と言うか凶暴)な桃井さんを押さえられるようになった僕は、桃井さんにとっ  
て理想の相手なんだ。  
 僕の目の前で小さく震える桃井さんは、本人のキャッチフレーズ通りの可憐  
ではかな気な少女に見える。  
 
「…だよね。誰からも恐れられてた桃井さんが、緊張なんかするわけないよね。」  
「なんだとー!」  
 桃井さんはガバッと上体を起こして、今にも殴り掛かるような形相で睨みつ  
けた。  
「あはは。やっぱり桃井さんはそうでなくっちゃ。」  
 僕の言葉は桃井さんには予想外のことだったらしく、出ばなをくじかれひる  
んだ隙に僕は桃井さんの顎に手を延ばし引き寄せると、軽くキスをした。  
「少しは落ち着いた?」  
 
 
 上原、あたしが緊張しているのを知ってわざとだったのか。あいかわらず優  
しいヤツだよな。キスの余韻を感じながら上原の顔を見上げる。その自信に満  
ちた顔が妙におかしくて、口元が緩んだ。  
「…はい。」  
 目を伏せ小さくつぶやくと、上原はまたあたしの顎を引き寄せる。でも今度  
はさっきよりも何倍も強く唇を押し付けてきた。  
「…ン…ン……ンァ……」  
 舌を絡め、やがてピチャピチャと音が漏れる。背中に腕をまわされ、もう逃  
げることはできない。  
 
 あたしは女になるんだな……。  
 
 上原の指があたしの体を這いだした。それは今まで感じたことのない感覚。  
女の体がこんなに敏感だったなんて…。  
「…あぁ…ぁぁ……」  
 声にならない声が漏れる。  
 上原にしがみつきながら、その指の動きにあわせるかのように、あたしは体  
を小刻みに震わせた。  
 
「桃井さん」  
 上原はあたしの腕を振りほどいて背中にまわり、耳元で囁く。  
「桃井さんがこんなにかわいいとは思わなかったよ。」  
 その言葉にあたしの胸の奥がきゅんとしめつけられる感じがした。  
「僕の方が桃井さんの体は詳しいから、もっと気持ちよくしてあげるよ…。」  
 え?こいつ、一人の時にあたしの体を弄んでいたな。でも、そんな気持ちは  
すぐに飛んでしまった。  
 上原はあたしの胸をわしづかみにすると、その指をゆっくりと動かしはじめ  
る。強く弱くあるいは撫でるように…。  
「ャァァ...」  
 体の震えを押さえたくても上原は後ろにいる。行きばのない両手をあたしの  
体を弄ぶ上原の手の上に置いて、されるがままに耐えるしかなかった…。  
 
 僕は桃井さんをベッドに倒すと、一言告げた。  
「まだまだだよ。」  
 横たわった桃井さんの左胸を口に含み、右胸の乳首は左手の指先でつねるよ  
うに力を入れる。痛みと快感が入り交じった桃井さんの表情は、さっきまでの  
僕のソレと同じだね。  
 僕は右手を徐々に下げていった。  
 
 
 
 
 
 
/* *** フィニッシュ後 *** */  
 
「桃井さん…。」  
半ば放心状態の桃井さんは、目にいっぱいの涙を溜めていた。  
「桃井さん、泣いてる?」  
「…おまえが入れ替わっていた時のクセが、あたしの体に染み付いちゃったか  
らだよ。」  
「ばかやろう!責任取れよな。」  
「……はい。」  
 僕の胸の中で声を殺して泣いている桃井さんの頭を優しく撫でながら答えた。  
 
 好きな彼(ヒト)の胸の中に抱(イダ)かれ幸せの絶頂の中での快感と、好きな彼  
女(コ)を抱いて自分のモノにできた快感、どっちがいいかなんて優劣を付ける  
ことはできない。でも、僕はこの両方を経験することができたわけで、桃井さ  
んには本当に感謝している。そして今、元に戻った僕が桃井さんを守っていか  
なきゃならないんだと思う。入れ替わっていた時の人間関係なんかの数々の困  
難も含めて。  
 そんなことを考えているうちに桃井さんは寝てしまったみたいだ。以前の桃  
井さんからは想像もできないような、その安心しきった寝顔を見ているうちに、  
僕も眠りに落ちた。  
 
「桃井さん?」  
 目が覚めると、目の前に僕が寝ている。あぁ、僕も寝ちゃったんだ。そうか、  
さっき僕は僕と(でも中身は桃井さん)としちゃったんだ……。  
 
 え?  
 いや、その後僕らはおじいさんのところに行って、元に戻ったはずだ。驚い  
て手近にあった手鏡を手に取って覗き込むと、僕は桃井さんだった…。  
「元に戻っている…。じゃない、また入れ替わっているじゃないか!」  
 僕の姿をした桃井さんを起こす。機嫌が悪そうに体を起こすと、自分の姿を  
した僕を見つけ、息を呑んだ。  
 僕らはすぐにおじいさんのところに飛んで行くと、  
「あー、入れ替え君、最後の部品を付ける前に君らが入ってスイッチ入れ  
ちゃったからじゃよ。入れ替わった後の体と精神を定着させることができなく  
て、しばらくすると元に戻ってしまったというわけじゃ。」  
「じ、じゃぁ、その部品付けてもう一度お願いします!」  
「ダメじゃ。あの後菜々子が投げたスパナが開けっ放しになっていた基盤の上  
に落ちて、回路がショートしてしまって、また壊れちゃったんじゃ。」  
 
 僕らは桃井さんの部屋に戻ったけれど、話をできる状態じゃなかった。  
 やっと元に戻れてこれからだと思っていたのに、また入れ替わってしまって  
今までの困っていた状態になってしまった。  
 桃井さんの姿の僕の目頭が熱くなって、涙が滲む。それを見ていた僕の姿の  
桃井さんが  
「お前なぁ、俺の体に変なクセをつけるなよな。」  
 オ、オレって、桃井さん、以前の状態に戻ってる。順応早すぎ!って、そう  
いう僕もすぐに涙が出てきちゃう状態だから、人のことは言えないか。  
「…まぁ、また元に戻っちまったんだから、今さらブツブツ言ってもしょうが  
ないしな。今まで通りやってくしかないだろ。」  
「…だね。」  
 僕もあきらめた。  
「じゃぁ、ちょっとトイレ行ってくる。」  
 桃井さん、男になったから、まさかまた……。  
「あー、戻ったらさっきのお礼に、今度は俺がお返しするから覚悟しとけよ!」  
 えーーーっ!  
 しまった!桃井さんの体の感じる場所を教えてしまったわけで、今度はそこ  
を桃井さんは責めてくるんだ。  
 どうしよう。コワイけどうれしいというか。  
 違う違う! うれしくない………こともないかな?  
 
 
END  
 

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