森を抜けると、湖のまん中に大きな建て物が見えて来た。  
タタラ場と呼ばれる大きな製鉄所だ。  
タタラの人間とは知らずに男達を助けた事を、内心神に感謝する。  
まさかこのような所とは思わなかった。ただ来ただけでは中に入る事すら叶わぬだろう。  
ちらりと見ただけでも、難攻不落の城を思わせる厳重な建て物だった。  
小舟を使って門戸を潜ると、大勢の住人に迎えられる。  
驚く者。喜ぶ者。悲しむ者。いぶかしむ者。睨み付ける者。  
様々な人々の思惑と熱気の渦にアシタカは囲まれた。  
甲六と呼ばれる者が、他の人々に抱えられて舟を降りる。  
道中背負っていた男も、石火矢衆と呼ばれる仲間達が受け取り、生還した事を喜んでいた。  
とりあえず、アシタカが二人を助けた事はここの住人に喜ばれたようだ。  
タタラの人間であるなしではなく、エミシの村を出てから初めて、他の者の役に立った事がアシタカには嬉しかった。  
誰にも会わぬ事は苦にならないが、誰からも必要とされぬ事がどれほど苦しいのか、アシタカはこの旅で初めて知ったのである。  
ヤックルの背に乗せていた甲六は、威勢の良い妻に叱咤されている。  
そのやり取りにさんざめく人々の輪の中から、ひときわ目を引く女が現れた。  
どうやらこの女性が、ここの頭領のようだ。  
他の者が、エボシ様と呼ばれるその人を敬い慕っているのがすぐ判った。  
少しトウが立っているが、漆の様な黒髪に赤い唇の美しい女人である。  
その人が一言『客人』と呼んだ事で、タタラでのアシタカの扱いが決まったのだった。  
 
 
「……ねぇ、ちょっとちょっと」  
トキと呼ばれる女が、牛飼いの小屋に案内されたアシタカの袖を引く。  
死んでしまった者を弔う事と急な客人を迎える準備で小屋は慌ただしく、アシタカは手近にいた者に暇乞いをしてトキの後に続いた。  
 
後について行くと、小さな長屋に案内される。  
ぐいぐいと手を引っ張られ、アシタカは中へ足を踏み入れた。  
中には甲六が、布団に横たわっていた。  
「ここは、あたしらの家なんだよ。遠慮しないで上がっておくれ。牛飼いの男共と来たら、すすぎ水もやらずに気が効かないったら…」  
そう言いながら、トキはアシタカに手と足をすすぐ為の手桶を運んで来た。  
その桶をありがたく受け取り、手と足をゆすぎ、差し出された布で拭き取る。  
見渡すと、入り口の脇に小さいながらも煮炊き用の釜があり、三和土を上がると一間の板の間があるだけの小さい家だった。  
「甲六とやら、具合はどうだ?」  
甲六の傍に座り、アシタカは問いかけた。  
「へへへ…旦那のお陰で命拾いをしやした。後二〜三日もすりゃあ、すっかり元通りでさぁ!…あぅ!……いてて…」  
甲六は身を起こそうとして、低く呻く。  
「それは良かった。骨が折れているのだ、まだ動かない方がいい」  
アシタカはその身を押しとどめた。  
そのアシタカに、後ろからトキがいきなり覆いかぶさって来る。  
驚いて振り返ると、トキは素裸だった。  
殺意がないのは気配で判っていたが、そうでなければ腰の刀を抜いている。  
「何をする…!」  
「んふ…大丈夫、何もしやしないよ。ただ……亭主を助けてくれた礼をしなくちゃいけないからさぁ…」  
トキの瞳に好色そうな光が浮かんでいた。  
クネクネと上体を揺らめかし、手がアシタカの肉茎をまさぐる。  
「そなたはこの甲六の妻なのだろう?これは道議に叶うまい」  
「大丈夫だよぉ。この馬鹿亭主もちゃんと承知してんのさ…。緊張してんのかい?ここが縮み上がってるじゃないのさ。…ああ……でも、楽しませてくれそうで嬉しいよ…良い男だしね」  
甲六を見ると、にやにやしながら頷いている。アシタカは吃驚した。  
うっとりとした顔でトキが下履きをずりおろし、まだ勃ち上がっていない肉を濡れた布で浄めてから舐め始めた。  
「……止めろ。私はそなたとまぐわう気はない」  
アシタカは懸命にトキを押しとどめるが、トキの動きは止まらない。  
「まぁまぁ旦那、ほんの気持ちでさぁ。…トキ、丁重におもてなししろよ」  
のんきそうに甲六が声をかける。  
ここではその様な決まりでもあるのだろうか?余所者のアシタカに解る訳もなかった。  
 
下手に断って気を悪くさせた場合、他の者にどのような仕打ちを受けるのかも全く解らない。  
「あんたぁ…この旦那のは、あんたよりよっぽど大きいよぉ……んむぅ、んぐ…」  
舌の先に唾液を乗せ十分亀頭を濡らし、右手で余った茎を擦りながら、左手で玉袋を弄ぶ。  
アシタカは抗う事を諦めた。ここは二人の言葉を信ずるより他に術が無い。  
立ち上がり始めた肉茎に歓喜の声を上げながらじゅるじゅると啜り上げつつ、トキは自らの秘裂を指で慰めて入れる準備を始めた。  
「あぁ、おっきいね…旦那はひょっとして、初めてじゃないのかい?」  
アシタカは頷いた。すでにトキは、こちらが何もしていないのに滴る程興奮している。  
肉を喉奥まで飲み込んだ目元が薄赤く染まり、自分の秘裂を慰める泥濘の様な音が小屋に響く。  
横で甲六が、ぐびりと喉を鳴らした。  
「ね、ね、もう入れていいだろ?」  
息を荒くしたトキが、アシタカの答えも聞かずに上に股がり、肉茎を手に取って自らの秘肉に埋めていく。  
仕方なくアシタカは入れやすい様に足を解き、後ろ手を付いて体勢を調えた。  
もう溢れている蜜に助けられ、トキの秘裂はあっさり最奥まで剛直を飲み込んでいく。  
納め切った肉壁が、その刺激にぶるりと弾けた。  
見ると、トキは上で惚けた顔で涎を零し、細かく震えている。  
「……お、おいっ!トキ、良いのか?……俺より良いのか?」  
興奮しきった声で、甲六がトキに尋ねた。すでにその股間も膨らみ切っている。  
「……あぁぁ、好い…っ!あんたよりおっき…ごりごり固くて…っ!…奥まで届いてるよぉ」  
トキは自分で胸を揉みしだきながら、腰を大きく動かし始めた。  
熟れた実の様な柔肉が柔らかくアシタカの槍を包み込み、蕩け切った蜜が止めどなく溢れて零れ落ちる。  
トキが自らの乳首を口元に寄せ上げ、丹念に舐め始めた。  
その下では、己の陰芯を指でまさぐり、ぐりぐりと押し潰しながら自分で腰を回す。  
「あんたぁ…見てる?おっきいので串刺しにされて、あたしのが一杯に広がってる…ほらぁ…ほらぁ…っ!」  
「おお…こっから良く見えるぜ…いつもより濡れてるじゃねえか」  
アシタカは密かに呆れていた。  
これではお礼と言うよりも、単に自分の体を夫婦和合の手段に使われているだけだ。  
 
その身体も、解け熟れているが、カヤに慣れ切った身には大味に感じられる。  
「ああ、あ、んあぁっ!…好い…っ!好いよぉ…おっき…の、が、お、奥に当たって…ひぃぃっ!…あんたぁ…の、より…好いっ!…」  
アシタカの肩に手をかけ、トキが狂った様に腰を叩き付けて来る。  
その尻肉がアシタカの腰骨に当たり、激しく音を立てていた。  
秘裂からは泉の様に蜜が溢れ、叩き付けるたびにびちゃびちゃと巻き散らかされる。  
「…も…もう、我慢ならねぇ…。だ、旦那、俺も混ぜてくだせぇ…っ!!」  
「あぁ…嬉しい…来て……来てぇ!」  
トキはアシタカに胸を押し付け、うつ伏せになった。  
自分から足を広げ、尻の肉を手で広げて菊穴の奥までさらけだす。  
「待て…甲六はまだ身体が直っていないではないか」  
アシタカが二人の動きを遮った。トキの秘裂から自分の肉茎を抜き取り、体を起こす。  
「私はもう良い。このまま二人でまぐわいなさい」  
そう言ってトキの体を甲六の方へ向けると、二人は顔を見合わせた。  
「いや…そんな訳にはいかねぇ!いったい、俺の女房の体は、あんたの気に食わなかったとでも言うんですかい?」  
甲六は気色ばんだ。まぁまぁと言う様に、トキが取りなす。  
「旦那…アシタカ様だっけ?きっと、二本刺しの経験がないから嫌だったんじゃないのかい?」  
そう言ってからからと笑う。アシタカはこの流れに戸惑った。  
「そなたの女房が嫌だった訳ではない。しかし、このまま噴き出してしまって、トキが私の子を孕んでしまっては困るだろう?」  
しかつめらしく理を唱えるアシタカに、二人はほぼ同時に吹き出した。  
「旦那は御存じないんだろうが、ここの女共はほとんど、一度はどこかに売られて客を取っていた女ばかりだ。全部がそうだとは言わねえが、一度様々な男の味を毎日知ってしまった女ってのは、そうそう引き返せねえんでさぁ」  
その言葉に、アシタカも思い当たる節があった。  
エミシの村でも、確かに一部の女には夫だけで満足出来ない者がいたのだ。  
あそこ特有の儀式が貞操観念を狂わせているのだろうと思っていたのだが、ひょっとしたら下界の方が掟に縛られぬ分禁忌が少ないのかも知れぬ。  
 
「前の穴がお嫌なら、後ろの穴を試して見るかい?二穴が駄目なら、うちのには口でやれば良いんだし」  
トキは平然と言い放った。  
「おいおい…それはないだろうがよ。俺ぁお前の為に身体張って、命からがら帰って来たんだぜぇ?」  
「あんたは後で幾らでも楽しめるじゃないさ。そもそも、これはアシタカ様に対するお礼なんだからね」  
「何言ってやがんでぇ!亭主そっちのけで、てめえばっかり楽しみやがって!!」  
二人の掛け合いに、アシタカは笑い出したくなった。  
どうやら、他の者がトキを抱こうが孕もうが、この二人には関係なさそうだ。  
そして、アシタカが気を遣るまで、この者達は納得すまい。  
「もうその辺にするんだな。…それでは私は後ろにしよう。甲六、そなたはまだ本調子ではないのだ、無理をしてはいけない。そのままで待ちなさい」  
そのままアシタカは、トキを甲六の足元に移動させた。  
トキは嬉しそうに甲六の服をはだけて、勃ち上がった肉茎を布で拭い口付ける。  
アシタカも、着たままだった自分の装束を解き、部屋の端に片付けた。  
うずくまって甲六の槍を頬張るトキの後ろから、その菊門に指を差し入れる。  
「んあぁぁっ!…あ、ふぁっ!…あ、あんた、後ろ初めてじゃないんだね…?」  
そういうトキの菊門も、何度も男を受け入れた形跡があった。  
アシタカはトキの秘裂から溢れる蜜を指に掬い、菊門の奥まで塗り込めていく。  
すでに直腸にも準備がなされてあった様だ。何の汚れも付かず、指が奥の奥までめり込む。  
指を二本に増やし、秘裂に差し込んで蜜を掻き出す。  
その液体を使って菊門が柔らかくほぐれる様に深く抉ると、トキの反応が激しくなった。  
「あん!あ…ひゃあ!……相当女慣れしてるんだね…っう!!…あぁ、もう…っ!」  
もう秘裂からは新たな蜜が止めどなく溢れ、トキの太腿を伝って布団にまで零れている。  
頃合いと見たアシタカは、四つん這いになっているトキの菊門に己が槍をあてがった。  
「…いくぞ」  
 
そう声をかけトキの腰を掴むと、じわじわと門の奥へ進む。  
「ひぎぃぃっ!…ふぁ!…お、おっきぃ…っ!!…あぁ…いっぱい広がってるぅっ!!」  
トキの表情が愉悦と苦悶に震えた。奥まで収まった瞬間、その秘裂から蜜が滴り落ちる。  
そのままアシタカはトキの膝裏に手を差し入れ、子供の小水を助ける様に持ち上げた。  
「あひぃぃっっ!!お、奥まで刺さるぅっ!…好いっ!…こんな…っあぁっ!!…」  
自分の体重でさらに奥の奥まで刺し貫かれ、トキが白痴の様な顔で軽く気を遣った。  
「…す、すげぇ…」  
甲六の目の前に、裏門を貫かれたままの妻の秘部が余す所なく晒される。  
「そのまま…今やるぞ」  
アシタカはトキを抱えたまま膝行(いざ)って、甲六の肉茎に秘裂を合わせた。  
「トキ…本当に大丈夫か?」  
アシタカの問い掛けに、惚けたままだったトキが息も絶え絶えに答える。  
「だ…大丈夫……あぁぁ!…もっとっ!どうにかしとくれぇ!…あんたぁ…いくよぉ…」  
「旦那ぁっ!は、早う頼んまさぁ……」  
期待に満ちた甲六の喘ぐ様な声に後押しされ、アシタカはそのままトキの体を沈めて行く。  
「ああぁぁぁっっっ!!!あ、あ、来るぅ!あんたのが…奥まで来るぅっ!!」  
二本刺しの刺激に、トキが悲鳴をあげながら痙攣した。  
薄い肉の壁を隔てて、甲六の肉が侵入するのがアシタカにもよく判る。  
奥まで納め切るとトキの肉が震えながら収縮した。  
「すげ…っ!トキぃ…お前、いつもより好いぞ…こりゃあ…持ちそうにねぇ…っ!」  
「何言ってんのさ…っ!…あぁん!た、頼むから…もうちょっと辛抱しておくれよぅ!」  
二人の男に奥まで犯され、しどどに蜜を垂れ流したトキは狂った様に腰を捻り、さらに貪欲に快楽を絞り上げようとする。  
菊門で交わる時には、あまり大きく動かしてはいけない。  
アシタカは少し動いて奥だけに刺激を与え、後はトキのなすままに任せた。  
トキは腰をぐるりと回し、壁越しに肉茎同士が刺激し合う様に自分から掻き混ぜる。  
「トキぃ!お、おらぁ、もう…もうっ!…」  
「あ、待ってっ!…もう少しで…あたしも…っっ!!…いいっ!あ、ああぁ!!」  
甲六の肉が爆ぜる刺激が、肉壁越しに伝わった。  
 
トキの腸壁も、痛い程きつくアシタカの槍を締め付ける。  
アシタカはトキの膝裏をまた持ち上げ、抱え上げたまま膝立ちになった。  
にゅるりと秘裂から肉を吐き出し、後ろを串刺しにされたまま嬲られる光景が、甲六にもまざまざと見える。  
「ひぃぃぃっ!!いぃっ!…あぁ…アシタカ様ぁ、前に、前に入れてぇっ!!」  
狂った様に懇願するトキに、アシタカは静かに告げた。  
「それはならぬ。余所者の私がほとに注ぐのはいけない。ここには甲六の子種のみ注ぐべきだ。…そなた達は、早く子を成した方が良かろう」  
そう告げてアシタカは、甲六に見せつける様にゆっくり菊門に突き入れた。  
余程我慢が成らぬと見え、トキが自分で自らの秘裂に指を差し込み、慰め始める。  
それは今まで甲六が見た事も無い淫靡な光景だった。  
目の前で抱え上げられたトキの裏門に、深々と肉の槍が突き立っている。  
ゆっくりと揺さぶられる度に、重みを讃える胸がぶるりと波立ち震える。  
涎を垂らしたままのトキが野獣の様な悲鳴を上げ、自分の蜜壷に指を差し込み掻き回す。  
真っ赤に焼けただれた秘裂からは、先ほど注ぎ入れた白濁とトキ自身の淫水が白く泡立ち、泥濘の様な重い音を立てながら甲六の臍に滴り落ちていた。  
栗の花の様な雄の匂いと、雌特有の蜜の匂い、互いに吹き出した汗の匂いが混じり合い、濃く渦を巻いて辺りに立ち込めている。  
知らず知らずの内に、甲六の肉茎は固く蘇っていた。  
何度も唾を飲み込んで、興奮に掠れた声で甲六が声をかける。  
「だ、旦那…もう一度、俺の魔羅をこいつに入れてくだせえ…っ!」  
結句、甲六が三度トキの奥に注ぎ込み、アシタカも後ろに一度注ぎ込んで礼は尽くされた。  
 
 
夕刻を迎え、アシタカは牛飼い達の小屋に招かれ、通夜の席についた。  
死者に礼を尽くす為の白米が供され、男達と共に精進の馳走を食す。  
その席で漏れ聞いた話により、おぼろげながらアシタカにも今回の禍根の元が見えて来た気がした。  
どうやらエボシはタタラの人の為に、他の生き物を踏み潰してでも進むつもりの様だ。  
いや…本人の話も聞かず、得手勝手に決めつけまい。  
エボシの本意がどこにあるのか見定めたい、とアシタカは思った。  
 
そのエボシ本人から礼を述べたいと告げられ、アシタカは本丸にも似た屋敷に通された。  
呼ばれた場所に赴くと、エボシは筵に詰め込まれた製鉄の質を確かめている。  
当時この国で盛んに行われていた製鉄法は、砂鉄を採取し熱し鍛えた「玉鋼」と呼ばれる物であり、その技で製造された鉄は、世界中から見ても引けを取らぬ純度の高さを誇っていた。  
日本刀が世界一の切れ味を誇るのも、一重にこの製鉄法の故である。  
その技法で造り出された鉄塊は、今の製鉄技法を駆使しても及ばぬほどと言われ、それ故に、現在日本刀を鍛練する人間は古代に作られた鉄を純金やダイヤよりも尊ぶ。  
但しその製鉄の過程であるタタラ踏みは男でも音を上げる重労働であり、作業の重さとその鉄から生み出される物への神聖視も相まって、女人禁制が通例であった。  
その禁忌を敢えて犯し、神をも恐れぬと噂される女性。  
しかし、鉄を見つめるその横顔は思いもかけず穏やかで、タタラの人々に対する木目細かい愛情すら見て取れる。  
旅の理由を問われたアシタカは、見定める意味も込め、エボシに祟られた右腕を晒した。  
隣に控えたゴンザがそれを見て動転しても、エボシは一切怯まない。  
さらに『曇りなき眼で見定め、決める』と目的を告げると、呵々大笑された。  
だが、アシタカを馬鹿にした訳でもないらしい。  
アシタカはエボシに案内され、タタラ場の奥にある秘密の小屋へと通された。  
そこには、石火矢と呼ばれる大筒の作り方と引き換えに、異国から疫病を移された職人達がいた。  
 
 
この国は、諸外国の技法を盗むのに長けた国であったが、長らくボルトの仕組みの概念を持たず、それを組み合わせる事で鉄をからくる技術が得られなかった。  
簡単に言えば、ねじの組み方・外し方を知らないので、鉄製品を分解してその仕組みを覚える事が叶わなかったのだ。  
大量の金銀財宝と引き換えに、勿体ぶった異人から一挺の古びた鉄砲や石火矢を手に入れる。  
それがどれほど馬鹿らしい取り引きか、誰もが判っていた。  
諸国大名や上つ方は職人達に、[どの様な手段を持いても良いので、鉄砲・石火矢のからくりを会得せよ]と命を下す。  
もちろん、成功した暁には地位と財産が保証される、との甘言付きで。  
 
異人達は、ここに来るまで長い時間をかけ、海を渡ってやって来る。  
その間ずっと手に入らず、喉から手が出るほど欲しがるものがあった。  
彼等が望んだのはただ一つーーー職人達の若い妻や適齢期の娘の肉体である。  
職人達は泣く泣く、屈辱を押さえて妻や娘達を異人に差し出した。  
反面、これで鉄砲・石火矢の技が得られると、内心では小躍りして喜んだのも事実だ。  
ほんの少しの辛抱で後には輝かしい未来が待っているのだと、妻や娘には言い聞かせて。  
お陰で鉄砲や石火矢の技法を知識として取り込んだが、異なる物も身に取り込む事となった。  
Treponema pallidum subsp. pallidumーーー日本病名・梅毒。  
もちろん、鉄砲鍛冶職人だけが異人から梅毒を貰っている訳ではない。  
遊女達にも羅患した者は数多く、そこから国中にあっという間に広まった。  
しかし、遊女は年期が終われば野に下るが、職人は自ら極めた職種を変える事がない。  
他職種の者達に比べ、遊女と鉄砲鍛冶の発病者が突出して顕著なのは否めなかった。  
ましてや発病して暫くたつと体全体に、はた目にもはっきり判る薔薇状疹、疣状丘疹、梅毒性乾癬を経て、最終段階にはゴム腫と呼ばれる病状が肌表面に出る。  
ゴム腫とは皮膚の柔らかい部分に弾力が無くなり萎む、俗に鼻が取れると言われている状態である。  
それを超えると、心血管、脳、脊髄に異変をきたし、死に至る不治の病。  
その病状に至るまでにはかなり時間が経過し、その原因が何年も前の異人との性交だとは解らなかった。  
結果、辛い決断を下し、身内の犠牲を払ってまで直接技法を手に入れた初期の鉄砲鍛冶達は、薄気味悪い不治の病を移す輩と忌み嫌われ、命じた上つ方から石以て追われる羽目に陥ったのである。  
技法を手に入れた時には熱狂的に受け入れ、下にも置かぬ扱いであったのに、他の職人に伝授がなされ、自らの肉体に変化が訪れると手のひらを返して追放する支配者達。  
あからさまに見た目が違うのでどこでも蔑まれ、安住の地は無く、流浪を余儀なくされ。  
自らの業をあがなう運命と呼ぶには、あまりにも過酷な末路であった。  
 
 
小屋を出て、さらにアシタカはこじんまりとした私室に引き込まれた。  
女性らしいが、婆娑羅の様な姿に反して華美な品はさほどなく、品の良い慎ましい部屋だった。  
上座に座らせられ、当時はまだ珍しい茶をふるまわれる。  
「そなたはどうやら、下々の有象無象ではなさそうだね」  
茶を啜りながら、エボシはそう切り出した。  
「私は誰もが安らかに住まい、飢え乾く事なく、誰かからさだめを勝手に決められる事のない、自分で何でも自由に決める事の出来る豊かな理想郷を作りたいのだよ」  
「…だから、森を切り刻み、焼き払うと言うのか?」  
アシタカは眉を潜めた。  
非難する様な言葉に、エボシは正面から挑戦する様な鋭い目でアシタカを見返す。  
「そうだ。皆、神などと言うものを畏れ、その為思う様事を成さぬ。人が豊かに生きる為には神なぞ必要ではない。ましてや獣や樹など、多少の犠牲はやむを得まい」  
「それは違う!人とて、獣とさほど変わりはせぬのだ。確かに生きる為には木を多少刻むのもやむを得ないだろう。しかし、自らが生きる為の必要以上を壊し、足蹴にするならば、いつか人は担いがたい重荷を背負う。畏れを知らぬ生き物は、いつか滅びる」  
アシタカの言葉に、エボシは高らかに笑い出した。  
「…は……そなたの国は、余程世に交わらぬ所なのだな。いや、すまぬ…」  
くつくつと笑うのを茶で漸(ようよ)う飲み干し、エボシは居住まいを正した。  
「この世は今、混沌の海に沈もうとしている。その世が生み出す心の荒みから抜け出す為に、人に必要な物のひとつは富だ。衣、食、住。この3つが足りて、初めて人は獣から抜け出せる。人と獣やもののけは違う」  
「私にはそうは思えぬ…。…人もけだものも同じ地上に住まい、何らかの命を喰らい、次に命を繋ぐ為交わる。……何ひとつ、違っては見えない…」  
アシタカは首を振って憂えた。  
その姿を、エボシは苦笑と憧憬を交えた複雑な表情で見つめている。  
アシタカの考えを全て否定する訳ではない。  
しかしその考え方は、タタラの民の為にエボシが切り捨てた理論であった。  
今のタタラには、はっきりと足りない物がある。  
現実をひた向きに進むだけでまだ追い付いていない、それは理想と摺り合わせた掟だ。  
(この若者であれば、民を踏み付けぬ、豊かな地の為の理想を創れるかも知れない)  
エボシは茶碗を脇に寄せ、アシタカの傍に歩んだ。  
「ならば、私と交わってみるか?人ともののけとの違いが判るであろうて。丁度、私はこの血を受け継ぐ子が欲しいと望んでおった。だが夫を娶って頭領に据えたくはない。ここに住まう男共から子種を受けるのも、軽んじられると思っていたのだ」  
そう告げてエボシはアシタカの前に座り、まるで首を改めるかの様に腕を伸ばして来た。  
おとがいに手をかけられても、アシタカは動じる気配が無い。  
それを見据えたエボシの身の奥に、微かに苛つく様なざわめきが沸き上がる。  
エボシは挑む様にアシタカの唇を軽く噛み、鋭い瞳の奥に煌めく光を隠さずに睨む。  
「……そなたの子種、貰い受けようぞ」  
そう言って、エボシは不敵に笑った。  
ーーーつづくーーー  
 

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