初めて見る下界は、殺伐と荒廃が砂の様に混じり合う世界だった。  
戦、強奪、立ち上る炎。穏やかに日々が過ぎている村とは、時間の流れすら違う。  
(里へ降りたのは間違いだった…)アシタカは後悔した。  
事を荒立てるつもりが一切なく、ただその場を通りたいだけだったにも関わらず、それすらも鎧武者の男達は許してくれないのか。  
行き掛り上、アシタカはやむを得ず二人の侍を撃ち殺す羽目に陥った。  
人を殺めた瞬間、呪われた腕が疼いてざわざわとざわめいた。  
諍いの及ばぬ場に辿り着き、水で冷やす為に袖をめくると、祟られた腕の痣が濃くなっている。  
山間からタタリ神の足跡を辿り、ずっとヤックルと歩いて来たが、すでに干し飯が底を尽き、弓で得る餌物だけでは体に無理が生じて来ている。  
里の市で米を求めると、山伏風の男が近寄って来た。  
今までアシタカが見た事のない不可思議な男は、ジコ坊と名乗る。  
あまり余計な事は話すまい。自分の言動で、村に災いが降り掛かる様な真似はしたくない。  
村を出奔する時に心に決めた、自分への戒めだ。  
ジコ坊は、何かとアシタカを試す様な探りを入れて来る。  
己の装束やヤックルなど、どれも里では珍しい物なのだろう。  
(ことさらに警戒はすまいが、このご仁にはあまり深入りせぬ方が良いだろう)  
しかし必死にジコ坊は食い下がって来、とうとう共に夜明かしする事になった。  
 
焚き火にあたり、共に夕餉を囲みながら、アシタカはジコ坊につぶてを見せた。  
ジコ坊の話によると、このつぶてはどうやら『タタラ場』という所で作られた物らしい。  
タタリ神になった巨大な猪は、どうやらシシ神の森から生ずる獣だったようだ。  
祟りを負った身で、いずことも知らぬ地をあてどなく探す。  
野たれ死ぬ覚悟をしていたアシタカに、初めて光明が射して来た。  
(明日からタタラ場とシシ神の森を目指してみよう)アシタカは心に決めた。  
ガサリ、と薮から大きな音がし、アシタカとジコ坊は慌てて身構える。  
「誰だ」  
草の影から出て来たのは、昼間米を買った女だった。  
「…驚いたな。女、よくここを突き止めた物だ。なぜここに来た?」  
ジコ坊が驚いた声で尋ねた。  
「売りに来たのさ」  
その言葉にジコ坊が立ち上がり、燃える薪をひとつ掴むと姿を消した。  
 
ガサガサと辺りを探る音がする。  
先ほどの事があったばかりだ、仲間が潜んでいるかもしれぬと思ったに違いない。  
敵に回したくない男だ、とアシタカはつくづく思った。  
「売ると言ったが、米だろうか?…そなたには申し訳ないが、米はもう十分だ。あまり多くては、道中の妨げになってしまう」  
アシタカは静かに拒んだ。女は落胆した様子もなく、ニヤニヤ笑っている。  
ジコ坊が戻って来た。どうやら他に潜んでいる者はいなかったようだ。  
「女、幾らだ?」  
「あたしは高いよ。…砂金三粒」  
「高いな。一粒」  
「冗談じゃ無いよ!お客はどいつも、あたしの体を知ったら病み付きになるんだからね」  
二人のやり取りで、ようやくアシタカにも事情が飲み込めて来た。  
どうやらこの女は春も売っているらしい。  
言われてみれば、米のみを売る女にしては独特の色香があった。  
「待って下さい。私はこの者を買う気はない」  
慌ててアシタカはジコ坊を遮った。砂金とて無尽蔵に持って来た訳では無い。  
大切に使わなければすぐ底をついてしまうだろう。女にも言い聞かせなくては。  
「…女、無駄足をさせてしまったが、諦めて、とく帰れ」  
「このままで引き下がれないね。…この人が駄目なら、あんたでも良いよ」  
女はジコ坊を見やった。ジコ坊は品定めをするように、女を眺めている。  
「銭なら幾らで売る?」  
ジコ坊の言葉にアシタカは驚いた。仮にも僧侶の身で、女を買うなどとは信じられぬ。  
「そうさねぇ…100文でどうだい?」  
「高いな」  
「じゃあ、前金で50。満足したら、残りを寄越しな」  
余程自信があるのだろう。バッ、と勢い良く女が胸元をはだけて見せた。  
張り良くたわわに実った乳の先端に、赤い実が尖ってぷるりとふるえている。  
女は挑発するように上目遣いでジコ坊を見、ゆっくりと上唇を舐めた。  
 
「ほう…中々に良さそうな身体だが、はてさて、中身はこの乳より大層なしろものやら。…そなたもどうだ?旨そうだぞ」  
「私はいりません。それよりも、そなたは僧の身で戒律を破ってよいのですか?」  
その言葉に、ジコ坊と女がどっと笑った。  
「そなたは世間を知らな過ぎるな。僧とはいえ人間だ。女を買う輩も、五万とおるわい」  
そう言いながらジコ坊は、アシタカに見せつける様に女の胸を後ろから揉む。  
女がその手をピシャリと打った。  
「前金をまだ貰ってないよっ!」  
「まあ待て女…」  
アシタカに聞こえぬ様に、ジコ坊が女に囁く。  
「…お前は、元々このご仁のおあしを狙って来たのだろう?」  
そう言いながら、ジコ坊の手はなおも女の胸を揉みしだいた。  
「ああ。その通りさ…」  
そのまま後ろから耳を噛む愛撫に、ビクリと反応しながら女も応えた。  
「だったらこのまま目の前でおっ始めれば、このお人も興奮してお主に取り付こうて。たかが50文100文より、もっと大きな儲けをふいにしたくはあるまい?」  
女は笑うと、承知したと言う様に大きく反応を始めた。  
その会話、実はアシタカにも聞こえている。  
山間の村を守る為には、遠くの異変をも聞き取る耳を持たねばならぬのだ。  
アシタカは怒るより先に、ある意味感心していた。  
なるほど上手く丸め込んだ物だ。これでジコ坊は、ただでこの女を抱ける。  
「はぁ、あ…んんっ!…あんた…中々上手いじゃ無いか…はうぁ!」  
すでに女は上半身をもろ脱ぎにされ、後ろから胸をもみくちゃにされている。  
「そうか?お前の体も中々に良いぞ。ほれ、ご開張だ」  
ジコ坊が笑い、後ろから、アシタカに良く見える様に女の太腿を開いた。  
その下草は濃く茂り、後ろから手で探ると、柘榴の様な赤い秘所が顔を覗かせる。  
女の帯を解いて素裸に剥き、あぐらを組んだ上に座らせて、もっと良く見える様に大きく開脚させた。  
「…そなたの気が向いたなら、いつでも拙僧は交代するからの」  
ジコ坊はそうアシタカに告げると、左手で胸を揉み右手で秘裂を弄りはじめた。  
 
すでに女の秘所からは、しどどに蜜が溢れている。  
並の男なら興奮して、すでに交代をねだっている事だろう。  
しかしアシタカにとって、この様な場面はもう見慣れている。  
確かに女の身体はまあまあの上玉だ。エミシの村の女達と比べても、上の部類に入るだろう。  
だが初馬の儀が行われた日より、ほぼ毎日欠かす事なく女達の相手を勤めて来たのだ。  
女より求められれば断る事はしないが、自分から女を欲した事などアシタカにはなかった。  
ジコ坊が女の陰穴に指を差し入れ、音を立てて嬲る。  
「…あ、いいっ!…はあん!あ、あんた、いいよぅ…もう、この魔羅をおくれぇ!」  
「まだまだだ、女。どうせなら、極楽浄土を見せてしんぜよう。なに、お主の身体でお釈迦様の教えを説くという奴だ…」  
不敵に笑いながら、中に入れる指を増やす。  
二本、三本と旨そうに秘裂が指を飲み込んで、重い水の音を立てながら蜜を吐き出した。  
指を二本に減らし、奥まで丸見えになるよう中で指を割り開く。  
くぽりと音がして、蜜の糸を滴らせながら膣壁の奥までが焚き火の光の前に晒された。  
「ほほう…奥は綺麗な朱鷺色じゃ。お前の持ち物の具合は、中々に良さそうじゃのう」  
「ああぁ…やめとくれぇ…奥まで見えちまうじゃないか…ぬあっ!……ねぇ…お願いだから、もうおくれ…おくれよう…」  
「おお、くれてやるわ。それ、どうじゃ」  
下帯をずらし、ジコ坊は女の秘裂にずぶずぶと肉茎を沈める。女の身体が大きくうねった。  
「ああぁ!これ…大きい…あんたの、大きくて、いいよぅ…あ、あん!はうぁ!」  
突き入れられた女は口元から涎を零し、すでに目元の焦点が定まらなくなっている。  
無我夢中といった様子で、大きくその身を動かしながら、陰穴からジコ坊の肉を貪った。  
 
下から突き上げながら、ジコ坊はアシタカの様子を伺った。  
目の前で行われている痴態に動じず、アシタカは淡々と寝支度を行う。  
やせ我慢などではなく、どうやらこの光景に興奮していないようだ。  
(どうも当てが外れたようだな…)ジコ坊は戸惑った。  
折角この女を使ってこの若者を取り込み、タタラやシシ神の森の様子を探ろうと思ったのに。  
装束や椀から見て、この者がエミシの一族の男なのは間違いなかろう。  
取り込んで手なずければ、タタラ場をかき回す事やシシ神退治のみならず、天上(てんちょう)様が滅ぼしたいと考えている、エミシの情報も手に入るのではと考えていたのに。  
(もしやこやつ、思ったよりも上の者なのかも知れぬ)  
最初は、何かあそこの掟を破って放逐された男だと思っていたが、先ほどの話といい、この者はエミシでも上に立つ予定の者だったのだろう。  
だとしたら、どうにかしてこちらの側に引き込みたかった。  
ジコ坊の房中術に嵌まり、女が狂った様によがり始めている。  
辺りは獣じみたような雌の淫臭で、むわりと湯気が立ちのぼりそうだった。  
その脇に手を差し挟み上下に揺らして翻弄しながら、ジコ坊はアシタカに声をかけた。  
「この女、中々具合が良いぞ。そなたも味を見てみたらどうかね?」  
「…いえ、私は結構です。どうぞこちらを気になさらず、楽しんで下さい」  
アシタカはそう言うと、ごろりと横になった。  
ジコ坊が交わっている女は、もうその会話を聞いても自ら止める気配がない。  
あまりに与えられる快楽に夢中になり、もはや聞こえていないのだろう。  
「ああっ!あ、いいっ!もっと!…もっとぉ!はあっ、あ、あ、んあぁ!」  
自ら大きく腰を振って、奥の奥まで掻き回す様に尻を叩き付けて来る。  
合わせる様に肉棒で突き上げながら、ジコ坊は内心舌打ちをした。  
(これでは目論見が大外れだ。まったく、使えない端女め。…まぁ、どうせこの先、暫く女も抱けまい。ただで済んだだけでも儲け物と思うしかなかろうて)  
後ろから陰核を摘まみ上げると、秘肉を大きく引き攣らせ、女が震えながら達した。  
割り切ったジコ坊はようやく自らの装束を脱ぎ捨て、女が音を上げても許さずに責め続ける。  
「……はぁ…あぁ……あ、あ…っ!…もう…もう…ころしてぇ……」  
 
様々に体位を変え、暫く女を抱かなくても気が済む様、思う様嬲り抜く。  
息も絶え絶えの、赤く熟れて爛れた膣奥に、抜かぬまま六度精を吐き出した。  
最後には女の秘裂が腫れ上がり、抜き取ると自身の蜜とジコ坊の白濁が、洩らした様に止めどなく垂れて来る。太腿には、最初の頃の精がすでに乾いてこびりついていた。  
すでに女は白目をむき、口の端に泡を吹いて気を失っている。  
こんな状況にも関わらず、アシタカは傍らで寝息を立てていた。  
かといって、今この寝首を掻こうとしても、多分しくじるだろう。  
(世間知らずなれど油断出来ぬ男。しかし、ある意味こやつは馬鹿かもしれんな)  
折角の美味しい話を自ら手に入れようとしないのは、ジコ坊から見れば馬鹿にしか見えない。  
しばらくすると東の空が白みだし、野営した荒れ里をほの明るく照らし始めた。  
眠ったふりをしていると、そのまま声も掛けずにアシタカは支度をし、ヤックルにまたがる。  
(やはり行くか)ジコ坊は黙ってそのまま去らせる事にした。  
どうせ、縁があればまた会うだろう。  
ジコ坊の勘は、この若者とはここで終わらないだろうと告げていた。  
 
 
ーーー西へ。  
神のおわす森へ。タタラと呼ばれる見知らぬ土地へ。  
逸る気持ちで足元を掬われぬ様、ヤックルと共に一歩一歩確実に進んでいく。  
無駄足やも知れぬが、村を離れた時とは違い目指す所がある事が、アシタカの心を少し浮き立たせていた。  
呪いが解けるかどうかが、すぐに判るとは思っていない。  
むしろ呪いが溶けぬ可能性が高い事は、避けられぬ運命として身の奥に飲み込んでいた。  
それでも、もう行く手も知らぬ旅ではなくなったのが嬉しい。  
ふと脇を流れる川を見ると、荒れた濁流に流される旅支度の男が見えた。  
眼で追う先に、別の見知らぬ男が岸辺に打ち上げられている。  
死んでいるのかどうかと口元に手を当てると、かすかに息がある。  
アシタカは急いで二人の男を引き上げた。ふと、気配を感じて身を隠す。  
倒れた木に身を潜め根元から辺りを伺うと、大きな白い山犬が姿を表した。  
「…あ!」  
(あれは、あの山伏が言っていた、シシ神の森に住う神なのではなかろうか)  
 
見た事も無い様な大きな山犬の背に、年若い女が跨がっている。  
一番大きな手負いの山犬の傷口に、女が口を付け懸命に毒を吸い出していた。  
大きな山犬が、アシタカの気配を察しているのか、しきりに唸っている。  
女がこちらを振り返った。  
(ーーーカヤ!?)  
アシタカが眼を見開いておののいた。  
そこには、懐かしい愛おしいカヤがいた。  
否。……あれはカヤではない。  
そこにいるのは獣にもカヤにも似た、アシタカが生まれて初めて見る美しい生き物だった。  
ドクリ、と心の臓が跳ねる。  
ずっとずっと、アシタカが自分の心の奥に隠していた違和感。  
自分も他の者も、人と言う名のけだものではないかという畏れ。  
その答えを、いきなり目の前に晒された気がした。  
あの娘…あの娘こそが、私の求めていたものだ。  
産まれ落ちてこのかた、初めて、アシタカは心の底から揺り動かされる者に出会った。  
ーーーつづくーーー  
 

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