みつめてナイト  
 

プリシラ王女の荒い息の間から漏れる声は、二人の性器の擦れ合う音より小さかった。  
「・・・もう・・・だめぇ・・・イ、イキそうっ・・・・」  
表情一つ変えずにプリシラを抱いてた彼は、プリシラの喘ぎ声を心地良く聞いた。  
彼はプリシラの背中に腕を廻し、その豊満な胸を自分の胸板で押し潰すように強く抱く。  
そうして腰の動きを激しくして、プリシラに快感を与え続けた。  
プリシラは何も考えられず、されるがままに彼にしがみつき、廻した足に力を込める。  
「・・・あ・・・う・・・・あああああ・・・っ」  
プリシラは、自分の中でペニスが大きく膨らみ、熱い液体が注ぎ込まれるのを感じた。  
「・・・はあぁ・・・ああああああっ!!!」  
プリシラの口からは、意識もせずに快感を告げる声が上がり、全身が小刻みに痙攣する。  
二人は腰部で繋がったまま、情熱的に唇を合わせた。  
プリシラは夢中になったように、自分から彼の唇に吸い付いていた。  
唇を離すと、荒い息を吐きながらプリシラはにっこりを彼の瞳に見入る。、  
そうして二人はしばらくの間、余韻を楽しむように、お互いの身体を抱いていた。  
プリシラが身体を起こしたのは、──随分と時間が経ってからである。  

ベッドから身体を起こした全裸のプリシラは、その豊かで美しい金髪を書き上げた。  
「あー! もう最高に気持ちよかったぁ」  
その動きに合わせて、整った形の二つの美乳が揺れる。  
性格については少々難があるプリシラ王女だが、その美しさを否定する事は出来ない。  
プリシラ・ドルファン──このドルファンの第一王女であり、彼の大切な少女の一人。  
この王国きっての高貴な身分であり、あらゆる教養を身につけた最高のレディであり  
更に城の脱走常習犯にして、後先考えない能天気で無責任で無鉄砲な少女。  
しかしながら最終的にはこの国の王女である事には違いなく、その身体を自由に出来る  
のは実際の処、恐れ多い事なのが真実であり、彼はそれを忘れた事はない。  
当然ながら最高の食事環境によって形作られた外見上の美しさは元より、やはり  
生まれ持った気品は隠そうとしても立ち現れ、余人とは比ぶるべくもない。  
王族だけが備えるカリスマ性──彼のようにドルファンの救世主とも呼ばれて限りない  
賞賛を得ている身であったとしても、手に入れる事が不可能な物を纏う少女。  
そんな高貴な身分であるプリシラ王女の身体を、ついさっきまで彼は抱いていたのだ。  
彼はそんな事を考えながら、プリシラがシャワールームに入っていく後姿を見つめた。  

プリシラが歩くにつれ、これもまた形の良い臀部が揺れるのに見惚れてしまう。  
ほどなくして軽くシャワーを浴びたプリシラ王女が、下着を身に着けて近寄って来た。  
「どうしたの? 考えごと?」  
プリシラはぼうっとしている東洋人の傭兵──彼女の想い人に無邪気に尋ねる。  
溢れんばかりの気品を身に付けながらも、あくまで気さくな庶民派王女だった。  
──通称『東洋人の傭兵』と呼ばれる彼が、ドルファンの軍に籍を置いて久しい。  
マルタギニア海に面しながらもプロギア・ゲルタニア・ハンガリアという列強と国境を  
接しヴァルファバラハリアンとの戦闘を余儀なくされているドルファン王国。  
彼のような傭兵に取って、ここは稼ぎ、そして名を成す絶好の舞台でもあった。  
幸運にも彼はその戦の中で勝ち続け、ヴァルファバラハリアン八騎将を悉く討ち果たし  
先月のパーシバルの戦いでは、『破滅のヴォルフガリオ』の腹心でもある軍副団長、通称  
『幽鬼のミーヒルビス』をも撃破し、彼の勇名は轟き渡っていた。  
既に、彼の通り名は『常勝無敗』という冠を付けずに呼ばれる事はない。  
そんな日々の中で、偶然に城から脱走したプリシラと出会いデートもどきに引っ張り廻さ  
れた事から二人は近付き、そして自然にお互いの心と身体を重ねていた。  

プリシラの気さくな問いに、彼はそっと首を横に振って口を開いた。  
「相変わらず・・・綺麗だな、と思ってね」  
さすがに、考えている苦悩じみた思いをそのまま口にしたりはしない彼である。  
そんな彼のセリフを聞いて、プリシラはさっと顔を赤らめた。  
「貴方に言われると、なんか照れちゃうわ」  
照れ照れになりながらも、プリシラは彼女曰く庶民風の服を身につけていく。  
先ほどまで抱いていた少女が、普段通りの格好になっていくのを、彼は楽しむ。  
すっかり身支度を終えた後、プリシラは簡素な部屋着を身に付けた彼に微笑んだ。  
「すっかりお邪魔しちゃったわね。そろそろ帰らなきゃ」  
彼はそんなプリシラに頷きながら、しかし済まなそうに言った。  
「剣と鎧の手入れをしておきたいんだ。送っていけなくても大丈夫かい?」  
近頃、ドルファンでは、シベリア辺りから来たという人身売買組織が暗躍していた。  
噂では誘拐した少女を調教し、奴隷にしてから他国の富豪に売っているという。  
彼の周りでも、数ヶ月前にロリィ・コーウェルという少女が行方不明になっていた。  
彼とデートの約束をしていたロリィが、待ち合わせ場所に来なかったのである。  

その後、杳としてロリィの消息がつかめず、彼は非常に心を痛めていた。  
──もっとも、実はロリィは、既に奴隷に調教されて売り飛ばされている。  
既に調教され尽くしたロリィは、命令に絶対服従の精液便所として売られて行った。  
そんな事は知るはずもないプリシラは、彼に向かって大丈夫・大丈夫と笑って見せる。  
「大丈夫だってば。じゃあ、また余裕で城を抜け出してくるね!」  
プリシラはドアの前で振り返ると、彼の首筋に手を回して、1回、口づけをする。  
「そうそう、再来週はわたしの誕生パーティーだから、きっと来てよ!」  
彼が頷き、プリシラを送り出した後、ワンテンポ遅れて背後の物置のドアが開いた。  
そこは、今まで彼とプリシラが愛し合っていた部屋の隣にある物置である。  
彼は小さく、困ったようなため息を吐くと、その開いたドアを振り返る。  
静かに開けられた物置のドアの影から、一人のメイド服の少女が現れた。  
プリシラ第一王女付きのメイド──プリム・ローズバンクである。  
「・・・プリシラ様と騎士様、・・・とぉぉっても、楽しそうでしたねぇぇ?」  
こめかみをぴくぴくと痙攣させながらも、プリムは、にこやかに微笑む。  
顔はなんとか笑おうとしているが、目が全然笑っていないのが、結構不気味だ。  

──あの日、プリムが処女を彼に捧げた日から、しばらくの日が経っていた。  
通称『東洋人の傭兵』というドルファン救国の英雄と、プリシラ王女付きのメイド。  
二人の間に接点などあろうはずはなかったが、何故か二人の関係は続いていた。  
プリムは、プリシラ相手の激務の合間に、せっせと彼の元へ通い続けている。  
彼は、プリムの未来についてなんの約束も出来ないと判っていた。  
プリムも、二人の未来に何の展望もない事は承知済だが、それと気持ちは別問題だ。  
そして今日、たまたまプリムがお茶を飲みに来ている処にプリシラが来たのである。  
『は〜い、美人系で可愛い子系の、貴方の愛しのプリシラよ!』  
さすがに彼も驚いて、半分パニックになっているプリムを、物置に匿った。  
メイドが、王女の思い人に横恋慕するなどあってはならない事だったからである。  
プリシラは覚えたての情事にハマりつつあり、彼と愛し合う為に来たと言う。  
『さあ、ちゃっちゃと用意して、いつもみたいな気持ち良い事、しましょ』  
彼は匿っているプリムの事を考えて、何度も何度もプリシラを説得したが叶わない。  
『今日は少しばかり体調が優れなくて』  
『そんなの許さないから! 抱いてくれるまで帰らないー!!!』  

そのまま居座られてしまっても困るし、更にプリシラの我が儘は折り紙付きだ。  
結局、プリムを物置に隠したままプリシラを抱く事にした彼であった。  
彼としても、自分の誰かとの情事を他人に見られるのはバツが悪い話である。  
しかし、それ以上にプリムの気持ちを想像すると、やるせないものがあった。  
ずっと隠れて、彼とプリシラの愛の営みを漏れ聞くのは、どういう気持ちだろうか。  
──プリシラが帰って、ようやく物置から出てこれたプリムに彼は近付いて行く。  
プリムのそばまで来た彼は、優しく謝罪するように語りかけた。  
「済まなかった」  
「いいえぇっ とっても楽しそうで、羨ましい限りですぅ!」  
プリムの表情はにっこりと笑いながらも、目が全く笑っていない。  
「本当にぃ、楽しそうで良かったですねぇ。花火でも上げたいくらい楽しそうっ!」  
にこやかに笑いながらも、どんどん言葉がトゲトゲしくなっていくプリムだ。  
「そんなに怒らないで貰えると、助かる」  
「怒ってなんていませんっ! わたしはいつもこういう顔ですぅっ!!」  
多分、今のプリムの様な状態を『怒っている』と言うのだろうと彼は思った。  

「いや、あの場合はだな・・・」  
「聞きたくありませんっ!!!」  
ぷんっと唇を尖らせると、プリムは横を向いてしまう。  
「プリシラ様とエッチ出来て良かったですねぇ! あの女も幸せそうでっ!」  
「一応、何度も押し止めようとしたのは聞いていたね?」  
「どうせ、わたしは美人でもないしっ! スタイルも悪いしっ! メイドだしっ!」  
プリムは顔を真っ赤にして、横を向いたままで自虐的なセリフを連発する。  
「顔なんてソバカスだらけだしっ、胸だけは、牛みたいにおっきいしっ!」  
彼が困りきって何も言えずにいると、プリムは、キッと彼の方へ向き直る。  
「なんで『そんなことないよ』ってゆってくれないんですかぁっ!!?」  
そうして彼を睨みつけるが、すぐにまたそっぽを向いて頬を膨らましてしまう。  
「そ、・・・そんなことはないさ」  
「ぜんっぜん! 気持ちがこもってないですぅっ!!!」  
目の端に涙まで滲ませながら、両手をぶんぶん振り回して抗議するプリムだ。  
これは、ヴァルファバラハリアン八騎将より強敵だぞ、と彼は弱り果てた。  

プリムは、顔を真っ赤にして横を向いたままで、自虐的なセリフの連発を続ける。  
「どうせ、わたしはウエストも太いしっ! 脚も短いしっ! 鼻も低いしっ!」  
目の前で頬を膨らませているプリムに困り果てた彼は、そっとプリムを抱き寄せる。  
「きゃ・・・っ!!」  
プリムはさっと顔を紅潮させると、目の端に涙を貯めて彼の顔を睨み付けた。  
「そうやって誤魔化さないで下さい!! わたしは怒ってるんですから!!」  
・・・さっきは、怒ってないと言わなかったか?  
彼は尚も抵抗するプリムを強く抱き、プリムは細い腕で彼を押し戻そうとする。  
「放して下さい!! わたしはそんな簡単な女じゃないですっ!!」  
「怒ると、可愛い顔が台無しだ」  
そんな彼のセリフを聞いて、プリムの瞳が戸惑いに揺れて気弱になる。  
「ず、ずるいです! そうやって・・・そおゆうの、弱いって知ってて!!」  
プリムが、どんなセリフに弱いかなどという事は彼は知らない。  
ただ、彼としては単純に他の方法を知らないだけなのである。  
そんな彼の腕の中で、プリムは駄々をこねるように拗ねた表情になった。  

 
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