ソフィア・ロベリンゲは、ギース達に命じられて部屋に一人で客を待たされていた。
小さな電球一つしかない暗く湿った部屋は、まるでソフィアの心を表しているようだ。
今夜から──ソフィアは、見ず知らずの客にその身体を売らされるのだ。
それは、いつまでたっても返済の目処がつかない父の借金の為にギースが命令した事だ。
元騎士でありながらも、今は落ちぶれた父の借金を返す為にソフィアは娼婦となるのだ。
しかしながら、実際は利息が法外な相手から借りている金である。
どんなにソフィアが頑張った処で、実はどうしようもない。
それでも母や病気の弟の事を考えると、ソフィアは逃げる事さえ叶わない。
私は、どこまで陥ちて行くのだろう。どこまで汚されてしまうのだろう。
ソフィアは床に倒れ込むように座ると、両手で自分の身体を愛しげに抱き締めた。
娼婦に落とされる事を了承したソフィアだが、いざとなると怖くてたまらない。
ドルファン学園の生徒である自分が、こうして夜の町で身体を売らされるなんて。
口の中が乾ききっており、動悸が激しい。そして呼吸が苦しい。
ソフィアは小さく震えながら、ベッド一つしかないその部屋を見回す。
薄暗い照明の下、汚れきったシーツが敷かれているだけのベッドが目に入る。
今からそこで、ソフィアは見ず知らずの相手に抱かれるのだ。
ソフィアは、ベッドを見ながら静かにすすり泣いた。
泣いてもどうしようもない事だと知りながら、溢れ出る涙は押さえ様もない。
ああ、どうしてこんな目に合わなければならないのだろう。
ソフィアは、床に手をついて小さく嗚咽した。
彼の事が心に浮かびかけて、ソフィアはそっと首を振ってそれを打ち消す。
彼の事は、──『東洋人の傭兵』と呼ばれる彼の事は、大切な思い出だ。
あの日、港でチンピラに襲われている彼女を助けてくれた勇敢なる騎士。
そんな光り輝くような男性とは、なんと遠い場所に来てしまったのだろう。
どこで、歯車が狂ってしまったのだろう・・・。
ソフィアがいくら手を伸ばしても、もう彼に届く事はないのだ。
こんな穢れた自分が、彼の事を考えるだけでも彼が汚れてしまう気がする。
──ふと、ソフィアの耳に、部屋に向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。
それは小さな音のはずなのに、なんと大きく聞こえてソフィアを驚かせる。
ソフィアの心臓がどくんっと大きく鼓動し、息が詰まった。
ソフィアは全身が耳になった様に緊張して、その音を聞いた。
来たのだ・・・。
遂に自分の身体を買った客が・・・来たのだ。
きっと、死神を待つ気分というのはこういうものなのだろう。
手足に、全く力が入らない。同時に小さく震える手が、みっともなく思える。
思わず逃げる為に腰を浮かしかけるが、しかしそれ以上は動けない。
この10日間、ギース達に身体に教えこまれた教育の成果が出てしまう。
ちゃんと客を迎えて挨拶をしなければ、どんな罰を与えられるか判らない。
恐怖を堪えるように、ソフィアは泣きそうな表情のまま足をそろえて正座する。
次の瞬間、ドアがバタンッと大きな音を立てて開いた。
ソフィアは身体を震わせながら、ギースに教え込まれた通り、土下座をする。
そして、小さな擦れた声で、床を見ながら来訪者に向かって挨拶をする。
「ソ、ソフィア・ロベリンゲと・・・申しま・・す」
ソフィアのセリフは緊張で震え、声が裏返っている。
目を潤ませながらも、ソフィアは次のセリフを続けて言わなくてはならない。
「・・・こ、今夜は私をお買い上げ下さいましてありがとうございます・・・」
ソフィアの顔は床に押し付けられそうに下げられ、その肩が震えている。
だが、昨日の夜ギースに抱かれながら教えこまれた口上は、忘れていなかった。
「・・・どうか、こ、このはしたないソフィアの身体を・・・充分にお使い下さい。
・・・せ、精一杯、御奉仕・・・致しますので・・・お願いしま・・・す・・・」
これから自分の身体を蹂躙する相手に、土下座をしてお願いしなくてはならないのだ。
自分から、この身を汚してくれとお願いしなくてはならないのだ。
17歳の少女には余りにも恥辱的な命令であり、ソフィアの全身が悲しみに震えた。
それでもちゃんと言い切ったソフィアは、客の顔を見る為に、そっとその顔を上げる。
ソフィアと、ソフィアを買った客の目が合った。
戸口に立っていたのは、随分と若い──高校生くらいの外見の客だった。
一瞬、ソフィアは訳が判らず、潤んだように揺れる瞳で客をじっと見る。
見覚えがある顔だと思った瞬間、ソフィアの思考が停止した。
脂ぎった顔の中に小ずるい様な視線、締まりのない口元をした男だった。
見るからに不快感を与えるような容姿が、照明の下で笑う。
その客が、にやにやしながらソフィアに絡みつくような言葉を口にした。
「ソフィアちゃ〜ん、随分と可愛いこと言ってくれるじゃぁ〜ん」
「ひ、ひぃっ!」
血が逆流し、ソフィアの顔面が蒼白になる。
そこに立っている今夜ソフィアを買った男を、ソフィアは知っていた。
ドルファン学園の隣の地区に、フェンネル学園という高校がある。
おちこぼれた学生を金で引き取って卒業させるような、低俗な高校だ。
客は、そこの生徒であり、成金商人の息子である──ケビン・ライアンだった。
ソフィアはジョアンのみならず、このケビンにもしつこく言い寄られていた。
何度も言い寄って来ては、その度にソフィアをいやらしい目で見て来た男だ。
ソフィアは何回もキツイ口調でケビンを拒絶し、交際を断った。
自分は音楽の道を志しているのだから、そういった事には興味はない、と。
一度など、ソフィアの父を侮辱した事から、ケビンを平手打ちした事もあった。
そのケビンが、今夜ソフィアを買った客としてここに立っている。
その下卑た視線で、ソフィアの熟れた身体を値踏みするように点検している。
「いいねぇ〜 色っぽいよぉ〜 ソフィアちゃ〜ん」
ぐふふふと湿った笑い声を上げながら、ケビンは肩を揺らす。
「ギースとやらがわざわざ誘ってくれたんだよぉ〜 君を抱かせてやるってさぁ〜」
その声は、まるでガマガエルが鳴くような不快感を与える声だった。
ソフィアは、全身が総毛立つのを感じた。
「い、いやあぁっ! こ、こないでぇーーーっ!」
ソフィアは、怯えたように立ち上がって逃げようとする。
今更ながらに、ギースの悪辣さと非情さを感じて絶望に包まれるソフィアだ。
どんなルートを使ったのかは知らないが、ギースはソフィアの私生活を調べている。
そして、ソフィアに執心している金持ちのケビンを探り出したのだろう。
ソフィアと一応の顔見知りの男を、娼婦として最初の客に設定するギース。
それは、余りと言えば余りの仕打ちだ。まっとうな人間の考えるような事ではない。
ソフィアは、この瞬間、父の借金などどうでもいいと思った。
とにかくこの場から逃げて、この下劣な男からこの身を守らなくてはならない。
そうしてソフィアが腰を浮かせた瞬間、ケビンの腕が動いた。
ぱーんっ!とこの場に似つかわしくない爽やかな音を立てて、ソフィアの頬が鳴った。
ソフィアを平手打ちしたのは、ケビンだった。
ケビンは、呆然としているソフィアの髪の毛を掴んで、皮肉っぽく笑う。
「今夜のソフィアちゃ〜んは、ボクが買ったんだよぉ〜 抵抗しても無駄さぁ〜」
ぐふふふ、と笑ったケビンは、もう一回ぱーんっとソフィアの頬を叩いた。
「あうっ・・・! ・・・ううう・・・っ!」
それだけでソフィアの全身の力が抜けてしまう。
ソフィアは暴力によって馴致させられ、抵抗出来なくされてしまう。
それは、ここ何日かの間でギースにしこまれた哀しい習性だった。
逆らうと何度でも叩かれ、言う事を聞くまで犯され続けられた記憶は生々しい。
「いつだったかぁ、ソフィアちゃ〜んがボクを叩いたことあったよねぇ〜」
執念深く覚えていたケビンは、楽しくてたまらないように言った。
「でも今夜は、ボクのものにぃ〜 なるんだからねぇ〜」
その余裕を持ったケビンのセリフを聞いて、ソフィアは慄然とした。
そうだ──今の自分は・・・金で買われた娼婦でしかないのだ。
怯んでしまったソフィアに気をよくしたケビンが、ソフィアの乳房を握る。
「いつもソフィアちゃ〜んのヌードを想像してぇ、オナニーしてたんだよぉ〜」
ケビンはぐふふふ、とソフィアの左の乳房を掴むと強く揉みしだく。
「あっ・・・はぁぁぁ・・・」
抵抗出来ないソフィアの態度に、図に乗ったケビンは手を動かした。
「ぐふふふぅ〜、ソフィアちゃ〜んのおっぱい、柔らかいねぇ〜」
ケビンの得意気な顔が、ソフィアを自由に抱ける喜びに輝く。
ソフィアの顔が屈辱で真っ赤になるが、しかし吐息は甘くせつない。
もうソフィアの身体は、酷い目に合わされるだけで濡れるように改造されていた。
ギース達に何回も精液を飲まされ、膣に注ぎ込まれ、そう教育されたのだ。
「そぉ〜れ、もっと強く、おっぱい揉んじゃうよぉ〜」
ケビンは、むにむにとソフィアの双乳を好き勝手に揉み込む。
「・・・くふぅぅ・・・ふうぅぅ・・・・」
ソフィアの乳房が、服の上から上下左右に形を変えて弄ばれる。
ソフィアは、ケビンの思うままに扱われる自分が情けなくて泣いた。
ケビンが、鼻息を荒くしてソフィアに顔を近づけて来た。
「キスしようよぉ〜 ソフィアちゃ〜ん」
ケビンは、ソフィアが顔を背けようとしたのを許さずに唇を押し付ける。
「・・・んーーっ・・・んーーっ・・・」
ケビンのそれは、まるでヒルのような感触の気持ちの悪い唇だった。
ソフィアは必死に抵抗しようとするが、乱暴に口内を舐められる。
そんな屈辱を受けているのに乳首が硬くなってきた自分が、ソフィアは哀しかった。
「次はボクの唾を、飲ませてあげるよぉ〜 ソフィアちゃ〜ん」
ケビンはソフィアの髪を掴んで顔を上向かせて、もう一度唇を重ねる。
「・・・くぅぅ・・・うむぅっ・・・っ」
ソフィアの口の中に、吐き気がするようなケビンの唾がどろり、と流し込まれた。
私の人生は、一体なんだったのだろう。
私は、一体何の為にこの世に産まれて来たのだろう。
ソフィアはケビンの臭く粘つく唾を飲み込みながら、止めどなく涙を流す。
ケビンは、そんな彼女の涙には構わずにソフィアの服のボタンを外し始めた。