彼の手が優しく自分の上着を脱がしていく。
アンは、自分の胸が5月の少し冷たい外気に触れて小さく鳥肌が立つのが判った。
程なくして、アンの白く柔らかそうで可愛い乳房が彼の視線に晒される。
「あ・・・あの・・・」
アンは思わず彼に声を掛けていた。彼が不思議そうにアンの顔を覗き込んでくる。
「わ、わたしの胸・・・小さくて、ごめんなさいっ・・・」
アンは顔を真っ赤にしながら言う。
なんで自分はこんなにスタイルが悪いのだろう。
胸は小さい。背も高くない。脚だって短くて見映えがしない。
もっとスタイルが良くて美人だったなら、きっと自分に自信が持てたというのに。
そうしたら胸を張って言うのだ。
貴方のことが、心の底から大好きです、と・・・
「・・・あ、脚も短くて・・・太くてっ・・・」
彼は優しく、アン謝罪の台詞を否定してそっと頭を撫でてくれる。
「そんな事はない。可愛いよ」
アンはこみあげる思いを押さえきれないかのように彼の胸に頭を寄せた。
「・・・・ごめんなさい」
そして。その細い身体を彼にあずけるようにする。
アンは、裸の乳房の震える先端が彼の胸に当たる事を心地よく感じていた。
「お願いします・・・もっと強く抱いて下さい・・・」
アンのすがるような細い腕が彼の身体に廻る。
彼はそのアンの行為を咎める事はせず、静かに口を開いた。
「君をとても大切に思っている。それでは足りないかい」
彼は、どうしてアンがこんなにも思いつめているのか判らなかった。
──彼は知らなかったのだ。
3日前の彼とソフィアの楽しげなデートの現場を、アンに目撃されていた事を。
その時、ソフィアはチンピラに嬲り者にされている事を彼に気付かせないようにしていた。
無理にでも笑って、彼を不快にさせないように気を付けていたのだ。
それは傍から見ればとても仲睦まじく幸せそうな恋人同士に見えて、非常に皮肉だった。
彼がその剣の腕前程に女心に長けていたとしたら、きっと気が付いていたろうに。
──更に皮肉なのは・・・
今この瞬間、チンピラに強姦された上に歪んだ快感を植え付けられた当のソフィアが娼婦と
して客を取らされている事を、彼とアンが知らない事であった。
そして、彼の大切な友人のライズ・ハイマーが謀将ライナノールの計略により軍駐屯地の中
で兵士達に嬲り者にされる恥辱を味合わされている真っ最中という事も知る事はない。
いかに『東洋人の傭兵』といえど限界はあるし、妖精ピコも万能ではないのだ。
アンは、彼の問いに哀しげに目を伏せると、
「・・・わたしをあなたのものにして欲しいんです・・・お願いです」
もう何回目かのお願いと謝罪の言葉だったろうか。
アンの気持ちを言葉にしてしまうのは実は簡単な事だ。
自分を好きなら態度で示して欲しい・・・好きだという証を欲しい・・・それだけだ。
だが、そこまで言ってのけてしまう図々しさを持ち合わせていないのがアンだった。
アンに出来る事といえば、こうやって彼の胸元にすがり付いて囁く事だけ。
そんなアンの気持ちに気が付いたのかどうか・・・彼はアンに唇を近付ける。
「後悔はしないね」
アンは彼の瞳にこくりと頷いた。
後悔などしません。
わたしは叶わぬ恋を手放した後悔の気持ちというものを、知っています。
そして、その気持ちをもう一回味わいたくはないと痛いほどに思っているんです。
彼と唇を重ねながら、アンは何回も何回もそう心の中で呟くのだった。
「んっ・・・」
アンの眉がわずかに寄った。
彼は精一杯優しくするように気をつけながら、深い口づけをしてくれる。
アンはその小さな口を開けて彼のキスに応えてみた。
アンはちょっと戸惑いながらも送り込まれた唾液を懸命に飲み込んでゆく。
彼の大きな手が、アンの小振りな乳房を再び包み込むように揉み込む。
アンは触られただけで大きく背中を震わせるが、彼の手を拒む事などはしない。
彼はその唇をアンの唇からうなじ、鎖骨の上へとゆっくりと這わせてきた。
「あ・・・・あ・・・」
彼の唇が自分の乳首を捉えると、アンは涙混じりの声を上げた。
彼はアンの乳房と乳首を優しく刺激して快感をその身体に送り込んで来る。
アンの大きくはないがキレイな形の乳房の浅い谷間に手を入れた彼は、ゆっくりと中心から
外側へ撫でるように動かす。
それはすべすべとした手触りの中に密やかに硬さがある気持ち良い感触だった。
彼が指を這わすアンの乳房の中心はまだ色素も薄く、刺激される事に慣れていない。
彼は左手で乳首を丸めと、同時に右の乳首を口に含む。
「ふわぁ・・・」
アンはそっと顔を左右に振って快感を示す。
小さめの乳輪の頂点から吸い上げるように乳首を吸って、細くした舌先で丁寧に転がす。
彼の優しい愛撫によって、アンの乳首は次第に自己主張を始めてしまう。
眉を寄せて唇を薄く開いたアンの顔は、彼にためらいつつも快感を伝えている。
「あ・・・あ・・・はぁ・・・」
大きく息を吸い込んだ途端、周囲の花の匂いがアンの中に入り込んでくる。
5月下旬の夕暮れ時の少し肌寒いフラワーガーデンには、客も既にいない。
ただ、咲き誇った花々と木々だけが彼とアンの営みを優しく見守っていた。