頭が痛い。  
飲めない酒を無理に飲んだ次の日は、決まってこうだ。  
いつものように、最悪の気分で目を覚ました。  
体が揺れているのは、二日酔いの所為ばかりじゃない。  
俺の寝泊りしているのは、大型のヨットだ。乗組員は、俺だけ。  
この船室も本来二人用だったんだが、ベッドは一つ捨てた。その分広くなったスペースは、酒瓶とゴミで  
埋まっている。  
闇の中、転がっている酒瓶を手探りで拾い上げ、中身の琥珀色の液体を飲み干す。  
いくら飲んでも、不味いものは、不味かった。  
 
ドルファンを追われたあの日から、一年経った。  
騎士になる夢を無くし。  
そして何より、愛しい人を無くした、あの日。  
初めて出合ったあの波止場で、俺は夕日が沈むまで待った。  
けれども、ソフィアは、来なかった。  
 
それからの俺は、抜け殻だった。  
傭兵を続ける気力も失った俺に、金だけがあった。  
騎士になるべく、他の誰とも比較にならないほどの武功を立てた俺には、闘った年数と同じだけ遊んで暮らせる  
ほどの報酬が支払われた。  
だが元々、大した道楽も無い俺だ。せいぜい飲めない酒を飲んでみせるのが、精一杯の浪費だった。  
だから、船を買った。  
一人で操船可能なヨットの中で一番大きく、性能のいい奴だ。  
これさえあれば、どこにでも行ける。  
そう。もし、再び機会があれば、ドルファンにだって飛んで行ける。  
 
そんな日は、恐らく二度と来ないのは、分かっているのだけれど。  
 
もう、何万回したか分からない追想を振り切って、俺は立ち上がった。  
部屋のランプを灯す。世間の皆さんが寝るような時刻に、俺は目を覚ますのだ。  
汗臭いシャツに袖を通し、これだけは捨てられない愛用の刀を帯びると、俺は梯子を上がった。  
上がった所は操舵室になっていて、そこから小さな甲板に出られる。  
月が、出ていた。  
少し肌寒くなりかけた空気が、二日酔いの頭には心地いい。  
久しぶりに、外に出てみるか。  
夜更けの波止場には、誰もいない。散歩には、好都合に思えた。  
 
陸を踏むのは、四日ぶりか。  
波に揺られつづけた体が、まだ頼りなく揺れているような気がする。  
ここの所、食料と酒、日用品を仕入れる時以外、船から下りていない。  
あちこち旅をするのにも飽きた俺が、ハンガリアのこの小さな港町に錨を下ろして一ヶ月になる。  
金払いはいいが愛想の無い東洋人には、港の関係者も余り話し掛けてこない。  
今の俺には、好都合な環境だった。  
 
月を見ながら、人気の無い港を、歩く。  
港には、珍しく大型の客船が泊まっていた。恐らく、ドルファンの貴族の持ち船だろう。  
王政復古派のテロに喘ぐハンガリアは今、ドルファンに軍事協力を求め、水面下で様々な交渉を行っていると聞く。  
比較的ドルファンから近く、ハンガリア首都への便も良いこの港は、外交の窓口にはうってつけだった。  
 
何となく、その客船に向かって、歩く。ドルファンの空気に、少しでも触れたくて。  
未練だと分かっちゃいる。しかし、港は、思い出の場所だ。  
初めてソフィアと出会った、あの思い出を忘れられなくて、俺は港に居続けてしまうのかもしれない。  
初めてドルファンについた俺が最初に耳にした声は・・・  
 
「いやっ!は、放して下さい!」  
 
記憶と、寸分違わぬ台詞と声に、凍りついた。  
幻聴だろうか。確かに聞いた懐かしい声に、思わず自分の正気を疑った。  
まさか。いるはずがない。こんなところに。  
そう思いはするものの、必死で辺りを見渡す。その人を求めて。  
 
「や、やめてっ!やめてください!!」  
 
体が、震えだした。  
間違い無い。間違うはずが無い!この声!この声は!  
 
(ソフィア!!)  
 
気がふれたように、俺は駆けた。いや、もしかしたら本当にもう狂っているのかも知れない。  
酒浸りの足が何度ももつれたが、俺は駆けた。声に向かって。  
夢でも、幻でもかまわない。もう一度、もう一目だけでも会いたかった。  
貨物船用の大きな倉庫の立ち並ぶ、港でも更に人通りの無い場所から、争う声と物音がしている。  
倉庫と倉庫の間の路地で、もう一度叫び声がした。迷わず俺は路地に駆け入って、叫んだ。  
 
「ソフィア!!!」  
 
月明かりの下、女がいた。  
高価そうな黒い毛皮のロングコートに身を包み、ルージュの色だけが、やけに赤い。  
きつい香水の香りが、ここまで漂ってきている。  
俺の知っているソフィアは、こんな女では無い。  
人違いだろうか。もっと顔を良く見ようとした俺の肩が、不意に小突かれた。  
 
「おい!なんだあ?テメエは!」  
 
それでようやく気づく。  
女を取り囲むようにして立っている、4名のチンピラに。  
 
「と、東洋人!」  
 
懐かしい、というには余りに恨みの深い声が、更に俺に投げかけられた。  
チンピラの足元に、無様に転がっている小太りの男。  
 
(ジョアン・・・か?)  
 
無様に太ったものだ。この一年、よほどの贅沢と飽食に明け暮れたらしい。  
美男子、といっても差し支えの無かった顔は二重顎になって、容赦の無い暴力によって更にあちこち腫れ  
上がっていた。  
とすると、やはり、この女は。  
 
「ソフィア・・・なのか・・・」  
 
思わず、問い掛けずにはいられない。  
栗色の素直な髪も、大きな青い瞳も、華奢な体も。  
紛れも無くソフィアのものなのに、まるで別の女に見えた。  
 
「・・・・!」  
 
息を呑んだまま、何かを恥じるように、女は顔を伏せた。  
そんな仕草に、ようやく以前の面影を見た。  
ソフィアだ。間違い無く、ソフィアだ!  
 
「よう、兄ちゃん!今いいとこなんだ。邪魔を・・・」  
 
皆まで言わせず、その男の顔面に峰を返した一刀を、叩きこむ。  
鼻血を吹いて倒れるそいつに、続けざまに二撃。失神しておつりが来るほどの、強烈な打撃だ。  
奇跡のような再会に、爆発しそうな歓喜が体を駆け巡っていた。  
一年ぶりの獰猛な笑いを浮かべ、俺は残るチンピラどもに殺到した。  
 
決着は、早かった。  
体は鈍ってはいたが、それでも芯から腐りきっていたわけでも無かったらしい。  
残る三名に過剰防衛気味の攻撃を加え、打ちのめすのに、1分で事足りた。  
もぞもぞと芋虫のように這う最後の一名の腹を蹴りつけて止めをさすと、俺はソフィアに向き直った。  
 
「ソフィ・・」  
 
ソフィアは、こちらを見ていない。  
ジョアンを膝の上に抱え、一心に奴の額から流れる血を拭ってやっていた。  
満月に照らされ、二人の影が俺に向かって伸びている。  
夢にまで見たソフィアが目の前にいるのに。  
二人と俺との距離は、絶望的に遠かった。  
 
「フ、フン!あ、相変わらずケンカだけは達者の、よ、ようだな!東洋人!」  
 
ソフィアに介抱されつつ、精一杯の虚勢を張ってジョアンが言う。  
俺は、虚脱してしまっていた。言い返す言葉も無く、俺は立ち尽くす。  
 
「が、外交官としての任務でハンガリアに来てみれば・・・クッ、やはり、所詮は野蛮な国家だけの事はある!  
い、いきなり襲われては、反撃も出来なかった。ま、まあ、本来なら負けるような相手では無かったのだが・・・」  
 
ジョアンの言葉は、半分も頭に入っちゃいなかった。  
俺は、ソフィアを見ていた。ソフィア、頼む。こっちを、見てくれ。顔を見せてくれ・・・  
 
「お前も、礼を言ってやったら、どうだ?ソフィア」  
 
ジョアンがこっちを見つめ、にたりと笑ったのが見えた。  
見られていた。ソフィアを見つめていた、この俺の姿を。屈辱に体が竦む。  
 
「こちらの東洋人の紳士は、随分とお前に御執心らしい。フフ、礼を言ってやりなさい。ソフィア」  
「ありがとう・・・ございました」  
 
人形のように、ソフィアが頭を下げた。俺を見ずに、頭だけ、下げた。  
 
「まあ、礼金が欲しければ、停泊しているあの帆船の、特等客室まで来たまえ。フフ。ハハハ。ハハハハ!」  
 
ソフィアに肩を貸してもらいながら、ようやく立ち上がったジョアンが、俺を嘲笑った。  
 
今まで。  
何度も、屈辱を受けた事はある。  
けれども、それを耐える事が出来たのは、俺に夢があったからだ。  
将来、ドルファンで騎士になるという夢。  
そして、好きな女と結ばれ、幸せな家庭を築くという夢。  
その夢の両方を奪った男が、俺を嘲笑っている。今の、落ちぶれた、この俺を。  
 
だが、俺は耐えた。  
目の前に、ソフィアがいる。ソフィアなら、何かを言ってくれるはずだ。  
飢えた野良犬が餌を欲しがるように、俺はソフィアの言葉を欲していた。俺に向けた、優しい言葉を。  
 
ソフィアは、決して俺を見ない。  
尚も嘲笑い続けるジョアンを、そっとたしなめる声が、俺の耳に届いた。  
 
「あなた・・・おやめになったら・・・」  
「何!ソフィア!お、お前!僕に逆らうのか!それともまだ、この男を!」  
「いいえ」  
 
月光より冷たく、ソフィアが言った。  
 
「所詮は下賎の者ではありませんか。エリータスの当主である貴方が、お相手をするような者ではありません」  
 
血が、凍った。  
 
「お礼はいずれ致します。それでは」  
 
俺を見ないままそう言うと、ソフィアはジョアンに肩を貸し、俺の隣を通り過ぎた。  
呆然と、俺はそれを見送る。  
脳裏に、今しがた聞いた声が反響する。  
下賎。下賎と言ったのか。今。  
本当に、それを。お前が。  
ソフィア。  
 
凍りついた血が、一気に沸騰した。  
 
何かを叫んだ気もしたが、覚えていない。  
気がつけば、手にしたままの刀で、俺はジョアンをめった打ちに打ち据えていた。  
 
「やめて!やめて!やめて下さい!!!」  
 
ソフィアが悲鳴と共に、俺の腕にしがみ付いてきた。  
俺は気づかず尚も腕を振り上げ、しがみ付いていたソフィアを吹っ飛ばした。  
 
「きゃ!」  
 
ソフィアが倒れる音で、やっと我に返った。  
ジョアンは悶絶したまま、気を失っている。  
峰打ちにしたのは、只の偶然だ。  
もし、刃を返した状態で刀を握っていたなら、俺はきっとこいつを斬り殺していたに違いない。  
 
「ご、ごめんなさい。あ、ああでも言わなければ、この人はきっと貴方をいつまでも罵り続けるし、それどころか  
逆恨みして貴方に害を与えかねないと思ったんです・・・そういう人なんです・・・・」  
 
両手をつき、うつむいたまま、ソフィアはすすり泣いている。  
毛皮から、赤いヒールを履いた白い生足が伸びていた。  
月明かりに照らされた、妙に生々しいそれは、俺の記憶にある少女のものでは、無かった。  
それは紛れも無く、人妻の足だった。  
 
「ほ、本当にごめんなさい!代わりに、私をぶって!だ、だから、その人を・・・・」  
 
ようやく、ソフィアが俺を見た。  
その青い瞳に、嘘は感じられない。  
ジョアンの、俺への悪意を逸らす為、あえてソフィアはああ言ったのだ。  
それは、いい。  
だが。  
 
俺は無言のまま刀を納め、ジョアンの醜く太った体を肩に担ぎ上げた。  
そのまま、元来た道を帰る。  
ソフィアは、まだ泣いているが、立ち上がってついて来た。  
恐らく俺が、自分たちの船まで送ってくれるものと思っているのだろう。  
 
俺は振り返らず、歩く。  
ソフィアの足音が、俺について来る。  
客船に向かう桟橋の方へ曲がらず、尚も俺は真っ直ぐに進む。  
 
「あ、あの・・・こ、こっちです」  
 
わかってる。わかってるさ。  
気がつけば、俺は笑っていた。三日月のように、口を歪めて。  
 
「あ!あの!」  
 
ようやく明らかな異変を感じ、ソフィアが駆け寄ってくる。  
そんなソフィアを完全に無視して、俺は歩く。目の前に立ったソフィアを邪険に押しのけ、ひたすら進む。  
 
俺の中に、ドロドロしたマグマのように渦巻いているもの。  
それは、嫉妬だった。  
 
ソフィアは、本心から俺を蔑んでいたわけじゃない。それは分かった。  
だが。  
夫の激情をなだめ、その矛先を変える為に最も効果的な言葉を、ソフィアは咄嗟に選ぶ事が出来た。  
それは、一朝一夕に身についた技術ではないだろう。  
この一年の間、妻としてジョアンと共にいた女にしか、それは体得出来ないものだ。  
 
この一年。  
絶望と後悔に、俺が身を焼いていた間。  
ソフィア、お前は、ジョアンと一緒にいたのか。  
共に暮らしていたのか。  
抱かれて、いたんだな。  
俺から、全てを奪った、この男に。  
 
妬みと憎悪に、目が眩みそうだった。  
 
尚もソフィアは、何事か言って、俺を止めようとする。  
その言葉が、耳に入らないほど、俺は逆上していた。  
桟橋から、俺の舟に上がり、操舵室に入る。  
躊躇いながらついて来たソフィアの目の前で、階下の船室に、ジョアンを投げ落とす。  
悲鳴を上げたソフィアをせせら笑いながら、俺は梯子を降りた。  
 
ゴミにまみれた床の上にジョアンを蹴り転がし、ソフィアが降りてくるのを待った。  
降りて来ないなら、それでもいい。  
ソフィアが、誰か助けを呼んでくるつもりならば、その時はジョアンにたっぷりこの恨みをぶつけてやる  
つもりだった。  
しかし。  
長い逡巡の後、ソフィアは降りてきた。  
妙にコートの裾を押さえて梯子を降りてくるので、ひどく時間がかかる。  
 
いいさ。ゆっくり来い。  
夜明けには、まだ間がある。  
梯子を降りてくるそのソフィアの尻を、俺は見ていた。  
俺の中に渦巻いていたマグマは今、劣情となって、ゆっくりと俺の鎌首を持ち上げ始めていた。  
 
船室のランプの光の中に、照らし出されて。  
ソフィアの影が、揺れていた。  
 
俺は、ベッドに腰掛け、何も言わない。  
沈黙にたまりかねたソフィアが、ジョアンの側に膝をつき、揺さぶり、名前を呼んだ。  
ジョアンの混濁した意識が、徐々に戻って来るのを、俺は待った。  
このくらい待つ事くらい、この一年の長さを思えば、何でも無かった。  
少しだけ舟が波に揺れ、足元に酒瓶が転がって来たのを拾い上げ、俺は一気に飲んだ。  
美味い。  
生まれて初めて、酒が美味かった。  
 
「・・・う・・・ソフィア・・?」  
「気がついた?あなた!」  
「こ・・・ここは?」  
「ようこそ。下賎な東洋人のねぐらへ」  
 
俺は芝居がかって言った。期待に胸が躍っている。そう、復讐劇が幕を開けるのだ。  
 
「気がついてくれてよかった。殺したんじゃないかと心配していたんだよ。ジョアン」  
「な・・・何を・・・・」  
「でも、体は動かないだろう?そりゃあそうだ。骨が何本かイカレてるはずだしな。そう。お前は、動けない」  
 
死刑の宣告のように言って、俺は立ち上がる。放り捨てた酒瓶が、乾いた音を立てて割れた。  
 
「動けないまま、よく見ておけ。お前の妻が、犯される様をな」  
 
俺はソフィアの手を掴み、ベッドに向かって投げ捨てるように突き飛ばした。  
高価そうな飾りボタンが、いくつか弾け飛んで床に転がった。  
 
「や、やめろ!」  
 
狭い船室に、ジョアンの叫びと俺の哄笑が轟いた。  
ベッドに倒れ、長いコートの襟をしっかりと合わせて、ソフィアは震えている。  
 
「や・・・やめて・・・貴方は、そんな人じゃ、無いはずです」  
「お前も、そんな女じゃ無かったよ」  
 
冷たく言って、ソフィアの顎をつまんだ。  
その俺の手を払いのけもせず、ソフィアはボタンの飛んだコートの前を必死で合わせている。  
 
「お、お願い。やめて下さい!」  
「その声で、喋るな。俺の愛した女と同じ声で、お前が喋るな!」  
 
言いざま、俺はソフィアの両手首を掴み、ベッドに押さえ込んだ。  
ベッドに磔られたようになったソフィアの、毛皮のコートが、はらりと開いた。  
 
「な・・・・!」  
 
絶句した。瞬きも出来ない。  
俺は、呆けたように、コートの下に隠されていた、ソフィアの本当の姿を見ていた。  
 
コートの下は、ほとんど裸だった。  
いや、正確に言えば、下着は、付けている。  
しかし、紫色のレースのそれは、上は乳房がほとんど露出していたし、下も、股間の部分に穴が開いていた。  
ただ、セックスの為だけの、淫猥な下着。  
娼婦ですら敬遠するほどの、下品で淫らな、下着。  
 
「・・・・見ないでっ・・・・」  
 
鼓膜を震わせたのが、羞恥に堪りかねたソフィアの声である、と気がついた時。  
俺の中で、何かが壊れた。  
 
「あ・・・あはは、あは、あは、あは、あははははははははわはははははあはあああ!!!!」  
 
狂ったように俺は笑った。腹がよじれる。涙が零れた。  
余りの屈辱に、裸身を隠す事も出来ずに呆然としているソフィアを前に、俺は笑い続けた。  
何がおかしいのか。それとも哀しいのか。もう、俺にはどうでもよかった。  
 
これで分かった。  
どうして、外交官としてここに来ているはずのジョアンが、こんな夜更けに共も連れず、人気の無い港なんぞを  
ほっつき歩いていたのかが。  
まともなセックスに飽き足らなくなったジョアンは、己を知る人もいない異国に来た開放感に誘われるまま、  
ソフィアを連れ、屋外で露出を楽しんでいたに違いない。  
そこを、チンピラどもに見られた、というわけだ。  
 
段々、俺の笑いが変わってゆく。蔑みから、憎悪へと、変わってゆく。  
俺の愛した少女は、もういない。  
俺の愛した少女は、淫売以下のこのメス豚に侵され、どこにもいなくなってしまった。  
 
乾いた笑いが、ぴたりと止んだのを、俺は他人事のように聞いた。  
ゆっくりとシャツを脱ぐ。  
冷ややかな視線で、目の前のメスを射すくめ、身動きを封じる。  
逃がしはしないさ。そんな隙は与えない。  
ズボンを引き摺り下ろした俺の中心で、男根が猛り立っていた。  
背後で、ジョアンの泣くようなか細い声が、聞こえた。  
 
「や・・・やめて、くれ。東洋人。お、お願いだ」  
 
声を震わせ、哀願するジョアンを、俺は振り返らない。  
この期に及んでも、こいつは俺の名前を呼ばない。恐らく、思い出せないのだろう。  
取るに足らない東洋人は、名前すら記憶に残らないらしい。  
いいさ。お前の女房共々、二度と忘れられない悪夢を見せてやる。  
 
ズボンのベルトを引き抜き、俺は女に近づいた。  
コートを乱し、必死に抵抗する女を、手加減無しで二度三度、平手で打った。  
半ば脱げかけたコートを毟り取って部屋の隅に捨て、女の両手を、後ろ手にベルトで縛る。  
そのまま女の背後に回り、ベッドの上に座らせる。ジョアンの方を、向かせて。  
 
「よく、見ておけよ。ジョアン」  
「や・・・やめて・・・くれ・・・」  
「い、いや!お願い!いやっ!!」  
「遠慮しなさんなよ。人に見られるのが、イイんだろ?あんたらは」  
 
皮肉に笑うと、俺は続けた。  
 
「それに、痛い思いは、もうさせないさ。後は、気持ちいい思いをしてもらうだけだぜ?」  
 
まるで乳房を隠す役に立っていないブラから露出した乳房を、ゆっくりと揉む。  
俺の記憶の中の少女より、一回りはでかい。ジョアンに揉まれ、熟したというわけか。  
激しい嫉妬に思わず乳房を握り潰してやりたい衝動に駆られるのを、必死に堪える。  
ただ痛めつけ、犯すだけじゃ足りない。この憎しみは晴れない。  
全身全霊を込め、柔らかに、巧みに技巧を凝らし、時折卑猥な言葉を耳元で囁きながら、俺は女の乳房を責める。  
 
「・・・どうした?乳首が、勃起してきたぜ?」  
「い・・・いやっ!やめてっ!」  
「見てみなって。勃起乳首が飛び出してるぜ。へへ。これじゃあブラの意味なんかねえなあ」  
「い、いや!いや!いや!」  
「そうかい?そうだろうなあ、レイプされてんだもんな。好きでもない、この俺に!」  
 
女の動きが、止まる。  
 
「そうさ。愛してない男に、愛する夫の目の前で犯されるんだ。感じるわけ、ねえよな」  
「う・・・うう・・・」  
「感じるわきゃ、ねえよな!そんな、恥知らずの変態なわけ、ねえよな!ああ?」  
 
決め付けて、乳首を引っ張り上げる。  
 
「あうっ!」  
「な。ジョアン。良く見ててやれよ。あんたの女房が、凌辱に耐える姿をな・・・」  
 
羞恥を煽ってやるのが、この女に効果的なのは、すぐに分かった。  
ジョアンの視線や、俺の視線を意識させる度に、体をぴくりと奮わせている。  
普段、控え目にしているけれども、本当は大きな舞台に立ち、皆の注目を集める事を夢にしていた少女の事を、  
俺は少しだけ思い出した。  
 
「・・・あっ!」  
 
女が、抑えきれずに漏らした快楽の声に、我に返る。  
そうだ。これはソフィアじゃない。ソフィアなんかじゃない。  
俺は再び愛撫に集中する。  
少し寒くなりはじめた季節なのに、女の肌は熱いくらい火照っている。全身には、しっとりと薄い汗をかいていた。  
 
「どうした?声が出てるぜ?エリータス夫人?まさか乳首いじられただけでよがってるんじゃ、無いよなあ?」  
「・・・いや・・・」  
「旦那が見てるぜ?ええ?おい、何とか言ってやれよ、ジョアン」  
 
ジョアンは床に突っ伏し、ママ、ママ、と呟くばかりだ。  
俺は舌打ちして言った。  
 
「おいおい、しっかりしてくれよ、ジョアン。まだまだこれからだぜ?」  
「・・・ママ・・・助けて・・・」  
「しっかり見てくれよ、ジョアン・・・お前の女房が、お前の前で、イクところを!」  
 
ぐい!と女の股ぐらを開いてやる。  
必死にもがき、逃れようとする女を片手であしらいつつ、俺はパンティーに空いた穴から、秘所に手を差し入れた。  
軽く二、三度、指先で簡単に陰部を擦り、その指を女の前に、差し出す。  
 
「なんだ?これは?」  
「いや・・・いやぁ・・・・」  
「なんなんです?これは?ええ?エリータス夫人?」  
「お願い・・・お願いです・・・・もう、止めて・・・」  
「おや、ご存知ありませんか?これが何なのか。仕方無い。教えて差し上げましょう」  
 
明らかに湿っている指を、女の口に強引に突っ込み、かき回す。  
生暖かい舌の感触にぞくりとしながら、俺は叫んだ。  
 
「マン汁ですよ、マン汁!旦那の前で犯されながらよがる変態女の垂れ流した、スケベ汁だ!」  
 
ジョアンが、声を上げて泣き始めた。  
女の目からも、一筋、涙が流れた。  
 
豚のように泣くジョアンを、俺はもう完全に無視していた。  
ただ、この目の前の、俺の愛した女の形をした肉塊に、思い知らせてやりたかった。  
開かせた股ぐらに、顔を突っ込んで、舐める。  
わざとびちゃびちゃと音を立てながら、俺は赤く充血したマンコを舐め続ける。  
女の体から、汗が垂れた。  
体に直接香水をふっていたらしく、汗を舐めると酷く苦い味がした。  
口直しのように、溢れてくるマン汁を舐める。勃起した陰核を口に含み、転がし、強く吸った。  
 
「あああっ!」  
 
女の足が、伸びる。後ろに手を回され、身動きの取れ無い不自由な体で、それでも身を捻って悶える。  
そうだ。もっと感じろ。このメス豚が。いい気味だ。  
舌で充分に陰唇をかき分け、膣口に舌を差し入れて、広げる。  
膣内を充分に愛液と唾液まみれにして、俺はゆっくり、指を二本入れた。  
 
「いやあぁっ!!!」  
「いや?おかしいなあ。こっちはそう言っていませんよ?エリータス夫人。もっともっとって、食いついて離して  
くれませんよ」  
 
ゆっくり、充分に膣に俺の指をなじませた後、じわじわといたぶる。  
指を出し入れする度に、膣内に空気が入って曇った音を立てるのを存分に聞かせてやる。  
 
「あ!あ!!お願いです・・・も、もう許して下さい!」  
「許してやってもいいぜ?」  
 
指を、ぴたりと止めて、俺が言った。  
 
「・・・え?」  
「許してやってもいいと、言ったんだ」  
 
俺は、蛇の冷たさで女を見据えながら言った。  
 
「ほ・・・本当に?」  
「俺が、あんたとの約束を破った事があったか?」  
 
女の目が、俺を見つめている。必死に俺を、見つめている。  
暗い充足感で満たされながら、俺は言った。  
 
「許してやってもいいぜ?そこでのたうってるあんたの旦那に、小便をひり掛ければな」  
 
そう言うと、俺は子供におしっこをさせるような格好で、女を後ろから抱え上げた。  
相変わらずジョアンは床を見たまま、ママママとぶつぶつ言うばかりだ。  
丁度その頭の真上に、女の性器が来るようにする。  
 
「ほら。出せよ。寒い中、毛皮一枚だけで励んでたんだろ?小便も近くなってるだろうが」  
 
女は、無言で頭を振る。何度も、何度も、壊れたように。  
 
「いいけどよ。このままじゃ、死ぬぜ?こいつ」  
 
俺の言葉に、出し抜けに女の力が抜ける。  
まるで、突然糸の切れた操り人形のように。  
うつろに俺を見るその女の目に、深い満足を覚えた。そうだ。お前には、絶望の表情がお似合いだ。  
 
「さあ。出せよ。とっとと旦那に小便ひっかけな!」  
 
女の体が、ぶる、と奮える。  
少しの、沈黙の後。  
 
しゃあああ・・・・・  
 
徐々に勢いを増し、黄金の滝がジョアンに降り注ぐ。  
 
「・・・あ。ああ!ああああ!い、いやだ!し、染みる!染みるよお!ママー!!」  
 
傷口に、小便が染みて堪らないらしい。転げまわって痛がるジョアンを見て、俺は女を抱えたまま笑った。  
尿の勢いが弱まり、何度か断続的に噴出して、止まった。  
股間から雫を滴らせる女を再びベッドに投げ込み、その雫を舐め取る。  
なるほど。確かに塩味がする。体中の傷に、さぞかし染みた事だろう。  
尿の味がしなくなるまで執拗に、性器を舌でねぶる。  
再び湧き出したマン汁で充分に舌を洗い、俺は立ち上がった。  
 
女は、呆然と俺を見上げている。  
 
「分かってるよな。もちろん、これで許されるはず無いって」  
 
女の首が、がくりと落ちた、頷いたのか、絶望して俯いたのか、分からない。  
 
「咥えろ」  
 
女の前に、既に先汁が滴り落ちるほどになっている肉棒を差し出した。  
似合わないルージュに彩られた口が開き、ゆっくりと、俺の肉棒を飲み込んでいった。  
 
ちゅぱ・・・ちゅぱ・・・  
 
丁寧な舌使いだ。竿先から玉まで、ちろちろと舌を遊ばせ、たっぷりと唾液で濡らし、一気に喉の奥まで咥え込む。  
決して短くはないはずの俺の竿が、根元まで咥え込まれ、亀頭が喉の奥の壁にぶつかるのを感じた。  
 
「っくあっ!」  
 
ここ一年、女とは殆ど関係していなかった。  
商売女を買っても、ソフィアの面影がちらついてすぐに萎えた。  
何もかも面倒になり、ここしばらく自慰すらしていない俺には、生まれて初めてのディープスロートの快感は  
余りにも強烈過ぎた  
思わず、声が出る。ソフィアの栗色の髪をかき上げ、うめく。  
 
「ソ・・・ソフィアっ!」  
 
名前を、呼んでしまう。  
決して呼ぶまいと思っていた、愛しい、その名前を。  
それに応えるように、ソフィアの口が激しさを増す。  
まるで膣内に突っ込んでいるように、口全体が俺のモノを締め上げてくる。  
これほどのテクニックを、ジョアンの奴に教え込まれたのか。この口で、奴のモノを舐めていたのか。  
快楽と嫉妬に翻弄され、思考は乱れる。  
甘い混乱の中、欲して止まなかった女が、自分のモノをしゃぶっているという、その事実だけが俺の脳一杯に  
広がって、弾けた。  
 
「だ、出すぞっ!!」  
 
叫ぶと同時に、尿道が痛むほど激烈な射精をした。  
喉の奥まで飛んだはずの精液を、ソフィアはむせもせず、一滴も残さずに飲み込んだ。  
肉棒が口から離されると、快楽から解放され、俺は荒い息をついた。  
ゆっくりと味わうように、ソフィアは目を閉じ、口の中で舌を遊ばせている。  
ごくり、と唾液を飲み干し、ソフィアは目を開け、俺を見つめた。  
綺麗な目が、絶望と悲しみに濡れている。その全てを与えたのは、この俺だ。この俺が、与えた。  
 
後悔は、無い。  
それどころか、深い悦びが、体の奥の方から溢れてくる。  
そうだ。  
もっと、見たい。ソフィアが、俺の所為で泣くところが、どうしても見たい。  
屈折した情動が、再び俺の肉棒を固くしていった。  
 
ソフィアの顎をつまみ、上を向かせる。  
今しがた、俺の精液を飲み干したばかりのその口に、俺はキスをした。  
僅かに開くのを躊躇う口をこじ開け、歯が当るのもかまわず、強引に舌を入れる。  
おずおずとソフィアの舌が俺のそれを迎え入れる。  
互いの舌が絡み合った瞬間、ソフィアの舌は人が変わったような激しさで俺の口内に滑り込んで来た。  
生温かいそれを吸い、唾液を交換する。もう、二人ともジョアンの事など忘れていた。  
もつれるようにベッドの上で絡み合う。俺は無意識に、ソフィアの腕を解いていた。  
背中に回されたソフィアの手が、激しく俺を抱きしめる。  
少しでも肌を密着させたくて、邪魔な下着を毟り取る。布というより紐に近いそれは、あっけなく千切れた。  
夢中で乳首を吸い、舌先で転がす。  
 
「ああぁんっ!」  
 
ソフィアが、辺りにかまわぬ大きな声で喘いだ。  
執拗に乳首をしゃぶりながら、尻穴まで垂れるほどに愛液に濡れきったヴァギナに指を突っ込んでやると、ソフィア  
の細い指が、俺の怒張をしごき始めた。  
お互いの指で、お互いの陰部を犯し合う。ソフィアの中はぬるぬると蠢き、俺の指を貪欲に吸い込む。  
 
「ダ・・・メ・・・イキそう・・・」  
 
ソフィアの、俺の肉棒を擦っていた手が、ぎこちなくなってくる。  
俺はソフィアを見つめ、一気に指の動きを早めた。  
 
「ああ!ダメっ!そんなにしたら、すぐっ!」  
「イけ!イってくれ!ソフィア!」  
 
ソフィアが、俺を見た。視線が絡んだ。  
 
「は・・・あぁあああっ!!!」  
 
美しい顔を、苦悶に似た表情に歪ませ、ソフィアが痙攣する。  
びく、びく、と奮えるその体を見て俺は舌なめずりをした。  
まだだ、ソフィア。これからが本番だよ。  
 
イったばかりの、ひくつくマンコに入れたままの指を、狂ったように動かす。  
 
「ダメェッ!!!」  
 
金切り声を上げてソフィアがもがく。刺激に敏感になっている今、立て続けの指マンは拷問に等しいだろう。  
それでも、いや、だからこそ俺は指を止めない。  
かき回しつつ、クリトリスをもねぶる。再びソフィアの体が痙攣を始めた。  
 
「ダ・・・メ・・・イ、イグゥッ!!」  
 
絶頂の間も、指を、舌を止めない。  
声も出せないまま、ソフィアは快感に痺れた体をばたつかせ、俺から逃れようとする。  
逃がさない。逃がすものか。もっと、もっと苦しんでくれ。  
動かしつづけた手が、疲労で千切れそうに痛むのもかまわす、俺は小刻みな振動を膣内に送り込み続ける。  
絶頂の感覚が、段々短くなってくる。三回目。四回目。  
五回目の絶頂の時、ソフィアは泣き叫んだ。  
 
「や、やべてぇ!い、いっぢゃう!いぐ!いぐ!あがぁあああ!!」  
 
ばたつかせる手足を、無理やりに押さえ込む。  
まだだ、まだだ。もっと、もっと。狂うほど。何もかも忘れ、狂ってしまうほど。  
 
「し・・死んじゃうっ・・・死んじゃ・・・う・・・」  
 
目を見開いたまま、顎をがくがくと動かし、6度目の絶頂に震えるソフィア。  
最後の力を振り絞って指を震わせつつ、剥けきって勃ちあがっているクリトリスを、軽く噛んだ。  
 
 
「あ゛あ゛あ゛!!!!」  
 
7度目の絶頂に、ソフィアが、白目を剥いた。  
のけぞった姿勢のまま、硬直して動かない。  
疲れて痺れきった指を、ヴァギナから抜いても、硬直は解けないままだ。  
肉穴を、指の形に広げたまま、ソフィアは失神していた。  
 
断続的に身を奮わせつつ、意識を失ったままのソフィア。  
それを見下ろす俺の中に、今までとは明らかに違う形の愛情が芽生えていた。  
もう、ソフィアは俺の心に息づく、聖なる少女ではない。  
淫らな欲望を知り尽くした、一匹のメスだ。  
以前の俺は、ソフィアの涙を見たくなかった。彼女の涙を止める為なら、俺は躊躇無く命を賭けただろう。  
だが、今の俺は違う。  
ソフィアが苦しむほど、涙を流すほど、俺の体の深い部分で、どす黒い喜びが込み上げてくる。  
 
「おい・・・起きろ、ソフィア」  
 
軽く頬を叩き、意識を取り戻させる。  
焦点の合わないまま目が開き、ぼんやりと、ソフィアが俺を見る。  
 
「まだ、終わりじゃないぞ。わかるか?」  
 
ソフィアは、まだ少しぼうっとしたままだ。  
冷水を浴びせるように、俺は言う。  
 
「旦那様を忘れちゃあダメじゃないか。自分だけ何度もイキやがって。ジョアンに悪いとは思わないのか?」  
 
ソフィアの、顔色が変わる。  
一気に、意識が覚醒していくのが、面白いほどはっきりと分かった。  
 
「さあ。ソフィア。愛しい旦那様のペニスを、勃起させて差し上げな」  
 
信じられないものを見る目で、ソフィアが俺を見る。  
 
「どうした?いつもやってる事だろうが!さっさとやれよ!」  
 
青い目から、真珠のような涙が一つ零れたのを見て、俺は激しく興奮していた。  
ソフィアはのろのろと、ベッドから身を起こす。立て続けの絶頂に、鉛のように体が重いのだろう。  
部屋の隅でうずくまる小便まみれのジョアンに、よろめきながら歩み寄っていく。  
 
「旦那のズボンを下ろせ。チンポを、しごいてやりな」  
 
表情を無くしたまま、ソフィアはジョアンのベルトを緩める。  
嫌がるように身をくねらすジョアンのズボンを、無造作に下ろすと、縮こまった陰茎を探り当て、しごく。  
 
「や・・・やめろ・・・ソフィア・・・」  
 
傷の痛みと屈辱の激しさに朦朧となりながら、ジョアンが言う。  
逃れようと身を捻って尻もちをつき、わずかに勃起しかけたペニスを宙に向け、ジョアンは無様に倒れた。  
 
「ふ・・・ふははははは!!!」  
 
今までの鬱憤が、一気に晴れるほど爽快な気分だった。  
激痛で勃起どころでは無いのだろうが、情けなくしおったれた陰茎は、余りにもお粗末だった。  
子供のそれより、少しまし、という程度か。  
 
「なんだ?このお粗末なモノは?おい、ソフィア、教えてくれよ」  
 
ソフィアが、不安げに俺を見上げる。  
 
「なあ、俺のモノとこいつのモノ、どっちが立派だ?」  
 
ソフィアが、その場にへたり込んだ。膝の上で握られた手が、かすかに震えている。  
 
「正直に言ってくれりゃあいいんだ。さもないと」  
 
俺は、足先でちょい、とジョアンをつついた。  
瀕死の牛のように、ジョアンが立ち上がろうとして、倒れる。  
骨折のため、発熱もしているのだろう。息が荒かった。  
 
「・・・わかるよな。どうなるか」  
 
ソフィアの膝に、ぽたぽたと大粒の涙が零れている。  
それを見ただけで、俺のモノは限界まで大きく、固く勃起してしまう。  
 
「さあ。どっちのものが、でかい?」  
「・・・の方・・・です・・・」  
「あ?聞こえねえよ」  
「あ・・・なたの・・・方で・・す」  
「フフ。だろうなあ。じゃあ」  
 
ジョアン。聞いているか。まだ気絶したりするなよ。  
 
「どっちのモノを、入れたい?」  
 
ソフィアが、崩れ落ちた。すすり泣きの声を、俺は歌声のように甘く聞いた。  
ソフィアは、選ぶだろう。  
いつも自分の事より、周りの事を思いやってしまう彼女が、ボロボロのジョアンを助ける為にする行動は、  
分かりきっている。  
 
「あな・・たのモノを・・・入れたいです・・・・」  
 
ジョアンの喉が、ひゅう、と鳴った。  
頭を抱え、耳を塞ぎ、瘧のように震えている。  
復讐は、最後の仕上げに入った。  
 
「じゃあ、入れてやるよ。ソフィア。旦那の前で、犯してやる。たっぷりとな」  
 
こちらを見ようともせず、蹲ったまま震え続けているジョアンの隣に、ソフィアを寝かせる。  
汚れた床に、放心のまま仰向けに寝そべり、股を開くソフィアは、喩えようもなく煽情的だった。  
 
「指で、マンコを開きな」  
 
もはやソフィアの自我はほとんど崩壊しかけているらしく、俺の言うがままに動く。  
左右の手でぱっくりと広げられた陰唇に、濡れ残った愛液が光っていた。  
はちきれそうな程猛っている肉棒を、じわりと膣口に押し付ける。  
先汁を、ぬるぬると擦りつけ、じわじわと肉棒を沈めてゆく。  
 
「聞いているか。ジョアン。今、ソフィアのマンコに、俺のチンポが入っていってるぞ」  
 
ジョアンに聞かせる為というより、ソフィアの羞恥を呼び覚ますために、俺は言う。  
 
「じわじわと、ほら、半分くらい入った。中々いいなぁ。お前の嫁さんのモノはよ!」  
 
ソフィアの顔に、表情が戻って来る。  
焦点の合ってきた目が、俺の視線を受ける。  
ソフィアが、理性を取り戻しかけているのを感じ取った刹那、俺は一気に奥まで肉棒を叩き込んだ。  
 
「か・・・はっ!」  
 
深い挿入に、ソフィアが息を吐いた。  
子宮口を、亀頭でぐりぐりと押し上げてやりながら、尚も俺は言う。  
 
「子宮に届いてるぜ。極上の名器だな。このスケベマンコは!俺のチンポを咥えこんで離さないぞ!」  
 
浅く、深く、強弱をつけ、消えかけた性の炎を再びソフィアの肉壷に灯してゆく。  
奥の方から、新たに愛液が湧き出し、ピストンの度に淫らな水音を立てた。  
 
「嫁さん、大分気分出してきたみたいだぜ?ジョアン!見ろよ。すげえ濡れ方だ!」  
「は・・ぁ・・・・」  
 
焦らすように、胎内の浅い所をだけを肉棒に往復され、ソフィアが濡れた吐息をついた。  
きゅう、と俺の肉棒を締め付けてくる。  
亀頭の段差を使い、ねちねちと入り口辺りの壁を擦り上げ、不意に奥まで入れる。  
 
「はぁん!」  
 
甘い声が、響いた。  
 
温かな膣のぬくもりが、痺れるような快楽を俺に与える。  
じわじわと中をチンポで探りつつ、ソフィアの最も感じるポイントを把握してゆく。  
必死に耐えようとするソフィアに、意表をついたタイミングでツボを責め、快楽で気力を削ぎ落としてゆく。  
既に立て続けの絶頂を味わったヴァギナに、俺のペニスは大したご馳走だったらしい。  
床を汚すほど垂れ流しになった愛液がソフィアの尻の下で溜まり、俺が腰を使うごとにソフィアの尻が床の上を  
ぬるぬると滑った。  
 
最後だ。もう一言、どうしても言わせたかった。ソフィアを、そしてジョアンを完全に壊す、一言を。  
 
「最後の質問だ、ソフィア。そして、お前も良く聞いておけよ、ジョアン」  
 
腰をグラインドさせ、奥の方をペニスでかき回しながら、俺は聞く。  
 
「ジョアンのチンポと、俺のチンポ。どっちが、いい?」  
 
ずん!と深く一突きする。息も出来ないように、ソフィアは舌を伸ばして悶絶した。  
 
「答えろよ。これが最後だ。どっちのチンポが、いいんだ?」  
「あぁ・・・・」  
「言え!!」  
 
子宮の奥まで、チンポを捻じ込み、ぐりぐりと回し込んでやる。  
犬のように喘いでいるソフィアの口から、言葉になる前の音が漏れた。  
 
「言え!はっきり、言え!」  
「・・・なたの・・・」  
「聞こえねえ!もっとしっかり言ってみろ!」  
「あ、あなたの・・・おチンポが・・・いいです」  
「・・・ソ・・ソフィアぁ・・・」  
 
ジョアンが声を震わせて泣いている。  
復讐の成った快感に俺のモノは更に硬さを増し、ソフィアの肉壁を抉りぬく。  
ソフィアが、俺の背中に爪を立てた。  
 
「あ゛あ゛!!チンポ!貴方のおチンポがいいです!ジョアンの、何倍も!比べ物にならないです!ああ!突いて!  
もっと、もっと突いてぇ!!!!」  
 
一気に腰の動きを早める。壊すほど激しく、ソフィアの中を往復する。  
 
「あ゛あ゛んっ!!き、気持ちいいっ!お、おマンコっ!おマンコ気持ちイイよおっ!もっと、もっとおチンポ  
下さいィッ!!奥、奥にィッ!!!」  
 
家に、夫に、父に。  
抑圧され続けたソフィアの心が、弾け散った。  
俺の下で狂喜しながら腰を振り、淫語を口走るソフィアから、汗の粒が飛んで光った。  
 
「あ゛ー!あ゛ー!!」  
 
犯されながら、ソフィアは赤子のように泣いていた。狂ったように、俺を求めながら。  
体中で密着し、腰だけを激しく使いあう。ケダモノよりも激しく、俺たちは互いを貪る。  
 
「イ、イク!又、イクぅっ!!!」  
 
幾度目か定かではない絶頂に、ソフィアは半ば失神しかけている。  
俺も、もう、限界だった。  
 
「ソフィア、中で、出すぞ!」  
「はい!はいぃっ!!」  
「中で、ザーメンぶちまけるぞっ!」  
「はいぃ!く、下さいっ!いっぱい!いっぱいぃっ!!!」  
 
上の口も、舌で犯す。  
ぬめった唾液の感触は、濡れきった膣のそれとひどく似ていた。  
口内の痺れるような快感と、ペニスから駆け上ってくる射精寸前の切迫感が、俺の脳髄を駆け巡る。  
 
「うわあああ!!!で、出るっ!!」  
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!」  
 
ぎゅう、と、痛いほどペニスが締め付けられ、俺は大量の精子をソフィアの胎内に注いだ。  
どく、どくと俺のモノが脈打つたびに、ソフィアの体がびく、びくと、跳ねる。  
再び気を失ったソフィアの上に、折り重なるように俺も倒れた。  
単なる射精を超えた快感に、打ちのめされたように動けない。  
 
気絶したままのソフィアから、涙が零れた。  
犬のように、それを舐めとってやる。  
背徳の味は、どんな蜜よりも、甘かった。  
 
夜明けの風をいっぱいに帆に受け、俺の舟は凪いだ海面を滑るように進む。  
晴天だった。  
もう、港は遠くかすんで見えない。  
今頃、波止場に放り捨てられたドルファンの外交官どのを見つけて、大騒ぎになっている事だろう。  
俺は笑った。  
 
目の覚めたような気分だった。  
体の隅々まで気力が行き渡っているのを感じる。  
ソフィアを、過酷なまでに犯し尽くしたこの俺が、それでも、少しの後悔すらなく、笑っている。  
我ながら、どうしようも無く酷い男だとは、思う。  
 
舵を握る俺の後ろで、梯子を上ってくる音がした。  
振り返らなくも、ここには他に、もう一人しか、いない。  
 
ソフィアは、白いシーツを体に巻きつけ、操舵室に上がると、俺の後ろで佇んでいる。  
軽く振り返った俺の視線を正面から受け止めるその目に、感情らしいものは読み取れなかった。  
俺は無言のまま、再び行く手を見る。ウミネコが二羽、飛んでいるのが見えた。  
 
「ジョアンは・・・どうしたんですか・・・?」  
「港に捨てた。死んじゃ、いないだろ」  
「そうですか・・・私の、服は?」  
「海に捨てた」  
「そうですか・・・」  
 
ジョアンも服も、ソフィアの中では同じ程度の価値しか無いような、淡白な声だった。  
それきり、しばらく黙り込む。  
俺も、何も言わない。  
 
「もう・・・」  
 
やがてソフィアが、呟いた。  
 
「もう、戻れません。エリータスの家にも。ロベリンゲの家にも。そして」  
 
舟が一つ、波を越え、ぐらりと体が揺れる。  
 
「そして、昔の私たちにも」  
 
硝子に映ったソフィアは、俺の背中を見つめていた。  
舵を固定し、俺は振り返る。  
 
「昔に戻るつもりは無い。お前は、俺の奴隷だ」  
「どれい?」  
「そうだ。俺は、お前を苦しめ、犯し続けるだろう。これからずっと。一生をかけて」  
「一生?」  
「ああ」  
 
子供のように、俺の言葉を繰り返すソフィアの足元に、短剣を放った。  
 
「それで、いつでも俺を殺して、いい。お前になら、俺は、いい」  
 
そう言って、俺は目を閉じた。  
満足だった。  
恋人の抱擁を待つように、俺はソフィアの短剣を待った。  
 
ソフィアが短剣を拾い上げ、鞘を抜く気配がした。  
俺の喉に、冷ややかな刃が押し付けられる感触が、伝わって来る。  
波に体が揺らされ、少し皮膚が切れた。血の粒が、喉仏を一滴伝うのが分かった。  
 
「私は、貴方の奴隷、なんですか?」  
「ああ」  
 
俺は頷いた。  
更に傷口が広がったが、知った頃じゃない。  
 
「私を、ずうっと、犯すんですか?」  
「ああ」  
「一生?」  
「ああ」  
 
俺は目を開けた。  
 
「俺の子を孕め。俺の為に生きて、俺の為に死ね。お前は、俺の所有物だ。それがいやなら、いつでも俺を殺せ」  
 
ぐ、と短剣が押し付けられる。  
俺はソフィアの目を見た。見つめた。  
 
 
ソフィアは。  
 
 
短剣を、激しく床に叩きつけ、俺にしがみ付いた。  
体に巻いたシーツが落ち、白い肌が朝日を映して燃えていた。  
 
「ひどい!なんて、ひどい人!」  
 
俺の腕で、ソフィアは泣いていた。  
まるで恋人にするように、俺は俺の奴隷を抱いた。  
太陽が、決して恋人同士には戻れない俺たちを照らす。  
口づけは、まるで焼印のようにソフィアの心を焼き、俺の心を焼いた。  
 
 
 
(了)  
 

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