決行まではまだまだ時間が掛かる。  
これだけの大掛かりな計画である、最低でも一ヶ月の時間が必要であった。  
いや、一ヶ月で解決できるかどうかも定かではない。  
この撮影には非常にハイレベルな課題が幾つも山積していた。  
山部はその為に連日連夜思索を繰り返した。  
事が事だけにネットの友人(200人近くの)に相談は出来なかった。  
まさに出来ない相談である。  
 
ありていに言えば、この撮影は純粋な犯罪行為である。  
仮にどのような理屈を練ろうとも西之園萌絵が進んでアダルトビデオの出演を許可する事は有り得ないだろう。  
結論を導けばレイプに近い形で(元々国枝はソレを望んでいたのだ)撮影しなければならない。  
レイプのついでに撮影、レイプの合間にぶっかけ。  
そういう事だ。  
そして、撮影した媒体を基に西之園萌絵を脅迫。  
 
下らない。  
山部はこの余りにも安易な計画、それでいて極めて安全な計画に嫌悪感を抱いていた。  
確かに大筋に置いては余りにもオーソドックスであり使い古された手法だ。  
これならば誰が決行しても大方は成功を見るだろう。  
しかし、こんな事でいいのだろうか?  
山部は生まれて始めて独創と反骨精神を経験していた。  
伝統への反逆とあくなきオリジナリティだ。  
それは山部の元々優秀な頭脳に創造という言葉を与えた最初の思考であった。  
 
山部は自分の部屋に閉じこもり、誰も居ない空間に向かって喋り続けた。  
思考が頭蓋骨から溢れ出すという感じで、止まらないのだ。  
もしも部外者がこの山部を目撃した場合、耐え難い嫌悪感を抱くであろう、その姿は、  
しかし独創的な行為を行う前には必要な儀式であった。  
 
国枝が主張する案は、国枝が何かの口実をつけて人気の無い場所に誘い出し、  
そこで撮影を行うという極めてシンプルな代物であった。  
山部も当初この国枝案を訊いたときは、ソレしかない、と思っていたし、  
その方向であらゆる準備を進めていたが、何かが違うと途中で考えた。  
自分はレイプが好きなのでなく、ザーメンが好きなのだ。  
この国枝には理解出来ない些細な差は、山部にとっては致命的ですらあった。  
顔が苦痛に歪んでいたらザーメンをぶっかけても淫靡ではない。  
だから西之園萌絵は喜んでザーメンを貪るべきだ。  
ザーメンビデオのクオリティを高める為には女優の積極的な協力が不可欠。  
それを西之園萌絵に納得させる。  
そして山部はその姿を想像しては脳髄が溶けそうな快楽を消費していた。  
 
国枝は少し笑ったように見えたが、あるいは萌絵の錯覚だったのかもしれない。  
 
「あの、何故私の予定を?」  
 
発言してから後悔した、なにかあるから訊くに決まってるのだ、  
幾ら国枝が相手だからといって呑まれてはいけない。  
西之園萌絵は先ほどから脳の中心軸が発火を起こすほど思考を続けていた。  
何かを考え続けなければ押し潰されそうな圧迫感を感じていたからだ。  
それ程に国枝という人物の雰囲気は重い。  
その重い国枝から来週の予定を尋ねられた。  
それがどのような意味を持つか未だに理解し切れずにいた。  
 
「来週の学会に出席する予定だった浜中君が急遽行けなくなった、君に私の助手をして欲しい。」  
 
「しかし、それは」  
 
「一年生の君に頼むのは筋違いだが了承して欲しい、車の運転が可能で有る程度の頭を持った人材は中々いない。  
 それに来週空いてるのならばなおさらだ。」  
 
萌絵はこの国枝の言い分に極めて強い理不尽と怒りを感じた。  
それが、人に物を頼む態度か?  
なおさらだ?  
何がなおさらだというのだろう!  
 
「何故、国枝先生に私の予定を決められなければならないのですか?」  
 
「君が私の目の前に居たからだ。」  
 
「先生、不愉快です。」  
 
「そう・・・」  
 
すると国枝は萌絵に興味を失い、先ほどの会話は存在しなかったような顔をして仕事に戻っていった。  
萌絵は今まで生きてきて此れほどまでに侮辱された経験を持たなかった。  
思考は纏まらず体内のあらゆるバランスは崩壊し立つことさえも容易ではなかった。  
 
「貴方は、なんの権利があって私をここまで侮辱するのです、私はそのような態度を許しません!!」  
 
「侮辱されたと勝手に感じてるのは貴方でしょ」  
 
「お黙りなさい!!!!」  
 
萌絵は机の上に載っているコーヒーを国枝の顔にかけた。  
幸いアイスなので火傷はしないが液体なので被害は甚大だった。  
 
「・・・」  
 
国枝は黙ったままだ。  
コーヒーで汚れた顔を拭いもせず無言で萌絵を睨んでいた。  
萌絵は急速に冷静になり、事態の重大さをなんとか受け止めようと努力した。  
 
「・・・なにかおっしゃってはどうです、」  
 
「・・・」  
 
一言目に謝罪しなかった事を後悔したが今更遅かった。  
結局国枝は無言のまま立ち上がり、そのまま部屋を出て行ってしまった。  
萌絵には一瞥もくれなかった。  
滑らかに動作し、一切のストレスを知らないという見事な身のこなしだった。  
そこまで完全に感情が制御されている事が萌絵には脅威的であった。  
少なくとも自分がコーヒーを掛けられたならばヒステリを起こすだろう。  
完全に制御不能、さっきだって結局部屋から出て行く国枝を止められなかった、  
ただ立ち尽くすだけだった、それが悔しくて、理不尽で涙が出そうになる。  
少しでも思い出すだけで羞恥と後悔で張り裂けそうになる。  
この部屋に来るたびに、国枝に会うたびに、この圧迫を覚えなければならないのだろうか。  
萌絵は両親が死んで以来、最大の絶望感に侵されていた。  
自分がこんなに脆いとは考えた事すらなかった。  
 
目の前にはコーヒーで濡れた国枝のデスクがある。  
萌絵は溜息をついて国枝の机を片付け始めた。  
 
 

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