あの惨劇で母親を失ってから二月経ったが、サンの顔はいまだ悲しげな笑みを湛えている。
そういうものなのかも知れない。癒えることのない傷を一生引き連れて生きていくとい
う意志の強さは、少なくとも彼女の眼差しから感じられる。傍らで腰を下ろす彼女の、
その美しい体を抱き寄せる。
交際を始めて二月、これまでに何度か誘ってみようとした。しかし、彼女の高潔な姿形が、
それを諌める。しかし、抱きたくないと言えば嘘になる。彼女の身体を間近に感じ、
またもや熱い衝動に襲われる。図らずも、息が荒くなる。それを整えようと目を閉じたアシタカの
耳元に、彼女の気配を感じた。彼女は小さな優しい声でささやいた。
「・・・しても、いいよ」
驚いて、思わず後ろに身を引く。しかし、サンは本気のようだった。目を伏せ、頭帯を外し、
耳飾りを外してゆっくりと衣服に手をかける。その手を上から握り、アシタカが代わって服に手を
かけても、サンはそれを止めなかった。サンも、アシタカの身を覆うものを、一枚ずつ解いていく。
サンの肌が、二つの乳房があらわになった。月に照らされ、柔らかい陰影を描いて、その身体の
輪郭をなぞっている。最後に黒曜石の首飾りに手をかけた時、サンは静かにそれを制止した。
「これはいい」
裸のままサンを抱きしめ、ゆっくりその上に覆い被さる。その美しい、赤らんだ顔を見つめて微笑む。
すぐ下に、彼女のぬくもりを、匂いを感じる。彼女の柔らかい乳房が、アシタカの胸に押しつぶされて
いる。その下で、心臓が鼓動している。アシタカの性器は、すでにはち切れそうなほど硬く反り返って、
サンの身体を向いている。
彼女の輪郭を下へなぞる。肩、腕、乳房、ここに力を込める。さらに腹、腰と降りて、引き締まった
尻を指のはらで揉む。そして腿に触れたとき、サンの身体はびくりと反応した。熱い血液が、彼女の中を
流れている。この身体の中で、女の機能が静かに、健かに、しかし確実に動いている。アシタカは彼女の内股にそっと手を入れ、ゆっくり押し広げた。
「きれいだよ、サン」
見つめ合っている。頬が赤く染まっていくのがわかる。私の顔のすぐ前に、彼の顔がある。鼻がこすれそうなほど近くに、アシタカがいる。同じ鼓動を刻み、生身の肌と肌をつけている。彼の背に腕を回し、広げられた膝を立てて彼の腰をはさんだ。
耳の横で、彼が荒く呼吸している。首筋に顔を埋めて、腰に力を込めた。
ずん、と彼の身体が上の方に動くと同時に、腿の付け根から熱く、硬いものが入ってきた。それはゆっくりながら、私の身体を内側から押し広げていく。痛みはなかった。ただ、自分の身体にこんなに深い穴があったことが驚きだった。
彼の肉杭は、びくん、びくんと脈動しながら私の身体の奥を押し上げる。彼の肉杭が私の身体に収まっているのを想像すると、急に、今彼と繋がっているのだという実感が沸き、私の呼吸も荒くなる。
奥まで到達してしばしの後、彼は腰をゆっくりと前後に動かし始めた。
彼の身体の一部が、私の身体の中を前後に往復する。熱い肉杭が、身体の内側からぐいぐい押し付け、舐めるようにこする。
そのたびに、彼の腰や肩に力が入る。私も、背に回した両腕に力を入れ、しっかり彼につかまって目を閉じる。
はあはあと荒い呼吸が耳のすぐ傍で響く。もう、どちらの呼吸かわからない。私たちは二人で一頭の生き物だった。
彼は私という獲物を食らう虎だ。虎は獲物に覆い被さり、首筋に噛み付いて離さない。
私も、負けじと雌虎となり、雄虎の首筋に噛み付き、背に爪を立てる。
次第に、腰の動きが激しくなる。肉と肉がこすれる音が大きくなる。その刻動に合わせ、じんじんと下腹が熱くなり、熱い液がつうと穴を伝って彼の肉杭を滑らせる。肉がこすれる音に、ぬめるような音が加わる。ぐん、ぐん、と、硬いものが私の内臓を押し上げる。液はさらにとめどなく流れ、二人の腿までも濡らした。
気がつくと、私も彼もかなり大きな声を上げていた。上げずにはいられない、押し上げられる度に、どうしても声が漏れてしまう。私の脚は持ち上がり、彼の腰を締め付けた。
彼が、苦しそうにうめき始めた。腰の動きがさらに大きく、激しくなる。肉杭が、私の中で大きく跳ねた。
びくびく、と痙攣するように脈動し、その先端が身体の奥を突く。
次の瞬間、アシタカは弾けるような叫び声を上げ、私の身体の中には、熱い粘液がどくどく注ぎ込まれた。
彼はなおも小刻みに腰を振り、粘液を最後まで絞るように出し続ける。やがて全て私の中に注ぎ込まれ、
彼はぐったりと手足を投げ出し、私の上で力が抜け切ったように脱力した。
聞こえてくるのは、彼と私の荒い呼吸だけだ。二人とも、汗でぐっしょりになっていた。月が急に
明るく感じられる。その青い光が、柔らかく二人を照らし、影をつくる。
私の中の肉杭も、次第に硬さを失っていった。彼は私の脇に両腕をつき、慎重に杭を抜いた。
ごろりと大の字に横になった彼の二の腕に、私は思わず自分の頭を乗せる。
暖かい快感に満ちていた。身体の向きを変えると、さっき彼から出た粘液が身体の奥
でとろりと動く。もう彼と私は離れているのに、不思議な余韻がいつまでも下半身に
残っている。じん、じん、と、鼓動に合わせて余韻が響く。私と彼が、身体を結んだ証。
それを失いたくないばかりに、私は彼の胸に腕を回す。
ふと胸が苦しくなり、彼の肩に頬を寄せて、彼の匂いを吸い込む。すぐに彼の腕が
伸びてきて、私の肩をすっぽり抱く。そして、頭まですべらせて、
私の髪をくしゃくしゃに撫でる。微笑みを交わし、私たちは新しい身体で眠りにつく。
でも、アシタカは知らない。私たちが、すでにアシタカの昏睡中に交わっていることを。
彼の看病中、次第に氷解していく彼への不信感と共に、彼の体力も戻り始めていた。
その朝、私はいつもするように、彼に排泄させるために下半身を覆うものを解いた。
そこで私の動きは止まった。彼の脚の間から伸びる、排尿するための突起くらいにしか
思っていなかったものが、弱弱しく横たわる彼とは対照的に、たくましく屹立して
はじけるように飛び出したのだ。赤くふくらみ、太い血管が脈動しあちこちに浮き出ている。
その時私が何を思ったのか、よく覚えていない。ほんの、一瞬襲った好奇心だったのかも知れない。
よく覚えていないが、私は咄嗟に、その肉の柱と化したものを舐めたのだ。アシタカはそれに反応して
うめき、少し腰を動かした。思えば回復の兆しだったのだろうが、もの珍しさでそれどころではなかった。
すぐに、今まで感じたことの無い、強い衝動が私を襲った。じわり、身体が熱くなる。
それを打ち消すように、私は一気にそれを口に含んだ。アシタカは顔を歪めて、さらにうめいた。
とても熱い。弾力があって、生き物のようだった。口の中で鼓動している彼の身体の一部を感じ、
私の心臓は早鐘のように打っていた。どうか、母さんや兄弟に見つからないように。
背後に恐怖を感じながらも、本能と言うものは止められるものではなかった。
私の中の何かが、私を突き動かしていた。
気付くと、私の脚の付け根から腿にかけて、滑液で濡れていた。じんじんと、下身が主張していた。
それに逆らう術を、私は知らなかった。
衣服をめくり、仰向けに横たわる彼の上にまたがる。すぐ前に、屹立したものがある。
ゆっくりと腰を上げ、アシタカのわき腹に手をついて身体を支える。少し腰を落とすと、
硬い先端が付け根にずんと当たって、滑液の出ているひだが痙攣を起こしたようにしびれる。
初めての感覚だった。周りを見て、誰もいないのを確認する。慎重に、先端めがけて腰を
落とす。鈍い痛みと共に、硬いものが身体を割って入ってくる。感じたことのない痛みに、
私は少したじろぐ。しかし、本能の声は私を解放しない。ただそれに従うように、私はさらに、
腰を深く落とす。奥まで来た、という感覚は、痛みに取って代わって私を刺激する。
腰を上下に動かしてみる。肉が摩擦している。何も知らない人間の男と、身体を繋げている。
ぎこちなく腰を動かすうち、なんとなく、どう動かしたら痛みが軽くなるか分かってきた。私の中の物は、
ただ周りの肉の筒にこすられ、しごかれて脈動を続けていた。さっきよりも、硬さが増したように感じる。
私はうめくアシタカを見降ろし、火照った顔を上に向けて、はあはあと口で息をしながら腰を振る。
ぱん、ぱんと、肌同士がぶつかる音が聞こえ、それが私を刺激する。心臓の刻動が、
私の全身を駆け巡って、下身の奥までも、同じ刻動で痙攣し、滑液を出している。それは穴の外にまで流れて、私の付け根や彼の腹や腿を濡らしている。治まってきた痛みは快感となり、それを欲して腰の振りを激しくする。
私の中を硬く熱いものがこすり、内臓を突く。中で跳ねる肉柱を感じ、高まる興奮と共に思わず大きな声を
上げた瞬間、アシタカの顔が苦しげに歪んだ。
一瞬、肉柱が緊張し、暑い粘液が勢いよく私の中になだれこんでくる。私はアシタカにまたがったまま、
しばしそれを感じた。中で、私の滑液と混ざって筒を伝っているのを想像し、身体が再び熱くなる。
はあはあと肩で息をしながら、私は腰をゆっくりと持ち上げた。ぬちゅっという、恥ずかしくなるような
生々しい音がして、アシタカの身体は私の中から出た。やはり、二人の液が混ざったのか、
嗅いだことの無い奇妙な匂いがする。私は脱力し、彼のとなりに横たわる。手をのばし、今まで男と
繋がっていた場所を探る。熱いひだはぬるぬるに濡れていて、その間はさらにべたべたしたものが
付着している。指でこすって顔の傍に持って来る。
白っぽい、どろりとした粘液が、指に垂れている。鼻に近づけて、彼の匂いを感じる。
ふととなりのアシタカに目を移すと、ぐったりとした様子で眠っているようだった。
「ごめん」
口の中でつぶやく。股間に目を移すと、それは元の形に戻り、脚の間に納まっていた。
私はそれについた滑液を拭き取ると、元の布で包んだ。
その夜、アシタカは目覚め、朝のできごとを知ってか知らずか、私のことで母さんとやりあった
ようだった。どうやら、二人にはばれていないようだった。
言える訳が無い。これだけは、アシタカにも、絶対に言えない、私だけの秘密だ。
何も知らないアシタカのとなりで、私は余韻をかみ締めながら目を閉じる。 おわり