みつめてナイト  

ソフィアの選択2  

フィメール・シアターはいまだ黒煙があがって、その惨状を充分に物語っている。救護隊  
に混じってドルファン学園のロリィまでもが手当てを行なっていた。  
「ロリィ、あなたは救護隊の指示に従って、別の仕事に回してもらいなさい」  
「で、でも……」  
「気を悪くしたらごめん、ロリィはまだ子供だから他の場所にさせてもらいなさい。仕事は  
いくらでもあるから。どう、わかった?」  
「はい、お姉ちゃん」  
「ハンナ!もっと脱脂綿を持ってくるように言って、お願い!」  
 クレアがハンナに声を掛ける。  
「今すぐ取ってきます!行こう、ロリィ!」  
「はい!」  
 ふたりは救護所へ駆けて行って、入れ替わりにライズが来た。ライズにとって罪悪感に  
浸っているゆとりはなかった。  
「レ、レズリー……ソフィアを見なかった!」  
「ソ、ソフィア?」  
「彼女、役者として舞台に立っているのよ!」  
「ど、どういうことなんだよ!」  
 レズリーの顔から血の気がみるみる引いていった。  
「何をしているの!レズリー、手を休めないでッ!」  
 クレアがライズと話し込んでいるレズリーを見咎める。  
「クレアさん、ソフィアが舞台に立っていたんだって!」  
「だから何だっていうの!怪我人はいくらでもいるのよ、手を休めては駄目よ!  
ライズ、ライズ!よくお聞きなさい!ジーンの搬送を手伝いなさい!わたしたちは中には  
入れないのよ。言っている意味わかるわね。先に転送されているはずよ……さあレズリー、  
ぐずぐずしないで!」  
 クレアとレズリーはふたたび怪我人への処置へと戻っていった。  
「あ、ありがとう……クレアさん……」  
 ライズはジーンの重傷者の搬送を手伝うべく、彼女の馬車へと向かった。  

 

「ちょっと、看護婦さん!ソフィアという舞台に立っていた女の子を知りませんか?」  
「はい?えっ……重傷者はうろついてもらっては困ります!」 
「お、俺、被害者じゃないですよ」  
「で、でも……そのお怪我は……酷過ぎますよ。処置しますから、待ってて……」  
 鎧が抉られ右肩の肉までも抉られていた。顔は泥だらけで額が切れて目に血がかかっている。  
爆発の被害者と思われても仕方の無い様子を呈していた。  
「ち、ちがうんです!看護婦さん!」  
「テディー」  
「えっ?」  
「テディー・アデレード」  
「……?」  
「ソフィアでしょ、ここを真直ぐ行った突きあたりの個室よ。ほら、じゃまだから、いったいった!」  
「あ、ありがとう……」  
「てでぃ!」  
「テディー、こ、個室って……」  
 私のソフィアへの不安が口を出た。テディーは患者の処置をしつつも私に答えてくれた。  
「あなた、ジョアンじゃないわね。わけありってことね……ほら、タオル。あまり、長居したら駄目よ」  
 テディーは私に何も答えずにさっさと行くようにと促す。  
(ねぇ、早くソフィアの部屋に行ってみようよ!)  
 テディーに貰ったタオルを額にあてて止血して、部屋の前に立った。ドアをノックするまでこの世  
の終わりのような顔をしていた。ソフィアがはじめて菓子をくれたときの羞じらいの顔、練習生と  
なって夢を語る屈託の無い笑顔が、手に掬った湧き水が如く指の隙間からこぼれてなくなって  
いくみたいな幻想に捉われる。  
「はい、どうぞ」  
(ねぇ、ライズの声だよ!稜、聞いてる?ねぇ、しっかりしてよ!)  
病室の扉がゆっくりと開かれていく。地獄の穴がぽっかりと開いていくような面持ちだったのだろう。  

「あっ……稜……だ、だいじょうぶなの……?」  
 私にはライズが何を喋っているのか聞えなかった。ソフィアはベッドから躰を起こして人が  
入ってきた気配に顔を私へと向ける。ライズの私を呼ぶ声にでも反応したからなのだろうか。  
ソフィアは舞台衣装のままだったが、両目が包帯で覆われていた。ソフィアの唇が薄く開いて  
何かを喋ろうとしていた。  
「破片が入ったと言っていたけど、だいじょうぶだって……でも……」  
 頭の中が真っ白になっていた。私を気遣っていてくれたライズを素通りしてしまった。左手を  
口に押さえて肩を細かく顫わすライズだった。場違いな人間なのだと思い知らされるも、あえて  
彼女は此処に踏みとどまっていた。  
 ソフィアのベッドに近づいていくと、彼女は私の躰を引き寄せるようにして抱きついてくる。  
「血がついちゃうよ……ソフィア……」  
 ソフィアは頭をおもいっきり振って唇を大きく開いて息を吐いている。  
「どうしたんだい、ソフィア……?」  
 私は彼女の顔を撫でようとするが、ぜールビスの血に塗られている事に気が付いて手を  
引っこめてしまう。ソフィアが私を強く引っ張っている。  
「しゃ、喋れなくなっちゃったのよ……ソフィア……」  
「ライズ、何言っているんだい?ソフィアはとても綺麗な声で歌うんだよ、天使みたいなんだから、  
きみも驚くよ、きっと」  
 彼女の不意の力でベッドに崩れてしまい、ソフィアの躰に覆いかぶさってしまう。ソフィアの手  
が私の血だらけの顔を弄ろうとしていた。  
「わ、わたし……先生か看護婦さんを呼んでくる……」  
 ライズはそれだけ言い残して病室を飛び出して行った。  

 血の濡れた感触に一瞬、ソフィアの動きは止まったが更に烈しさを増して私の顔を触って、  
キスをし始めた……。右手は股間を弄ってペニスをなぞり、引き擦り出そうとする。ソフィアの  
手によってペニスは引き擦り出されてしまってもやわらかく垂れたままだ。  
「ソフィア、おねがいだから大人しくしてよ……おねがいだから……しっかりしろ!」  
 目にしてきた現場の惨状が蘇っているのかもしれない……そして私の躰に塗られた血の  
感触が彼女をそうさせていた。幾多の戦場で見てきた兵士の光景……恋人を目の前で失った  
ときの自分の姿だった。  
「俺は生きているよ……ソフィア、君も生きているから……だから、戻っておいで!」  
 烈しく仰け反って口を力いっぱいに開いても、その唇から発せられるのは、ぜえぜえという気道  
の音が洩れるだけだった、あの天使の声は闇の奥底に。私はソフィアの反った躰を強く抱きしめ  
てやることしかできない。  
「ソフィア、しっかりしろ!きみは生きているんだ!ソフィア!ソフィア・ロベリンゲ!しっかりしてくれッ!  
頼むから!お願いだあああッ!」  
 ソフィアは顔を烈しく左右に振っていた。鎧の返り血が彼女の舞台衣装を、そしてシーツを  
汚していった……。私はこの部屋では戦場の少年兵だった……。  
「なっ、何をしているんですかッ!あなたは、もう帰ってくだ……」  
 部屋に入ってきたテディー・アデレードがソフィアに抱きついている私を無理矢理に引き剥がそうと  
するが、今度はソフィアが離すまいと私にしがみ付いて来る。  
 いっしょに入ってきたライズは棒立ちになって、口を両手で覆い涙をぽろぽろと流していた。  
ライズもまた、ただの少女となってこの部屋にいるしかなかった。  

「ライズ、先生を探してきて!早く!おねがいよ!」  
「は、はい……!」  
「あなた!もっと彼女を強く抱きしめなさい!あなたも騎士ならわかるでしょう!」  
 テディーが私の頬を強く殴る、さあ早くと。やわらかく垂れたペニスを鎧の隙間から晒した無様な騎士は  
少女に覆いかぶさって、血に塗られた顔を押し付け……顫える紫色の唇に擦り付けて泣いていた。  
(ソフィア、しっかりしろ!ここに戻って来い!ソフィア!ソフィア!きみを壊したりなんかするものか!)  

ソフィアは心を閉ざしてしまった。唯一、私にだけ反応を見せることから面会を許されていた。  
そして、契約期間についても名目上はテロ警戒と戦闘の功労ということだったが、レディ・プリシラ  
が気を利かせてのことだ。そして、今日は彼女の包帯が取れる日だった。  
「どうかね、ソフィア。これが見えるかね?」  
 個室にカーテンを引いて、蝋燭の灯りをソフィアの瞳が追っていた。  
「どうやら、だいじょうぶのようだ。テディー君、カーテンをゆっくり開けてくれないか」  
 シャーッ!とテディーがゆっくり開けていった。眩しそうに右手をひさしにして部屋をゆっくりと  
見回していく。  
「さあ、君。彼女のとこへ来てくれないか」  
「いってあげて、稜」  
 ライズのやさしい声が私の背中をそっと押した。椅子に座っているソフィアへとゆっくりと近づいて  
行って、腰を下ろす。ソフィアの両手が私の顔を見えなかったときのように鼻を耳を口を目を  
確かめていく。私の目が涙でソフィアの顔が霞んでいった。ソフィアの白魚のように細くしなやかな  
指を涙で濡らしてゆく。  
「よかったわね、ソフィア」  
 テディーがソフィアにやさしく声を掛けてくれた。私も喜んでソフィアに笑みを贈る。彼女は感  
きわまって私の首にしがみつき、上体を傾けて泣き出してしまう。それは、声のない号泣だった。  

 

 その日は、まだ二月だというのに病室の窓は開かれ、温かい陽が射してソフィアのなんの  
不安もないような寝顔に安心し、椅子に座っていた私は手を握ってうたたねをしていた。  
やさしい陽がまるで天国にいるような気分にさせていた。下半身が温かい何かに包まれている  
ことに気が付いてうっすらと目を開いて眠りから醒める。  
 ソフィアはネグリジェも下着も、すでに足元に落として全裸となって私のペニスを晒して、  
股間に顔を埋めていた。私は驚きを抑えつつソフィアの髪をやさしく撫でる。  
「だ、駄目だよ、ソフィア……病室でこんなことしちゃ……いけないよ」  
 本心からではなかったが私のペニスは愛しいソフィアの口腔にいても柔らかいままだった。  
髪を撫でてペニスを咥えているソフィアの頬をそっと撫でてやる。彼女の湖水のように  
透き通った蒼い瞳に翳りが射していた。  
「ごめん、俺はソフィアが欲しい……ちからいっぱいに抱きしめたい……意気地無しだ……」  
 ソフィアの瞳が輝いて私のペニスにふたたび愛撫を加えていった。病院の負担は劇場が  
持っていた。ふたりの先行きを不安にさせていたものは、いまだ見舞いにこようとしない  
ソフィアの父のロバートと婚約者のジョアンだった。  
 ソフィアは少しずつではあったが感情を取り戻し、笑顔すら見せるようになっていた。しかし、  
相変わらず彼女の美声は戻っていない。ロバートこと、ソフィアのお父さんは姿を見せていない。  
そのことに触れるのは躊躇われたが、触れないわけにはいかなかった。  
「ロバートさんにここに来てもらうように頼もうか?」  
そう聞いてもただ首を振るだけで、それ以上なにも触れたがらなかった。そしてもうひとつ、  
ジョアンの姿を見ない事が気になっていた。  
 私は事件の悪夢ばかりでなく、背信のプレッシャーが彼女を責めて声を奪っているのでは  
と考えている。そう思ってまず間違いない。  

 

 はっきりさせなければならないと思いつつもそのままの状態がずるずると続いていた。  
ソフィアの面倒は私やライズ、ドルファン学園の友達が様子を見にやって来ていた。治療費  
のことは劇場側が援助してくれていた。声が出せない遠因は私にあったと思う。  
 また、あの爆破事件で劇場の修復も急ピッチで進んでいた。ドルファンとプロキアの間で  
和議も成立して、もはや雰囲気は戦後といってもよく、塀の外の戦争といえどもドルファンの  
なかに戦争の暗い影を落としていたことは紛れも無い事実だ。  
 それに水を差された感のソフィアの初舞台だったが、再度復興の御旗として舞台が  
編成されてソフィアが主役に急遽抜擢されることになった。主役だった役者は爆破事件の  
犠牲になってしまっていたからだ。ソフィアの不安に較ぶれば、私の不安などちっぽけな  
ものなのかもしれない。  
 ソフィアの舌が熱く亀頭を舐め回して絡みつき頬が窄まって刺戟が背筋を顫わせる。私の  
不安と理性はソフィアの舌戯によって跳ばされてしまい、彼女からの快美を貪ろうと硬く熱く  
なって膨らんでいった。  
 いっしょうけんめいに頬を窄めてフェラチオをする清楚で可憐なソフィアとの違いが愛しさを  
募のらせて、彼女の頬を撫で擦り、ソフィアの流す歓びの涙が私の手を濡らしていった。  
「ごめん、ソフィア。俺が不安なばかりに、君を苦しめたりして……」  
 ソフィアは咥えていたペニスを離して顔を横に振ってから、すっと立ち上がって私の屹立を  
跨いでゆっくりと腰を落としていった。ソフィアの熱い昂ぶりが私の肉をやさしく包んでいく。彼女は  
首に腕を絡ませてペニスを収めきると仰け反って前後に躰を揺さぶり始めていく。  
 私は仰け反っているソフィアの頭を抱き寄せて、唇を擦り付ける。私に垂直に刺し貫かれた  
ソフィアの揺れは快美の嵐へと呑まれていった。背中を撫で回していた手は彼女の快美に  
溺れる顔に添えられて、ソフィアの口腔を私の舌が蹂躙していく。彼女も負けじと、その紅潮した  
顔をくなくなと蠢かして……応えてくれている。  

 

(は、烈しいのね……ソフィアさんて……お薬持ってきたのに、入れないわ……)  
 テディー・アデレードはソフィアの病室に入れずに、外で溜息をついていた。  
彼女の膣内に射精した後も、私はソフィアを求めてベッドへと移す。ソフィアもまた私を強く  
求めて至福の時を分かち合う。ソフィアの少女の躰からは、命の息吹が溢れていた。  
私は病室で彼女に応えて、大胆になって淫らになって生きてゆくソフィアを突きあげる。  
彼女は四つん這いになって、セックスは歓喜の涙を、亜麻色の繊毛は艶やかな輝きを放って  
彼女の内腿を濡らしてシーツへと滴り濡らしていた。  
 ソフィアは私の躰、灼熱と化していったペニスに生の証を求めて、私はこの個室でソフィアの  
魂の叫びを確め、ゆっくりと蕩けあって……もういちど生きようとしていた。恋人の失った  
哀しみから、自分の決められた運命から……の飛翔をふたりは願っていた。  
 ソフィアのあがることのない嬌声や呻きが……喘ぎ声が私には聞えて来る。彼女はペニス  
の挿入感に頭を垂れて淫れて白い皺くちゃになっているシーツをぎゅっと手で握って亜麻色で  
掃き、深い挿入に仰け反っては惚けた顔を天上に晒して唇をいっぱいに拡げ、熱情の吐息を  
……そして少女の快美感に慄きしなる肢体は美しくスロープを描き出していた。  
私はソフィアの顫える双臀を眺め、腰をがっしりと掴んでもっともっと深くに押し入って、  
少女の眉間に皺を寄せ、細い眉を吊りあがらせて、声の無い悲鳴を起こさせていた。  
ソフィアの生は蘇っていた。  
「ソフィアああぁぁぁッ!君の声が聞きたい!俺をののしる声でもいいから!なんでもいいからッ!」  
 私はソフィアの顫える背中に覆い被さり、快美に喘いでいる乳房を揉みしだく。私の躰の重みに  
ソフィアは踏ん張っていた腕を折ってベッドに沈んだ。  

私はソフィアの細い肩に顎を預けるようにして尚も哀訴し続けた。  
「俺を罵ってくれ!きみを愛して苦しめる俺を罵倒してくれええぇぇぇぇぇぇッ!だから……ソフィア、  
きみのこえが聞きたいッ!聞きたいんだ!」  
 ソフィアはベッドに伏していた顔を烈しく左右に振ってイヤイヤをするのだった。  
(昼のみの生などあるきずがない。まして夜ばかりの生などあるものかッ!……私はソフィアと生きて  
ゆきたい、生きていく!)  
私はベッドの上で壁に背をもたれて胡坐をかいている。ソフィアは快美の余韻をいまだ引き摺り  
つつも、その躰をゆったりと伸ばしてそこに頭をのせて私の顔を見上げていた。  
「きみを苦しめてばかりですまないと思っている……」  
 ソフィアは顔をゆっくりと横に振って右手を伸ばして私の頬にふれる。  
「ソフィア、もういちど舞台に立ってくれないか……怖いかもしれないけど……」  
 彼女の顔が曇って私から反らそうとする。今度は私がソフィアの頬を撫でた。  
「死んだひとの分まで生きていこうよ……ねえ、ソフィア……」  
 ソフィアは私の目を見て、こくんと頷いてくれる。舞台へ立つ意味は彼女本来の夢とは大きく  
かけ離れるものとなっていた。  
「俺の我儘だけでソフィアを苦しめてしまったけれど、いっしょに生きてゆきたい……」  
 彼女は静かに顔を振った。そして彼女は唇をゆっくりと開いて、私に語りかける。  
(コンヤ・ワタシヲウミニツレティッテホシイノ……オネガイ……リョウ……イッショニイキマショウ)  

「舞台に立ってくれるんだね?」  
 こくんとソフィアは頷いていた。私は彼女の亜麻色の髪をそっと撫でる。  
「今夜、海に連れて行ってあげるからね、ソフィア」  
(ウレシイ……リョウ、ア・リ・ガ・ト・ウ……)  
 その時、ドアがノックされてテディーが、いきなり入ってきた。ふたりが  
裸でいるのも気にしないでテーブルに薬をのせたトレイをぽんと置いて  
私たちに言う。  
「ほどほどにしてくださいね。私のショールを貸しますから、寒くないように  
して行ってくださいね、もうほんとに!」  
 それだけ言って、テディーはさっさと出て行ってしまった。  
「あ、ありがとう、テディー……さん……」  
 でも、私の声は届かなかったみたいだ。私の胡坐に頭をのせていた  
ソフィアは、女の子らしく顔を赧く染めている。  
「ば、ばれちゃったな……ハハハ……」  
 私は力なく笑って右手の人差し指で鼻を掻く。そしてソフィアは私の  
膝の上で、ゆでだこ状態になっていた。しかしそれは羞ずかしいというよりも、  
うれしい感情に近かったと思う。  
 ペニスがまた、むくむくと鎌首をもたげてソフィアのやわらかい頬に  
悪さをする。彼女は、あっ!という愛くるしい表情をして、腕を廻して肘を  
立ててペニスに指を絡めてくる。長い間いっしょに時を過した恋人のように、  
ごく自然に躰を捻じって羞じらいの顔を股間に埋めては……また……  
耽って……ふたりの時がゆっくりと流れてゆく。  

 私のペニスがソフィアの口腔に、やさしく包まれて官能のきらめきに身を  
委ねていった。  

 

  私とソフィアは寄り添って夜の海辺を歩いていた。輝く月灯かりに海が蒼く、寄せる波が白い  
泡飛沫となって心地よい音楽を奏でている。  
「寒くないかい?」  
 私はソフィアの迷いのない水色の瞳に尋ねる。彼女は腕を私に絡ませて躰を擦り付けて、  
寄り添って歩いているソフィアの肩を抱き寄せてマントで覆う。  
 どこからともなく、美しい歌声が聞えてくる。私はソフィアが歌っているのかとさえ思って  
彼女を見るが、顔を振るだけ。けれども、ソフィアは嬉しそうに瞳を輝かせていた。  
(そうだ!この曲はソフィアが俺にプレゼントしてくれた、朝日に恋するひとを想い、海の泡  
と消えた人魚の気持ちを歌ったもの……)  
「 ララララア〜 ララララァ〜 」  
「ソフィア!声が出ているよ!きみの声が聞えるよ!きみの声が俺に届いてくる!」  
 ソフィアはか細い声ではあったがスキャットであの歌を口ずさんでいる。  
(その人は、あなたの大切な女性なのですか?)  
「ええ、もちろんです。かけがえのない女性です。ソフィアは俺の恋人です!」  
 誰に言うまでもなく、自然と口を突いて出た……こ・と・ば。  
(よかった。しあわせにしてあげてくださいね……ずっと、ずっと……いつまでも)  
 ソフィアがテディーから借りたショールを捨てて、マントから飛び出していく。  
「ソ、ソフィアああぁぁぁッ!」  
波間で片脚をあげて振り返って靴を脱ぎ捨てる……そしてもう片方も脱ぎ捨て波間を  
駆けて服を脱ぎ捨てていく。裸身を月夜に晒してくるくると舞い、歌を口ずさむ妖精になって。  

「あなたは……だ・れ・なのですか……?」  
(うれしい……わたしの名前をおぼえてくれるのですか……わたしの名は……)  
ソフィアの裸身が月光に輝く波に消えてゆく……。  
「ソフィアああぁぁぁッ!」  
 私も駆け出して、海の中へと入ってゆく。服を着たままずぶ濡れとなって  
腰までも浸かりながら両手で水面を蹴っていく。裸身を真直ぐに伸ばした影が  
私に迫ってきた。水飛沫をあげて人魚姫が姿を現した。ソフィアの亜麻色の  
髪は海水でずぶ濡れになり、細長く尖って額や頬に肩にと絡み付いている。  
乳房は寒さでふるえているみたいだった……。  
「きみは人魚姫みたいに綺麗だ……」  
 ソフィアは両手で私の顔を包んだ。冷たい手だった。  
「わたし、稜を泣かせたのね……ごめんなさい……」  
(ねえ、どっちに謝ってるんだよ?突然こんなことしたことかい?声が戻ったこと?)  
 私は涙が止まらなかったけれど、ソフィアに笑っていた。  
「ありがとう……わたしを愛してくれて……とても嬉しい……」  
 ソフィアは私に唇を寄せてくる。私は彼女の紫色にふるえる唇に、ありったけの  
熱情をぶつけていった。  
「俺、ソフィアがとても欲しい……いますぐ欲しい……」  
「わたしもよ……稜、わたしの膣内(なか)に入ってきてください」  
 波に打たれて、抱き合ったふたりの躰は月あかりに照らされてたゆたうと漂う。  
私はシャツを脱ぎ捨て、ソフィアの手はズボンを脱がしていく。ペニスは海水の  
冷たさに負けることなく、ソフィアの熱い秘孔を求めて熱く滾っていく。  

 

 脱いで、脱がされた衣服は波にさらわれて行く。ソフィアは私の躰から下着を剥ぎ取ると  
真珠の素肌を勢いよくぶつけてきて、ふたりは抱き合ったまま海のなかへと沈んだ。  
 月の輝きに海面がきらきらと揺れている。ソフィアの髪はケプルとなって海中に棚引いて  
ゆらぐ。  
(ソフィア、怒るかなあ……俺、妖精に犯されているみたいだ……)  
 ペニスに指が絡んで、滾りがあるべき場所へと導かれていく。ソフィアの膣内(なか)は  
今までと較べようも無いくらいに灼熱となって私の肉を蕩けさせていく。ソフィアの大きく  
開かれた唇からは気泡が出され水面へと向かっていった。  
 ソフィアのしなやかな綺麗な脚は、私の臀部にしっかりと交差されて、細い腕は首筋に  
がっしりとしがみ付き……抱き合ったままゆっくりと回転して波に身を委ねるようにして  
砂浜をめざして泳いでいく。  
 波打ち際でソフィアの躰を突いていた。波にも揺られながら、彼女を深く突いていた。  
お互いの悦びがあがるたびに冷たい海水をしこたま呑み込んでいた。  
 砂浜をめざして四つん這いになって、のたくって行く。ソフィアの背中がなめくじが這った  
ような軌跡を残している。やがてそれも、打ち寄せる波にさらわれて消えていった。  
「だ、だいじょうぶかい……ソ、ソフィア……」  
 私の海水で濡れた髪が雫をソフィアの顔にぽたぽたと落としている。  
「けほっ、けほっ……お水いっぱい呑んじゃった……稜の髪がとても黒くて綺麗……  
あなたの瞳の色も……何もかもが吸い込まれていきそう……あなたを愛してる……  
ありがとう稜」  
 病院に辿り着いた時、テディーが私たちをずっとまっていたらしく、ものすごくお冠だった。  
ソフィアの髪は濡れて、私は胸を晒したままずぶ濡れの服を着込んでいたから。  
「あんた、この寒空になんでずぶ濡れでシャツも着てないの?ほんとうは、ただのバカなんでしょ」  

 
 

 シナリオは改稿されて、人魚をモチーフにしたし恋物語となって、そのメインとなるラストの歌  
も一度きりの興行ということで医者からソフィアは許された。  
 なにもかもが元に戻りつつあるかに見えていた。ただそう思いたかっただけなのかもしれない。  
私の滞在期間も切れ掛かっていた。ソフィアと会うたびに夢に輝く瞳がとても眩しく辛かった。  
婚約者・ジョアンとのこと……そして、私の愛しい女性の夢を奪って華を摘み取っていくことが  
ほんとうに許されるのかということが、頭を駆け巡っている。  

「あんた、ソフィアをかどわかしておきながら、捨てていく気なんだろ。聖騎士さんよ!」  
 鍛錬の森に姿を見せたのは、ソフィアの父・ロバートだった。私は何も言い返せなかった。  
「だまってちゃわかんねぇだろうが!どう始末つけるきなんだ!」  
「彼女の舞台を見てから、ドルファンを出国します……」  
(う、嘘ッ!あんなに愛し合っているのに、ソフィアを捨てて行っちゃうの!だ、だめだよう!  
そんなことしちゃ!)  
「聖騎士さんよ!俺みたいになりたいのか?」  
「あ、あんたに何が分かるというんだあッ!ソフィアの瞳を見たことが一度でもあるのかッ!」  
「輝いてる迷いの無い瞳か?夢なんて儚いもんよ……だったら、最初っから手なんか出す  
んじゃねぇ!」  
 ロバートにいきなり間合いを詰められ、胸倉を掴まれていた。  
「けじめぐらいは、ちゃんと着けるんだな、聖騎士さんよ!」  
 顔に唾を吐きつけられても、私は怒り返すことなく地ベタにへたり込んでしまう。  
「こんなんなら、ジョアンの方がまだましだぜ!ほれ、ラブレターだ!」  

 むろん、ジョアンからの果たし状だった。  

 

『_貴公と私の婚約者のことで決闘を申し込む。フラワーガーデンにて、明日の夜八時に  
   決着をつけたい。 もし、私が負けたならば、証文も返して、ろはにしてやろう。  
むろん婚約も破棄してやる。地にひれ伏すのは、私ではなく貴公だがな。  
薔薇の貴公子 ジョアン・エリータス         』_  
     
 それは、ソフィアの舞台の前夜を指定してきた果たし状だった。  
(な、なんてすかした野郎なんだろ!稜、こんなの相手にすることないよ!)  
「願ったり叶ったりさ、ピコ……すくなくとも、これでソフィアは自由になれる」  
(そ、そうだよね、ソフィアが自由になれるんだものね。いっしょに……)  
「彼女はこのドルファンで夢を叶えるんだよ、ピコ」  
 私はピコの言葉を遮った。  
(ど、どうしてそんなこと言うの!ソフィアだって待ってるんだよ!待ってるにきまってんじゃない!)  
「何かを叶えるのに、何かを捨てなきゃならないこともあるんだよ……ソフィアが自由になれば  
それだけでいい」  
(そんなのって、ぜったいにおかしいよ!おかしいんだからッ!かっこつけることなんか  
ないじゃない!ずるいよ!稜はずるいよ!)  
 背を大樹にもたれかける。天上を見上げ梢の間から降りそそぐ幾筋もの光を眺めていた。  
「海での声、ピコじゃないよなぁ……」  
(えっ!なんのこと……?)  
 私の頬にしがみつくようにして、拳をぶつけていたピコが手を止める。  
「なんで、あの時は素直になれたんだろう?そして、今の俺はこんなにも情けないッ!」  
 振り上げた拳を地面へと叩き付けていた。  

 

私がローズガーデンへ行くと、ジョアン・エリータスはすでにその場所で待っていた。  
少し離れた場所にソフィアもいたのだった。  
「どういうことだッ!なぜ、ソフィアが決闘の場所にいるッ!」  
「だまれええぇぇぇぇッ!貴公とこの阿婆擦れが仕出かしたことだ!こいつに、その結果を  
見せ付けて償ってもらう!」  
(り、稜!惑わされちゃだめだよ!ソフィアのために勝つんだよね!)  
 ソフィアが私のもとへ駆け寄ってきた。  
「稜!ジョアンと決闘なんてやめてぇ!もう、戦争は終わったのに!こんな思いはいやああッ!」  
(だめだよ、ソフィア!いまの稜にそんなこといっちゃあ……)  
「ごめん……ソフィア……俺、闘わなきゃ……」  
「いゃあ!いや、いや、いやぁぁぁッ!ね、逃げよう、此処から私といっしょに逃げようよ……」  
 ソフィアは私の甲冑にしがみ付いて必死に哀訴してくるのだった。  
「だめだよ……ソフィア。きみは明日、舞台に立つんだよね。俺は逃げることは出来ない」  
「ば、ばかあぁぁぁぁッ!」  
「つくづく私を愚弄してくれる連中だね!シャアアアァァァァァァァァァァァッ!」  
 遠くで刻限を告げる鐘の音が響いてくる。私はジョアンに背を向けてソフィアの躰を庇う。  
鋼の薔薇の鞭がマントをズタズタに引き裂いてゆく。  
(奴はソフィアも殺す気なのか……!)  
 ソフィアは自分の仕出かしてしまったその結果に怯え顫える瞳で私の顔を見ていた。  
「聖騎士も女が相手だと新兵かああぁッ!ハハハ!愚か者は地獄の業火に焼かれて  
しまえぇぇッ!」  

 

ジョアンの鋼の薔薇の鞭が鎧をも裂き始める。時折、頬を舐めていった。  
「ぐっ、ぐはっ!」  
 ソフィアの怯えた顔に私の血反吐がかかる。ひゅん!ピシャーッ!肉が抉られていく、  
骨までも届きそうな凄まじさだった。  
「り、稜!ご、ごめんなさいッ!」  
 抱きついていたソフィアの手が離れようとしている。私は彼女を離すまいと抱き寄せて  
ソフィアに微笑む。  
「ゆるしてくれ、ソフィア……俺はジョアンと決着をつける」  
 彼女の躰を少し離して右脚をあげてソフィアの腹にあてがった。  
「俺の薔薇の鞭を満喫しろおおぉぉぉッ!サウザンド・キル!」  
 ソフィアの躰は弾き飛ばされて石畳を転げていく。私は躰を捻ってロケットアタックで  
ジョアンとの間合いを詰める。技と技との烈しいぶつかり合いに勝ったのは私だった。  
剣の柄がジョアンのみずおちを抉っていた。聖騎士まで登りつめた、その破壊力はたとえ  
鎧を着ようとも尋常ではない。一瞬で片がついてしまった。  
「さあ、ジョアン!約束のもの渡して貰おうか……」  
 ジョアンの胸倉を掴んで顔を引き寄せる。  
「ま、まだだ……ボクはエリータスの……一員として……負け……ない!」  
 ジョアンは撃鉄を起こしてピストルを差し出す。が、簡単に弾かれてピストルはソフィアが  
倒れている所へ回転しながら滑っていった。  
「も、もうやめてええぇぇぇぇぇぇッ!」  
「ソフィア、もうきみは自由だあッ!」  

私はソフィアに勝ちどきをあげていた。  
「きさまも武士なら虚を突く攻撃がどれほど無力かわかるだろう!」  
「一対一の場合はだろ」  
 ジョアンが悪魔の笑みを浮べ、脇腹に激痛が走り躰が弾かれて石畳に倒れる。  
「稜、私の勝ちだ!お前の剣で止めを刺してやるよ、ありがたく思いなよ!」  
 ソフィアが倒れている私の躰に這ってくる。ジョアンは勝者として、その美少女の憐れな  
姿を楽しんでいた。やっと辿り着いて私の躰に覆いかぶさるソフィア。石畳にはおびただしい  
血が流れて黒くなっていた。  

「血、血が止まらない……ジョ、ジョアン……あなたと結婚するから……稜を……たすけて  
ください……おねがいします……」  

 ソフィアが泣き濡れる顔でジョアンに哀訴する。  
「美少女は絶望に咽び泣く姿も美しいんだね、ソフィア。きみとは、結婚なんかしないよ。ボク  
の妾となって、いっしょう肉奴隷だよ、それでもいいのかい?」  
「はい!稜をたすけてくれるなら何でもいたします……だからたすけてぇ……殺さないでぇ……」  
 ソフィアが泣き崩れて私の躰に顔を伏せたとき、ジョアンは剣の柄を握って高く掲げた。  

「ボクはうっとうしいのが一番嫌いなんだよ!」  

 ガシィーン!ジョアンの剣が弾かれて、そこにひとりの少女が立っていた。  
「ビリー、ジャック……サム!こ、こいつを殺せええェェェェッ!」  
「もう、あなたの仲間はいないわ。証文を渡して……でなきゃ稜をこんなにしたあなたを許さない」  
ドルファン学園の愛らしい制服を纏ったライズだった。しかし、その赫い瞳は復讐のサリシュアン。  
「ひっ!ヒイーッ!」  
「や、やめてください!ライズさん!」  

「おまえはだまってろ!なぜ自分を犠牲にする、したがるんだ!愛しているというのは虚りか!  
稜は死にかけているんだぞ!私はおまえも許さない……」  

 ライズの烈しい言葉がソフィアに投げつけられた。  
ソフィアにライズは自分の生き方を重ねていたのかもしれない。  

「薬代の証文を渡してもらおうか。ジョアン・エリータス!」  
「ひ、卑怯じゃないか……」  
「あの三人がおまえの隠し玉なら、稜のは、このわたしだよ。さあ、証文を渡してもらおうか!」  
 ジョアンの証文を受け取ると、ライズは粉々に破り裂く。ジョアンのなかで何かが切れた。  
「ど、どうして誰もボクを愛してくれないんだあああッ!ソフィア、ほんとうに君のことが好き  
だったんだよ……あああああ……」  
「ごめん……ソフィア。稜はそんなソフィアを愛したんだね……さあ、病院に運ぼう」  
「ラ、ライズさん……で、でも……」  
「馬車があるから、心配しないでソフィア。さあ、行きましょう」  
「ジョ、ジョアン……ごめんなさい……」  
「さあ、早く!」  
「は、はい」  
「うわああああああああああああああああッ!」  
 ソフィアはジョアンの号泣を背中に聞いて、ローズガーデンを後にする。  
「ジーン、病院までおねがい!」  
「あいよ、にしても……とばすから喋るんじゃないよ、いいね!」  
 私は脇腹に弾を食らってからの意識がなかった。唯一の記憶はベッドの隣で赫い糸に  
繋がれてる彼女が私を見るなり微笑んでくれたことだった。目を腫らせながらも……涙も  
拭かずにじっと見つめてくれているソフィアだった。  

 
 

 目を開くと、そこは病室だった。ベッドの側には私を看病してくれていたのか、疲れて椅子に  
眠りこけているライズがいた。私は起き上がって管を引っこ抜く。  
「ピコ、いま何時だ?」  
(正午をちょうど回ったところよ、クライマックスのところかなあ、って何する気なのよ!昨日は  
大変だったのよ!ソフィアにたくさん血を貰ったんだし、ちゃんとお礼を言わなきゃ!傷口だって  
まだ、塞がっていないんだよ!ライズにだって助けて貰ったんだよ!ジーンさんにも!)  
「そういうことか……」  
(ソフィアは自由になったんだよ……もう、いいでしょ……稜……)  
「ピコ、ドルファン国では俺はただの傭兵なんだよ。ここに居場所はない」  
(ソフィアがいるって言ったじゃない!稜の嘘つき!おおうそつきッ!)  
 ライズを起こさないように鎧を着込んで私は病院を後にした。宿に着いて少ない荷物を手早く  
纏める。ヤング教官にもクレアさんにも挨拶をしておきたかった……なんか逃げるみたいだ。  
(みたいじゃないよ!稜はソフィアから逃げてゆくんじゃない!)  
 ドアを開けると、そこにはライズが突っ立っていた。部屋に入るやドアを閉めて私を出そう  
とはしない。  
「どうしてもいっちゃうの? ソフィアが哀しむ……」  
「いろいろありがとう、ライズ」  
「ねえ、彼女の夢の為に出て行くの?そうなんでしょ……わたしの為には残ってくれないの?」  
 ライズの瞳は涙で潤んでいる。静かに瞼を閉じて、彼女の宝石が頬を伝う。ライズの躰は  
顫えている。  
「ご、ごめんなさい……り、稜……さよなら……」  

 
 

  私はライズに口吻をする。しょっぱい涙の味に下唇に激痛が走る。口のなかに鉄の味が  
拡がっていく。ゆっくりと唇を離すとライズの唇に私の赫い血が付いていた。私の唇からは  
血がツッーッと滴り落ちていく。  
「ソフィアのいたみよ……わたしの稜への復讐かな……」  
 ライズは涙顔で笑いながら、そこを退いて扉を開けた。  
「ありがとう、ライズ」  

 

(いまごろ、カーテンコールだね、ソフィア!綺麗だろうなあ……見たかったね)  
「ソフィアはあしたからはスターだよ……そうだろ、ピコ……おい、ピコ!ピコ!しょのない奴  
だなあ……どこいっちゃったんだよ!」  
「わたしは、此処にいるよ。稜、忘れ物を届けにきました」  
「ソ、ソフィア……どうして此処に……」  
「だから、忘れ物よ」  
 少女が出会ったときの出で立ちのままそこにいた。  
「ゆ、夢はどうするの?捨てちゃうの、ソフィア……」  
「捨てたりなんかはしないわ、少しカタチが変っただけ……ライズさんみたいに、稜の背中は  
守れないけれど、あなたが安らげる場所をつくって待っていたいの、駄目かな?」  
「知っていたんだ……」  
私は右人差し指で羞ずかしそうに、鼻を掻いた。  
「わたし、ほんとうは迷っていたの……あなたの舞台にエントリーしてもいいかな?」  

 

「エントリーもなにも、俺の舞台にはソフィア只ひとりだけだから……」  
「ずっと?」  
「ずっとだよ」  
「心配だなあ……勝手に大切な物を置いていっちゃうし……稜、やさしいし……あっ……」  
 くちづけをしょうと頬を両手にのせた時、ソフィアの右頬が赧く腫れているのに気づいた。  
「どうしたんだ、これ!」  
「おとうさんに叩かれたの」  
「あっ、あの野郎!」  
「ふふふっ……おとうさんみたい……こんなとこで何してるんだって、怒られたの……  
だから、此処に来れたの……もう、わたしを置いていかないでね……」  
 ソフィアの声はもう聞き取れなくなっていた。私のなかに人魚の歌が聞えてくる。  
あの夜の海で聞えてきた美しい歌声が。ソフィアのなかにもきっと届いているに違いない。  

(俺はソフィアを泡になんかさせるもんか!ずっとずっといっしょだ!)  
(わたしとやくそくしたのだから、ソフィアを離してはだめよ……もう、ぜったいにね)  

 夕陽を背に抱き合うふたりにいつまでもアンの美しい歓びの歌が響いていた……  

…… forever          

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