「ランクSも狙える程の”かしこさ”だったら、人間の本だって大方、読める」  
 
なんていうデマを信じた、私の”親代わり”。  
そんなわけで、彼は、私が生まれてからずっと、人間の読み書きを押し付けてきた。  
おかげさまで、今では大抵の本なら読破でき、人間が何を言っているのか大体、把握できるようになった。  
 
…私の”親代わり”さん。  
一才にも満たない私に、絵本の音読を強制させて、それができなければゴハン抜き、なんていうスパルタを実行してくれてどうもありがとう。  
結局、発声器官の問題で、私が人間の言葉を喋れない、と気づくまでそのスパルタを続けてくれて、大変、腹立たしかったです。  
あの恨み、この怨み、一生忘れないので、月の無い夜はせいぜい背中に気をつけて。  
 
とはいえ、人間の本が読めるというのは、実際、便利だ。  
自分の知りたいことは勿論、知る必要の無いことまで身につける事ができる。  
当然、知りたく無かったことも、知ってから後悔する事も。  
 
私は、小さい頃から(それこそ生まれた瞬間から)自分のことを、人間だと思い込んでいた。  
なぜか、自分の周りの人間との個体差に気づくことも無く。のうのうと。  
”親代わり”の書斎に忍び込み、その書棚一面を飾る”モンスターブリーダー”関連の著作を読むまでは。  
 
それらの本に載っていた情報のおかげで、自分が”ピクシー種ミント族”に属する、所謂”モンスター”であるということを知ることが出来た。  
その事実を知った当時の私は、かなりの衝撃を受けた。ショックのあまり、”食事も喉を通らない”という状態に陥った。  
そんな私を見て、”親代わり”は、私が「自分を人間だと思い込んでいる」などということを想像すらしなかったのだろう。やや肥満体だった、私の減量に成功した、と喜んでいた(そのことには今でも、腹を立てているので、死んで詫びてください)。  
 
自分が”モンスター”であるという事を知ってしまった私。  
もう以前のように、なんの疑問も無く、ただ「生きていく」ということができなくなっていた。  
訓練も、修行も、大会も。私にとって、苦痛でしか無くなっていた。  
それでも、”親代わり”は私にソレを要求してくる。  
その行いは、”ブリーダー”として当然のこと。  
もう全てがどうでもよかった当時の私は、極めて事務的に、”モンスター”として応えた。  
私情を挟まなかった分、他のモンスターより優秀な戦績を残すことができた。  
「あーあ、このまま”金の卵を産む鶏”として消費されるだけ、…か」  
厭世観の極みに会った私は、夜中にこっそり抜け出し、近くの崖で自殺を図った。  
まず、指から生えてる鋭い”モンスターの爪”で、手首を切り、その後、崖から落ちる。  
いかに”モンスター”特有の超生命力をもってしても、二段構えの自殺には、失敗は無いはずだった。  
 
…夜中に抜け出すことに成功し、崖までやってきた私。  
「さあ、あとは実行するだけだ」と、まず手首に爪を当てる。  
しかし、妙に手に力が入らない。指先がブルブルと勝手に震える。異様に肩に力が入り、寒くも無いのに、歯がガタガタと鳴る。  
思い切って爪を、引く。だが、ダメだ。何度やっても、その動作に力が入らない。  
手首に、少しだけ血の滲んだ赤い筋が、幾本かできただけだ。  
怖い。そう、ものすごく恐ろしいのだ。  
自分が今、何をしているのかを考えるだけで、家に帰りたくなる。  
寝床が異様に、恋しくなる。飢餓を覚えるほど、日常への回帰を欲している。  
埒があかないので、計画を変更して、崖から飛び降りるだけにする。  
浮くような足取りで崖のふちに近づく。思わず、崖下を覗いてしまう。  
…ダメだ。  
私は思わず、その場にへたり込む。飛び降りる気力なんか、無くなってしまった。  
「(どうしよう)」  
あとは飛び降りるだけなのに、私の口から出てきたのは、そんな言葉だった。  
「(どうしよう。どうすればいいんだろう…)」  
今日は帰ってしまおうか、という弱気は、一度した決心に阻まれる。  
しかし、恐ろしすぎて、もう自殺を実行する、なんてできない。  
すっかり、パニックに陥った私。  
 
「どおして、泣いてるの?」  
 
救ってくれたのは、そんな天使のような声だった。  
 
…救いの天使は、純朴そうな少年だった。  
人間の年齢はよく解らないが、10〜13歳くらいだろうか。  
実にシンプルな服装の華奢な少年は、ただただ不思議そうにコチラを見つめてくる。  
「どおして、泣いてるの?」  
その少年は、同じ質問を繰り返してきた。  
私は、…なんというか、”泣いている自分”を指摘されることで、よけい泣けてきてしまい、涙が止まらなくなった。  
泣き止まない私を見て、少年はおもむろに近づいて、  
「ボクの妹はこうすると、喜ぶんだよなあ」  
なんて照れ隠し? に独り言を呟き、そっ、と私の頭を抱いた。  
私は、いよいよ涙を止められなくなり、かつて無いほど大泣きした。  
少年は、そんな私が泣き止むまで、そうしてくれた。  
 
…こういうのも”刷り込み効果”というのだろうか。  
もともと、私は自分を”人間”と思い込んでいた。  
が、”人間”として優しくされたのはこの時が初めてだった。  
まぁ、つまり、その、私は、その時、少年に好意。つまり“恋”…をした、んだろうか?  
 
…こうして出会った私たち。  
二人は、ほぼ毎晩、約束も無いのに崖近くで遊んだ(まぁ、夜といっても如何わしい事をしていたわけじゃないんだけど)。  
子供の遊びをしたり、少年が街の出来事を話したり、私が自主訓練をおこなったり。  
本当に、他愛もないことを、飽きもせず。  
私の”親代わり”は、大会などの稼ぎを、博打や、飲み屋で散在するために毎日、街へ出かけ朝まで帰ってこなかった。そのため、私は夜、自由に出歩くことができた。  
少年がどうやって、夜に家から抜け出しているのかは解らなかった。  
少年は、自分や自分の家のことについては、あまり積極的に話さなかった。  
私は、そのことが少し寂しかった。  
喋れないから、自分の感情を伝えられないのが悲しかった。  
 
…少年と、夜に会うのが日課になって、しばらく経った。  
そのころには私の身辺が、にわかに騒がしくなっていた。  
”親代わり”が博打で大負けを連発し、借金を重ね、私の稼ぎではどうにもならなくなったのだそうだ。  
”親代わり”は、かねてから打診のあった”研究所”に、私を売りに出すことにした。  
 
”研究所”の連中が言うには、そもそもが”異常”だったのだそうだ。  
「ランクSも狙える程の”かしこさ”だったら、人間の本だって大方、読める」  
たしかに、そういうこともあるだろう。特殊な訓練を重ねれば、あるいは可能かもしれない。  
しかし、生まれたばかりの私が、『ランクSも狙える程の”かしこさ”』なんて所持しているはずが無い。  
よしんば、能力を所持し、本を読めたとしても、せいぜい絵本が限度、なのだそうだ。  
それが、モンスターの生態限界であり、それは揺るぐはずの無い常識だった。  
つまり、研究所の連中いわく、私は”賢すぎる”のだそうだ。それもハンパではないレベルで。  
 
と、まぁ、こんな具合で”希少種”扱いし、研究所の連中は、何度も”親代わり”のもとに訪れ、私の所有権を譲ってもらうために交渉した。  
結構、長い期間”親代わり”は相手の足元を見て、渋る振りをし、相手の用意する金額を吊り上げようとしていた。  
だが、みるみる膨らんだ借金は、”親代わり”の決断を後押ししたようだ。  
ある日、いつものように訪れた研究所の使いに、私を売りに出すことを告げた。  
もちろん、借金のことなどおくびにも出さず、いかにも”科学の発展のために苦渋の選択をした”、という演技をふんだんに使用して。  
研究所の使いは、大いに喜び、迎えに来る日取りを”親代わり”と相談した。  
少し揉めたようだが、翌日、研究所は迎えに来るのだそうだ。  
その相談を、私は偶然、耳にした。  
自分が売りに出される、というのは諦観していた(”親代わり”はその程度の人間だと判じていたし)。  
どうせ、私は”人間”ではない、所有物としての”モンスター”なのだ。  
”親代わり”になんの未練もないし、あからさまに私のことを”ミュータント”扱いする研究所の連中の態度も、嫌悪こそしたが、別段、どうでもいいことだ。  
問題はただ一つ、”もう少年に会えなくなってしまう”ということだ。  
焦った私は、最後の晩を迎える夕暮れに一つの決意をした。  
 
その夜は、満月で大変明るい夜だった。  
私は崖近くの平坦な地面で待ち、少年は質素な服装で駆け寄ってくる。  
いつものように少年は、今日、街であった事を話し出す。  
「(実は、君と会えるの、今日で最後なんだよ…?)」  
伝えたいけど、伝える手段が無い。  
少年の無邪気な笑顔を見ていると、たまらなく切なくなってくる。  
出合った時のように、涙が溢れてくる。  
衝動的に、目の前に無邪気な笑顔の少年に抱きつく。  
 
私の唐突な行動に驚いた表情の少年。その無防備な唇を、奪う。  
強引に口を開かせ、舌で口内を蹂躙する。反射的に分泌された少年の唾液を啜る。  
息が苦しくなるまで、貪り続ける。  
唇を離すと、少年は私を突き放そうとする。だが、私の腕にしっかり抱きすくめられているので、その行為は意味を成さない。  
傷ついた表情で少年は言う。  
「どおして、こんな事するの?」  
そんな表情をさせてしまったことに罪悪感が沸く。だが、もう後には引けない。  
「(ずっと、こうしたかったから)」  
少年の問いにたいする答えを、伝わらない言葉を紡ぐ。  
「(あなたのことが、好きでした)」  
たとえ、相手に届かなくても、気持ちを言葉にしたい。  
「(最後に、それをアナタに伝えたかった)」  
その行為が、少年の心に傷を付ける事だとしても。  
「(…私のワガママだけど、許して)」  
自分を忘れて欲しくない。  
困惑した少年の顔をこれ以上見ていられなくなり、私はまた、唇を重ねた。  
 
…私には、たぶん、性的な行いに対する知識は人並み以上にあるだろう。  
”モンスター”が所有物である以上、それを性的な商法に利用する。という発想、人間がしないわけが無い。  
無論、MB管理教会によって厳しく禁じられているが、完全に取り締まることはできていない。  
現に、社会知識の乏しそうな”親代わり”も、そういった“市場”の存在を知っていたし、かなり自由の利く取引も可能なようだった。  
”親代わり”は、私が”バトルモンスター”として出来損ないだった時の保険として、性的知識を幼い頃から、教え込んでいた。  
特訓と称して、”親代わり”に実践させられたこともある。何処からか連れて来た男達の相手をさせられたときもある。  
 
…少年との最後の思い出で、こんな汚らわしい技術を使わなければならない。  
でも、こうでもなければ単なる”思い出”にされてしまう。  
私が、今、彼に出来ることで、これが最大限。こんなところが、私の限界。  
「(ゴメン。ゴメンナサイ)」  
口だけを重点的に責める。何度も、何度も。  
いつもより体温の高い少年の体は、次第に、だらりと無抵抗になっていった。  
私の意識も朦朧としてきたが、これでやめるわけにはいかない。  
舌を少年の口の中で暴れさせながら、右手を少年のズボンの中に滑り込ませる。  
右手は直ぐに少年にとってもっとも敏感な器官を探し当てる。  
私の片手ほどの男性器は、緊張のためか完全には膨張しきっていない。  
火傷しそうなほど熱を持っているソレを、右手で捏ねるように刺激する。  
さすがに、少年もこの行為には驚いたようで、無理やり唇を離し、弱弱しい抵抗の言葉を吐く。  
「! ダメだよぉ、そんなトコロいじっちゃ…。くぅ…」  
だが、押し寄せる刺激で、少年は最後まで言うことができない。  
片手で弄んでいるうちに、少年の性器は次第に硬く、大きくなっていった。  
片手だけでは足りなくなったことを確認すると、私は少年から顔から口を離し、座り込んでいる少年に丁度、ひざまずくような格好を取る。  
力の抜けた少年の両足を開かせ、膨張したペニスをズボンから開放する。  
 
勢い良く飛び出したソレを、私は顔を近づけ、まじまじと観察する。  
少年の性器は、今まで相手をさせられた男達のものより一回り小さく、先端に皮が被っていた。  
「ふぅ…ッ。やだ、怖いよ…」  
言葉とは裏腹に、私が呼吸のために息を吐き出すたび、目の前の性器がビクリと反応を見せる。  
私にとって、今まで男性器は嫌悪の対象でしかなかった。  
しかし、自分も高揚してきた事もあり、少年のソレに対して愛着さえわく。  
目の前にそそり立つ、ペニスの先端を皮ごと口に咥える。  
指で性器を固定し、先端部分の皮を唇で押し出すように剥き、その状態のまま、舌全体を使い亀頭を丁寧に舐めまわす。  
蒸れた性の臭いが私の口内に充満し、舌は少年の分泌した透明な液体で汚される。  
「ダメ…、ダメだよ。何か、変な感じが…」  
性的な刺激は初めてなのか、これだけの刺激で、少年の絶頂が近いのを示すように、性器がビクビクと震えている。  
「(気持ちいいの? このまま私の口に出してもらっても、いいよね?)」  
ペニスの出す性的な臭いと液体、そして、”あの”少年を犯してしまっているという背徳感。  
それらの要素で、私の頭は熱に浮かされたように正常に機能しない。  
性器の先端を唇で咥えたまま、軽く往復させる。その間も、舌で嘗め回すのを忘れない。  
「くぅっ、…ダメ、だってば、……ッ」  
性的な刺激に抗うように、少年の肩や足が身悶えする。  
その微かな抵抗が、より一層、私を興奮させる。  
舌の動きはそのままに、唇の往復運動をより早くする。  
少年の身悶えは次第に激しくなり、性器が張り詰めたように膨張する。  
「や、やめて。…もう、ダメぇ! 何か出ちゃうよぉ!」  
一際大きな声をあげると同時に、少年の腰が無意識に浮き、信じられないほど大量の精液が、未成熟な少年の性器から噴出する。  
 
私は口の中に注ぎ込まれた熱い粘液を、一滴もこぼさないように注意しながら飲み込む。  
ドロドロとした精液は、喉に纏わりつき、その熱を体の隅々まで浸透させているようだ。  
私は、まるで授乳する赤ん坊のように、少年のペニスから精液を啜り上げる。  
「はぁっ…、そんなことしちゃ、ダメェ…」  
少年の声を耳にしながら、尿道に残っていた精液も残らず吸い尽くす。  
全てを放出し終えたはずの少年の性器は、ビクビクと震えながらも、絶頂時と変わらない大きさと硬度を保っていた。  
「(もっと、もっと、”思い出”ちょうだい)」  
目の前の性器を、再び口に含むと、今度はあまり追い込み過ぎないように、唇の往復運動をせず、舌だけでしゃぶるようにする。  
「なんで、やめてくれないのぉ…」  
訴えるような少年の声を聞きながら、私は左手を自分の秘所にあてがう。  
性的な行為を嫌悪していた私は、いわゆる”自慰”というものをしたことがない。  
しかし、”親代わり”の教育の成果なのか、少年のモノをしゃぶっているだけで、私のソコはビチャビチャに濡れていた。  
少年のペニスを舌で愛撫しながら、おずおずと自分の性器を弄る。  
とたん、体の中を電撃のような快感が貫く。  
――あとはもう夢中だった。  
体に教え込まれた性的な技巧を駆使し、少年に何度も口内射精をさせ、その度に、自分も絶頂を迎える。  
月が真上に来たころには、少年の四肢はぐったりとしており、私の方も息も絶え絶えになっていた。  
度重なる射精のため、もはや何もでなくなった少年のペニスは、しかし、いまだに天を仰いだままだ。  
 
「(…じゃあ、もらうね。キミの初めて。)」  
私は仰向けになった少年の体を跨ぎ、その上に乗るようにする。  
「(わたしは…初めてじゃないんだ。ゴメンね…)」  
屹立した少年の性器を、いまだに濡れたままの自分の性器にあてがい、徐々に内部に侵入させる。  
「そんなことしたら、おとうさんとおかあさんになっちゃうよぉ」  
耳まで真っ赤にしながら、少年は悲壮な声で、そう喘ぐ。  
私は少年自身を最深部まで挿入し、ゆっくりと腰を前後に動かす。  
「(人間と”モンスター”だから、なれないよ)」  
伝わらない言葉で返答しながら、ペニスの与える快楽を享受する。  
しだいに前後運動だけではなく、早くしたり遅くしたり、腰を様々に動かす。  
今までのどんな相手より、私は早く上り詰めてしまう。  
二人とも汗だくになりながら、夜の行為を続ける。  
 
どのくらい時間が経っただろう。  
もう液体を放出しない射精を何度めかした少年のペニスは、とうとう、私の内部で力尽きたように硬度を失う。  
私は内部から、少年の性器を名残惜しげに抜き取る。  
二人の分泌した液体が、栓の抜けたビンからでるように私の秘所から垂れ流れる。  
私は、仰向けで忘我状態の少年に、ファーストキスのような初々しいキスをする。  
「(…本当にゴメンなさい。許して、なんて言えない。許さないまま、私を覚えていてくれたら…)」  
私はゆっくりと少年から離れる。  
 
そのままトボトボと崖のほうに歩き出す。  
もともとあの時から私は、少年に助けられ、少年に会うためだけに生きてきたようなものだ。  
少年にもう会えなくなるのなら、そして少年に会えない日々に慣れていくのなら。  
死んだほうがいい。  
今なら、もう何の未練も無く――。  
嫌だ、恐ろしい。怖い。死ぬのは。  
でも、少年に会えない日常はモット怖い。  
崖際まで来ると、その頃には私の全身が震える。  
むりやり、後ろを振り向き、少年に別れを告げる。  
「(…色々、ありがとう。…ふふ、最初から最後までエゴイストだったね、私。)」  
少年は私を見ていない。眠ってしまったのだろうか。  
私は、無理やり笑顔を作る。  
 
「(バイバイ)」  
 
 
 
―――彼女の願い、否、”企み”は成功したのだろうか?  
少年はもう二度と、崖近くに来ることは無く―――。  
 
 
了  
 

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