(永原×鳥居で、太郎の学費免除取り付けた時の「前金」妄想です)  
 
 
 
 
「ちゃんと約束は守ってもらいますから」  
 
 にっこり。と、眞実は満面の笑みを浮かべる。  
 そんな時は、大抵の場合は自分に大いなる災厄が降りかかることを、京子は  
十二年の月日の中で思い知っていた。  
 身構えはしたものの、もちろん京子が眞実に抗う術を持つはずもなく――  
 
「とりあえず、頑張ったから前金ください」  
 
 続く言葉の不吉さに京子が叫んだ時には、腰をホールドされ部屋に引きずり  
込まれていた。眞実は後ろ手にドアを閉めると、完全にパニック状態の京子を  
見下ろし楽しげに頬を緩ませる。  
 
「鳥居ちゃん、そんなに怯えてみせない方がいいですよ?  
 余計に苛めたくさせるだけだから」  
「ひぃぃっ!まっ、待ち……落ち着きましょう!」  
「もちろん、僕は落ち着いていますよ。気分は高揚していますけどね」  
 
 言いながら、眞実の顔が近づいてくる。その意図に気づいた京子が抵抗する  
間も与えず、二人は唇を重ねていた。  
 反射的に目を閉じた京子は、唇を割って入ろうとする眞実の舌に驚いて、身  
体を引いた。眞実もあえて、今は無理強いするつもりもなく、真っ赤になった  
京子の顔を見る。  
 
「なっ……何するんですかっ」  
「キスしたんですよ。初めてでもないでしょう」  
「そ、そんなこと言ってるんじゃなくって、その……こんな、だから……」  
「今までと違うキスだった?  
 それなら、触れるだけのキスなら鳥居ちゃんはいいんですか」  
「ちがっ……あ、の、だって私達こんなことするのは、おかしいと思うんですっ」  
「今まではそうだったけれど、もう違うでしょう。  
 僕たち、結婚を前提にした間柄になったんですよね、鳥居ちゃん?」  
「うぐっ」  
「納得したところで、もう一度……今度は、ちゃんと口を開くんですよ」  
「えっ、まっ、ちょっ……んんっ……あっふ・ぅ……」  
 
 言葉を紡ごうとした京子の口の動きは、絡められた舌に阻まれる。意味を為  
さない呻きに変わった声だけが、鼻から抜けて眞実を誘う。  
 最初は互いの唇の感触を確かめ、次には唾液の味を知り、京子の腕が無意識  
に眞実の首に回される頃には、溢れた唾液が京子の首を濡らし始めていた。  
 
「鳥居ちゃん、僕を見たらどうです」  
 
 首筋に流れた唾液の軌跡を辿りながら、眞実は上目遣いに京子の表情を伺  
った。  
 固く瞑られた目の縁に、涙の粒が溜まっている。眞実の言葉に従って、薄  
く開いた瞳が眞実の視線とかち合うと、眞実の舌の先にある肌の下で、京子  
の体温が上がった。  
 
「興奮してるんですか?」  
「そんなっ……」  
「してない?嘘でしょう、キスだけであんな声出してたくせに」  
「っうぅ……」  
「鳥居ちゃん、結構いやらしいんですね」  
「そ、そんなっ」  
「ほら、どうして胸の前で手を握るんです?  
 そこに触れてほしくないから?どうして、僕がそこに触れると思うんです  
か?  
 鳥居ちゃん、君自身がそう望んでいるからですよ」  
「違い……ますっ」  
「そうでしょうか?」  
 
 言いながら、眞実は京子の腰に回していた腕に力を込め、身体を引き寄せ  
た。  
 密着した身体から、京子の呼吸が浅く速くなっているのを感じる。  
 困惑した京子の表情を、眞実は陶然と見つめた。  
 
 中華風の紐を花の形に編んだボタンを殊更ゆっくりと外していく。その間  
、腰を抱いていた腕は京子の脚の曲線をやわやわと曖昧に辿っていた。  
 次第に開いていく胸元に、舌先を這わすと、京子は息をのんだ。  
 もっと強烈に拒絶されるかと思っていた眞実は、抵抗のないのを訝しがり  
ながら、ブラジャーの縁ギリギリに吸い付いた。  
 
「っあ」  
「何か、いきなり大人しくなってますけど、このままここでしていいんです  
か?」  
「だって……約束、守ってもらっちゃった、から」  
「……ふーん」  
「え、あの何か?」  
「別に。  
 そうですね、僕は約束を守ったんだし、鳥居ちゃんも言うこと聞いてくだ  
さいね」  
 
 明らかに機嫌を損ねた様子の眞実に、京子は怯えながらも元来の生真面目  
さから、約束を守ってもらった恩を感じ、頷いてみせる。  
 眞実の目がすっと細められる時は、本当に怒っている時だと、京子は知っ  
ていたが、その時眞実が何に怒っているのかを理解できた験はない。  
 
「今から、いいと言うまで自分で動かないで下さい。  
 ちゃんと気持ちよくさせますから、じっとしていなさい」  
 
 それだけ言うと、眞実は先ほどまでの無駄に思えるほど緩慢な動きから一  
変して、京子のワンピースの裾をたくし上げた。  
 膝の辺りから、脚の付け根まで手を這わせると、京子が微かに身じろいだ  
 
。  
 
「動くな」  
 
 一言だけで京子を叱責すると、眞実はほとんど肌を覆う役割を失った京子  
のワンピースを取り去った。  
 上下の下着だけの格好になった京子は、身体を隠したい気持ちを抑えて、  
眞実に言われた通りにじっと動かずに耐えていた。  
 
「いい格好ですよね。  
 玄関口で、下着姿になっている気分はどうです?」  
「やっ……永原先輩、こんなこと……」  
「まだ、何もしてないですよ。ただ見てるだけじゃないですか」  
 
 その言葉通り、眞実は腕を組んで京子に触れないことを示す。しかし視線  
だけは先ほどまでとは比べ物にならないくらい、隈なく京子の全身に注いで  
いた。  
 サンダルを履いたままの足の指先、その上の締まった足首、ふくらはぎと  
膝、先ほど感触を確かめた太もも。  
 淡いブルーの下着の中身を暴きたい衝動と、もっと京子の羞恥心を煽りた  
いという欲望。  
 組んだ腕の上で、眞実は指を動かす。意外なことに、京子はそれだけでび  
くりと身体を震わせた。  
 自分と同じか、それ以上に京子が自分を見ていると気づき、眞実は口の端  
を上げた。  
 
「見られているだけで、感じるんですか」  
 
 眞実の言葉を受けて、京子が壁紙を爪で引っかいた。  
 
「本当は、それだけじゃ足りませんよね?  
 僕に触れてほしいところがあるんじゃないんですか、ねぇ鳥居ちゃん?」  
「そ、んな……」  
「肌の色が変わりましたね。薄っすら赤く染まって、僕を誘っているみたい  
ですよ。  
 呼吸も速いし、少し汗ばんできましたか?  
 あれ?ブラジャーの先端が尖ってますね、どうしたんです」  
「先輩っ……」  
「うん?」  
「もう、恥ずかしいです……やだっ……」  
「ダメですよ。約束、でしょう?  
 山田くんの学費免除の件、なかったことにされたいんですか?」  
「そん、な……」  
「それとも、そろそろ僕が欲しいと言いますか?  
 鳥居ちゃんには残念かもしれませんが、ここにいるのは山田くんじゃなく  
僕なので、満たしてあげられるのは僕だけですよ」  
「先輩?……何、言って」  
「もう、黙って」  
 
 組んでいた腕が、京子の肌に伸びる。  
 ウェストにぴたりと手のひらを乗せると、肌の下で筋肉が収縮した。背中  
のホックを外して、ブラジャーを取り去る。  
 先ほど見てとった通り、その下では乳首が起ちあがっていた。今度は何の  
前置きもなく、その先端を口に含んだ。  
 
「あぁっ!や、んんっ」  
「こんなに感じて、身が持ちますか?まだ肝心のところには、指一本触れて  
いないのに」  
 
 揶揄の言葉を投げつけ、京子が羞恥に身を震わせるのを楽しげに見つめる  
と、眞実の舌先が乳首を転がす。かと思えば、軽く歯を立てて吸い付いた。  
 痛みを伴う快感に、京子の身体はますます熱く、頭の中はだんだんと物を  
考えることができなくなる。無意識に、眞実の髪の間に指を差し入れ、彼の  
頭を抱え込んだ。  
 
 眞実は京子の胸から口を離すと、自分自身の唾液に濡れた口元を手の甲で  
拭った。  
 見上げると、快感に濁った京子の視線とぶつかった。十二年間見慣れた彼  
女の顔に、一度も見た事のない表情が浮かぶ。  
 ――いつも、追いかけて求めているのは自分の方だ。眞実は自嘲気味に顔  
を歪めた。  
 この顔と身体だけは、京子の好みに合致していたとして、彼女の気持ちが  
自分と同じ意味で向けられていないことは知っている。  
 今こうして、自分に身体を許しているのは、京子が太郎のためを思っての  
ことだ。それを思い返すと、身を焦がすような悋気を感じる。  
 けれど少なくとも今は、この瞬間は、京子が欲しがっている。それが、身  
体だけの欲求だとしても。  
 いずれ、快楽ではなく自分を求めさせてやろう。  
 
「鳥居ちゃん、僕の服を脱がせてください」  
「えっ、わ、私っ」  
「いいから、さぁ」  
 
 京子の手を取り、自分のネクタイに導く。  
 しばし戸惑っていた指先が、おずおずとネクタイを解き始めたのを機に、  
眞実は今まで触れなかった部分へ手を伸ばした。  
 京子の内腿は、じんわりと汗で湿っていて、眞実の手にぴたりと張り付く  
。  
 膝を割って脚を差し入れ、京子が脚を閉じれないようにしてから、眞実は  
窪みに張り付いたショーツをなぞった。  
 
「ひ、あっ……せんぱ、いっ」  
「手を止めないで、じゃないといつまでもこのまま満たしてあげられません  
よ。  
 下着の上からでも、鳥居ちゃんが濡れているのはよく解るんですから」  
「やっ……」  
「嫌?触られるのが?それとも……焦らされるのが?」  
「っ……ん……」  
「最初のボタンが外せたら、下着を外してあげましょう」  
 
 曖昧にショーツの縁をなぞり、京子を煽り続ける。京子が非難の視線を向  
けるのを、微笑で受け流してみせる。  
 その実、京子に見せているほどの余裕は、眞実にももう残っていない。  
 早く満たしたくて、奪いたくて、けれどそれ以上に京子を辱めたい。  
 
 理性と、恥辱と、欲望の中でぐるぐると考えていた京子が、おずおずと眞  
実の首もとのボタンに手をかける。  
 微かに震える手で、一つ目のボタンが外される。  
 
「よく出来ました。  
 それじゃあ、このぐちょぐちょになった下着は外してあげましょう」  
 
 言葉をかけながら、ゆっくりとショーツを引き下げる。  
 つ、とショーツと京子の間で糸がひく。  
 
「気持ち悪かったでしょう?こんなに汚してしまって、ねぇ?」  
「言わない、で下さい……そんなことっ」  
「まだボタンは残ってますよ。  
 それとも、次のご褒美を教えてあげないといけませんか?」  
 
 くすくすと耳元で笑うと、京子は限界まで耳を赤くさせる。  
 やけくそになったのか、二個目、三個目とボタンが外される。  
 眞実はようやく露になった京子の陰部に、指を這わせた。愛液が絡んだ陰  
毛に隠された割れ目の形を、ゆっくりと指に覚えさせる。  
 
「あっあ……っん……永原せ……いっ」  
「あと三つ。次のを外したら、指を入れてみましょう」  
「んっ……へんた、い……」  
「そんな口の利き方していいんですか?  
 鳥居ちゃんが怖がらないように、一つ一つ覚悟させてあげてるのに。  
 そうじゃなければ、とっくに中を掻き回していますよ」  
「っやぁ……は、あ……」  
「ほら、言葉だけで感じてないで、僕だって我慢しているんです」  
 
 ボタンにかかった京子の指が震えているのは、悔しさのためか、快感のた  
めか、期待のためか、恐らく彼女自身も判別できなくなっていた。  
 散々京子の愛液を掬って湿らせた指は、大した抵抗も受けずに京子の中に  
飲み込まれた。  
 中指一本を限界まで埋め、軽く曲げて引き抜く。京子の呼吸のリズムに合  
わせて繰り返すたび、掻き出された愛液が眞実の手を濡らす。  
 ちゅぷ、ちゅ、つぷ……わざと音を聞かせるように、指を動かす。  
 もう言葉をかけずとも、京子は次のボタンを外し始める。  
 眞実は京子の中に入れる指を増やし、更に親指で陰核を押しつぶす。  
 
「あっ、やぁぁ……だめ、ん……ひっ……ァ、んぁあっ!な、はら……先…  
…」  
「鳥居ちゃん……早く、入れたい……」  
「あ、あ、だめっだめぇぇ……」  
 
 京子の見開いた目が、一瞬遠くを見るように狭まった。  
 眞実の指を、京子が締め付ける。びくびくっと膝が崩れて、壁と眞実に支  
えられなければそのままぺたりと床に座り込んでしまいそうになる。  
 達する瞬間、掴んでいた眞実のシャツを引っ張ったために、残されていた  
最後のボタンは引きちぎられてしまった。  
 
「鳥居ちゃん、大丈夫ですか?」  
 
 ほとんど意識を失いかけている京子の頬を、軽く叩いて覚醒を促す。  
 虚ろな目が、声を頼りに眞実を探し、視線がかち合う。  
 
「先輩……も、許して下さい……」  
「うん、ちょっと虐めすぎましたね。  
 でももう少し、頑張ってください。鳥居ちゃんのこと、全部満たしてあげ  
ますから」  
「早く、もぅ……」  
「うん……」  
 
 張り詰めた自身を取り出し、京子の入り口にこすり付ける。指とは違う質  
感と固さに、京子の口から期待のため息が漏れる。  
 それを合図に、眞実は一気に貫いた。  
 
「あっ・はぁあアあっ……」  
「鳥居ちゃ……」  
 
 誘いこむように媚肉が眞実に絡みつき、引き抜こうとする動きを遮る。  
 甘い束縛を楽しみながら突き上げる度に、京子が背中を反らし、白い喉元  
が眞実の目に映る。其処に痕を残してしまいたい欲望を、それでも眞実は京  
子の教員としての立場を思って堪えた。  
 代わりに、律動のリズムを早める。  
 
「やっ……も、私……せんぱい、わたし……あっ、だめぇっ」  
「いいですよ、見ていて……あげます」  
「ちがっ……先輩、も……いっしょ……お願いっ……」  
「あぁ……そんな、顔でお願いされたら……いやらしいな、鳥居ちゃん」  
 
 むずがる子供のように、イヤイヤと頭を振る京子が可愛くて、眞実はおね  
だりを聞き入れた。京子の片足を持ち上げ、より奥まで掻き回せるように体  
制を変えると、突き上げる度に子宮口を刺激するように自身を回した。  
 京子を高めながら、自分自身を高めるための律動は、激しさを増すばかり  
になる。  
 調子のついた歌のように、京子の口から甲高い声が漏れる。  
 
「あっ・ひぁん……なが、ら……せんぱぁ……あ・あ・んむっ……ぅあっ」  
 
 眞実の息があがる。髪を伝って、汗が流れている。それが視界に入った途  
端、京子は身体に駆け巡っていた渦が収束するのを感じた。  
 
 
 ――チュンチュン……チチチ  
 深く潜っていた意識が、鳥のさえずりで引き上げられる。ぼぅっと目を開  
けると、京子の部屋の見慣れた天井が視界にあった。  
 
(あぁ、朝だわ)  
 
 どうしてか、身体がだるく重いのを感じて、寝返りを打つ。  
 と、そこに有り得ない光景を見て、京子は目を見開いた。  
 
「おはよう、鳥居ちゃん」  
「っ?!」  
「よく寝ていましたね、あ。シャワーを借りましたよ」  
 
 目の前に、バスタオルを腰に巻いただけの姿の眞実がいる。その光景が現  
実のものであると受け入れるのに、京子はしばしの時間を要した。  
 その間に、眞実は部屋を横断して京子の寝ているベッドに腰を落とし、風  
邪を引いた子供にするように、京子の額に手を当てた。  
 
「昨日は無理をさせすぎたみたいで、あのまま気絶してしまったものだから  
心配しました。  
 身体は大丈夫ですか?」  
「な、な、な……永原先輩っ、あの、私……」  
「……事細かに説明されたいですか?」  
「いやーーーっ!!!」  
 
 一気に昨晩のことが記憶に蘇った京子は、赤くなるやら青くなるやら。眞  
実はそれを見て、くすりと笑う。  
 
「鳥居ちゃん、可愛かったですよ」  
「ひぃぃぃぃ」  
「でも、前金にはまだ少し足らなかったかな」  
「ひえっ?!」  
「まぁ、これからを楽しみにしていますよ」  
 
 眞実の言葉に、京子は何か言おうと口を開いたが、言葉は出てこずに口だ  
けがぱくぱくと無駄に動いた。  
 この後、眞実の十二年分溜まった欲求に応えるために、京子はお肌ツヤッ  
ツヤな生活を送ることになる。  
 
(終わり)  
 

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