「鈴木…」
落ち着きのあるハスキーボイスが頭上から降ってくる。
「…糸魚川先輩…?」
ハナは状況が理解できない。
何故、壁に追い込まれてる?何故、手首を壁に押し付けられて拘束されてる?
普段も意地悪で怖いが、またそれとは違う怖さが今の糸魚川にある。
冷や汗が、出る。
いきなり糸魚川の顔が近づいて来た。何をされるかと思い目を固く閉じる。
―――…唇に触れたのはひんやりとした柔らかいもの
何かと思い目を開ける。
すぐ目の前には目を閉じた糸魚川…。
『キスを、された…!??』
理解するのにハナは少し時間がかかった
外からがやがやと騒がしい話し声が近づいてくる。織田達の声だ。
そう、ここは部室。
珍しく自発的に部活になんかくるんじゃなかった…
後悔しても遅い…、と思ったときだ。糸魚川は何も言わずに拘束を解いてくれた。無言で背を向けて部室をでていかれる。表情は見えなかった。
緊張の糸が急に切れて思わず座り込む。怖かった…それは正直な気持ち。思わず涙ぐむ。
その瞬間に織田達が入ってきた。