一日振りの自分のファームの風景。
何時も触れ合っていたからか、懐かしさすら感じる。
が、今回の場合は懐かしさを感じる以前に、そこに広がる強烈な臭いに顔を顰めた。
糞便と精液と愛液は殆ど姿を消してはいるが、その臭いが存在感を誇示している。
「おいウィト! おいっ! 居るんなら返事しろっ!」
強い臭気に鼻を摘んだまま、力の限りの声を出す。
が、全く返答も、動きによる反応ですらない。
「何処行きやがった……? そういえばあの馬鹿女も居ないな」
"残骸"とか"痕跡"とか、その類のものは放置されている。
貸すんじゃなかったかと少し後悔するが、すぐに思考を切り替える。
問題はアイツは何処に行ったのか、だ。
知っていそうなのといえば、ユリくらいのものか。
取り敢えず港へ向かい、問い詰めてみる。
「ウィトさんならもう帰りましたけど。急用が出来たとかで」
港に仕入れに来ていたユリが"あれ?知らなかったんですか?"という言い方で答える。
(何考えてやがる、あの野郎……)
言い方が微妙に癪に障ったので、物陰でユリをノーパンにして放り出した。
泣いていたが最強なので気にしない。
数日後、リオは主とセックスをしながらであったが、神妙な面持ちで報告する。
「トレガジが使えなくなった、だと?」
「は、はい。理由はっ……見当がついているのですけど――」
突如、リオの秘裂にねじ込まれたペニスがその動きを止める。
一秒程妙な間が空き、そして。
「任せた」
「え?」
リオは報告後、数秒で呆気に取られた。
あまり早い決断だ。そして、その決断と同時にペニスを抜かれてしまう。
「調べ物が出来た。見当がついているなら何とかしとけ。
レブナントは必要があれば使って構わん、お前の言う事はそれなりに聞く」
そう言うとファンは既に出掛ける用意を整えていたらしく、自分の身体だけ拭いてさっさとファームを後にした。
「……行っちゃった……仕方、ないね。レブナント、私達も行きましょう」
身体の疼きは何とか意思で抑え込み、子宮目掛けて出され、溢れ落ちた精液を拭き取る。
着替えた後一人と一体も、ファームの裏の洞窟に潜っていく。
レブナントの力はリオの思っていたよりも遥かに強く、洞窟のノラモン程度なら難なく追い払うことが出来た。
ところどころでアイテムを拾いながら順調に進み、約二時間が経過した所で最下層に到達した。
更にその奥底へたどり着くと、そこには巨大なモンスターが鎮座していた。
「……久しい来客、誰かと思えば……」
そのモンスターは威厳すら在った。力とは違う、格の違いを思い知らされるような。
「ごめんなさい、突然。私はリオっていうんだけど――」
「人間の『女』であればともかく、『雌』と話す口は持たぬ。去れ」
雌。
一瞬何の事を言われたのかとリオは困惑したが、理解した。
きっとこのモンスターは分かっている。
私がどういう人間なのか。どういう生活を送っているのか。
私の身体にかすかに残る精液の臭いなのか、数時間前まで交わっていた為下着に愛液の染みが出来ている事がバレているのか。
いずれにせよ、私生活を一見で知られたという事でリオの顔がかぁっと紅潮していく。
「わ、私はっ……それでも、あなたに……」
「くどい。畜生の拠り事に力を貸す気はない。無駄な事はやめることだ。
力ずくで押し通るもいいが――私は、主の居ぬ下僕に簡単にやられる程脆くも出来てはおらん」
リオにとって、モンスターとは唯一心を通わせる存在であった。
それがどんなモンスターであろうと、対等に話が出来る存在だと。
だが、初めて会話する相手とはいえ――明らかに見下されるこの感覚。
対等どころか人間とすら認められていない、屈辱感。
これは、きっと今の私であるからこその対応なのだと。
(私は、私……はっ……! う、ぁ――)
信頼していたモノが一気に打ち砕かれていく。
モンスター達は、心優しいモンスター達は、既に私を見切っている。
「あ、は。あはは、でも、でもね……私は……駄目なのよ」
一筋だけの涙が流れた後、それも途切れる。
「分かってたけど、認めたくなかった。でも、いいの……もう、いい」
服の袖で乱暴に涙の通り道を拭う。
「私は……ただの犬でいい。ご主人様の忠実な犬で、いいの。
私はそれを望んでるから、今こうしてあなたと対峙してる。あなたが、教えてくれた」
何かが吹っ切れたのか、それとも壊れてしまったのか。
「レブナント、お願い。ご主人様の邪魔をする、あいつを倒して」
ブリーダーとして戦闘命令など出した事はない。
だけど私は、負けない。負けたくない。
今のこの私を否定させない為に、ご主人様を否定させない為に。
"ATK.ATK.ATKKKKKKKK!!!"
私がモンスター達へ抱く愛情も悲哀も、必要であれば全てを否定しよう。