エボシに導かれ、隣の襖が開かれる。 
そこにはすでに床の用意がなされてあった。 
枕元に点してある灯が、二人が床に倒れ込む拍子にゆらりと揺れ、縺れ合う二つの影を部屋中に踊らせる。 
組み伏せようと上になったエボシを腕で遮り、アシタカはゆっくりと起き上がった。 
「…私では、この役目は叶うまい」 
「いいや。そなたは願ってもない男…………」 
そう言いながらエボシは、アシタカの服の合わせ目に掌を差し入れ、はだけた胸に頬を寄せた。 
息を深く吸い込み、胸にゆるりと口付ける。 
ふとその眉が潜められ、改めてアシタカを見る眼がギヤマンの様に瞬いた。 
「…この匂い……。そなたここに来てから女を抱いたね?…ひょっとして、トキか」 
アシタカは答えなかったが、それが返って答えになってしまったらしい。 
エボシは額に指を当てて笑い出した。 
仰け反りながら大きく笑う白い喉元が蛇の様にうねり、妙になまめかしく映える。 
ひとしきり笑うと、エボシは真正面からアシタカの首を利き手で軽く押さえ付けた。 
「面白い。…アシタカ、そなたはどうあっても今宵私を抱くのだ。私の腹に子を成せば、その腕に取り付いた猪が、そこから生まれ変わるやもしれぬぞ」 
そう言った途端アシタカの右腕が蠢き、止める暇(いとま)もなくエボシの服を引き裂いた。 
必死に左手で押しとどめようとするが、腕は先刻よりもっと力強かった。 
アシタカの思惑なぞ一切構わぬと言うように、祟られた右腕がエボシの帯を解き、一刻も早く犯そうとざわめく。 
「…くっ……うぐぅ…」 
アシタカは懸命に左手で右腕を押さえ込んだ。 
その額には脂汗が浮かび、食いしばった歯は音を立て軋む。 
「ナゴノカミ!お前の怨念とやらは、若輩に易々と押さえ付けられる程度の物か?」 
エボシが右腕に声をかけ、煽った。 
どくどくと脈を打って跳ね返る腕を懸命に御そうとするが、エボシ憎しのタタリ神の意志が勝るのか、どうにも押さえが利かない。 
握りつぶすかの様に右腕が強く乳を掴み、そのままエボシを床にねじ伏せた。 
胸を掴まれた痛みに、女は小さく呻く。 
だがその痛みで怯む事は無いのか、エボシはアシタカの装束に指をかけ、腰紐をしゅるりと解き始めた。 
その動きにナゴノカミの高ぶりが収まったのか、段々右腕の勢いが静まって来る。 
息を切らせたアシタカは、ようやくエボシの腕を撥ね付けた。 
「…そんなに嫌か?私を抱くのが」 
「あなたは、真に私を必要としていない…」 
静かにアシタカは答えた。 
「そんな事はない…私は本当にそなたの種が欲しい。強く逞しいおのこの種が」 
エボシは柔らかく微笑んだ。 
「強く逞しいおのこならば、タタラにもいるはずだ」 
「タタラの男共と寝る訳にはいかぬ。……軽んじられると言うたではないか」 
涼しい顔で勝手な道理を言い放つエボシに、アシタカは『それは違う』と言いたかった。 
エミシの村を出てから、アシタカも遊惰にここまでの道程を旅して来た訳では無い。 
俗界の、いわゆる民草の暮らしも少なからず目にして来た。 
エミシの村とヤマトの村や町。 
その決定的な違いは、女達への扱いの差であった。 
エミシが女を太陽として扱っているとしたら、ヤマトは女を月として扱っている。 
エボシが子を成す為に男を道具として扱いたいのも、この思想への意趣返しなのかもしれない。 
しかし、女を道具と思っていない者もいるのだ。 
確かにまぐわいとは子を成す為のものであるが、その前に互いを大切に思う気持ちがないと、どうやっても空しい行いにしかならない。 
エミシの村で、その事実をアシタカは思い知っていた。 
形こそ違えど、カヤを一番大切に思い、慈しんでいたのだから。 
だからこそ、ここに来るまで下界では女人を遠ざけて来たのだ。 
先ほどのキヨ夫婦の事は、ここの掟を知らなかったため拒めなかったが、これ以上女人を抱くつもりはなかった。 
「そなたが本当に心を通わすおのこと、子を成すべきだ」 
「……そのような者はおらぬ。誰かに心を移した事も…ない」 
エボシはぽつり洩らした。 
揺れる炎(ほむら)に照らされて、微かに俯いた瞳に睫毛の深い影が落ちる。 
頭領の面の内側に、誰にも漏らして来なかったであろうエボシ当人の悲哀を、アシタカは思いもかけず覗いた気がした。 
しかし次の瞬間には、炯々とした強い光を放ちながらアシタカを見つめる。 
「いいかげん観念したらどうだ。女を抱くのに、理(ことわり)など必要あるまい。そなたはただ、私を抱けばいい。…それだけだ」 
その言葉に、アシタカは抗いが無駄である事を悟った。 
自分がどう足掻いても、エボシは本懐を遂げようとするであろう。 
どこまでもタタラの頭領として己を無にする姿は悲壮ですらあり、どこか憎みきれない。 
エボシがアシタカの装束を解き、自らも小袖を脱ぎ捨てる。 
二人はあるがままの姿で対峙した。 
エボシの身体は、錦絵のような美しさである。 
揺らぐ灯に照らされた肌には緑とも青ともつかぬ影が浮かび、白磁の様な色合いを一層妖しく引き立たせる。 
華奢すぎず、豊満すぎず、椀の様な形良い胸に、引き締まった下腹部。 
稜線を描く背中に続く尻はまろく、上向きに引き締まっている様に見える。 
しかしアシタカの槍は反応しない。 
焦れた様に、エボシがアシタカにしなだれかかった。 
その唇を奪いながら、体中を指先でまさぐる。 
その動きは欲情を引き出す手管に長けており、並の男であれば、肉体の見事さへの賞賛も相まって、すぐさまエボシにのしかかるであろうと思われた。 
なのにやはり、アシタカの半身は動かぬ。 
エボシの腑の奥からうたかたの様に浮かぶ苛立ちは、頂点に差し掛かろうとしていた。 
何か…何かが勘に触る。 
どこかこの青年は、エボシの心に軽く爪を立てる。それが鬱陶しくて嫌だった。 
「……女慣れしておるな。では、これではどうじゃ?」 
エボシは、枕元に置いた小さな壷を取り出した。 
中に入っている液体をゆっくり手に移し、肌で暖めてから、アシタカの胸に滴らせる。 
同時に己が身体にも満遍なく塗り、体躯を使って互いの胸から腿までに摺り込んだ。 
「……これは?」 
アシタカが怪訝そうな顔で尋ねる。 
「毒ではない……椿油だ。…案ずるな」 
油にまみれた体の摩擦が少なくなり、全身が粘膜の様にぬめり始めた。 
エボシが自分の肉体を使って、アシタカの体中に刺激を与える。 
身体と身体を隙間なく摺り合わても摩擦はなく、滑りが良くなった肉体が全て性器になったかの様に、互いの感度が鋭敏になる。 
エボシは自分の乳房にアシタカの槍を挟み込み、ゆるゆると扱き始めた。 
肉と肉の合わせ目から、粘着質な音が漏れる。 
初めての異質な感覚に、アシタカの肉茎が耐えきれず勃ち上がって来た。 
それを眺め、エボシは仄暗い歓びに満たされた。 
 
そうだ……どんな男も変わりはせぬ。 
男共にとって、女は快楽の道具、子を生む道具でしかない。 
賢しらにことわりを唱える者であろうが、何の道理も弁えぬ者であろうが、結局は女を組み伏せ、ほとの奥に好き放題欲望を吐き捨てる。 
もう誰かに運命を弄ばれたくない。自分の運命は自分で作れば良いのだ。 
 
エボシは8の歳に売り飛ばされ、13で客を取り、15で倭冦の頭領に身請けされた。 
頭領の傍らにずっと付き従いながら、エボシは心に誓った。 
女だからと男の指図に従い、翻弄されるのが宿命だと諦めるのは止めよう。 
逆に女である事を最大限利用し、天下を手中に納めてやろうではないか。 
エボシは様々な手練手管で男共を篭絡し、今のタタラ場の基礎を作った。 
歳に似合わず、その身体は、並の男であればすぐ陥落出来るほどの性技を身に付けている。 
特に椿油を使った技に耐えた男は未だかつていない。 
これを使うと体中が粘膜と化し、全ての部位に思いがけぬ程の快楽を覚える。 
今まで感じた事のない法悦を味わった男共は、エボシの体を忘れられなくなるのだ。 
アシタカの肉茎も、もうすっかり勃ちきり、天に向かってそそり立っている。 
思った以上に赤黒く雄々しい男根は、エボシが今まで受け止めて来た中でも、比較的大きい部類だ。 
女慣れしている態度といい、少しは楽しませてくれるだろうか。 
膣内に納めている様な淫靡な音が胸の間から漏れ、槍の穂先には透明な液が滲んでいた。 
乾いた紅い唇を舌で湿らせてから、その雫を舐め取る。 
その拍子にエボシの髪が一筋、アシタカの脇腹にはらりと零れた。 
「……っ!…」 
髪の毛が与える僅かな刺激に、アシタカが呻く。 
薄明かりに浮かぶエボシの髪は、漆の様な陰影を讃えながら紫や青に光を放つ。 
おぼろな灯りの向こうに、濃い暗がりだけが息を潜め取り囲む。 
幾重もの髪の毛がアシタカの上に降り掛かり、獲物を捕らえた糸に見える。 
男の身体に取りつくその姿は、恐ろしい1匹の女郎蜘蛛さながらであった。 
捕らえられた餌物は生きて戻れない蟲惑に誘い込まれ、骨までしゃぶられてしまう。 
全ての音すらも吸い込む鈍色の闇。 
その静寂(しじま)の中で、互いの肉を絡ませる音と、獣が吐く短い息遣いだけが響く。 
エボシは体勢を変え、己の乳首とアシタカの乳首を絡ませた。 
すでに勃ちあがり、茜色に色付いた固い胸の蕾を、相手の蕾に丸く漉く様に纏わりつかせ、跳ね上げる。 
同時に自らの女陰の入口を使い、魔羅を擦り上げ追い立てた。 
アシタカの息は荒く乱れ、そろそろ限界が近そうに思われる。 
頃合いと見たエボシが身体を起こし、アシタカの腰骨の上に軽く腰を下ろし、股を大きく広げた。 
「見よ…」 
そう言いながら自ら指で陰唇を左右に割り開き、少し腰を掲げてそこを見せつけた。 
左右に蜜の糸が別れ、とろりとした液体がアシタカの臍に垂れた。 
濃い陰毛に飾られ深紅に色付いた陰穴が、蘭の花の様に綻んで男を誘う。 
先端には紅絹色(もみいろ)のさねが小指の先ほどにふっくらと立ち上がり、灯を受けて艶めく。 
甘酸っぱい雌の発情の匂いが辺りを包み、重苦しい程の質感を伴ってアシタカを惑わす。 
腰を振りながら、エボシは自分の陰穴に指を2本差し入れ、その指を割り開いた。 
陰穴が妖しい音を立て、エボシは自ら膣内の奥までさらけ出した。 
濡れた眼を細め、紅い唇を舐めながら、エボシは息を飲む程淫蕩な笑みを浮かべる。 
さらに良く見える様、エボシがその身をアシタカの鼻先まで寄せた。 
 
…一体何をつけているのだろう。 
その陰穴からは今まで嗅いだ事のない、甘い花の香が漂う蜜がしどどに溢れている。 
紅梅の様に花弁が咲き誇り、その奥に連綿と粒立つ肉の壁が続いている。 
それは艶やかに光って、抗えぬ程の媚態を見せていた。 
「……欲しいか?…」 
アシタカの顔の上に膝立ちで跨がり、見せつける様に揃えた2本の指をそのまま奥までゆっくり差し入れ、同じ様にゆっくりと引き戻す。 
指を差し込まれると共にエボシの膣口が沈み込み、引き出す際にはあらわに襞がめくれ上がるのが、はっきり見て取れた。 
エボシの手を伝った淫水が、アシタカの頬に滴る。 
蜜から漂う甘く重苦しい匂いに、とうとうアシタカの理性が崩れた。 
その尻を荒々しく掴み、陰核に顔を寄せ音高く吸い付く。 
「あ…あぁっ!…」 
頭に体重を乗せ過ぎぬ様注意を払いながら、エボシはアシタカの顔に腰を押し付けた。 
そのまま身体の向きを変えて覆い被さり、自分の芯を晒したままアシタカの槍に唇を寄せる。 
いきり立った茎を優しく絞り上げながら、鈴口を舌の先でほじる様に舐め上げていたエボシは、突然身をよじらせた。 
「んはぁぅ!……あ……っ!…んくっ…」 
晒された自分の芯が、アシタカに嬲られ始めたのだ。 
陰核が舌先で弾かれたり押し込まれるかと思うと、軽く立てた歯で引っぱり出される。 
それと同時に、長い中指がエボシの膣の奥に潜り、柔らかく掻き回された。 
初めて肌を合わせるのにも関わらず、良い場所を探り当てて的確に抉る。 
思わず腰が揺らめいて、エボシは我に返った。 
これではこの青年の種を受け止める前に、自分が果ててしまう。 
急いで身を引き、エボシは逆手でアシタカの男根を掴みながら、女陰に合わせた。 
「アシタカ…夢を見せてやろう…」 
目の前でゆっくりと、良く見える様足を広げたエボシが体を沈めて行く。 
自分の陰穴を押し広げて、青年の大きな雁首が侵入する。 
頭を飲み込んだ刹那、重い感覚が途切れた事に息を付く。 
だが根元に行くに従い、傘と同じ太さに戻る雄物がまたエボシの肉壁を押し広げる。 
再奥まで突き当たり、子宮を押し上げそうになりながら侵入が止まる。 
久々に男を受け止めたエボシの身が、その衝撃に震えた。 
ほう、と小さなため息を洩らし、上目遣いに媚を含ませながら腰を回して馴染ませる。 
一方アシタカも、エボシの肉の感触に息を洩らした。 
媚肉の一粒一粒が、蟲の様に蠢いて肉茎に絡まって来る。 
まるで膣中そのものが意志を持った生き物の様だ。 
こんな身体は初めてであった。 
体が溺れそうになりながらも、とことん嬲って味わい尽くしたい欲望が頭をもたげる。 
こんな狂気に晒されたのは、カヤと初めて交わった時以来だ。 
初花の儀が終わり夫としてカヤに突き入れたあの時、アシタカはけだものになった。 
慈しみたいとしていた義兄の己をかなぐり捨て、初めて味わう義妹の肉に溺れ、その反応を楽しんでねぶりつくしたのだ。 
 
---この女人を狂わせたい。 
 
アシタカが狂ったのだろうか。エボシが狂わせたのだろうか。 
奥から煮える様にふつふつと沸き立つ狂気、その己の内に巣食う獣にアシタカは怯んだ。 
 
全てを晒したエボシが上で動く。 
ひねりを加え、自ら掻き回すように揺さぶり始めた。 
アシタカの男根を根元から絞り上げるかのように、膣壁の肉粒がざわめき十重二十重に絡み付く上に、亀頭・茎・根元の三ヶ所を絶妙の具合で締め付ける。 
早い男ならば、一瞬で噴き上げてしまいそうな心地良さだ。 
「……あぁ…好い……そなたのは、大きくて、固くて…奥まで届く……んうっ!…」 
揺れ動く腰に合わせ、胸が弾む様に上下に震える。 
太い雁首がエボシの内側から湧き出る泉を掻き出し、めくれ上がった膣口から泡立った淫水がアシタカの下草に零れ落ちた。 
「……ああ…あ…いい……好い…っ…」 
段々動きを早め嬌声を上げるエボシを、アシタカは焦れながら眺めた。 
肌を合わせていると、エボシが高ぶりを演じているのが判ってしまう。 
やにわに胸を掴み、油の滑りに任せながら揉み出すと、一瞬エボシが驚いたように目を開けた。 
尖った先端を扱く様に擦り上げる。 
油のぬめりがエボシをも敏感にしているのだろう。 
尖りを弄ると膣壁がきつく締め付けた。 
「……上で動くぞ、エボシ殿」 
エボシの応(いら)えを待たず、アシタカは身を起こした。 
繋がり合ったまま、エボシをそっと褥に横たえる。 
アシタカの腰に足を絡み付かせ、エボシは下から腰を動かし始めた。 
「ああ……あぁ…早う……早う…好いっ!……」 
胸に指先を這わせ、少しでも早くアシタカを噴き上げさせようと嬌声を上げる。 
その動きを物ともせず、アシタカはエボシの胸をもて遊びながら、耳朶に唇を寄せた。 
甘く噛み耳の穴を紙を漉く様にそっと舐める。 
それと同時に胸を掬い上げる様に揉み、親指で勃ち上がった蕾を押し込む。 
「……ふ…っ!んぅっ!……」 
エボシの体躯が魚の様に跳ねた。 
「あぁ…その様に弄ばれては…すぐさま達してしまう……」 
言葉には答えず、アシタカはエボシの足を掴んで肩にかけ、そのまま体を倒す。 
締まりがさらにきつくなった。 
先にトキ夫妻と二本挿しで出していなければ、とうにもたないかと思う程良い。 
再びゆっくり抜き差しを始める。 
体で胸にも同時に刺激を与えながらエボシの膣中を探り、中の粒が揉みしだく様にきつく絞り上げる箇所を見つけた。 
腕で腿を体に折り曲げたまま体を離したアシタカは、やにわに荒腰を使い深く浅く責め立てる。 
「ああっ!!……あ、あ、ああぁ!!」 
驚きにエボシの目は見開かれた。 
性技を覚えてから後は、どんなに遅い男でもあまり持たせず絞り上げていたのに。 
しばらくそのような睦言を行なわずにいた為、自分の腕が錆び付いたとでも言うのか。 
慌てて意識を集中させ、中を動かし放出を促す。 
しかし今のエボシにとってそれは諸刃の刃であった。 
意識を集中させる事によって、返ってアシタカの槍が自分のよき所を暴き立てるのが判るのだ。 
長大な逸物が奥の奥まで掻き回し、びっちりと塞がった壁の全てに刺激を与えられる。 
引き出される時には壁を裏返して引き出される様だし、突き入れられる時には肉を掻き回し押し込まれる。 
その合間に油で敏感になった胸を弄られ、陰核を捻る様に押し込まれた。 
少しでも反応を見せれば、そこに容赦なく強弱を付け追い立てられる。 
「…ふっ……んうぅ…あ………っ!……」 
客に対する閨での口上を述べる余裕は消え失せ、エボシは息を吐くたびに自然と漏れるわずかな声だけをか細く洩す。 
どちらも体中から汗が噴き出していた。 
今やエボシの身体は、どこに触れられても跳ね上がる程敏感になっている。 
奥から込み上げる大きなうねりに、せめてもと締め付けを強めた。 
アシタカの顔が歪む。 
「あ……ぁあ………かはっ!………ぐぅっ!!……」 
今まで感じた事のない法悦境に押しやられ、それでも自らの行持ゆえに、エボシはかろうじて声を押さえた。 
だがその体は震え、足先まで強張ってアシタカに到達を告げる。 
一瞬の後に弛み解け、ようよう荒げた息を継いだエボシはふと気付いた。 
 
この男は、まだ精を吐き出していない。 
 
驚いて身を起こそうとしたエボシの身体を押さえ、再びアシタカは抽送を始めた。 
これではすぐに次の波が来る。 
僅かに首を横に振り、おののく様に上げた手を褥に縫い付けられた。 
頬に張り付いた髪を梳き、耳元に僅かに唇を落しながらも、アシタカの動きに容赦はなかった。 
エボシを責め立てる水の音が夜の闇に溶けていく。 
「…はっ!……あ、あ、あぁぁっ!……」 
激しく突き動かされながら肉芽を摘まれ、また大きな波に押し上げられる。 
閉じた瞼の裏に火花が散り、身体が意志に反して大きくひきつけた。 
未だ中は子種を受け止めずにいる。 
胸を強く揉まれ、また動き出す。 
「……も…もうっ…来て……出してぇっ!…」 
余裕をかなぐり捨て、耐えきれずにエボシが叫んだ。 
「…それでは、もう暫し堪えて下さい……」 
そのまま、今までの強弱を付けていた動きが変わる。 
奥を突き破るかのごとき重い衝撃が子宮の奥まで響き、エボシは大きく反り返った。 
荒々しい動きで、アシタカが体内を容赦なく貪り始める。 
のたうつ様に体を震わせても、エボシに逃れる術はなかった。 
愉悦の波が恐ろしい程何度も込み上げる。 
繋がり合った体の奥から隅々まで、その身を紅蓮の炎が舐め尽くした。 
「ひぃっ!……あ、あ、あっ、また…っ!!」 
何度達しても、くずおれても、もうアシタカが動きを緩める事は無かった。 
逃れようと足掻いても体は痺れきり、なのにヤスリで削られた様に鋭敏になった感覚が、エボシを数限りない頂きに登らせる。 
もう、何刻経ったかすら定かではない。 
並の女であれば、とうに陰部が腫れ上がるか、緩まって使い物にならなくなっているはずだ。 
いや、どのような気丈なおなごでも、このまま朝まで責め苛まれると色に狂うであろう。 
それほどの快感が絶え間なく降り注ぐ。 
自分の快楽を優先し始めたアシタカも、エボシの様子が変わったならば、すぐに止めたかもしれない。 
だが不幸にも、肉体が荒淫にも慣れているため、膣が緩まりきる事もなければ、気狂う事も叶わないのだ。 
あまりに何度も達するので、ほんの少し擦られただけで体中が意思に反して応える。 
すでにエボシの望みはアシタカの子種ではなく、我が身を根こそぎ喰らい尽くす、この甘い拷問が終りを告げる事でしかない。 
落ちる事のない悦楽の連鎖に理性は少しずつ剥がされ、絶頂が絶頂を洗い流し、息つく暇さえ許されぬ。 
終りない歓びの底に潜む苦しさというものを、生まれて初めてエボシは知った。 
互いの体中から汗が噴出し、繋がり合った所から体液が止めどなく溢れ、全てが蕩けて混ざり合っていく。 
「ああぁぁあっ!!…も、もうっ…止め……やめてぇっ!」 
髪を振り乱し、麻痺した身体をゆすぶって、とうとうエボシは音を上げた。 
とうとう感情が壊れ始めたのか、その眼から珠のような涙がとめどなく零れ落ちる。 
一瞬アシタカは怯んだ。 
しかしそれと同じぐらい、エボシを征服した感に臓腑の奥から震えが走る。 
もう己の欲望を止める事など出来ない。 
引き絞られる様な動きを見せるエボシの膣中から、自分の肉杭を無理無体に引き剥がし、アシタカは最後に向かってさらに動きを早めた。 
「ゆるして…ゆるしてぇ…やぁぁっ!あ、また…またぁっ!いやあぁぁぁっ!!!」 
童のごとく頭を揺り動かしたかと思うと、いきなりがくりとエボシの動きが止まった。意識が途切れてしまったようだ。 
本人の状態とは裏腹に、媚肉だけが痛い程締め付ける。 
その奥に、ようやく満足したアシタカは、熱い迸りを思う様注ぎ込んだ。 
 
ーーーつづくーーー 
 

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