「柏木……これは、一体……?」  
 
冷たい風が吹く秋の夜だった。  
手塚京輔の家に呼びつけられた設楽優は、部屋に入るなり柏木好春に問いかけた。  
部屋の主であるはずの京輔の姿は無く、敷かれた布団に寝ているのは阿修羅の太刀の娘。  
「ああ、やっと来てくれたんだ」  
優の問いには答えず、好春はそのまま言葉を続ける。  
「設楽、ちぃ姉に幻惑謡(まぼろしのうた)をかけてくれない?」  
状況が飲み込めないまま、優はその場に立ち尽くした。  
 
 
***  
 
柏木高校の校舎の隅、人気の少ない場所に優と好春はいた。  
重要な話があると、呼び出されたのは優の方。  
 
「設楽は知ってるよね。ちぃ姉が好きなのは誰かってこと」  
「なんで僕がそんなこと……」  
反射的に否定の言葉が出る。遮るように好春は言葉を続けた。  
「……ちぃ姉を助けて欲しいんだ」  
「え?」  
唐突な言葉に、優は驚いて好春を見た。  
「ちぃ姉はわかってて京にぃに弄ばれてる。ちぃ姉には何度も言ったよ。だけど……」  
消え入りそうな声で、うつむきながら好春は続けた。  
「……僕じゃ駄目なんだ。でも、設楽の言葉なら聞いてくれるかもしれない」  
「ちょっと待てよ、柏木で駄目なら僕なんて」  
「僕にはわかる。僕はずっとちぃ姉だけを見てきたんだ。だからちぃ姉のことを見ている人もわかる」  
「……」  
「頼むよ、設楽にしか頼めないんだ」  
「柏木……」  
一緒にパトロールに行くようになってもそれ程親しくなったように感じなかったクラスメートの  
真剣な表情を初めて目の当たりにして、好春の普段からの柏木きらへの愛情表現は  
決して軽い気持ちでは無かったのだとようやく優は理解した。  
「……わかった。できる限りのことは、やる」  
「ありがとう。設楽っていいやつだったんだな」  
小さく笑いながら好春は呟いた。  
 
優が突然好春に呼び出され、きらを助けて欲しいと頼まれてから数日が過ぎた。  
好春の学校や巡回での様子は相変わらずで、あれは果たして現実だったのだろうかと疑問に思える程だった。  
『ちぃ姉を助けて』  
きらが手塚京輔のことを思っているのには気づいていた。  
しかし。  
『ちぃ姉は、京にぃに弄ばれてる』  
あれは一体どういう意味なのだろうと優は思っていた。  
あの時、あまりに切迫した様子に深く聞けなかったけれど、言葉どおりの意味だとしたら。  
「……くん。設楽くんってば」  
突然顔を覗き込まれて、優は跳びあがるほど驚いた。  
「どうしたの? ボーっとして。珍しいね」  
「なんでもない」  
そっけなく答えて、あさっての方向を向く。  
好春は普通だが、きらに対してはなんとなく顔を合わせづらかった。  
「ヘンな設楽くん。……まあいつものことか」  
──軽口を叩かれるのが不快ではなくなったのはいつだっただろう。  
太刀を失った優の代わりとでもいうように突如現れた、阿修羅の太刀を持った少女。  
優にとって彼女はとても強く見えた。  
優に少しずつ関わるようになってから、きらは弱いところも見せだしたように思う。  
少なくとも優が心を開くようになっていたのは確かだった。  
──自分に、柏木きらを救うことができるんだろうか。  
「……ほら、無駄口叩いてないで巡回を続けるぞ」  
いつもと変わらないぶっきらぼうな口調で声をかけると、優は足早に歩き出した。  
 
 
***  
 
 
「……ホント、京にぃには失望したよ」  
冷たい視線で京輔を見下ろしながら好春はそう吐き捨てた。  
数分前、いかにも温和で人の良さそうなあの顔から吐かれた言葉が脳裏によぎる。  
『妹に対して恋愛感情を抱くなんて……僕にはできないよ』  
笑わせる。  
認めるばかりでなく、開き直るなんて。  
「どこの世界に妹弄ぶ兄がいるのか教えて欲しいよ」  
答えは無い。答えて欲しいとも思わなかった。  
ほんの少しの可能性にかけようと思った自分が間違っていたのだ。  
「やっぱり、もうこうするしかないんだ」  
床に倒れた京輔の服をまさぐり、携帯電話を取り出すとおもむろに操作し始める。  
「これでよし、と」  
数分後、受信したメールを確認してから電源を落とし、京輔の体の上に放り投げた。  
 
***  
 
チャイムの音がした。  
「ちーぃ姉っ! いらっしゃい!」  
「あれ? なんで好春がここにいるの?」  
扉の向こうにいたちぃ姉が少し驚いた様子で僕を見た後、すぐに笑顔を作った。  
隠してるつもりでもバレバレ。そんなにガッカリしなくてもいいのに。  
ほんの少しの変化でも僕にはわかるんだよ、ちぃ姉。  
「僕も京にぃに呼ばれてたんだ。僕はもう少ししたらホームに戻るけどね」  
負けないくらい満面の笑みを貼り付けて、僕はちぃ姉を京にぃの部屋へと招き入れた。  
 
「あれ? 京にぃは?」  
「バイト先に忘れ物したって、取りに行ってるんだ。もう戻ってくる頃だと思うよ」  
ちぃ姉はいつでも京にぃのことばっかりだった。僕といる時でさえも。  
慣れたと思っていても、毎回少し胸は痛んだ。  
「話があるって、なんだろう? 好春なんか聞いてる?」  
「……あのさ、ちぃ姉」  
祈るような気持ちで口を開いた。  
もしちぃ姉が考え直してくれれば、あるいは。  
「この前言ったこと。……京にぃのことなんだけど」  
ちぃ姉の笑顔がフッと消える。  
「……その話はしたくない」  
「ちぃ姉!」  
顔を背けられる。回り込むようにちぃ姉の正面に座り、ちぃ姉を真っ直ぐ見据えた。  
「僕はちぃ姉に幸せになってもらいたいだけなのに……」  
「…………」  
黙ったまま視線を逸らされる。  
「ちぃ姉、こっち向いて」  
うつむいたまま首を横に振るちぃ姉がとても弱々しく見えた。  
「……やっぱり、僕じゃ駄目なんだ」  
わかっていたことだけれど。  
その事実を改めて突きつけられ、胸が張り裂けそうになった。  
「ちぃ姉……」  
揺らぐ決心を奮い立たせるように、愛しい人の名を呼んだ。  
そして、ちぃ姉の潤んだ瞳が僕を見た。  
 
***  
 
「設楽? 設楽聞いてる?」  
「幻惑謡……どういうことだ」  
「それって、思い通りの幻覚を見せたりできないの?」  
「おそらく、ある程度は……」  
「じゃあ、ちぃ姉が僕を見たら京にぃに見えるようにかける、っていうのはできる?」  
優には好春が何を考えているのかいまいち掴めなかった。  
それでも、この間言っていた『ちぃ姉を助ける』ことと何か関係があるのだろう。  
素早くそう判断し、優は頷いた。  
「完全にそうなるかは、わからないからな」  
静かに目を閉じているきらの側に立ち、優は真言を唱えた。  
「オン・ヤマラジャ・ウグラビリャ・アガッシャ・ソワカ──幻惑謡!」  
優の手の甲の紋様が煌めき、淡い光がきらを包む。  
「これで多分……大丈夫だ」  
「ありがとう、設楽。お疲れさま」  
好春の声のトーンに違和感を覚え振り返った優は、好春の酷く冷たい微笑みに驚いた。  
「か……柏木……っ!?」  
動かない体に好春の手が伸びる。  
寝かされたままのきらを振り返ることもできず、  
沈んでいく意識の中、好春の両の目の赤さだけがやけに目に焼きついた。  
 
***  
 
「……ちゃん、起きて。ちぃちゃん」  
閉じられていた目がゆっくり開き、僕の顔を捉えた。  
「あれ……京にぃ……私……」  
「僕が帰ってくるまで起きてられなかった?」  
僕の言葉に彼女はガバッと飛び起きる。  
「あ、そ、そういえば好春は?」  
「よっちゃんならさっき帰ったよ。ちぃちゃんがスヤスヤ寝てる間にね」  
「そっか……」  
「喧嘩でもした?」  
少し顔を曇らせた彼女の頭を撫で、髪を梳く。  
「京にぃ……」  
嬉しそうに頬を染める彼女を見るとたまらなくなって、強く抱きしめた。  
そのままゆっくり押し倒すと、彼女は驚くことなくそれを受け入れた。  
それは、はっきりときらと京輔の関係を示していた。  
 
──やっぱり、そうだったんだ。  
こんなことになる前に、どうして気付けなかったんだろう。  
誰よりもちぃ姉のことを見ているのは僕だという自信があったのに。  
 
僕は黙ってちぃ姉に口付けた。  
京にぃへの怒りとちぃ姉への恋慕と自分の不甲斐なさを注ぎ込むように、  
何度も夢見た小さな唇に自分のそれを強く押し付ける。  
「ん……っ」  
息が漏れる。何度も角度を変え、唇を重ねた。  
舌を伸ばし、小さな隙間をこじ開けてちぃ姉の口内へと侵入させると、  
しがみついていた手に力が入ったのがわかった。  
歯列をなぞり、舌を絡め、吸い上げる。  
その度に彼女から漏れる声がさらに僕を追い上げていく。  
唇を離すと、少し息を荒げてちぃ姉が呟いた。  
「……初めて、キス、してくれた……」  
 
愕然とした。  
ひたすら体のみを求めた京にぃにも、それに耐え続けたちぃ姉にも。  
彼女はそれ程までに手塚京輔を追い求め続けていたんだ。  
改めて自分の滑稽さに笑いがこみ上げる。  
本当は、僕がちぃ姉を幸せにしてあげたかった。  
でも、こんなこと、もう終わりにしよう。ちぃ姉。  
 
再度、ちぃ姉に口付けながら、衣服に手をかけた。  
裾をまくり上げ、柔らかなふくらみへと手を伸ばす。  
「んっ……ふ……」  
鼻から抜けるような甘い声が僕の耳をくすぐる。  
下着の上からやわやわと触っていた手をそのまま下着の中に差し込むとちぃ姉の身体が小さく跳ねた。  
手を回して下着を外そうとすると、  
「あ……、大丈夫、自分でする」  
そう言ってちぃ姉は自ら下着のホックを外し、そのまま上へと押し上げた。  
白い胸が露わになる。柔らかな肌に手を這わせ、撫でたり掴んだりしながらもう一方の頂に口付けると  
ちぃ姉の口から小さな声が漏れた。  
自分の唇で挟むようにして、先端を舌でくすぐる。  
時々軽く歯を立てると、その度にちぃ姉の身体が反応するのがわかった。  
交互に小さな蕾を味わってから、そのままキスを下へ下へと這わせると、ちぃ姉は突如スカートのホックを外した。  
その行動に少し驚きながらも、いつもこうしていたんだと思い当たるまでに時間はかからず  
僕は少し乱暴にスカートを脚から引き抜いた。  
引き締まった、スラッとした脚が明かりに照らされ白く光っている。  
その脚に手を這わせる。中心に近づく度に身体が小さく跳ね上がるのを見た。  
少しだけ開かれた脚の中心に手を伸ばす。  
全く拒む様子は見られなかった。それどころか、さらに脚を広げようとさえしていた。  
「あ……」  
布地の上から撫でるとそこはすでにしっとりと湿っていて、指が往復するたびにちぃ姉は短く声を上げた。  
目を閉じ息を荒げるちぃ姉の顔を見て、なんとも言えない思いに囚われる。  
 
ちぃ姉、僕だよ。  
今ちぃ姉に触れているのは僕だよ。  
 
気付いて欲しい。  
気付いて欲しくない。  
心の中を、相反する思いが駆け巡る。  
 
葛藤を振り切るように下着に手をかけると、脱がせやすいようにかちぃ姉は少し腰を浮かせた。  
そのまま下着を下ろし、脚から引き抜く。  
立てられた脚に片手をかけ、もう一方の手を露わになった箇所へと伸ばす。  
直接触れると、そこは想像していたよりずっと潤っていて、ちぃ姉は敏感に身体を震わせた。  
反応を見ながら、周りをなぞったり蜜を塗りこむようにするとちぃ姉の声はさらに高くなった。  
「ん……、あ……っ、ああっ……!!」  
そのまま指を挿し込むと指はすんなりと奥へ進んでいく。  
うっすらと開いた目に誘われるように再び口付けると、背中に手が回された。  
「んっ、ん、……っん」  
口付けたまま指を増やして、中をかき回すように動かすと微かに水音が響いて、  
時折指が締め付けられる感触がした。  
「はぁっ、はぁっ、……っ」  
指を入れたまま親指で入り口の芽を押すようにすると、ちぃ姉は一際高く声を上げ腰を揺らした。  
「やっ、京にぃっ、だめぇ……っ」  
背に回された手が僕を引き剥がそうとして、痛かったのだろうかと不安になって反射的に手を離したけれど  
見下ろした彼女の顔は朱に染まって、涙を溜めた瞳が何かを訴えていた。  
彼女は何も言わなかったけれど、言わんとしていることはわかった。  
 
ベルトを外す手がもどかしかった。  
そのまま下着ごとパンツをずり下げ自分自身を外に出すと、触っても居ないのに痛いくらいに張り詰めていて、  
ちぃ姉が見ているのは僕じゃないとわかっていてもなんだか恥ずかしくて、思わず顔を背けた。  
ふいにその部分に温かい感触を覚えて驚いて視線をやると、  
いつの間にか身体を起こしたちぃ姉の手が僕のものを握っていた。  
口に運ぼうとするのを慌てて押し止めて、これが当たり前になっているという泣きたくなるような現実を思い知らされた。  
彼女は少し意外そうな顔をしたが、僕の制止に素直に従った。  
再度身体を押し倒しながら、もう一度口付ける。  
「……いい?」  
「うん」  
一言頷き、微笑むちぃ姉の脚を身体に押し付けるように開かせ、自分自身を宛がった。  
「……ああ……っ!」  
「く……っ」  
二人の体液が絡み合う音を立てるのを聞きながら、僕はゆっくりと腰を進めていく。  
初めてではないだろうちぃ姉のそこは、少しずつ、でも拒むことなく僕を受け入れていった。  
擦れる感覚と包み込まれる温かさ、そして今ちぃ姉にしていることの事実にすぐにでも達しそうになる。  
「はぁっ、はぁっ、……大丈夫?」  
全て押し込み、ちぃ姉の顔の横に手を付いて息を整えようとしていると、  
ふいにちぃ姉の手が僕の手をそっと掴んだ。  
「ちぃ……、ちゃん?」  
「ねえ、今日の京にぃ、なんだかいつもと違うね」  
「…………!」  
その言葉に背筋がひやっとした。  
違うのは当たり前だった。いつも二人がどうしているかなど知る由もないのだから。  
いぶかしまれてしまっては意味が無くなってしまう。  
京にぃじゃなければ駄目なんだから。  
「京にぃが今日はなんだか優しくて……、なんか、嬉しいんだ」  
ちぃ姉の目から涙が零れた。  
「ちぃちゃん……今まで、ごめん」  
「えっ?」  
「たくさん、辛い思いや苦しい思いをさせてしまったと思う。でももう、そんな思いはさせないから」  
ちぃ姉は何も言わなかったけれど、涙を流しながらすごく幸せそうな顔をして微笑んだ。  
「もう二度と、……離さないからね」  
そう、もう二度と。  
手の甲に光り続ける紋様にそっと触れて、そこにキスを落とした。  
 
──ちぃ姉。  
 
「……愛してるよ」  
 
ちぃ姉の答えを聞きたくなくて、口付けで言葉を奪う。  
手探りでちぃ姉の右手を掴み、指と指を絡ませた。  
そのまま、腰を少し引いてまた押し込んだ。  
くぐもった声を聞きながら、少しずつ動きを早めていく。  
唇が離れる頃には互いの息は上がって、部屋に響くのは荒い息とちぃ姉の嬌声、繋がる場所から溢れる音だけだった。  
「京にぃ……っ、んっ、はあっ、きょ……に……ぃ…………っ」  
 
言わないで。  
僕の腕の中で京にぃの、……他の人の名前を呼ばないで。  
僕の名前を呼んでよ、ちぃ姉。  
 
喉から幾度と無く出かかる言葉を飲み込んで、代わりに律動を激しくした。  
彼女から漏れる甘い声が一際高くなり、回された腕に力が入る。  
「あ……! あ、っあ、やあぁ……っ、京にぃ……っ」  
「っあ、んっ……!」  
この時間が終わってしまうのが怖かった。  
その気持ちとは裏腹に、快感に手放しで溺れたい気持ちが溢れる。  
「あ、んっ、もっ、やっ……、やぁっ……」  
僕を締め付ける感覚が短くなってきて、ちぃ姉の口からはひっきりなしに声が上がっていた。  
「やっ、あ、あ、あああ──────……!」  
固く繋いだ手にグッと力が込められた瞬間、ちぃ姉はビクビクと身体をひきつらせて達した。  
ちぃ姉。ちぃ姉。──ちぃ姉。  
「ぅあ……、ちぃ………………っ!」  
あまりの快感の波に思わずちぃ姉の名前を呼びかけて、押しとどめてそのままちぃ姉の中に精を放った。  
 
 
ちぃ姉は軽く気を失っているようだった。  
あの術を使わなくてもすみそうだ、と少し安堵する。  
繋がれたままの手の甲に、輝く紋様にキスを落とした。  
 
「……余韻に浸る暇もないんだよね」  
小さく一人ごちて、まだだるい身体を無理やり動かす。  
グズグズしている暇はない。  
グッタリと身体を横たえるちぃ姉に脱がせた衣服を着せ、そのまま抱きかかえた。  
 
***  
 
僕たちはたくさんの花に囲まれて、月を見上げるようにして並んで座っていた。  
「ちぃ姉、この季節にも花はたくさん咲くんだよ。キレイでしょう?」  
吹き抜ける風が、ちぃ姉の髪と花を揺らした。  
「ねえちぃ姉、たくさんのチューリップ、見せてあげられなくてごめんね」  
僕の左肩にもたれ掛かるように身体を預ける人にそっと語りかける。  
 
あの部屋には念のため式神を残してきたけれど、たいした時間稼ぎにはならないだろう。  
きっとそろそろ二人とも目を覚ましているに違いない。  
追いかけてこられたら、見つかるのは時間の問題だった。  
 
 
京にぃを、殺すことも考えた。  
でも、ちぃ姉がきっと悲しむだろうからやめた。  
じゃあ京にぃの思い人がいなくなればいいと思った。  
そうしたらちぃ姉はきっと、悲しむ京にぃを見て悲しむのだろうと思った。  
──もう、僕にはこうするしか思いつかなかった。  
それならせめて最後くらい、ちぃ姉が幸せな気持ちでいてくれるようにしてあげたい。  
そう思った。  
 
 
それとも僕が無理矢理願いを叶えたかっただけだったのかな。  
 
 
ちぃ姉、ごめん。  
僕を許して。  
京にぃや設楽……ううん、僕以外の誰かがちぃ姉の隣にいるのを見るのも、  
京にぃのことで泣くちぃ姉を見るのも、  
僕より先にちぃ姉が逝ってしまうのを見守ることしかできないのも、  
……そのどれをも選べなかった、僕の弱さを許して。  
 
あの日。  
ちぃ姉が僕を見つけてくれたこの場所だけが、僕の帰る場所だったんだ。  
でももう悲しい思いはさせないよ。  
ちぃ姉は僕の我が侭、許してくれるよね?  
 
「ちぃ姉、……愛してるよ」  
 
微かな笑みさえ浮かべて静かに目を閉じている彼女にそっと口付けて、  
僕は冷たく光る阿修羅の太刀に手をかけた。  
 
 

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