みつめてナイト  
 

「ねえ、ねえ! あんた、プリシラ王女の初体験の相手って知ってる??」  
キャロルは、テーブルの向こうから身を乗り出すようにして話し掛けてきた。  
綺麗なポニーテールの髪の先端が、勢い良く左右に揺れる。  
彼の冷静な表情に“ギクリ”という文字が張り付く。  
「・・・残念だが知らないな」  
彼は、カップの中の茶に口を付けつつ答える。  
「えーっ つまんないのー。あんたくらいの地位のヤツでも知らないんだー」  
ちぇっという露骨に失望した顔で、キャロル・パレッキーは口を尖らせる。  
そうして、イスにどかっと座ると彼の部屋の天井を仰ぎ見た。  
「王女の初体験の相手が判ったら、そいつを問い詰めてやろうと思ったのにー」  
「だいたい、・・・なんで王女様が経験済だと思うんだ?」  
彼は不思議そうに問い掛けるが、キャロルは手をぱたぱたと振って笑う。  
「モロバレだって! 気が付いてないのは男連中くらいのもんよー!」  
彼はキャロルのセリフを聞いて、ベッドの中でのプリシラの喘ぎ声を思い出す。  
少々女っぽくはなっているかもしれないが、微妙な変化のはずなのだが。  

──通称『東洋人の傭兵』と呼ばれる彼が、ドルファンの軍に籍を置いて久しい。  
マルタギニア海に面しながらプロギア・ゲルタニア・ハンガリアという列強と国境を接し  
ヴァルファバラハリアンとの戦闘を余儀なくされているドルファン王国。  
彼のような傭兵に取って、ここは稼ぎ、そして名を成す絶好の舞台でもあった。  
幸運にも彼はその戦の中で勝ち続け、ヴァルファバラハリアン八騎将を悉く討ち果たし  
先月行われたパーシバルの戦いでは『破滅のヴォルフガリオ』の腹心でもある軍副団長  
通称『幽鬼のミーヒルビス』をも撃破し、彼の勇名は轟き渡っていた。  
既に、彼の通り名は『常勝無敗』という冠を付けずに呼ばれる事はない。  
・・・と、そのはずなのだが、この目の前にいる少女だけは違っていた。  
かってレストランでアルバイトしていた時に出逢った少女、キャロル・パレッキー。  
キャロルが彼の事を尊敬や憧憬を込めた視線で見つめた事など、一度としてない。  
悪戯好きで、常に悪巧みをしており、何も考えていない事を誇りにしている少女。  
後先考えない能天気さと無責任さでは、あのプリシラ第一王女に引けは取らない。  
一度、誕生日に半分嫌がらせでワラ人形を贈ったら、反対に喜ばれてしまったのだ。  
そんなキャロルと彼は、とても恋人などとは呼べない関係を続けていた。  

「あのお転婆王女様が急に色気づいてるんだもん。エッチしたのなんてバレバレ!」  
キャロルはティーカップを持ち上げると、興味津々といった感じで言う。  
「それにしても、仮にもこの国の王女に手を出すなんて勇気あるヤツだよねー」  
勇気と言われても困るし、だいたい彼は王女とてのプリシラを抱いた事はない。  
ただ、大切に思う一人の少女として抱いたつもりだ。  
もっとも、キャロルに言わせればプリシラの処女を奪った男という事になるのだろうが。  
彼が情報を持っていないのに失望していたキャロルだが、不意にまた顔を上げる。  
「あ、そうだ! あんた、わたしのメイド仲間のプリムって知ってる??」  
キャロルの問い掛けに、彼はさりげなく頷いて視線を逸らす。  
そういえば、キャロルは去年の9月からメイドに転職してドルファン城で働いている。  
「プリムの処女を贈られたヤツは傭兵だって噂よー! 誰だか知らないの??」  
再び彼の全身が固まって、額に“ギクリ”という文字が書き込まれた。  
持っていたカップが動揺で揺れそうだったので、テーブルの上に戻す彼だ。  
「さ、さあ・・・傭兵と言っても・・・たくさんいるからな・・・・」  
彼の脳裏にベッドでのプリムの裸身が映し出され、さすがに言葉が途切れる。  

キャロルはそんな彼のセリフを聞いて、もう一回口を尖らす。  
「なあに? こっちも知らないの? あんたもたいがい物知らずねえ」  
彼が頷くと、キラキラと無駄に目を輝かせて口を開くキャロルだ。  
「なんと! どうやらその傭兵とはその後も、らぶらぶしてるらしいのよ!」  
まあ、確かにプリムは暇を見つけてはいそいそと彼の元へ通って来てはいるが。  
しかし、互いの中に将来を見付けたりはしていないのも事実だ。  
「プリムは、相手に迷惑を掛けないように隠しているけど、ひと目で判るって」  
にへら〜と笑うキャロルだが、しかしそこに悪意は感じられない。  
「この頃、あの娘、腰の当たりが充実してるもん。きっと逢う度にた〜っぷり可愛がって  
もらってるのよ。それに、時々仕事中に恋する乙女の目をしてるしさ」  
キャロルはちょっと羨ましそうに言うと、そっと言葉を付け加えた。  
「・・・おかげで、夜伽の辛さも耐えれてるみたいだし」  
一応、彼もドルファン城の『夜伽』の事は知っているが、しかし微妙に頷くのみだ。  
彼が夜伽の週間を知らないのだと思ったキャロルは、つまらなそうに説明をした。  
「ドルファン城にいるメイド隊は王族に夜伽の義務があるのよ。バッカみたい!」  

キャロルは、彼の視線が物問いたげに自分に向けられたのに気付いて、キャハハと笑う。  
「あ、大丈夫、大丈夫! わたしみたいな中途採用組は対象に入ってないから!」  
さすがにドルファン王家がいくら愚劣でも、それくらいの節制はあるようである。  
仮にも一夜を共にするメイドであるからこそ、素性の怪しい者を相手にしないのだろう。  
不謹慎では有るが、キャロルの夜伽の光景を想像した彼は苦笑してしまう。  
彼がもう一度カップに口を付けた瞬間、キャロルがまたぐいっと身を乗り出す。  
「と、いう訳でエッチするわよっ〜!!」  
素っ頓狂な声で宣言すると、イスから立ち上がってえいえいおーと腕を振り上げる。  
「・・・・・・何が、“という訳”なんだ?」  
「細かい事を気にする男はモテないぞ〜? キャハハハハ」  
彼の憮然とした表情にも全く臆する事なく、キャロルは笑った。  
「細かくない。大体、今日はデートの約束などしていなかったはずだ」  
そもそも、今日にしたところで彼の部屋に約束もなく訪問してきて居座ったのだ。  
キャロルに常識や節制や道理や理論的思考を求めるのは、相当に難しい。  
そんな彼の態度を物ともせず、キャロルはブラウスのボタンに手を掛ける。  

「やっぱ、わたしも二人に負けてられないじゃない〜?」  
あっけらかんと言い放ってウィンクするキャロルに、彼は眉をひそめた。  
「・・・そういう理由で抱かれようとするのは、感心しないな」  
「よ〜しっ! 今日はわたしも、た〜ぷりエッチするぞ!」  
「人の話を聞けよ」  
彼の見ている前で、キャロルはポニーテールの髪を揺らしながら服を脱ぎ始める。  
実際、豊かなヒップラインとカモシカのように伸びた脚がとても魅力的だ。  
これでこの素っ頓狂な性格がなければ、と思わないでもない。  
それにつけても、ヴァルファバラハリアンが八騎将を討ち取る『東洋人の傭兵』を  
笑い飛ばせる女が、このドルファンに一体どれだけ居るというのか。  
まあ、そんな少女と関係を持つ自分も酔狂なのだろうが。  
などと彼が自嘲気味に笑っている間に、さっさと服を脱いでしまうキャロルだ。  
そして、小振りだが整った乳房を揺らしながら胸を張る。  
「早くあんたも脱ぎなさいって。子供じゃないんだから自分で脱げるでしょ」・・・・」  

「・・・・・・・・・」  
軽い殺意を覚えつつ立ち上がった彼は、シャツを脱ぎキャロルを抱き上げる。  
そしてベッドまで歩いて行くと、キャロルを乱暴にベッドに投げ捨てた。  
クッションで何回かバウンドしたキャロルは、口を尖らせて抗議をする。  
「いった〜いっ! 暴力はんた〜いっ!」  
「・・・五月蝿い」  
彼はキャロルに覆い被さると、その身体を引っくり返すようにして抱き締めた。  
背後から抱き締められたキャロルは、期待半分不安半分の表情になる。  
彼の手が、キャロルの乳房を包み込み、手の節と節の間で乳首を挟み込む。  
「ふぁああ」  
キャロルは、急な刺激に裏返った声を出して身体をぴんっと伸ばす。  
彼は左手を乳房に残したままで、右手を下半身に伸ばして股間へと辿り着かせた。  
「やぁあっ」  
キャロルが可愛い声を出して悶えるが、彼は一切構わずに指先を振動させる。  
「うん・・・・ん・・・ふぁあああ・・・・」  
キャロルはまるで子供のように首を振って、彼に背中を預けてきた。  

彼はわざと少々荒っぽく指を曲げて、キャロルの膣口に差し入れた。  
クリトリスに指を当て、表面をなぞるように撫で付け、軽く押して刺激する。  
「・・・はあ・・・はあ・・・・」  
キャロルは擦れた声を上げて、小さく身体を震わせる。  
彼の指が、キャロルの股間から溢れ出す愛液で少しずつ濡れていく。  
温かく濡れた指を彼が奥へと差し込むと、くちゅっと小さな音が漏れる。  
「くぅぅんっ・・・」  
キャロルは、押さえ切れない喘ぎ声を唇から漏らした。  
彼はキャロルを後ろから抱き締めながら、耳元に口を近付けた。  
「いつもながら、感じ易いな」  
だが、そんな彼の言葉を聞いて、かえって嬉しそうな表情になるキャロルだ。  
「だって・・・はぅんっ・・・気持ちよくなりたいじゃん・・・」  
彼の腕の中で、キャロルは小さな声でそっと付け加える。  
「・・・せっかく・・・好きな人に・・・抱かれるんだか・・・ら」  
彼はそんなキャロルの耳元に口を近づけると、優しく口付けをする。  

キャロルのこの態度も、羞恥心を打ち消す為の強がりと思えば可愛いものだ。  
よく考えてみれば、素直で愛しい少女ではないか。  
彼は、もう少しこの非常識な少女を大きな心で包み込もう・・・と微笑む。  
すると、突然キャロルは彼の腕の中で180度体勢を変えた。  
至近距離で彼と向き合って、彼の瞳を悪戯っぽく覗き込む。  
「ね、ね? 今のセリフ、萌えた??」  
キャロルの、してやったという表情に彼の思考回路が完全停止する。  
「・・・・・・あ・・・・・?」  
嬉しそうな表情で彼の顔を覗き込んだまま、キャロルは更にまくし立てる。  
「健気なキャロルにドキドキってヤツ?? キャロルたんモエモエ〜??」  
「・・・・・・」  
彼は乱暴にキャロルの腰を持ち上げて、後ろからキャロルの性器を貫いた。  
充分に濡れていたキャロルは、絡みつくように彼自身を受け入れる。  
「きゃうぅんんっ! ・・・なんで、そんなに怒るのよおおおっ!?」  
強く突き上げられたキャロルは、シーツに顔を埋めながら抗議の喘ぎ声を上げた。  

 
 
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