私は待っていた、私に挑んでくる者を。
騎士の誇りを、戦士の理を持つ者を。
主は私を再生した直後に棄てた、私が必要ないからと。
だからこそ、私は力を欲し、知る限りの誰もが追随し得ぬ力を手に入れた。
いつしか私の心には、勝利の喜びも、強者と刃を交える興奮もなく……。
ただ、私の居城に踏み込んでくる者達を蹴散らす事に、何の感情も抱かなくなった。
そして、その二人が、私の元にやってきた。
「……ジャンヌ!油断するな!」
「はい!」
甲冑を身に纏ったピクシーと、その主人らしい青年……彼等も又、ただ私が剣を一振りしただけで逃げ出すような者だと思っていた。
「………………去れ、無駄に傷つけはしない」
「判って欲しいとは言いません……でも、貴方の持つガイア石が必要なんです」
ガイア石……私の力の源……
「渡せぬ……」
「………なら!」
刹那ジャンヌと呼ばれたピクシーの姿が歪む。
とっさに上げた左腕に衝撃が走った、ピクシーの拳を、私の盾が受け止めている。
「本気か……」
「我がマスターの為に!」
主のために……その言葉が私を突き動かす。
「………良かろう、ならばその誇り毎貴殿を打ち砕く!」
「まけません!!」
私の振るう剣を受け流し、時には甲冑で受け止め、ピクシーは私に挑みかかってくる。
幾度と無くピクシーの拳が、蹴撃が私を捕らえ、そのたびに私の身体は傾ぐ。
……そうだ、戦う事こそが、誇りを持って戦う事こそが我が誇り!
大きく薙ぎ払った剣の切っ先が、僅かにジャンヌの頬を捕らえる。
「ようやっと、本気を出してくれるつもりになりましたか?」
「………非礼を詫びよう」
そう……戦士に対し、騎士に対して己が全力を示さぬなど……ただの侮辱だ。
「ここからは……」
「………真剣勝負っ!」
切っ先が幾度かジャンヌの身体を捕らえ、浅い傷を負わせる
ジャンヌの拳が私の鎧を打ち、盾を吹き飛ばす。
「我が誇りのために!!」
「信ずる主のために!!」
大上段から振り下ろした剣と、ナックルが正面から激突する。
スピードでは負けるが、パワーならば私の方が高い。
それを証明するかのように、ジャンヌの身体が、少しづつ沈み始める。
後数秒降着が続けば、彼女の身体を剣が貫くだろう。
「ジャンヌッ!!」
彼女の主らしい青年の声が響く、すると、彼女の表情に変化が生まれた。
僅かに浮かんでいた焦燥が消え、まるで新たな力を得たかのように剣を押し返す
「な………!?」
どれほど力を入れても剣を押し返す事は出来ず……
「やぁっ!」
裂帛の一撃の下、私の剣は私の手を放れ宙を舞う。
その事実に私は一瞬反応が遅れ……
ゴッ!!
ジャンヌの拳が私の胴を貫いたと悟ったのは、私が地面に伏した時だった。
遠くなる意識の中で、私は彼女が座り込む音と、彼女に駆け寄る彼女の主の足音を聞いた気がした………。
そして、今、私は再び大地に両足をつけている。
手には愛用の剣が、その存在を示している。
「………何故だ」
目の前にいる青年、ジャンヌのマスターに向けて私は問いかける。
「何故、私を再生した」
弱い者、負けた者に意味は無いはず……そう問いかける私に、彼は微笑んでこういった。
「一緒に居れば、寂しくないだろ?」
その言葉にはっとさせられる。
弱い事が許せなかったのではない……私は……ただ寂しかっただけなのだ。
誰かが側にいてくれれば、ガイア石が無くとも、私は強くなれる……
焦がれ、たどり着けなかった高みへ、もう一度、歩を進められるのだ……。