ここは犀川の部屋。萌絵はここに来るのは初めてではない。  
今日は犀川が直した卒論のコピーを取りにやって来た。  
いや、明日大学で受け取ってもよかった。しかし萌絵は犀川に会いたいがために、  
「どうしても今夜のうちに見ておきたいから」と、渋る犀川を押し切ってマンションにやってきた。  
 
「おじゃましまぁす」  
相変わらず必要最低限なもの以外何もない。  
「はい、これね」  
デスクの上にあった卒論のコピーを渡される。  
これではもう用が済んでしまうではないか。  
「先生、ちょっとここで読ませてもらっていいですか?」  
浮かれた気持ちがばれないように、できるだけ冷静に言う。  
「別にいいけど…、僕は明日一限から講義だから、もう寝るよ?」  
「かまいません。読み終わったら帰りますから。あ、鍵ならかけて郵便受けに入れていきます。」  
「それじゃあ、悪いけどそうするよ。おやすみ」  
別に自分は悪くないのだが、そう思いながら犀川はベッドにもぐりこむ。  
「おやすみなさい、先生」  
萌絵はできる限りの優しい声で、そして極上のの笑顔で犀川に微笑んだ。  
あっという間に寝息が聞こえてくる。眠ってしまった犀川に萌絵はそっと近づいた。  
(かわいい)  
寝顔を眺めながら、幸せなひと時にうっとりとする。  
次第に胸の鼓動が早まってくる。  
(いいよね、少しだけ。眠っているのだから。大丈夫、絶対にばれない)  
萌絵はベッドの横に跪き、そっとキスをした。  
 
「西之園君、眠っている人間に許可も得ずにそういうことをするもんじゃない」  
驚いた様子もなく目を瞑ったまま話し始める。  
萌絵は、ただでさえ飛び出てしまいそうだった心臓がはじけたんじゃないかと思うくらいに驚いた。恥ずかしさでみるみる顔面に血液が集まってくる。  
「おっ…起きてるならそういってくださいっ!」  
「ふとんの中で目を瞑ってる人間が眠りにつくまで『まだ起きてる』『まだ起きてる』っていってるのは変だと思うよ」  
「そういうことをいってるんじゃっ…んもうっ!先生ってホント意地悪なんだから!  
…それに…聞いたら許可を下さるんですか?」  
精一杯の強がりで答える。体が熱くなってくる。  
犀川はゆっくり上半身を起こしながら答えた。  
「そんな仮定の話に意味はない。聞かれてから考えるよ。」  
ここで聞かなきゃもうチャンスは来ないかもしれない。萌絵はそう思い大きく息を吸い込む。  
「…私は…」  
「うん」  
「…私は、先生と、キスがしたい、です」  
「そうか」  
「そうか、って…答えになってません」  
萌絵は口を尖らせる。  
最近、いや、少し前から萌絵との微妙な距離が気にかかっている自分がいることに気がついてはいた。  
なぜ気になっているのか、そんな自分に興味があった。  
(僕も西之園君のことを…?)  
ふと頭をよぎっては、やり過ごしてきた疑問。  
今日は答えを見つけるチャンスなのかもしれない。  
「じゃあ、しようか」  
「えぇっ?そんな簡単なことなのですか?」  
「そんなに難しいことなの?」  
「そういうわけじゃありませんけど…」  
「じゃあ、いいじゃない」  
それだけ言って、犀川は萌絵の右頬に手を当て、自分のほうに引き寄せた。  
 
触れる唇と唇。  
犀川は、自分でもわからないが自然に萌絵の背中に手を回し、そっと抱きしめていた。  
(あったかい…)  
犀川はぼんやりと考える。幼いころの母のぬくもりを思い出したのか、こうしているととても気持ちがいいことに気がついた。  
「…先生、息が苦しい…」  
唇の端から萌絵が声を漏らす。  
「あぁ、ごめん」  
唇は離れたが、抱きしめた腕はそのままだった。  
ほんの数秒、二人は見つめあっていたが、沈黙に耐えられず萌絵が先に目をそらす。  
犀川の左肩に、萌絵は顔をうずめる。  
 
「…先生、どうして私のこと抱き寄せてらっしゃるのですか?」  
「あったかいんだ」  
「ロボットじゃないんですから、当たり前です」  
萌絵は、こんなときにロマンティックな返答ができない自分が悔しかったが、  
そんな余裕は一切ない。  
しかし萌絵の言葉に犀川も、そして萌絵自身も表情が和らぐ。  
「悪くないね」  
「何がですか?」  
「こうしているのは、悪くない」  
あまりにあんまりな言い方だ、と自分でも思ったが、  
そのほかに何といったらよいのか思い浮かばないのだから仕方がない。  
こんなとき喜多だったら何というのだろう?  
 
背中に回していた手を緩め、そっと髪をなでてみる。  
人間の髪の毛はこんなにも柔らかなものだっただろうか。  
髪をなでていた手が首筋に触れる。  
人間の肌は、こんなにも熱く、こんなにも湿り気を帯びていただろうか。  
正直な話、女性とこんなにも密着するのは生まれて二度目である(もちろん一度目は幼いときに母親と、だ)。  
 
甘い香りが鼻をくすぐる。  
萌絵の熱が犀川にもうつったのか、犀川の体も熱を帯びてきた。  
酔っ払ってしまったのだろうか?いや、酒など一滴も飲んでいない。  
思考がうまくまとまらない。まとまらないどころか暴走している。  
 
今、腕の中にいるのは、幼いころから知っているあの西之園君だ。  
お世話になった西之園博士の娘…  
どうしてこんなことになったのか、思い出せない。  
あぁ、西之園君が眠っていた(正確にはまだ眠りについてはいなかった)僕にキスをしたのだ。  
柔らかな唇と温かい体と甘い香り。その心地よさに自分はすっかり酔っ払ってしまったらしい。  
(これも正確に言うと酔っ払ったことなどないので想像に過ぎないことである)  
 
「西之園君、何でこうしていると…その…悪くない気分になるのかな」  
犀川の肩にうずめていた顔を少し起こし、その肩にあごをのせて答える。  
「素直に気分がいいとおっしゃったらどうです?」  
「まあそれでもいい」  
「…そうですね。安心感を得られるとか異性に触れたいとか、そういう人間の本能的なものではないでしょうか」  
「そっか。そんなもの僕には関係ないと思っていたんだけどなぁ。  
僕も年をとったということかな」  
「普通は若いほどそう感じるものなんじゃないですか?」  
「そうだね」  
 
いつもの他愛のない会話のようだが、なんだか今日は妙な胸のくすぐったさを感じていた。  
 
萌絵は犀川に抱きしめられている自分がまだ信じられなった。  
こうしているのは悪くないといった犀川。  
こういう言い方をするのは、相当機嫌のいいときである。  
 
背中にあった手がそっと離される。  
さすがの犀川もやりすぎたと思っているのだろう、と萌絵は想像する。  
自分だってこんなことになるとは思ってはいなかったのだ。  
しかしその手は萌絵の頭をそっとなでた。  
そしてその手が首筋に触れる。  
思わず体が小さく震える。  
 
犀川の大きな手。ごつごつした手。  
どこかで触れたことがある気がする。  
あぁ、あれは父の手だ。  
優しく頭をなでてくれた。あの手に似ているのだ。  
 
高まっていた鼓動が、少しずつ元に戻っていく。  
頭をなでられて安心したのだろうか。  
(子どもみたいだ)  
自分で自分をほほえましく思ってしまう。  
 
小さいころ、眠くなってしまったときに父のひざの上でそうしたように、  
犀川の胸に体を預けそっと目を瞑る。  
 
萌絵の体重が胸にのしかかる。  
(人間の体って、結構重いなぁ)  
などとのんきに考えていたら、犀川の体は萌絵を抱きしめたまま  
再びベッドに倒れこんでしまった。  
「きゃっ!」  
萌絵が小さく叫ぶ。  
「ごめんごめん」  
「先生、しっかりしてくださ…」  
頭を上げて話そうとする。  
 
再び絡み合う視線。  
 
自然と近づく唇と唇。  
 
犀川は初めて訪れる感情と戦っていた。  
もっと、触れていたい。もっと、触れてみたい。  
再度萌絵の首筋に指が触れたとき、頭の中で何かがはじけた。  
暴走は、止められない。  
 
頬に口づける。  
耳に口づける。  
まぶたに口づける。  
いったい自分はどうなってしまったのだろう。  
脳に直接ウオッカを注射されたみたいだ。  
「頭がくらくらしてきた…」  
「私も…、先生っ…もう……おかしくなりそう」  
コントロールのきかない体は、萌絵の髪、頬、そして首筋を何度もなでる。  
首筋に口づける。このまま噛み付いてしまいたい。  
もう自分のものではなくなってしまった手が、萌絵のTシャツの裾からゆっくりと侵入する。  
「あっ…だめっ…」  
小さく呟いたその言葉は、犀川の耳には届かない。  
なめらかな肌の小さな背中を邪魔する物にぶつかる。  
ホックをどちらにずらせば外れるかを素早く脳内でシミュレーションし、  
その邪魔な物体を取り去る。  
「せんせい、まって…っ」  
「待てない」  
犀川は下になっていた自分の体を起こし、優しく萌絵をベッドに寝かせる。  
萌絵は目を潤ませて、上目遣いで犀川を見つめている。  
上気した頬がうっすらと赤く染まっている。  
何か言いたげな萌絵の唇を犀川は自分の唇で塞ぎ、Tシャツの上から小さな胸のふくらみに手をやった。  
 
その形を確かめるかのように、手のひらでゆっくりとなぞる。  
そのやわらかさに脳がしびれていく。  
中指がその頂点に触れる。  
「あんッ…せんせぇ…まって…」  
さすがに二度も言われると躊躇してしまう。  
「なぁに」  
犀川は残っていたわずかな理性を引っぱり出し、  
できるだけいつも通りのトーンで答えた。  
「……」  
萌絵は犀川をまっすぐは見ず、次の言葉を発するのをためらっている。、  
「…なんだい、いってごらん」  
「……わたしのこと、…すきですか…?」  
 
西之園萌絵のことが好きなのか…?  
それはもう何度となく頭の中で繰り返した疑問。  
否定も認めもしてこなかった。  
疑問をそのままにしておくことなど、今までひとつもなかった。  
それだけ特別、ということは確かなようだ。  
くだらない冗談につき合わされたとはいえ、  
一時は結婚の決心までしたのだ。  
もうそろそろ認めてもよいではないか。  
 
「そう……かもしれない」  
自分は何を強がっているのだ?  
「そんな答えじゃいやです…  
そんな・・・曖昧なお気持ちのままで私を抱かれるんですか…?」  
そうじゃない。  
気持ちはもう…決まっているではないか。  
「僕は…  
 
 
 
君のことが好きだ」  
 
 
それだけ告げると、犀川は萌絵に口づけた。  
何度も、何度も。  
萌絵のTシャツをめくり上げ、やわらかな小さな丘にも口づける。  
頂点をそっと口に含み、舌でその形を何度も確かめる。  
萌絵の熱い息がやけに耳に響く。  
「…っ、……ぁんっ……はぁっ……」  
少し苦しそうなその甘ったるい声に、犀川の体は再び大きなうねりに飲み込まれる。  
左手が萌絵の太ももの内側をなぞる。  
ぴったりとしたジーンズの上からでも、萌絵の体の熱さが伝わってくる。  
付け根に近づくと、萌絵の体が震える。  
 
「ごめん、…僕もう限界みたいだ」  
「…え、どういう…」  
萌絵がいい終わらないうちに、犀川はパジャマ代わりに来ていたスエットを勢いよく脱ぐ。  
一糸まとわぬ姿になった犀川に、萌絵は焦点を合わせられずにいる。  
「君も脱いで」  
「……はい」  
萌絵は少し俯きながら、もぞもぞと服を脱ぐ。  
「あの…全部ですか…?」  
「そう」  
股間のものは緊張し、弾けんばかりの大きさになっていた。  
 
目の前に現れた、彫刻の裸婦像のように白く滑らかな素肌に、  
犀川は思わず目を奪われる。  
しかしそれは彫刻のように冷たく硬質なものではない。  
そのことを確認するように、犀川は萌絵の体に手を滑らせ強く抱き締める。  
 
(先生の…当たってる…)  
萌絵は、自分の体に触れた犀川のものの硬さ、そして熱さに驚く。  
 
ベッドの上の萌絵に覆いかぶさるようにして、  
犀川は萌絵の体の自由を奪い激しくキスを繰り返す。  
右手は胸の突起を優しく撫でたり強く摘んだりしている。  
左手は徐々に下へ伸び、萌絵の柔らかな茂みへと侵入する。  
 
柔らかな茂みを奥に進むにつれ、そこは湿り気を帯びて指に絡み付いてくるようになる。  
中指でそっと割れ目をなぞる。  
「だめですっ、先生っ…」  
「だめじゃない」  
だめといわれても、とっくにブレーキなんて壊れている。  
 
指先に粘度の高い液体が絡み付く。  
(熱い…)  
割れ目の内側に守られるように存在する小さな蕾。  
その蕾に指が触れると萌絵は短く高い声を上げた。  
 
「気持ち…いいの?」  
ぎゅっと目を瞑り、赤い顔をした萌絵は、何も答えない。  
そんな萌絵の姿をたまらなく愛しいと思う。  
すべて自分のものにしてしまいたいと思う。  
今まで他人に深入りなどしたことのない犀川だが、  
今、生まれて初めて感じる支配欲に駆りたてられていた。  
 

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