「ふぅ…今日のトレーニングは終わりにしようか」
「そうですね、お疲れ様です、クラインさん、フェブ」
「うん、お疲れ、ホリィ」
ここはとあるファーム。お互いの名を呼び合って、モンスターのトレーニングを終了させる青年と少女がいる。
青年の名はクライン、先月に最短でトップになった名の知れた名ブリーダーである。
そして少女の名はホリィといい、FIMBAから派遣されここまで一緒にクラインと歩んできた、
言わばパートナーのモンスター調教師助手である。
「おーい、フェブ、ご飯にしよう」
「ウォーン!」
フェブと呼ばれた純血ライガー種のモンスターは、主人の声に反応してこちらに走ってきた。
「ふふふ、フェブったら本当にクラインさんの事が好きだね」
「ワン、ワン!」
ホリィは、その通りと言いたげに2回吠えるフェブを見てまた小さく笑った。
「さてと…何にしようか、フェブ」
「あ、私がやります、クラインさんは疲れてるんですから」
「いいよ、ホリィだって疲れてるのは同じだろ?俺がやるから、ね?」
「駄目です、クラインさんの方が疲れてます!」
どっちがやるやらないで口論している間にも、フェブは呆れた様な顔をして「早くしてくれ」と急かすように吠えた。
「分かったよ、それじゃあ二人でやろうか」
「え、でも…」
「ほら、フェブが待ってるよ」
「そうですね、二人でやりましょう」
どうやら二人で餌をあげることで決定すると、フェブを待たせないように駆け足で倉庫に向かっていった。
「それで、何にしたらいいと思う?」
「うーん…今日はフェブ頑張ったから、肉もどきをあげてみたらどうでしょうか?」
「そうだね、えーと肉もどきは…」
クラインが探す肉もどきはモンスターにとってはご馳走である、今日のトレーニングに眼を見張るものがあったフェブへのご褒美と言ってもいいだろう。
「あったあった」
倉庫の中はほとんど安上がりのジャガもどきで埋め尽くされているために、肉もどきを探すのも一苦労だ。
「でもこのジャガもどきの量…凄いですね…」
「まぁ…溜め買いしたからね…あ、発見!」
「大丈夫ですか?クラインさん」
「ジャ、ジャガもどきが…邪魔して…」
やっと見つけた肉もどきを取ろうとしても、鉄壁ジャガもどきがあってなかなか取れないでいる。
「あの〜クラインさん、ジャガもどきが落ちてきそうなんですけど…」
「何だって?よし、取れた!」
と思った次の瞬間だった、ポロっとクラインの目の前に一つのジャガもどきが転がってきた。
「ま、まさか…」
「ク、クラインさん!危ないです!」
「ちょ、ちょっと待って!」
ガラガラガラ!と轟音を立てて落ちてくるジャガもどきの嵐、変な体勢でいるクラインにはよけられない。
「う、うわわわ!」
「クラインさん!」
とっさにホリィがクラインの上に乗りかかるようにして突撃してきた。
ジャガもどきの嵐も止み、クラインは身体に重たいものを感じながら倒れていた。
「いててて…痛い…ホリィ、大丈…夫…って!!」
「…クラインさ…ん!!」
何がなんだかさっぱりだった、互いの瞳に移る互いの顔とかかる息、正にゼロ距離。
「あああ、ホリィ!」
「ク、クラインさん!!」
二人の顔は熟した林檎の様に真っ赤に染まり慌てる、が、ジャガもどきのせいで身動きが取れない状況である。
(ど、どうしたらいいんだ…変に動けばホリィの唇が…って何考えてるんだ!)
(ク、クラインさんが目の前に!顔を動かしたら、クラインさんと…キ…スしちゃう…って私何考えてるの!)
変な事を考えて余計パニックになる二人、そしてジャガもどきの重さで辛い体勢を強いられるホリィは限界に来ていた。
「ホ、ホリィ!?」
「も、もう…ダメぇ…ごめんなさい…クラインさん」
「ちょ、う、うぐっ!」
とうとう耐え切れなくなったホリィはクラインに胸を貸して貰うように倒れこんだ、その結果…。
「ん…むぅ…!!」
「ふぁ…クラインさん…」
クラインの唇にホリィの柔らかくて震えている唇が触れる、あまりの緊張感に瞬き出来ない。
「ん…ん〜!」
クラインの全身が硬直する、今自分は何をしている?ホリィとキスをしている。何故?どうして?そんな事だけが頭の中を駆け巡り、
このままでいたいという想いと、何とかしなくてはという想いが交錯する。
(あぅ〜…こんな筈じゃなかったのにぃ…クラインさん…)
(怒ってるだろうなぁ…不可抗力とはいえ…)
互いが相手の気分を害したと思っていたそんな時であった。
「ワォ〜ン!」
(こ、この遠吠えは…フェブ!来てくれたのか!)
口が塞がれていた二人は声を出すこともままならずフェブに助けを求めることが出来なかったが
主人のピンチに気づいたのか、はたまた腹の虫が限界に達したのか、フェブが倉庫の中に走りこんできてはジャガもどきを食い荒らしながら、クラインとホリィを救出しようとしていた。
(早く!もっと早く!)
と心で急かしながら…。夕方になって二人は無事に救出された、だが二人の間には気まずい空気が流れていた。
「ありがとうフェブ…」
「ワン!」
クラインはお礼を言うとフェブに肉もどきを差し出すが、先ほどのジャガもどきでお腹がいっぱいなのか見向きもしない。
「はぁ…あ、あのさ…ホリィ…」
「は、はい…」
「もう遅いし…そろそろ家に…戻ろうか?」
ホリィは小さく頷くだけで顔すらこちらに向けてくれない、嫌われたな…クラインはそう思った、しかしホリィも同じ事を考えていたとは思わなかっただろう。
夜も更けて外は完全に闇に陥った、クラインはファームの小屋にフェブを寝せずに家の中に連れてきていた、
そうでもしなければホリィと二人っきりという状況に耐えられないからである。
ホリィは台所で夕食の準備をしている、いつも通りだ…会話が無い以外は。
「………」
夕食が出来たのか無言のままホリィが食卓に運んでくる、そして会話の無いまま食す。
(はぁ…)
(ふぅ…)
二人は思いつめた様子で相手の事を想う、その為、重苦しい表情になってしまい相手に怒っていると誤解されてしまうのだ。
(お風呂にでも入ってこようかな…このままホリィといるのは辛いし…)
食が進まず途中で立ち上がるクライン、ホリィも同じく食が進まないみたいだ。
「お風呂に…入ってくるから…」
クラインは一刻もこの場を去りたかった、そしてお風呂に入ってすぐに寝たかったのである。
(とにかく、今はさっぱりしてこれからどうするか考えよう…)
急ぎ足でそこを発つと、着替えを持って風呂場にクラインは向かっていった。
「あー…どうしよう、どうしよう…」
風呂場に来たクラインは頭を洗いながら打開策を練っていた、しかし思い当たるはずもなく一層に頭をゴシゴシと洗うだけである。
「何であの時…あー!馬鹿だ!俺って最低だよ…」
自分を責めることしか今のクラインには出来なかった、謝っても許して貰えるかどうか…もしかしたらセクハラで捕まる!とそんな不安がクラインを包んだ。
「はぁ…」
ガチャ…
「ん?フェブ?」
クラインにはフェブが入ってきたことが分かっていた、まだブリーダーを始めて間もない頃、何度もブリーダーの壁にぶつかって挫けそうになったことがある。
そんな時はいつもフェブが寄り添って静かに話を聞いてくれた、例え風呂場だろうがどこだろうが…。
「なぁ…フェブ…俺、どうしたらいいだろう…ホリィにあんな酷い事しちゃってさ」
髪を洗っている為に目が開けられないクラインは、フェブがいるような場所に顔を向けて喋る。
「嫌われたよなぁ…絶対に…でも可愛かったなぁ…ホリィ…何言ってるんだ俺…」
落ち込む度合いが大きくなっていくクライン、そんなクラインを見かねてかフェブの前足がクラインの肩に触れる。
「ありがとう…フェブ…あれ?でもフェブの前足ってこんなにスベスベだった?ていうか毛が無い?」
目が開けられないクラインは、自分の肩に乗っている手を辿っていった。
「あれ〜?すごく柔らかい…フェブ…お前毛が全部抜けちゃったのか?」
段々と手がフェブの肩を通り過ぎて胸の辺りに手が行くと、ふわっとした毛のような感触が伝わると同時に声が聞こえた。
「きゃっ…」
「きゃっ…って…フェブ?」
手に不思議に柔らかくて膨らみのある何かを掴んだ、何、この柔らかさは…?疑問に思いながらも少し指を動かしてみる。
「いやぁ…止めてください…クラインさん…ふあ」
「!!」
クラインの手がフェブと信じていたものから離れた、嫌な感じがする…クラインはお湯で髪の泡を落すとゆっくりとフェブである方向に顔を向けた。
「ホ、ホ、ホ、リィ…!?」
「あ、あの…」
「う、うわぁーー!」
クラインは思わず絶叫を上げて後ろに下がる、目の前にはバスタオル一枚だけを纏ったホリィがいたからだ。
「フェ、フェブ?フェブはどこ!?あれ?どこにいるんだ!」
「フェブなら…クラインさんがお風呂に行った後、私が寝かしつけました…」
「え、じゃ、じゃあ…さっき入ってきたのは…ホ、ホリィ!?」
「は、はい…」
「じゃ、じゃあ…さっき触ってたのは…フェブじゃなくて…」
ホリィの裸体…!それに気づいたクラインは身体中に針が刺さったような感じがした。
「ごごごご!ごめん!ごめん!本当にごめん!」
「ク、クラインさん!」
乱心したのかタイルに頭をぶつけながら謝るクライン、その凄惨な行為にホリィは抱きついて止めようとする。
「お、落ち着いてください!クラインさん」
「うわぁぁ!悪気は無かったんだ!でもつい出来心」
「分かってます、分かってますから!」
「許して欲しいとは言わない!だけどちゃんと謝りたかったんだぁ!」
「大丈夫です!クラインさんの気持ちは良く分かりましたから!だから止めてください!」
クラインはその言葉を聞くとヘナヘナと倒れこんだ、ホリィはやっとこの場が収まったと思うとクラインに対面するかのように座り込んで言葉を発した。
「ふぅ…クラインさん…謝らないといけないのは私のほうです…」
「えっ?」
「あの時…本当はすぐにクラインさんから離れられたんです…」
「ど、どういう事?」
「ジャガもどきは全部後ろの方に転がっていって…私の上には何も無かったんです…でも、でも…」
ホリィの目からポタポタと涙がこぼれ始める、クラインは今は黙って聞いていようと思った。
「クラインさんの顔が目の前に来たとき…私…クラインさんに触れたかったんです…」
「ホリィ…」
「ごめんなさい…ぐすっ…本当は私が悪いのに…」
「そんな…俺の方が悪いよ…だからホリィが謝る必要なんて無いんだよ」
クラインはホリィの頬につたる涙を人指し指で拭ってあげる、触れるホリィの肌は温かくて安心感を感じさせてくれた。
「それじゃあさ、こういう時はどっちも悪かったって事にしようよ」
「クラインさん…」
「だってさぁ、俺…ホリィとずっと気まずい感じでいるのも嫌だし…」
ホリィは照れくさそうに喋るクラインを見て、感情が抑えきれなくなったホリィはクラインを押し倒す形で抱きついてくる。
「ホ、ホリィ!?」
いきなり飛びついてきた事に吃驚したクラインであるが、ホリィの頭に手を乗せると優しく髪を撫でるが。
(うぅぅ…ホリィの身体って思ってたよりちっちゃくて柔らかいなぁ)
クラインも欲求不満無限大の年頃の男だ、裸同然の女の子が抱きついている今、そんな事を考えない方がおかしい、こうなるとある所も勃ってしまうわけで。
(あ、もうそろそろ退いてもらわないとヤバイ…)
「それでさ、ホリィ、悪いんだけど退いてもらえるかな?」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
ホリィは自分のしている事が恥ずかったのだろう、勢い良くクラインの身体から離れたが、巻いていたバスタオルも同時に離れてしまった。
「!」
「きゃぁ!」
クラインの目に映るホリィの裸、理性が一気に吹っ飛んだ。次の瞬間、クラインは先ほどとは逆にホリィを押し倒していた。