彼女を抱いているとき、そこには安らぎと胸に刺さるせつなさとがあった。
彼女を失うまで、そのせつなさは愛していることの証明だと、僕は信じて疑わなかった。
今なら、そのせつなさの意味を、彼女が秘めていた悲しみを分かることができる。
まったく遅すぎることながら……。
彼女とデートをすると、決まって最後は互いを求め合った。
そこがどこでも、野外での交わりであっても彼女は拒むことがなかった。
客観的に見てその態度はまるで娼婦のようであっても、実際は全く違う。
彼女は、温かな笑顔と身体で僕の全てを包み込んで受け止めてくれた。
それは、まるで聖母のように。
キャラウェイ通りで食事を終えた後、僕はとある目的を持って彼女を宿に誘った。
宿、といっても情婦たちが利用する安く埃くさい、目的を達するためだけの場所だ。
本当ならもっといいホテルにでも泊まりたかったが、
傭兵稼業の身ではレストランで食事をとり、とある目的を果たそうと思えばそれが限界だった。
宿主の下卑た笑いを尻目に部屋へと入ると、それまで身を寄せていただけの彼女が
しっかりと抱きつき、爪先立ちに唇を合わせてきた。
別の目的を持っていた僕は少し驚いたが、
うっとりと目をつぶる彼女の透き通るマリンブルーの髪を撫ぜ、しばしの間やさしく舌を絡めた。
互いに息を吸い込もうとしたところで唇を離し顔までも離すと、彼女は不安げな瞳を揺らした。
「あの……」
「ごめん。ちょっと、渡したいものがあったから」
「え……?」
驚く彼女の前で、僕は懐を探って小さな箱を取り出し、それを差し出した。
「プレゼントさ。あまりいいものじゃなくて、悪いんだけど」
箱を開けて、その中身――安くて宝石もついていない指輪を見せると、
彼女はとても嬉しそうにして笑った。
何も飾り立てず、ただ素直に嬉しさと喜びをいっぱいに浮かべた、僕にはまぶしすぎる笑顔。
立派なものを買ってあげられもしないのに、彼女は本当に幸せそうで、
今でもはっきりと思い出せる美しく輝いた笑顔を見せてくれたんだ。
「ありがとう……ございます」
震える指先で指輪を受け取った彼女は、もう声が泣いていた。
こちらをまっすぐにみつめる瞳も、感動の涙で濡れて頼りなく震えていた。
僕は無言で笑いかけ、彼女が左手の薬指に指輪をはめるのをそっと見守る。
細い白魚のような指を安い輝きの輪が通り、根元まで到達すると、
彼女は涙を払い落とすようにまた笑った。
「愛してるよ、アン」
「私も……あなたを……」
彼女の名前と愛する気持ちをささやき、
彼女には全てを言わせないうちに強く抱きしめキスをする。
そのまま僕らは、皺だらけのベッドの上に重なって倒れた。
荒々しく服を脱がせることしかできない僕に、彼女は何も文句を言わなかった。
手伝うように身体を動かして、白く透き通る肌を、寸分の隙もなく美しい肢体を露わにする。
恥ずかしがりやな彼女は、もう慣れてもいいのに全てを晒すと頬を染め視線を逸らす。
その間隙に僕は着ていた服を乱暴に脱ぎ捨てて、
下着を半ばまで脱いだところで彼女の首筋にキスをする。
そのまま柔らかな肌を這わせ、鎖骨のくぼみを舌先ですくうと、かすかな味がした。
「あ……そこは……」
「君の味だ」
彼女は恥ずかしがるが、僕は少しも気にしてなどいなかった。
彼女を味わうことで、幸福感を確かなものにしていた。
左手を彼女の背に回しその折れてしまいそうな細い肩をやさしく抱き、
右手でやわらかな乳房にそっと触れる。
「はっ……」
わずかな喘ぎを漏らす彼女とみつめあい、ほほ笑みを交わす。
横になっていてもしっかりと存在を主張する真白な乳房の形をなぞるように愛撫しながら、
その中央で恥ずかしげにしている薄紅色をした乳首をやさしく口に含む。
「んっ……、ううんっ、あふぅ」