みつめてナイト  
 
 

キッチンに立って料理をしながら、なんだか心が浮き立つのを抑えきれない。  
クレア・マジョラムは、なんだかそんな気持ちで野菜を千切りにしていく。  
外はもうすっかり日が暮れてしまって、窓から見えるのは暗闇ばかりだ。  
それでも、楽しい気分の時には怖いとも不気味だとも感じないのが不思議である。  
さっきから煮込んでいるシチューは、美味しそうな匂いの湯気を上げていた。  
一所懸命作ったビーフステーキも、特製のソースが掛かって旨そうだ。  
クレアは取り立てて長所はないが、料理だけは人並みの腕だと思っている。  
ただ、いつもは自分ひとりしかいないから凝った献立にしないだけなのだ。  
けれど、今日は腕によりを掛けて美味しい夕食にしようと思う。  
それというのも・・・と、クレアが顔を綻ばせた時、隣の部屋から声が掛けられる。  
「・・・なにか手伝うような事は・・・」  
キッチンとダイニングを仕切っているドアの処に、逞しい青年が立っていた。  
クレアは、通称『東洋人の傭兵』と呼ばれる彼に向かって優しく微笑む。  
「ううん、お客様なんだから座っててくれていいのよ」  
今日は、クレアが久し振りにその彼──愛しい人と過ごす夜なのである。  

──通称『東洋人の傭兵』と呼ばれる彼がドルファンの軍に籍を置いて久しい。  
マルタギニア海に面しながらもプロギア・ゲルタニア・ハンガリアという列強と国境を  
接し、ヴァルファバラハリアンとの戦闘を余儀なくされているドルファン王国。  
彼のような傭兵に取って、ここは稼ぎ、そして名を成す絶好の舞台でもあった。  
幸運にも彼はその戦の中で勝ち続け、ヴァルファバラハリアン八騎将を悉く討ち果たし  
先日行われたパーシバルの戦いでは『破滅のヴォルフガリオ』の腹心でもある軍副団長  
通称『幽鬼のミーヒルビス』をも撃破し、彼の勇名は轟き渡っていた。  
既に彼の通り名は『常勝無敗』という冠を付けずに呼ばれる事はない。  
クレアが『東洋人の傭兵』と出逢った巡り合わせは皮肉だ。  
『東洋人の傭兵』は、クレアの夫の部下だった。  
訓練所の教官をしていて、部下にも信頼の厚かったクレアの夫ヤング・マジョラム。  
夫は、イリハ会戦で『疾風のネクセラリア』に討ち取られ戦死してしまったのだ。  
そして、その仇としてネクセラリアを倒してくれたのが部下の彼だった。  
以来、クレアを心配して足しげく通ってくれている優しい彼である。  
その優しさに甘えるように、二人の時間を重ねしまうクレアだった。  

テーブルの上に並べられた心のこもった夕食に、彼は済まなそうに頭を下げた。  
「こんなに気を遣ってもらっては」  
そう恐縮されてはクレアの方が困ってしまうから、慌てて手を左右に振る。  
「いいのよ・・・一人だと手を抜いちゃうし、本当に来てくれて嬉しいんだから」  
そう言ってナイフとフォークを持ち上げて、ちょっと表情を翳らせた。  
「一人きりの食事って・・・侘しいんだから」  
言ってしまってから、なんだか拗ねているように聞こえそうでクレアはまた慌てる。  
案の定、彼は目を伏せて言葉に困っているようだ。  
クレアにとっては、彼が来てくれる以上に嬉しい事などない。  
更に、『東洋人の傭兵』を独り占めしているだけでも嬉しいとも言えるのだから。  
クレアはなんとか話題を変えようと、ふと頭に浮かんだセリフを口にした。  
「そういえば、この間国立公園でデートしていなかった?」  
言ってしまってから、更にマズイ話題だったと思うが今更仕方が無い。  
一方、彼の方は彼の方で心当たりがあり過ぎて返答に困ってしまうのだ。  
しょうがなく、二人は静かに夕食に口をつける事にする。  

暫く黙って口を動かしていた二人だが、静寂を破ったのは彼の方だった。  
「・・・だが、貴方も大切に想っている」  
一瞬何を言われたのか全然理解できなかったクレアだが、すぐに思い当たる。  
どうやら、彼は食事をしながらさっきのクレアの質問の回答を考えていたらしい。  
それに思い至って、クレアは悪いけれど吹き出してしまった。  
笑われてしまった彼は、怪訝そうな表情でそんなクレアを見つめるしかない。  
ひとしきり笑ったクレアは、息をついて彼に向き直った。  
「はぁはぁ・・・、・・・ごめんなさい、笑ったりして」  
それから豊かな胸を上下させて、にっこりと彼に微笑みかける。  
「こんなオバサンに気を遣ってくれるのが、嬉しくって嬉しくって」  
そのクレアの定番とも言えるセリフを聞いて、彼はいつものように憮然とした。  
「そういう卑下した物言いは好きじゃない。貴方は充分魅力的だ」  
彼のストレートな言い方が楽しくて、クレアは肌を重ねたいと感じるのだ。  
「・・・じゃあ、それを証明してくれる・・・?」  
クレアはそっと立ち上がると、上着のボタンを外し始めた。  

クレアを抱き締めた彼のキスは、いつものように情熱的だった。  
その大きな腕に抱き締められながら、自分はズルイ女なんじゃないかと思うクレアだ。  
彼が、夫を亡くした自分を気遣ってくれている事は十分承知している。  
その上でああいう誘い方をしたら、きっと彼にしたところで断れないはずだ。  
それに、彼が数多くの少女達の心を集めているのは仕方のない事なのだ。  
クレアの知る限りドルファン学園の学生や看護婦、メイド等とも親交があるようだ。  
多分、クレアだってもう少し若ければ恥も外聞もなく彼を独占しようとしたろう。  
彼は抱き締めていたクレアを、そっと寝室のベッドの上に座らせる。  
そこは、クレアが何回も夫であるヤングに抱かれた場所であった。  
もうとっくに夫の匂いなど消えてしまっているが、それでも心を締め付けられもする。  
だが、さりとてベッドを買いなおそうなどという勇気も出ないクレアだった。  
彼の手が、そんなクレアの乳房をぎゅっと掴んできた。  
クレアの乳房は、服の上から見る以上にたっぷりとした量感をたたえている。  
「い、いやぁ」  
勿論、ちっともイヤではないのだが思わずそう口にしてしまうクレアだ。  

さすがに彼もクレアの言葉を、拒絶を額面どおりに捉えたりはしない。  
彼の手の中で、クレアの豊かな乳房が自由自在に揉みしだかれる。  
柔らかい上に弾力に溢れた白い肌が、ふにふと形を変えて彼の目を楽しませていた。  
「だめ・・・だめだったらぁぁ」  
クレアは、自分の声が次第にかすれていくのを感じている。  
彼の手が、服の裾から入ってくると、直接クレアの乳首を摘んだ。  
「きゃうっ」  
既に興奮して硬くなっているクレアの乳首が、彼の手で刺激された。  
こりこりと弄られて、クレアの全身から力が抜けてしまう。  
彼が顔を近づけてくると、もう一度唇を重ねた。  
「くふぅぅぅ」  
彼の舌を受け入れたクレアは、口の中で互いの舌を絡めさせる。  
そういえば、夫は余りキスが上手くないし好きではなかったようだ。  
付き合っていた学生時代から通算しても、何回まともなキスをしてくれたろうか。  
クレアは、彼に悪いと思いながらも夫の事を思い出してしまう。  

これが顔も見たくない位に嫌って別れた夫婦なら、また違うのだろう。  
少なくとも、クレアはまだ夫であるヤングを愛していたし慕っていた。  
さすがに、そんな夫を簡単に忘れられてしまう程クレアは薄情でも非情でもない。  
クレアは目を伏せると、彼に神経を集中するようにキスをする。  
そんなクレアの下着に手を書けた彼が、心配そうに覗き込んで口を開く。  
「・・・そのままで、いいんだ」  
静かに口にされた彼のセリフに、クレアは顔を上げた。  
「無理に忘れてしまう事はないんだ」  
自分が亡き夫を想って身体を委ねていた事を見透かされて、クレアはさっと赤面する。  
それは、少なくともフェアではない感情のはずだからだ。  
だが、彼はクレアには勿体無い位の優しい瞳のままで頷くのだ。  
「・・・想い出は、大切な物だ」  
そう言う彼のセリフの寂しさに、クレアはちょっと心を締め付けられた。  
幸せ一杯夢一杯の人生を送っていた人間が、傭兵稼業などやる訳がないからだ。  
クレアは、彼の気遣いに寄り掛かるように体の力を抜いた。  

彼によって下着を取り去られたクレアは、ベッドの上で全裸になる。  
細く締まった腰や脚、それに逆らうが如く豊かに張り出した乳房が露になった。  
彼はクレアを裸にしてから、自分の服を脱ぎ出す。  
クレアは、鼓動を早めながらそんな彼の逞しい裸身をそっと見つめた。  
ふと、彼の裸の全身に数え切れな程の傷が付いている事に気が付く。  
傭兵として転戦している彼であるからこそ、生傷は絶えないのだろう。  
例え『東洋人の傭兵』などと誉めそやされていても、戦いで無傷ではいられまい。  
いつでも生死の境目にその身を置いている凄みに、クレアは懐かしさを覚える。  
そうだ、そういえば夫もこんな生傷が一杯の身体をしていた。  
クレアの視界の中で、彼はそっと近付いて来ると彼女の脚に手を掛ける。  
「あっ」  
思わず声を上げてしまうが、クレアは本気で抵抗するつもりはない。  
少しばかり太腿に力を入れるが、すぐにクレアの脚は抉じ開けられた。  
「ああっ・・・・ああっ」  
女として大切な処を曝け出してしまったクレアは、顔を紅潮させる。  

顔を横に傾けると、自分でも不思議なくらい悩ましいため息をついた。  
彼に向かって口を開けたそこは、既に艶やかに蜜をたたえている。  
子供を産んだ事のないクレアの秘所は、淡い桜色に透き通ったたたずまいだ。  
クレアは、彼に見つめられて自分のそこからとろりと愛液が流れるのが判った。  
彼はクレアの内股に静かに顔を寄せてると、そっと花弁にキスをしてくる。  
「あああっ・・・だめえぇ」  
クレアは、その刺激にぎゅっと彼の頭を太腿で挟んでしまう。  
彼の舌が、クレアの脚の付け根の敏感な部分を吸い上げた。  
「はあぁぁああっ」  
更に、彼はころころと舌で転がしながらクレアの芽に快感を与える。  
「・・・あああっ!!!」  
何時の間にか、クレアの両手は彼の頭を押さえて震えていた。  
クレアの全身がぴくんっと震え、割れ目からは愛液が溢れ出して来る。  
そうして暫くの間クレアのそこを愛撫していた彼が、顔を上げた。  
クレアは、甘い吐息を漏らしながら荒い息を吐いている。  

彼は、クレアに身体を重ねるとぐいっと彼女の腰を引き寄せた。  
そうして、優しくクレアの頬を撫でると彼女の瞳を覗き込む。  
クレアは目を潤ませたまま、彼の行為を期待するようにこくんっと頷く。  
正直な処、罪悪感が皆無とは言えないクレアだった。  
それは、現在自分を抱いている彼とかって自分を抱いた夫の両方への罪悪感だ。  
亡き夫に心を残しながらも抱かれてしまうという事実は、クレア自身も傷つける。  
だが、彼の与えてくれる温もりを手放したくはないクレアなのだ。  
その思いに決着が付くような時が来るのかどうか、クレアには判らない。  
そしてそれまで彼が自分と夜を重ねてくれるのかどうかも、クレアには判らない。  
自分のようなオバサンは、その内捨てられてしまうのだろうなとも思う。  
こんなに年甲斐もなく逢瀬に浮かれてしまうなんて、とクレアは自己嫌悪した。  
それでも彼の優しさと暖かさは、クレアがクレアとして生きる事に必要なのだ。  
割れ目がはしたなく濡れている事に赤面しながら、クレアは囁く。  
「・・・お願いだから・・・頂戴・・・」  
身体を重ねた彼のペニスが、そっとクレアの花弁の中心に押し付けられた。  

 
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