僕は、上原あきら。  
高校2年生。  
 
現在あることに悩まされている。  
 
僕の目の前でかわいらしい女の子といちゃついている男。  
 
その人のせいである。  
 
彼の顔は見慣れた顔のようで、笑った顔とか怒ってる顔は  
なんだか新鮮だったりもする。  
でももう10年以上も昔から毎日見ている顔だ。  
だが、幼馴染というわけではない。  
 
なぜなら僕の顔なのだ。  
双子だとかいうわけではない。  
 
僕の顔をしたその男は  
桃井菜々子という。  
男なのに菜々子?って思うだろう  
 
逆に僕はとてもかわいらしい女の子だ。  
 
そう僕と彼女は  
彼女のおじいさんの発明した機械により  
入れ替わってしまった。  
 
「なんだよ?」  
 
二人を無意識のうちに見つめていた僕に  
桃井さんがぶっきらぼうに話しかける。  
 
「なんでもないよ」  
僕はイライラしていた、だから言い方にも棘があったかもしれない。  
「言いたいことがあるならはっきり言えよな」  
桃井さんもまた、少しいらついた様子で僕に言った。  
「別にないっていってるだろ」  
原因はもちろんこの人のせいだ。  
自分勝手でわがままで  
どうしようもない。  
でもそんな人のことを僕は…嫌いになれないでいる。  
だからそんな自分にさえも腹が立っていた。  
 
言い争いをしたいわけじゃない  
でも、桃井さんの顔をみると、言わずにはいられなくなる。  
だから僕は桃井さんから視線をはずし  
そのまま席を立ち教室をあとにした。  
 
「どうした?」  
教室をでたところで、クラスメイトに呼び止められた。  
「千本木…」  
彼は小学校からの幼馴染、千本木。  
でもそれは僕が男のときの話で、  
今はもう前のように普通の友達ではいられなくなってしまった。  
彼は教室の中の二人をみつけ、  
「あーなるほどね」  
この状況を把握できたらしい。  
「別に関係ないよ」  
「俺の前ではつよがらなくてもいいよ、あきら」  
 
彼は唯一、僕らが入れ替わったことを知っている。  
「いつ誰が見てるかわからないんだから、  
 ちゃんと桃井さんって呼ぶようにしろよな」  
「はいはい」  
 
「もう帰るのか?」  
「うん」  
「そっか、じゃあまた明日な」  
「うん、じゃあね」  
 
千本木はそのまま教室へ入っていった。  
やっとこんな風に普通に千本木と話せるようになったのは  
千本木のおかげだ。  
僕の事を好きだといってくれた千本木。  
僕はそんな彼を拒絶した。  
でも、千本木はそんな僕を許してくれて  
友達にもどってくれた。  
僕のたった一人の親友。  
僕が千本木のことを好きになれば、  
本当はそれが一番よかったんだ。  
でも、僕は桃井さんをあきらめることができなかった。  
 
だけど桃井さんは、元親友の椎名真琴と  
付き合っている。  
僕の体で。  
 
なんで…なんであんな人が、僕は…好きなんだろう…。  
 
僕の体に入って、自分の親友と付き合っているような人なのに…。  
 
彼女はもう元の体に戻るつもりがないんだろうか。  
 
考えないようにしてきたことだったけど  
このままじゃ、きっと桃井さんは  
機械が直ったとしても戻ってくれないだろう。  
 
そうなると僕はこのまま女として生きていくしかなくなる  
今まではありえないって思ってたけど  
 
こんな女々しい僕なんて男に戻ったって  
きっといいことなんてない  
このままのほうがいいのかもしれない…  
そんな風に思ってしまうんだ。  
 
そんなことを考えている間に、いつの間にか桃井さんの家の前まで来ていた。  
自然と桃井さんの家に足が向くようになっていたんだと  
この生活になじみ始めている自分に嫌気がした。  
「ただいま」  
「おー上原君、例の機械できたぞい」  
 
 
ポトッ  
 
あまりの突然の出来事に僕はかばんを落としてしまった。  
 
「お、お、お、おじいさん本当にできたんですか?!」  
「ああ、菜々子をつれて来たら今すぐにでも稼動できるぞ」  
「わ、わかりました!」  
 
僕はあわてて上原家へと向かった  
 
僕の家に着いたとき、ちょうど、  
桃井さんと椎名が楽しそうに一緒に帰ってきたところだった。  
 
「あ…」  
「菜々子ちゃんどうしたの?」  
 
「あ、えっと…」  
 
「なんだよ?」  
 
僕と桃井さんが戻るって事は  
この二人を別れさせるって事なんだよな…  
こんなうれしそうな椎名と桃井さんを見たら…僕は…  
 
「椎名…上原君の事好き?」  
「え…どうしたの突然?  
      ……好き…だよ」  
少し頬を赤らめて椎名は答えた。  
 
「お前何言わせてんだよ、照れるだろ」  
桃井さんもそんな椎名を見て嬉しそうだった。  
 
「そっか…ごめんね突然」  
 
僕は笑ってごまかして、踵を返した。  
 
「おい、何かあったから来たんじゃねーのか?」  
 
僕はその声で足を止めたが、振り返らず答えた  
「もう用事なくなったから、じゃあ」  
 
「お、おいっ!」  
「ごめん椎名」  
「えっ上原くん?!」  
 
少し走ったところで  
女の子の体力、そしてもともと運動が得意でない僕は  
すぐに捕まってしまった。  
 
「おい、どうしたんだよ」  
「別になんでもないっていってるだろ  
 早く椎名のとこ戻れよ」  
「何でもないのになんで、自分の家来てんだよ」  
「俺に用事があったんじゃねーのか?」  
 
最近、桃井さんは僕の前でも”俺”というようになった  
だんだん、今が普通になって、僕はこのまま…  
そう思うと無性に悲しかった。  
 
「桃井さん、椎名は桃井さんの親友だよね」  
「え…」  
「それとも…恋人?」  
「何言ってんだよ」  
「椎名のことが好き?」  
「あたりま…」  
「親友としてじゃなく?」  
「……何がいいたいんだよ」  
 
「戻る気なんてないんだろ?」  
「…」  
桃井さんは答えずに目をそらす。  
肯定してるってことじゃないか。  
 
「いいよ」  
「なんだお前も女に目覚め」  
「機械直ったんだ」  
言い終わる前に桃井さんに告げた。  
「……」  
桃井さんは僕の腕を掴んだまま一瞬固まった。  
「はなせよっ」  
力強く掴まれた腕を引っ張ると  
「そうか…」  
その手を離した。  
 
予想はしていた、でも悲しかった。  
彼女はやっぱり、戻ることなんて望んではいなかったのだ。  
 
「でも、もういいから」  
「なにが…」  
「いいよこのままで」  
「ホントにいいのか?」  
「だって…椎名のこと好きなんだろ?」  
「……」  
桃井さんは少し表情を曇らせ、僕から目線をそらす。  
その無言が僕にはとても長く感じた。  
 
答えを待たずに僕は走り出した。  
しかし、桃井さんはもう僕を追いかけてくることはなかった…。  
 
「菜々子はどうしたんじゃ?」  
「いなかったんだ」  
「そうか、せっかく直してやったというのに」  
 
僕はその日布団にはいったものの一睡もできず、寝不足の朝を迎えた。  
そして僕はこのまま生きていくことを選んだ。  
選んだっていうと少し違うな。  
だってそれしか選ぶ余地がないのだから。  
 
次の日  
校門でにつくと、すぐある人の姿が眼に入った。  
桃井さんは僕を待ち伏せていた  
 
「上は―」  
「おはよう、上原君」  
僕はニコリと笑ってその横を通り抜けた  
 
「おはよう菜々子ちゃん」  
教室に着くと、すでに椎名は登校していた。  
「おはよう椎名」  
「昨日はごめんね、突然変なこと聞いて」  
「ううん…なにかあったの?」  
「なんでもないよ。ほんとごめん」  
「…菜々子ちゃん」  
椎名はきっと変化に気づいている  
でも、それ以上聞いてくることはなかった。  
 
 
放課後になるまで、僕は一度も桃井さんと  
言葉をかわすことはなかった。  
 
 
しかし帰ろうとしたとき、桃井さんは  
僕を呼び止めた。  
「椎名ごめん、先に帰ってて」  
「え…あ、うん、わかった…」  
「じゃあね、上原君、菜々子ちゃん」  
椎名は何も聞かずに桃井さんに言われたとおり  
先に帰っていった。  
 
「何言ってるんだよ桃井さん  
 椎名に誤解されても知らないからな」  
「大丈夫、俺信頼されてるから」  
「あっそ、じゃあ僕も帰るから」  
「待てって」  
桃井さんは僕の腕を掴み、  
僕はそれを必死に振りほどこうとするがびくともしない。  
そんなことにはお構いなしに、桃井さんは話始める。  
「前まであんなに戻りたがってたくせに  
 なんで急に戻らないなんて言ったんだよ」  
「だからそれは昨日も言っただろ」  
「おまえ自身はそれでいいのかよ」  
 
「……桃井さんに僕の気持ちなんてわからないよ」  
僕は桃井さんを睨みつけて言った。  
「そういう、うじうじしたとこがムカつくんだよ  
 はっきり言えよな」  
 
「はっきりって何だよ!何を言えっていうんだよ!  
 僕が戻りたいって言ったって  
 今まで、全然協力だってしてくれなかったじゃないか!」  
「千本木のことだって…僕がどんなけ悩んだと思ってるんだよ!」  
 
「千本木?」  
 
「あいつ、僕のこと…今の僕のことが好きだって…そう言ってくれた」  
「男同士じゃねーか、きもちわりー」  
「桃井さんだって椎名のこと好きならその気持ちわかるんじゃないの?」  
その言葉で、桃井さんは真面目な顔に戻った。  
「…そうだな…悪い」  
「……千本木のこと、好きなのか?」  
「好きになれたらよかった……」  
「もちろん嫌いじゃないよ、でも…  
 僕にとって千本木は、やっぱり親友なんだ」  
「そうか…」  
「あいつは確かに強引なとこあるけど、ちゃんと僕の気持ちも理解してくれたし  
 桃井さんよりずっとずっと僕のこと考えてくれたし、優しかったよ…」  
「……悪かったな優しくなくて」  
「別に謝ってほしいわけじゃない  
 桃井さんにとって、僕って存在がその程度だったってことなんだろ?」  
桃井さんは答えなかった。  
「…わかってたよそんなこと」  
 
「ねぇ、でもさ  
 一体どこまで本気なのさ?」  
「なにが?」  
「椎名とキスしたんだろ」  
「椎名から聞いたのか?」  
 
「うれしそうに話してくれたよ」  
「いつまで椎名に隠し続けるつもりなんだよ?」  
「……」  
「ずっと黙って生きていくつもり?」  
「…」  
「ねぇ桃井さん」  
 
「それを聞いた僕の気持ちってわかる?」  
 
「男なんだからそれくらい気にするなよ」  
「はは…」  
思わず自分がばからしくなって笑いが漏れた  
桃井さんが僕のこと気づいてるはずないし  
気にするはずもないよな…  
 
「男だからとかそういうことじゃないだろ?  
 …知らない女の人と、その…そういうことしたりするのは  
 嫌でも、我慢できるけど…  
 でも、椎名とは…違う」  
 
ただ、興味本位で僕の体を使うのは  
嫌だけど我慢できた  
でも…  
 
「僕が…それをどんな気持ちで聞いたと思ってるんだよ…」  
泣くなんて女々しいってわかってるのに  
僕は男なのに、やっぱり弱くて  
涙が溢れて止まらなかった。  
僕は必死に手で涙を拭った。  
そっか…僕は失恋したんだよな…。  
 
「人の気持ちも知らないでさ…  
 僕ばっかり好きで…ほんとばかみたいじゃないか…」  
 
「好きって…」  
 
「こうなるずっと前から  
 僕は桃井さんのことが好きだったよ」  
ついに言ってしまった。  
言ったところで何にもならないってわかってるのに…  
でも、終わらせないといけないんだ  
だから…  
「…でも、もうやめる」  
 
「やめれんのかよ」  
予想外の答えだった。  
お前になんかに好かれたくない。  
そんな風に思われるって思ってた。  
 
「え…」  
「そんな簡単に気持ちなんて変えれんのかよ」  
「何言ってるんだよ、一方的に好きでも仕方ないじゃないか」  
「なんでそんなこというんだよ…  
 だってどうしようもないじゃないか…」  
 
「結局その程度なんだろ、やめれるくらいなら  
 大して好きじゃなかったんだ」  
 
僕は持ってたかばんを桃井さんにぶつけた。  
 
「本当に好きじゃなかったら  
 …っ…こんなに…うっ…悲しくなるわけないだろ…」  
 
僕はそのまま教室を飛び出した。  
 
最低最悪だ。  
いつも自分勝手で  
自信家で  
人の気持ちなんて考えてなくて  
あんなこと言われて…  
 
でも…  
それなのに…嫌いになれないなんて  
バカだよ僕は。大馬鹿者だ。  
それで結局一人ぼっちになっちゃってるんだから。  
ほんと笑えないよ。  
父さんや母さんや美羽。  
椎名やクラスのみんなだって  
僕じゃなくて、桃井さんの僕を必要してる。  
 
誰も僕自身なんて必要としてないんだよな…。  
でも…たった一人千本木だけは、僕の味方だった。  
悲しいことがあったとき、いつも千本木が話しを聞いてくれて  
相談に乗ってくれれたことを思い出した。  
それにこんな僕のことを好きだといってくれた。  
千本木のこと好きになれば…幸せになれるのかな…  
無性に千本木に会いたかった。  
きっと千本木は優しく迎えてくれる  
でも、それはただ千本木の気持ちを利用してるだけだ  
だから、僕一人で解決するしかないんだ。  
 
結局桃井さんの言うとおり  
気持ちなんて変えられない…  
わかってるだそんなこと  
 
だけど、こうでもしないと  
あきらめきれなかった、元の体に戻ることも…  
桃井さんのことも・・・  
 
僕はその日、涙が止まらなかった。  
その涙が僕の記憶、悲しみを流してくれるなら  
どんなによかっただろう。  
 
その日から、桃井さんは僕に話しかけてくることはなかった。  
だから僕も桃井さんに話しかけなかった。  
このまま普通のクラスメイトになってしまうのだろうか。  
でも、もう僕にはどうすることもできない。  
夢ならば覚めてほしい。  
いい夢はいつも、突然覚めてしまうのに。  
覚めてほしい夢ははいつまでも覚めない。  
神様はなんて意地悪なんだろう。  
 
「ねぇ菜々子ちゃん、上原君と喧嘩でもしたの?」  
「え?別にそんなことないけど」  
ただの喧嘩だったらどんなによかっただろう。  
 
「そう…?」  
「どうして?」  
「だって…上原君、菜々子ちゃんの話すると不機嫌になるんだもん…」  
 
「気のせいだよ」  
 
「そうかなぁ…」  
「そうだよ」  
 
いたっ…  
突然、下腹部が痛んだ。  
 
「どうしたの?」  
「なんでもないよ、ちょっと体調悪いだけ、保険室行って来るね」  
「付いていこうか」  
「いいっていいって、一人で大丈夫だから、椎名は教室戻ってて」  
「うん…」  
 
やばい…生理痛の薬飲んでくるの忘れたからか…  
まだ、生理の周期とか上手くつかめてないし  
薬飲む習慣ないんだよな…  
 
やばっ…倒れ…  
そこで僕の意識は途切れたのだった…。  
 
―――菜々子視点  
 
あいつは俺が好きだといった。  
今の俺が。  
千本木は今の上原が好きだといった。  
今の上原が。  
 
じゃあ椎名は?  
上原が好きなの?あたしが好きなの?  
 
あたしは椎名が好きだ。  
その気持ちに嘘はない。  
 
でも、椎名はあたしだと気づいてない。  
上原だと思ってる。  
 
椎名の好きなあたしは、いったいどっちなんだろう?  
 
わからない。  
 
そんなことを考えてると廊下の向こうから椎名が歩いてきた。  
 
「よぉ」  
「あ、上原君」  
 
椎名は少し、沈んだ様子だった。  
「どうした?」  
「菜々子ちゃん具合悪いみたいで  
 保険室までついていこうと思ったんだけど  
 一人で大丈夫って一人でいっちゃったんだけど  
 大丈夫かなって心配になってきちゃって」  
 
「椎名は優しいな」  
「そ、そんなことないよ」  
 
「なんでそんなに桃井のこと心配なんだ?」  
「え?あたりまえだよ」  
「どうして?」  
「だって…親友だもん」  
親友だから。か  
 
「もし、俺と桃井が海で溺れてたらどっちを助ける?」  
「私じゃ二人を助けれないよ…」  
「二人じゃなくて一人だけで浮き輪を渡せるなら  
 どっち?」  
「そんなの選べないよ…」  
「…そっか」  
「どうしてそんなこと聞くの…?」  
 
 
「入学式の日、覚えてる?」  
「覚えてるけど…」  
「教室までいっしょについていってくれたよな?」  
「え?…」  
「それで紅白饅頭、自分の分までくれて」  
「私上原君とは、入学式の日は…」  
「すごい優しい子だなって  
 男だったらカノジョにしたのになって…」  
 
椎名の目を見た。  
困惑の表情。  
「…う、上原君…?」  
「もしもの話したことあったよな」  
「も…しも…?」  
「もしも俺と桃井が入れ替わってたらって」  
「…そんなことあるわけ…」  
「……冗談でしょ」  
「…」  
俺は答えない。  
「ほんと…なの?」  
「ああ」  
「……嘘……」  
 
「どうして…どうして私と付き合ったの?」  
「え…」  
「ひどいよ……」  
「椎名……」  
 
「ごめん、でも俺、椎名のこと本当に」  
「でも菜々子ちゃんなんでしょ…?」  
「………うん」  
「じゃあ菜々子ちゃんは上原君なの…?」  
「……ああ」  
「みんなして騙してたんだ」  
「ちがっ」  
「ちがわない!」  
「……椎名」  
「それを知って、今までのように上原く…菜々子ちゃんのこと  
 好きだって自信もてない…」  
「………」  
 
覚悟してたはずだった  
でもいざ椎名に拒絶されると  
心が締め付けられた。  
 
「…わかった」  
 
「……ごめんね」  
俺は首を振ることしかできなかった。  
椎名は顔を隠して教室に走って行った。  
 
俺は上原が行ったと聞いた  
保険室へと向かった。  
 
―――あきら視点  
 
あれ…  
 
目をあけると白い天井が目に入った。  
 
保険室…?  
 
視線を横にすると  
 
僕が座りながら寝ていた。  
 
「桃井さん…?」  
「ん…起きたか」  
「お前な、俺の体なんだから大事にしろっていっただろ」  
「ごめん……」  
 
「気分まだ悪いか?」  
「もう大丈夫…」  
「そっか」  
 
「桃井さんがここまで運んでくれたの?」  
「ああ、椎名に保険室言ったって聞いたから  
 向かったら、途中でぶっ倒れてるし」  
「ごめん……」  
「ああ…」  
「…ありがと」  
「自分の体だからな」  
 
「なんか話すの久しぶりだね」  
「そうだな」  
 
「ずっと言わないとって思ってたことがあるんだ」  
「ん?」  
「僕さ、あの家出ようかと思うんだ」  
「え…」  
「あの家はもともと桃井さんの家だし  
 ずっとあそこに住むわけにもいかないと思う」  
 
「あっ別に桃井さんに僕の家を出てけっていってるわけ  
 じゃないんだ。父さん達だって  
 僕なんかより、桃井さんのほうがいい息子だって  
 思ってるだろうし…」  
 
「……」  
 
「帰るぞ」  
 
「え」  
桃井さんは僕の腕を掴んでベッドから引きずり出した  
 
「も、桃井さん??」  
 
「もどるぞ。元に」  
「え、何言ってるんだよ、椎名のことはどうするんだよ」  
「椎名とは別れた」  
 
「え…」  
「ほら、行くぞ」  
 
桃井さんは強引で、僕は成すすべもなく  
桃井家へと引っ張られていった。  
 
「じじい、機械使えるか」  
「ひさしぶりじゃな、菜々子」  
 
「入るぞ。ほら」  
「う、うん…」  
 
「じいさん頼む」  
 
「なんだか、急だが、いくぞい」  
 
「ほれっ」  
 
……  
 
………  
 
僕と桃井さんは顔を見合わせる  
 
「じじい、直ってないんだけど」  
 
「おかしいのぅ…全部つないだはずなんじゃが」  
 
「ここがこうなって、う〜む  
 ああ、ここが、こうなってあーなって  
 すまん、一つ部品が間違っていたようじゃ  
 ということで、あと50万ほど必要じゃな」  
 
「おじいさん、それを狙って…」  
 
「別にわしはこのままでもいいんじゃよ?」  
 
「くっ…わかりました、50万用意するから直してくださいよ!」  
 
「結局もどりたいんじゃねーか」  
 
「あ……」  
 
「こんなことだろうと思ったよ」  
「あーあ、腹減った。上原を運んだから疲れた。  
 なんか飯作れよ」  
 
「はいはい…わかりましたよ」  
 
言葉はきついけど  
僕のためにしてくれたんだよな…  
桃井さん…  
 
「じゃあわしは今日からまたハワイじゃから  
 家のことは頼んだぞ」  
「ハ、ハワイ!?」  
「毎年のことだろ」  
「毎年って、あれから1年もたったのか…」  
「じゃあな、菜々子、上原君」  
 
おじいさんは、それだけ言い残し、家を出ていった。  
 
「まったく…いつも勝手なんだから…  
 さすが血がつながってるだけあるよね」  
 
「どういう意味だ」  
「そのままの意味だよ」  
「なんだと?」  
 
桃井さんはふざけて後ろから  
抱きつくように僕の首を絞める。  
 
「はは…」  
「なんだよ?」  
「なんかさ…すこしほっとしてる自分がいて…」  
「俺もだ」  
「え?」  
「慣れって怖いな」  
「うん…」  
 
「もう少しこのままでもいいかなって  
 ほんの少し、ほんの少しだけど、思っちゃった」  
 
「まっ俺はずっとこのままでもいいけど」  
「やっぱりそう思ってたんじゃないかー!」  
「お前だって、女の方が性にあってるんじゃねーのかよ」  
「…」  
否定できない…でも僕はやっぱり女の子が…  
「なぁ」  
「なに?」  
 
「いつから俺のこと好きだったんだ?」  
 
「な?!なんだよいきなり」  
「まぁそりゃあこんなに美人なんだから  
 好きになるのはあたりまえだとは思うけどな」  
「桃井さんらしいね」  
「なんだと?」  
「褒めてるんだよ」  
「…」  
「僕にさ、桃井さんくらいの男らしさがあれば  
 きっともっとかわってたのかなって…」  
「もしそうだとしたら、お前じゃねーじゃん?」  
「そうだね」  
「もしも、なんて考えるだけ無駄だ」  
「うん…」  
「お前はどうなったとしても、上原あきらだし  
 俺は…桃井菜々子なんだよな……」  
 
桃井さんは僕の腰に手を回し僕の体を引き寄せる  
「桃井さん…?」  
「少し黙っとけ」  
「え…」  
桃井さんの声は少し震えていた。  
泣いてるような気がしたけれど、  
きっとそんな顔見られたくは無いだろうから  
僕はそのまま振り向かなかった。  
 
きっと椎名のこと…。  
桃井さんが本当に椎名のこと好きだったのは  
僕が一番よくわかってた。  
 
でも僕はもう桃井さんを放したくなかった。  
 
少しの沈黙。  
 
桃井さんの心臓の音が僕の心に響いていた。  
 
「責任…とれよな」  
僕の耳元で囁いた。  
 
「な!何してるんだよ!」  
桃井さんは僕の胸を鷲づかみにしていた。  
「別にいいだろ自分のなんだから」  
「だからって…んっ…」  
「何エロい声だしてるんだよ、きもちわりー」  
「そう思うならやめて…よ」  
 
「桃井さん…」  
「なんだ?」  
「なんか背中にあたってるんだけど…」  
「ん?ああ気にするな」  
「気にするよ!」  
「なんで?俺のこと好きなんだろ」  
「ぼ、僕は桃井さんが好きなんだよ」  
「だから俺が桃井菜々子だけど」  
「そうだけど、そうじゃなくって」  
「もうどっちでもいいじゃねーか」  
「ちょっ」  
「なっ何するつもりだよっ!」  
「まっ、それは部屋に行ってからのお楽しみ」  
桃井さんは不敵な笑みをうかべた。  
「なっ何するんだよっ」  
僕は桃井さんに僕の部屋までずるずると引きづられ、成すすべもなく  
ベッドに押し倒された。  
「もっ桃井さんちょっと待って!何するつもりだよっ」  
「何って一つしかねーだろ  
 男女が一つ屋根の下二人きりなんだぜ?」  
「な、何言ってるんだよ  
 自分の体とそんなことできないよっ」  
「そんなことって一体何だよ」  
桃井さんはにやりと嫌な笑みを浮かべて僕を見下ろした  
「……そ、そんなこと言えるわけないだろっ!」  
「上原くんは純情ですねぇ」  
 
ダメだ僕の涙腺  
止めるんだ  
「ったく、すぐ泣くんだから」  
「桃井さんがそうやっていつも苛めるからじゃないかっ」  
「ああ!もう、中身は女でも、今は男の体に入ってるから  
 そういう顔見ると、ヤバいんだけど」  
「へ?」  
「男も結構大変なんだよ?」  
「それ僕の台詞…」  
「ふっ…」  
「あっ!今鼻で笑ったろ!ヒドイよ桃井さん!」  
「お前にそんな台詞は10年早いっての」  
 
「ひゃん」  
腹部に急にひんやりとした感触を感じ思わず声がでる  
桃井さんは僕のお腹からゆっくりと上へと手を這わせていく。  
「いっちょまえにエロい声だしやがって」  
「なっなにっあっん」  
「ちょっ何服に手っ」  
「着たままが趣味なのか?」  
「そういうことじゃっ」  
「何恥ずかしがってんだよ  
 俺の体なんだけど?」  
「そ、そうだけどっ恥ずかしいものは恥ずかしいよ!」  
「それに、俺の体だからどうしようと勝手だしな」  
 
「どうしようとって…何するつもり…」  
「何を今更…」  
 
「あ、そっか、お前童貞だもんな」  
「どっ」  
「も、桃井さんだって処女じゃないか!」  
 
「度胸あるじゃないか上原」  
「言っとくけど俺は”童貞”じゃないから」  
「ま、お前ももう処女じゃなくなるけどな」  
「なっ…」  
 
「あっ」  
という間にボタンをはずされ制服を脱がされていく僕…  
 
「なんか慣れてるね…」  
「あたりまえだろ、お前より  
 これでも女暦はなげーんだから」  
「そ、そうだよね…」  
 
「でもさ…まえに、自分相手にそんなきになれないって…」  
 
「ああ、まぁ、そうだけど、ほらやっぱあたしって  
 超美人じゃん?」  
 
「やっぱ桃井さんだね」  
「なんだよそのバカにしたような顔は」  
「べ、べつに馬鹿になんて」  
 
「へぇ〜そういう態度とるわけ」  
「ちょ、ももいさんっ」  
「お前って案外怖いもの知らずだったんだなぁ」  
桃井さんは僕の胸をぎゅっと鷲づかみにした。  
「んっ…」  
「懐かしいかんしょ…ん?でかくなった?」  
「うん…最近ちょっと…」  
 
「…ほぉ…お前はそんなことわかるほど毎日みてたわけだ」  
 
「ちっちがっ、な、なんとなくだよなんとなく!」  
 
 
「まぁ今日からは自分で確認するから今回は許してやる」  
「毎日って…」  
「お前に拒否権はないから」  
「そんな…」  
 
「桃井さん…ほんき…?」  
「冗談でこんなことするかよ」  
「だって…その…僕の体なんだよ?」  
 
「だから?」  
「だからその…桃井さん体と僕の体が…その…  
 いいの?」  
 
「嫌だったらこんなことしねーっての  
 ってかお前、自分の心配しろよな」  
「え?」  
「ほら、初めては痛いっていうだろ」  
 
 
「…桃井さんやっぱりやめない?」  
「こういう時男なら変わってやりたいとか  
 思うもんなんじゃねーのか?」  
「うっ……」  
 
「わ、わかったよ…  
 でも、優しくしてね…」  
 
「お前…男に生まれてきたのやっぱ間違いだったんじゃねーか?」  
「桃井さんに言われたくないよ!」  
反論した僕をみて  
桃井さんが少し笑った。  
「何?」  
「いや、まさかこんなことになるとは思ってなかったからさ」  
「夢じゃないんだよね?」  
 
「痛くなかったら夢かもな」  
 
「う…どっちもいやだ…」  
 
「優しくするから」  
桃井さんがあんまり真剣な顔でいうものだから  
「うん…」  
僕はただ、頷いた。  
 
桃井さんはスカートを捲し上げるとゆっくりと  
僕のパンツに手をかける  
「ちょっちょっとたんま!」  
僕の声で桃井さんはいったんその手をとめた。  
「今更やめるっていってもおせーぞ」  
「そ…その何か忘れてない?」  
「は?」  
 
「僕たちまだその…キ……キスしてない…」  
「はぁ?」  
「だ、だって普通はそうだろ?」  
「どっちが先いいじゃねーかそんなもん  
 どうせやってる最中キスだってやるんだから」  
「そういう問題じゃ―…」  
「しょうがねぇなーったく」  
「あっちょっ…んっ…」  
桃井さんの舌…じゃない僕の舌が入ってくる  
千本木より上手いかも…  
なんでこんな慣れてるんだよ桃井さんは…  
「んっ…はぁ…」  
ホントは…ホントは軽いキスからはじめたかったのに…  
言っても却下されるだろうけど……  
 
キスしてるだけなのに  
子宮の奥がキュっと締め付けられるような感覚を覚えた。  
 
キスをしながら、桃井さんは先ほど止めた手を  
再開し、僕の下着に触れた。  
「桃井さん!ちょっと待って!」  
「ったくなんだよ…もう待たないぞ」  
「僕…いま生理中なんだ」  
「今何日目?」  
「5日目だけど…」  
「あー大丈夫大丈夫、5日目だったらほとんどもうでねーし」  
「で、でもっ」  
「俺が大丈夫っつってるんだから、信用しろよ」  
「それにどっちにしろ血でるんだから一緒だろ」  
それを聞いて僕はまた血の気が引き  
また貧血になりそうだった。  
 
しかし、そんなことお構いなしに  
桃井さんの手は僕の下着の中へと入ってくる。  
 
やっぱり恥ずかしいよ…  
 
指がそこに触れたとき、くちゅとした音が響いた。  
 
「これ生理だけじゃねーだろ  
 グショグショになってるぞ」  
「し、しょうがないだろ!自然とそうなっちゃうんだから」  
 
「も、桃井さんだって!」  
僕は大きくなった股間を指差した  
 
「自然現象だ」  
桃井さんは悪びれた様子もなく言いのけた。  
「それじゃ行くぞ、腹括れ」  
 
「う、うん」  
 
軽く僕のそれが僕のあそこに触れたと思った刹那  
 
うわああああああああ  
 
一瞬で貫かれてしまった  
 
「も、桃井さんのばかぁあああああ  
 えぐっ…いたひ…よぉ……」  
 
「ゆっくり入れたって痛いんだから  
 一瞬のほうがいいだろ」  
 
「だからって…うっ…あんまりだよぉ…」  
 
「悪かったって…泣くなよ…」  
「うっ…いたひ…」  
桃井さんはゆっくりと引き抜くと  
僕の頭を撫でてくれた。  
 
「少しはましになったか?」  
「うん…でもまだじんじんする…」  
「もうやめるか?」  
「大丈夫…続けていいよ」  
「つよがんなって」  
「つよがってなんかないよ  
 僕は…男なんだから」  
「今は女だろ」  
女扱いされるのも僕としては少し複雑です…。  
でも、桃井さんが優しいから  
もう少しだけ、優しい桃井さんといたかった。  
「変だよ、桃井さん…急にやさしくなっちゃって…」  
「俺はいつでもやさしいっての」  
「いつもは意地悪だよ…」  
「意地悪してほしいのかよ、そっかお前マゾだもんな」  
「ちっちがうよ!」  
「せっかくやさしいっておもったのに  
 やっぱりいつもの桃井さんだ」  
「何か不満か?」  
「………ううん」  
不満なんて無い、そんな部分もひっくるめて  
僕は桃井さんが好きなんだ。  
本当は好きって言葉が欲しかった、  
でもいいんだ今はそれでも、いつか、大好きだっていってもらえるように  
頑張るよ、僕。  
 
「あーなんか冷めた、もう寝る」  
「ええっ」  
「おやすみ」  
 
桃井さんは、それだけ言って、本当に寝てしまった。  
 
僕の顔なのに、その寝顔を見るだけで  
胸の鼓動が早くなる。  
 
「おやすみ、桃井さん」  
 
体は入れ替わったままで、機械がいつ直るかだってわからない  
でも、僕はそれでも…  
桃井さんと一緒にいれることが幸せだった。  
だから心のどこかで、今が続けばいいとそう願っていた……。  
 

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