国枝桃子は悩んでいた。
彼女が悩むという行為を外面的に観察した場合、特に表情の隆起は認められない。
というより、顔面には皮膚だけが存在して、
筋肉は存在しないのではないかと思われるくらい表情に変化が無かった。
それは常日頃の光景であったし、もしも彼女が何らかの条件下に置いて大笑いするという事態が発生すれば、
およそ犀川の研究室等、僅かな痕跡も残さず消滅しているであろう。
実の所、犀川の事で悩んでいた。
彼女がこの研究室に存在する理由・・・
それは、偏に犀川がこの研究室に存在している事に他ならない。
要するに犀川が存在するのならマントルの中でも幸せな国枝はしかし、
根っからの口下手と強気な態度で、その事を伝える事はおろか、一度たりとも素振りすら見せた事は無かった。
国枝はそんな自分を極めて剛性が高い、と判断していた。
今まではそれでも幸せだった。
なんのかんのと言っても、国枝の才能を理解してくれるのは犀川だけだったし、
しかも犀川の周囲に存在する女性など自分だけだった。
だから、西之園萌絵の登場は彼女の存在意義を否定するのに十分であった。
今までも、ちょくちょく研究室に顔を出すことはあったし、
その度に犀川に甘えてる彼女を観て最初は完全な子供だとタカを括っていたのだが、それは誤りであった。
そもそも説明不足の犀川の事なので、何故一年生の西之園萌絵が研究室に頻繁に来室しているかロクに説明しない。
気が付いたら風景の一部かのように、そこに存在している。
そして、何かと犀川の気を引こうと画作していた。
そして、例の妃真加島の事件である。
そこでも、彼女の頭痛の種が成長し、いまや立派な花を付けていいる。
非常識な科学者、真賀田 四季だ。
今までの事件の経緯を考察する上で、最も重要なポイントは、犀川の好みが判明した点である。
要するに自分よりも頭がよければ、完全に魅力的らしい。
思えば、西之園萌絵も犀川と違うベクトルで思考するし、真賀田四季に至っては、既に国枝では言葉による評価が不能な状態であった。
犀川にとって、ここまで魅力的な女性が相次いで登場したとあっては、男性なのか女性なのか外見では自分でも判断できない国枝などは、
完全に眼中に無いと言っても過言ではなく、しかも容姿の上でも、劣っていた。
(これは犀川も一応男性で共通理解の上での健康性を持て余していれば、
こう判断するだろうと言う国枝の主観的な思考である)
幸い犀川は人をほぼ外見で判断するという基準を持ち合わせていないであろうと思う。
だから、なおさら始末が悪い。
評価の対象は仕事、そして思考だ。
だから、天才的な彼女らに自分が対抗するならば、もはや手段は選んで要らないし、幸い四季は何処かへ逃亡した。
すると、排除する対象は西之園萌絵だけで問題ない。
こういった場合、恋愛経験の存在しない国枝にとって、しかも相手が常識的な恋愛戦術が通用しない相手だとすると、
自身も非常識にならざるを得ない。
早い話、西之園萌絵を大学から排除してしまえば良いのだ。
これは、素晴らしい発想であった。
出来れば自主退学と言う形が望ましい。
考えてみれば、西之園萌絵が研究室を好き勝手にしてから研究に対する集中力は極めて減退しているのは事実。
その理由だけで、排除しても問題ない。
国枝は思考する。
顔が強張った。
部屋の空気は降下の一途を辿り、やがて、その顔面は僅かに隆起し、突出し、変形した。
国枝は無言で立ち上がり、何処かへ行ってしまった
犀川は、そんな国枝を一部始終観察していた。
そして、最後に笑った(少なくとも犀川にはこう見えたが、それを他者に伝達し共通理解を得られるとは思っていなかった。)状態を観察した時点で、
体が所々痙攣している事を自覚して、耐え難い状態を拭い去ろうと気の抜けたコーラを飲み干した。
ミステリー研究会。
国枝は中に西之園萌絵が存在しないことを確認した上で、目当ての人物岡部を探し、発見し、拉致した。
岡部は死を覚悟していたし、案外ありふれた場所に死は存在するのだな、と他人事のように思っていた。
人気の少ない森の中に連れてこられて、ああ、ここに埋めるつもりなのだ、と実感が湧いて来るとミステリマニアの僕としては、
もう少し捻った形で殺して欲しいと身勝手は百も承知だが、考えていた。
国枝は怯えた小動物そのものの岡部を観察して完全に人選を誤ったかと危惧したが、こう切り出した。
「なあ、君。西之園萌絵を犯してみたくないか?」
岡部は自分は既に死んでいるのだという事を自覚しようと試みた。
山部は今人生で最も充実した時間を過ごしていた。
それまでの彼の人生は今この一時に比べれば限りなく灰色であった。
くすんでいた、と形容しても構わない。
とにかく、受験勉強の時にもこれほどまでに集中した事は無かった。
これでも難関国立大学に通学している山部は、要するに偏差値が高く、内向的で生まれてこの方勉強しかした事がなかった。
趣味と言えばミステリと呼ばれるジャンルの小説を読む事とであり、ありきたりではあるが大学のミステリ研究会というかサークルに所属していた。
極めて入れ込んでいる、と自分でも評価しいるし、その事が誇らしくもあった。
山部は大学三年である、そして自らを語る場合に自分自身の人生を他人に評価させる(極めて偏見的に)一つの歴史が存在した。
山部は一度も女性と交際した経験が無い。
これがどのような事実を物語るかと言えば、人それぞれ評価も異なるだろうが要するにツマらない人生であろう。
当然の帰結として童貞でもあった。
この手の男に現れる顕著な特性として、
その幸せな頭蓋骨の中は有り得ないデフォルメをした女性と思わしき想像の産物を自由にしている点であろう。
山部も例外ではなかった。
ただし山部はそういった想像の産物に具体的な主体を持っていた。
それは言わずと知れた西之園萌絵である。
彼の特殊な(あるいは普遍的な)想像行為を開陳する前に、もう一つの入れ込んでいる趣味について語らなければならない。
山部は大学一年の時にミステリ研究会の先輩の下宿で、ある運命的な出会いを果たす。
男であるし性欲を持て余すのに不自由しない年頃であり、彼女も居なく童貞である彼は当然アダルトビデオなる物の存在を知っていた。
そして、それを鑑賞しては騒いでいる友人たちを軽蔑していた。
彼の人生には、ヴァンダインやエラリーやカーが存在するなら十分であったのだから。
明晰な理性、緻密な論理、繰り広げられる知性のアクロバット。
それが出来る人間こそが人としての人が人でありうる理由であると確信すらしていた。
だから、あまりにもショッキングなそれは、山部を完全に虜にし、以来幾ら金を浪費したか理解出来ないほど入れ込んだ。
ザーメンをぶっかる、このとんでもない発想を誰がどのように考案したかは不明であるが、
以来山部を捕らえて離さない麻薬のような存在となった。
今でもその衝撃を忘れる事は出来ない。
ファーストインパクトである。
ほっそりと、しかし肉付きの良い女が看護婦の制服を着用してコンクリートの床に座っている。
カメラは正面を捕らえたままだ。
女はずっと笑っている。
その状態が三十秒ほど続いた後、突如全裸の男が彼女の横に現れて性器をシゴき出し、そして射精した。
女の制服に精液が付着すると、それが合図だったかのように、ひたすら男たちは集団で群がって彼女を白濁させた。
女は、もっとザーメンちょうだい、とひたすら哀願し、笑っていた。
そして、あまりの淫靡さに山部は面食らった。
気付いたらズボンの中は自分の精液でベトベトであった。
見ただけで、出してしまったのである。
先輩は面白半分で見せてくれたのであるが、そんなに気に入ったか?というとビデオを貸してくれた。
以来、山部の部屋には、今まで無かったテレビとビデオデッキとDVDプレーヤー、
パソコン(インターネット付き)が設置され、机に鍵がかかるようになった。(これは両親対策である、山部は同居であった。)
ミステリを表の趣味とするならば、ザーメンビデオの鑑賞は裏の趣味とも言えよう。
もう何本のビデオとDVDを購入したのだろうか。
具体的にはソフトオンデマンドとシャトルジャパンとムーディーズとみるきいぷりんを中心に購入していた。
そして、カケコラと呼ばれる、アイドルコラージュの派生にも手を出していて、その必然性から盗撮にも手を出した。
その盗撮の被写体は説明するまでもないだろうが、西之園萌絵である。
西之園萌絵、その衝撃はザーメンビデオ以上であった。
山部は自分の趣味に対して感謝した。
神に祈った事もある。
ミステリが好きでなければ西之園萌絵との接点など海面に投下した三日月藻を正確に特定するほど有り得なかった。
今時絶滅している筈の前時代的な完全無比なお嬢様。
それが三日月藻、でなく西之園萌絵である。
少なくとも山部はそう評価していた。
なんでも妃真加島のキャンプでは大きなピンクのサングラスを掛け白いスラックスにクリームと白の縞模様のTシャツを着ていて、
しかも真っ白な日傘を差していたという。
その写真をデジカメで撮れなかった事を彼は友人から聞いた時酷く後悔したが、それはさて置き、その出で立ちは極めて場違いだったようだ。
もっとも彼女は何時でも場違いであり、しかもそれを周囲に納得させてしまう容姿と態度を保有していた。
彼女の容姿は山部をして、完全に虜にさせた。
何一つ男性の干渉を受けつた事のない好奇心旺盛な瞳。
適度な膨らみを持つ柔らかな胸。
全身からほとばしる清純の匂い、そしてその肌。
極めて高度な躾を受けたと思われる上品な物腰。
その完全に世間を知らない生意気な口から発せられる非常識で明晰な言動の数々。
これらは山部以外にも多くの男を魅了し、魅惑した。
しかし、西之園萌絵はある男性以外全く男に関して興味が無かった。
勿論、山部の事など意識すらした事も無いだろう。
なんせ彼女の概念には犀川という助教授以外の男性は全て召使か何かと思ってる節も、無きにしも非ずという雰囲気を兼ね備えていたのだから。
西之園萌絵がミステリ研究会に入会した時点で山部は完全にザーメンビデオに侵されていた。
そして、山部の新たなカケコラという趣味を持たすに至ったのは西之園萌絵である。
西之園萌絵をザーメンで汚す。
僅かに想像しただけで出してしまいそうである。(実際一目見た時に咄嗟に想像して出してしまった)
西之園萌絵が初めてミステリ研究会に登場した時、彼女は真っ黒なドレスみたいな服装で登場し、それは驚くほどザーメンで汚しがいがあった。
真っ黒なドレスに身を包む西之園萌絵、男たちはシゴキながら群がり彼女の黒いドレスと顔を白濁させる。
少しも嫌がる素振りを見せずザーメンを貪る西之園萌絵。
なんとかイメージだけでなく具現化したかった。
そしてインターネットのザーメンマニアの集うサイトにてカケコラなるものの情報を得てからは、いても立ってもいられなくなった。
早速デジカメを購入し(山部の両親は裕福であり、息子の小遣いに事欠かなかった)西之園萌絵の写真を一枚許可を得ず撮影した。
それからというものの、彼女が新しい服を着てくる度に山部のシャッタは切られ、写真を加工するソフトは立ち上げられた。
今ではハードディスクの容量の15%は彼女のカケコラで埋め尽くされている。
そこでは、彼が挿入した台詞(これを挿入すると更にいやらしさが増した)と共にザーメンを全身に浴びた西之園萌絵が写っていた。
山部はそれで十分であったし、西之園萌絵の服のバリエーションは驚くほど多く、それはコレクションの増大を意味し、
全く理想的であったし彼は裸体に興味がなかった。
問題が無かった訳でもない。
ミステリ研究会には何故か女性に縁の無い人間が多く集まり、おおかれ少なかれ本質的に山部と似たような境遇の人間が多かった。
そして西之園萌絵は滅多に研究会に顔を出さなかった、会費は払っているので除籍はされないが幽霊会員であった。
で、あるからにして、彼女を撮影しようとすれば、どうしてもリスクを侵さなければならない。
基本的に所属している学科も学年も違うので西之園萌絵を大学で探すのは至難の技であった。
そして彼が欲しい西之園萌絵は、講義受けている何気ない瞬間だったり(ノートを広げていれば申し分ない)食事をしている瞬間だったり、
友達と笑っている瞬間だった。
講義を受けている真面目そうな顔にザーメンが掛かっているなんて倒錯しすぎであるし、
学食がザーメンで味付けされているなど頭がオカシクなるくらい卑猥で、
友達(よく隣にいるのは牧野という子だ)と仲良くスペレズなんていやらし過ぎる。
山部の性的嗜好とはこういった極めてマニアックな代物であった。
これらの素材を集めるため、山部は諜報員も呆れる素材収集を行っていた。
そして事件は起きた。
西之園萌絵は一年であるにも関わらず犀川助教授の研究室に頻繁に出入りしているらしい。
この情報を聞いた時、山部はたまらなくなった。
研究室ではどんな格好をしているのか??
ひょっとして白衣なんて着ているのでは・・・
気が付いたら研究室の前に居た。
そして扉は半開きであった。
研究室は一階に無い為地上からの、盗撮は不可能であり、研究室の窓側は道路であり特に視界に入る建造物も存在しないので、
どのように研究室内部を写せば良いのか煩悶していて、気付けば研究室の前に来ていた。
なんの関係もない他学科の生徒がこんな場所に居ては間違いなく怪しまれるだろうし、
手に持っているデジカメの使用用途を聞かれるのは明白であった。
しかも山部は理系ですら無いのである。
が、中から西之園萌絵の声が聞こえてきて我慢は限界に達した。
半開きのドアは今まで真面目に生きてきた自分への神様からのご褒美だと思った。
そして慎重に内部に向かって(デジカメだけ内部を捉えれる様に慎重に)歩みだしたその時、
「何をしている?」
低い声がした。
全身が凍りつき、思考はショートした。
渾身の力を振り絞り後ろを振り返ると、短髪でスーツの怖そうな男が立っていた。
「何をしているか聞いている」
冷酷な声が山部を揺さぶる。
そして信じられない事だが、その声音は女のものであった。
ニューハーフか??
咄嗟にそう思ったほど、目の前にいる人物は男性そのものであった。
が、極めてよく観察すれば腰は細いし、その腰元のラインはセクシィだ、それに肩もなんとなく華奢である。
なるほど、この人は女なのだ・・・
そんな呑気な思いに浸っていると、「答えろ」
真夏の遊園地でも永久凍土にできそうな声を浴びせられ再び体が硬直した。
その人物の目が山部のデジカメを捉えた時、元から怖かった顔が更に強張っていく。
「カメラの使用用途は?」
曖昧と言う概念を完全に忘却した声で山部を問いただす、
そして一向に要領を得ない曖昧な返答を繰り返す山部に彼女はサディスティックに口元を歪めた。
「貴様か、最近工学部に現れる盗撮魔は?」
山部の顔面は完全に蒼白になり、口からは泡が出そうな勢いだった。
上手くやったつもりだったが、何処かで噂になったのだ、それにしてもなんてヘマを・・・
「被写体は西之園萌絵か?」
まあ、明晰な人間でなくとも犀川助教授の研究室の前でカメラを持っていれば、
それが盗撮という行為ならば(そのリスクを追うに値するものは)被写体は一人しか居ないだろう。
「貴様に話がある、私に附いて来い」
完璧な命令口調で彼女はそういうと、人気の無い部屋に山部を押し込めた。
そして、ある取引を交わした。
取引以降、山部のザーメンライフは充実した。
なんせ、新鮮な素材が国枝から提供されるのだから加工は毎日行われた。
そして、昨日国枝から「なあ、君。西之園萌絵を犯してみたくないか?」と誘われたのだ。
国枝は自分の事をザーメンマニアだとは思ってもおらず、単なる盗撮魔くらいに思っていたようである、
もっとも彼女の思考ルーチンにザーメンマニアなどという単語は存在しないだろうが、それも仕方が無い。
それにしても、大胆な誘いであった。
何故自分の教え子(仮にも国枝は教官なのだ)を、そこまでしてしまいたいのか?
その理由を問いただした事があるが、もう一度同じ質問をしたら残念だが死んで貰う、と真顔で言われた。
気にはなるが、それは山部のザーメンライフには関係ないので忘却に勤めた。
そして山部は国枝に実は自分はザーメンマニアであり、いつも貰っている素材はその為に加工しているし、
どうせ犯すのなら西之園萌絵をザーメンまみれにしてみたい、と提案した所、極めて軽蔑した顔で賛成した。
そして今その準備の真っ只中なのである。
念願の(完全な願望であった)ザーメンビデオの撮影が、
事もあろうに西之園萌絵で出来るなんて、自分は運が良すぎると舞い上がっていた。
まず、ビデオカメラの準備、これは自分が出せる限界の値段で購入した。
そして、汁男優を集めるため慎重にネットで募集した。
そして肝心のザーメン女優こと西之園萌絵であるが、これは国枝が卑劣な行為で誘い出すらしい。
撮影の準備が整い次第決行である。
「西之園萌絵のぶっかけハメ撮り撮影会」
タイトルだけで出してしまいそうだ・・・