僕はウンディーネに恋をした。
人間とモンスターの間に恋愛感情なんてどうかしていると自分でも思う。
ましてや自分が手塩にかけてSランクまで育ててきたモンスターに対してそんな感情を抱くなんて。
僕はどうかしている。
わかっているのに衝動を日に日に抑えることができなくなっていた。
夜、コルトが寝ているのを確認してウンディーネの小屋へと向かった。
小屋の扉をそっと開ける。しかし中には誰もいない。
辺りを軽く見渡したけれど、ウンディーネの姿は見つけられなかった。
『あれ、いないや……。どこへ行ったんだろう。』
僕は彼女を探してみることにした。
小屋の裏側に小さな池がある。そのほとりに人影のようなものが見えた。
『こんな時間に、誰だろう。……ウンディーネか。』
淡い月明かりがウンディーネの身体を透き通り、きらきらと輝いている。
彼女は満天の星空を眺めているようだ。
不意にウンディーネと目が合った。短い沈黙の後、彼女に声をかけた。
「どうしたのウンディーネ、眠れないのかい?」
「……えぇ。今週はお休みを頂いたから、寝つけなくて。」
少し考えるそぶりを見せながら彼女は僕の問いに答えた。
『モンスターだって思い悩むことがあるんだ。それに気付かなかった僕はまだまだってことだな。』
僕は彼女の隣に腰を下ろした。
「ブリーダーさんは、私のことをどう思っていますか?」
はにかんだ笑みを見せながらウンディーネが僕に尋ねる。どう答えて良いかホンの少し戸惑った。
「ウンディーネは僕の言うことを素直に聞いてくれるし、一生懸命強くなってくれた。大切なパートナーだよ。」
僕の言葉を聞いて、ウンディーネはまた考えるそぶりを見せた。
「ブリーダーさんの応援があったからM-1グランプリを勝てました。
私はもう長く生きられないでしょうし、良い思い出ができました。」
思いもしなかったウンディーネの言葉に、僕は返す言葉を失いかけた。彼女は続ける。
「ブリーダーさんと別れるのは寂しいです。
でも、ブリーダーさんの本当の気持ちを聞かないまま別れるのは、もっと、寂しいです……。」
僕の思いは彼女に見透かされていたのだろうか。
ウンディーネの澄んだ瞳は僕を見つめている。
『……僕はウンディーネを、彼女の事を強く想いたい。』
気がつくと、僕は彼女の身体をぎゅっと抱きしめていた。
彼女の体温を感じたまま、どうしていいかわからなくなっていた。