姨捨の廃道場。  
「じゃあ、はじめるよ」  
「お願いします」  
 神卸。多々神の召喚の実行を前に確認を取る香我美に、  
真名井四季が緊張の面持ちで頷いた。  
 その返事を受け、香我美は目を閉じると瞑想状態に入る。  
心持ち両腕を開き霊力を高め、転生の依童である四季を通じて、  
故郷――幽異界へと意識を繋ごうとする。  
(……届いた)  
 五感のいずれにも属さない茫漠とした感覚で幽異を泳ぎ、  
目的の物と思われる『力』を見つけるとそこに向かう。  
 そして、無事触れたと思った瞬間――接続が、断絶された。  
(…………!) 意識を現世に戻した香我美はかすかに表情を歪めると、ゆっくりと眼を開く。  
「ど、どうしました?」  
 四季が不安げな面持ちでこちらを見ていた。  
「うーん、なんて言うかねぇ……」  
 香我美は自分の頬に左手を当て、考え込む。  
 
「……四季ちゃん。ハシカにかかったことある?」  
「は、はい? ……えっと、それはありますけど」  
「ハシカってさ、一度かかると二度とかからないじゃない。  
風邪とかでも、一度ひいたら次からはひきにくくなるでしょ」  
「は、はあ……」  
 香我美の言わんとする所が分からないらしく、生返事をする四季。  
「要するに、一度かかった病気に対して身体の抵抗ができるからなんだけど。  
――神卸に対しても、それに似た抵抗ができるみたいなのよね」  
「…………」  
「卸すのが神とはいえ、四季ちゃんに対して異物であることに変わりない。  
……転生の依童が神卸を行なうのは一度きりって掟には、こういう訳があったからかも知れないね」  
「あ……」  
 香我美の言葉に思う所あったのか、四季は視線を落とす。  
 余程の沈黙を置いてのち、  
「……でも、それじゃどうすれば」  
「まあ、一つ思いつく方法がないわけでもないんだけどさ。  
四季ちゃんにはちょっと辛いかもねぇ……」  
 顔を上げて聞いてくる四季に、香我美は目線だけ横に逸らしながら答えた。  
「お、お願いします。どんな辛い試練でも、私……」  
「おや、いいのかい?」  
 胸に手を当て真剣に言ってくる四季に対し、  
香我美は目線を戻すと目尻を下げ、妙に嬉しそうな表情になった。  
 
「か、香我美さん!? な、なにを……!」  
 いきなり背中に回り込んで身体を抱きすくめてきた香我美。  
四季は慌てて振りほどこうとするが、香我美は両腕を蛇のようにまとわりつかせ、離れない。  
「風邪と一緒だって言っただろ?」  
「きゃっ!?」  
 香我美がなにやら説明らしきものをしてくるが、四季としてはそれどころではなかった。  
巫女服ごしに胸を揉まれ、叫びを上げる。  
「一度かかると抵抗ができると言っても、  
体力や気力が低下してるとやっぱりひいちゃうよね?」  
「やぁっ……、やめてください……!」  
 逆の手が緋袴の上を這い、股間へと伸びてきた。  
内股に力を入れ抵抗するが――香我美の細い指先に易々と侵入され、柔らかく撫ぜられる。  
「だから四季ちゃんに、疲れてもらう必要があるわけ」  
「だっ、たら、べ、別に、こんな、方法で、なくても……」  
 それまで巫女服の上から胸を揉んでいた手が一旦離れると、  
今度は胸元から突きこまれて直接に触れられる。  
「う〜ん。そう言っても、本当に問題なのは肉体というより精神面での抵抗力だから。  
心身ともに疲れさせるっていうの、私、この方法しか知らないのよねぇ。  
 ……四季ちゃん、意外に大きいんだね」  
「ひぃんっ……。やめっ……」  
 
 人差し指で乳首をこそぐりながら胸を揉みしだいてくる香我美。  
四季は振り返り、半泣きの顔を向けてやめてくれるよう訴える。  
 が、それは逆効果だった。。  
「ん〜。四季ちゃん、可愛い♪」  
 言うと香我美は唇を合わせてくる。  
「んんっ!」  
 四季は逃れようと必死に顔をそむけようとするが、香我美の唇は離れず、逆に舌さえ差し込まれてしまった。  
 舌同士を無理やりに絡めた後、口腔をジットリとねぶってくる。  
「んうっ! んうっ!」  
 チュポン……。  
 口腔の全面を犯されようやく、口を開放される。  
「ん、美味しかった♪」  
「はっ……、ぁ……」  
 息も絶え絶えにあえぐ四季。もはや、香我美が支えていなければ立っている事さえできそうにない。  
「じゃ、そろそろ決めちゃおうかね」  
 言うと香我美は、緋袴の上をまさぐっていた手を離し、内側に差し込んできた。  
「ひっ!」  
 すぐに女陰を探り当てられ、その周辺から指先で螺旋を描くようにて撫でられる。  
「やっ……。こんなの……、だめぇ……」  
 
「四季ちゃんも、しぶといねぇ」  
 若干あきれたような香我美の声。  
「どうしても駄目だって言うならさ、私を好きな男性だと思い込んでみたらどう?」  
「え……?」  
「好きな人とは言わなくてもさ、四季ちゃんにだって気になる人くらいいるだろ?  
四季ちゃんに触ってるこの手は、その人の手。この指は、その人の指」  
 暗示をかけるように言ってくる。  
「気になる……人……」  
 朦朧とした脳裏に、一人の男性が思い浮かんだ。  
 と、同時。肉芽を捻るように摘まれる。  
「――あ、あ、あ――ああああああぁぁぁっ!」  
 四季は背を大きく反らし、全身を痙攣させながら絶叫した。  
 
 
 ――――――――  
 
 四季の肉体は、宙に浮かんでいた。眼は閉ざされ、全身から圧倒的なまでの霊光を発している。  
 その唇がかすかに動き、音を紡いだ。  
「我を呼ぶは、だれか?」  
 前に立つ香我美が、厳粛な面持ちで答える。  
「はい。モノノケが一つ。付喪神の山之辺香我美です」  
「そう。では私を判じていただきましょう」  
 四季の姿をしたそれは、薄く、眼を開いた。  
 
「――我は、多々良」  
 

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