今日、親父の葬式が終わった…
寂れかけたモンスター牧場、一年生活出来るかどうかの資金。
それだけが親父の残してくれた物だった。
モンスターもいない牧場。売ったって大した金になるわけもない。
モンスター育成なんてやっぱり儲け無いんだな。
「くっそ、親父のバカが…」
モンスター育成の仕方すら分からないのに牧場なんか渡されたって…
19年間、親父の仕事ちゃんと見て無かったからなぁ。
「あのぉ…ハーキュリーズ牧場はこちらでしょおか?」
「あっ…あぁ、そうだけど」
現れたのは黒いローブに身を包んだ赤髪の少女。
不思議そうに牧場を見渡す彼女の瞳はルビーを入れたような輝きがあった。
「私、モンスター育成協会から派遣されてきたソフィアと言います」
「モンスター…育成協会?」
「はい、こちらで新しくブリーダーになられる事になった
エドワード・ハーキュリーズ様に一年間共に生活し
ブリーダーとしての基礎を学んで貰う為に派遣されました」
ソフィアと名乗る少女は一気にそうまくし立てた。
一年間…この子と一緒に?
ポケットの財布を握りしめながらこれからの事を考えた…。
「そうか、嬉しいけど残念だよ」
「ふぇ?」
俺は牧場を指しながら彼女を見る。
とてもかわいらしい少女だ。
彼女と一年間寝食を共に過ごしたいな。
「モンスターがいない、施設を補修する金も無いしな」
「モンスターなら心配無いですよ?」
「え?」
今度は俺が驚く番だった。
彼女は持っていた袋から円盤状の石を出す。
円盤石だ!
この世界でのモンスターの再生方法の一つ…それが円盤石。
「円盤…石…なんで?」
「貴方のお父様の功績が認められ息子の貴方がブリーダーをなさるなら…
という事で預かって来ました」
彼女は無機質でひんやりと冷たい円盤石を俺の手に渡す。
にっこりと微笑む少女は可愛いかった…
「お金は…この子を育てて頑張って稼ぎましょうよ
二人でなら出来ますよ」
「う…うん。ガンバ…ろ」
俺の手に優しく手を重ねる彼女を見つめながらギコチなく頷いた。
俺は彼女とブリーダーとして一歩を踏み出す事にした。
ブリーダーとしての第一歩はモンスター育成協会へ行く事だった。
育成協会で俺はブリーダーとしての登録を済ませていく。
ソフィアは俺の隣に座り窓の外を見たり足をぶらぶらさせながら時間を潰している。
彼女は時たま用紙の記入を教える程度だった。
本当にここの職員か?
誰も彼女へと声をかけようとかって気は無いらしい。
「ふぅっ…登録終わりっと」
「じゃあ次ですね、いよいよモンスター誕生です」
俺達は登録の疲れを残したまま勇み足で神殿へと向かった。
神殿では厳かな雰囲気の中、彼女の持ってきた円盤石が回り光りを放つ。
その光りの中から現れたのは青い髪にコウモリの翼を持つ女性の姿をしたモンスター。
最も男性から人気があるピクシー種の中でも一、二を争う程従順なミントだ…。
「美少女モンスター…むぅっ、胸が…大き…D?E?」
俺の隣で彼女は真剣な顔付きで独り言を呟いている。
ミントに対して彼女は女としての対抗意識を燃やしているようだ。
「名前を付けてあげますか?エドワードさん?」
「そうだな…ミントか…カスミなんてどうだろ?」
『きぃ…かすみ…マスターありがと』
カスミが俺に抱き付き胸を押し付けながら名前の礼を言う。
「え…エドワードさん?」
彼女の怒りの視線が俺に突き刺さる。
カスミは周りなど気にせずに抱き付いたまま離れず柔らかな胸を押し付けている。
神殿の神官も嫌な目で見ている。
「か、カスミ離れて…」
『マスター…ちゅ』
カスミは俺の首へキスをしたあと名残惜しそうに離れた。
ソフィアの視線は相変わらず痛いままだった。
俺はカスミとソフィアの手を引き急いで神殿を出て牧場へと帰った。
あそこにいるのが恥ずかしくなったからだ。
牧場につくとソフィアから早速育成のポイントが入る。
「カスミを育成するには牧場の施設では無理ですね」
「まぁ、何も無いからな」
「修行へ行かせるお金も無いですしここはバイトさせるのがいいかと思います」
「バイトぉっ?」『バイ、ト…?』
彼女が言うにはモンスターは力や頭を使う事で強くなるそうだ。
バイトと言っても短期のバイトで能力の上がりそうなものをピックアップして行うとの事だ。
良く分からない俺は何ヶ月かは彼女の育成を見ながら覚える事にした。
そしてカスミはバイトへと向かって行った。
一週間後までカスミは帰らないのでその間ソフィアと共に牧場を住める形へと作って行く事にした…。