Missing Blue  
果物、スポーツドリンク、えー………CD-Rに瞬間接着剤?  
「おい、エリス」  
肩の辺りでふらふらしている妖精に目を向ける。  
「? なんだ」  
「どう考えてもこれは要らないだろ」  
突きつける。  
ち、とムカつく事この上ない態度で売り場に戻しに行った。  
ヤツの個人的な物まで買ってやる義理はない。  
まあ、あいつからかりんちゃんがまた風邪ひいた、って聞いたんだけど。  
顧客顧客言ってるだけあって、意外とこういう所は律儀だよな。  
このマメさは正直、見習いたいと思う。  
仏頂面のエリスが帰ってくる。  
「ホントーにケチ臭いヤツだな、オマエ」  
………前言撤回。  
 
「なあ、唯芽は誘わなくてよかったのか?」  
手に食い込み始めたビニール袋を意識しつつ歩く。  
「唯芽?ああ、騒々しいからな。今回はパスだ」  
鬼だ………あ、鬼は唯芽か。  
俺の正面に周って来たエリスが、ニヤリと笑う。  
「よかったな、アタシの所為にできて」  
「な、なに言ってんだよ」  
「ニヤけただろ、さっき」  
「なっ………」  
こちらの両手がふさがっているのをいいことに、言いたい放題だ。  
せめて袋が一つだったら、って袋?  
「エリス、なんだその手に持ってる袋は」  
俺のとは明らかに違う、布製の巾着だ。  
こいつがハンマー以外の物を持ち歩くのを見るのは、もしかしたら初めてかも。  
「アタシだけ手ぶらって訳にもいかないからな」  
「中身は?」  
聞くと、  
「見てのお楽しみだ。そんなことよりほら、キリキリ歩け!」  
背中を小突かれる。………はぐらかしやがったな。  
 
両手が使えない俺に代わって、エリスがチャイムを押す。  
少しして、ドアからパジャマ姿のかりんちゃんが顔を覗かせる。  
「エリス………牧村さん!?」  
病人とは思えない機敏さで、ドアの奥に隠れてしまう。  
「しょ、少々お待ちくださいっ」どたどたどた。  
「あー………かりんちゃん………」  
声をかける間もなかった。  
嫌な笑顔をこちらに向け、ずかずか、いや、ふわふわと神瞳邸に入ってゆくエリス。  
「ホラ、オマエも早く入れ」  
とりあえず玄関まで踏み込み、荷物を置く。  
「お待たせ、しました………」  
戻って来たかりんちゃんの髪は少し湿っていた。  
寝癖でも直していたんだろうか。  
「寝癖なんかいいから早くベッドに戻れ、かりん」  
デリカシー0の妖精だった。  
 
二度目のかりんちゃんの部屋は相変わらず片付いていた。  
ベッドの脇に置かれたテーブルには、俺が注いだスポーツドリンクの入ったコップが二つ。  
顔の下半分まで布団に隠し、こちらに目を向けているかりんちゃんは、  
なんというか、こう………  
「そんなにじーっと見てたら飲めるものも飲めないだろ、スケベ」  
「ス、スケベってなんだよ。俺はただ」  
いつも通りに漫才をしてしまう。二人同時にはっ、と口に手をやる。  
これじゃあ唯芽がいるのと大差ないんじゃないか?  
かりんちゃんの様子を再び覗き込むと、クスクスと笑っていた。  
「………大丈夫?」  
今更こんな事を聞くのも、我ながらマヌケな話だ、と思う。  
なにごとか怒鳴りかけたエリスが頬を膨らませて黙り込む。  
「快調、という訳ではないんですけど」  
そんなエリスの様子を見、微笑んで上体を起こす。その頬は少し赤い。  
「お陰さまで、気分は晴れました」  
そう言ったかりんちゃんは、初めてコップに口をつけた。  
こういった台詞が嫌味に聞こえない辺りは流石だと思う。  
「果物とか、冷蔵庫に入れてきたけど………食べる?」  
「いえ、固形物はちょっと………申し訳ありません」  
病人に畏まられても。ていうかそんな悲しい顔しないでくれ。  
「あ、いや、気にしなくていいよ」  
「ですが………」  
見ちゃいられない、といった感じで俺とかりんちゃんの間に、エリスが割り込んでくる。  
今回ばかりは本気で感謝だ。  
 
「かりん、アタシからもお見舞いだ」  
例の袋を手渡す。  
「ドリンク剤?」  
かりんちゃんの手によって取り出された袋の中身は、  
市販のそれのような、茶色い小瓶だった。ラベルが無いけど。  
「エリ………あ」  
突っ込もうとした時にはもうかりんちゃんは怪しい小瓶に口をつけてしまっていた。  
躊躇しない、というか度胸あるよなあ。  
「………にがい」  
短く感想を言う。普通ああいうのって甘ったるいものじゃないのか?  
「良薬口に苦し、だ」  
明らかに誇らしげなエリス。コイツ自作しやがったな………  
今更ケチをつける訳にもいかず、俺も温くなったスポーツドリンクを一口。  
 
空になった小瓶と袋をかりんちゃんから受け取るエリス。  
「あ」  
「どうした、エリス」  
「用事を思い出した。後は任せたぞ」  
「はぁ?」  
唐突に言って、窓の鍵を開けて飛び去る。  
窓も閉めずに。  
「なんなんだ、アイツ」  
「さあ………」  
窓を閉めながら、少し唖然とする俺とかりんちゃん。  
まあ、気を遣ってくれたのかも………それだけはあり得ないな。  
そもそもあの――――  
「牧村さん?」  
「?」  
思考が遮られる。  
「何か、考え込んでおられるみたいですけど」  
どう答えればいいんだ。多分、俺と同じ疑いはひと欠片も持っていないんだろうなあ。  
さっきのドリンクの時もそうだったし。  
それだけエリスは信頼されてるって事か………少し、いやかなり羨ましい。  
「牧村さんも、何か御用事がおありですか?」  
心配そうに声がかけられる。  
「ない、ない。あっても行かない」  
下手なことを言うと涙の一つもこぼしそうな目で言われ、どぎまぎしつつ返す。  
こんなか弱いところを見る事ができたのは、珍しいしむしろラッキーで、  
いや実際、あ、ほら、そんな顔で笑われると………  
「よかった………嬉しいです」  
かりんちゃんは手を伸ばし、俺のシャツの袖を捕む。  
「っな、いや、そんなに感激しなくても」  
「いけませんか?」  
こちらの手にかりんちゃんの指が一本々々絡んでくる。  
その柔らかな感触と体温に、胸が高鳴る。  
ていうか、かりんちゃんキャラ違うくないか?  
 
「か、かりんちゃん?」  
心なしか、かりんちゃんの顔がより赤くなっているような気がする。  
熱にでも浮かされたような、あ、実際熱あるんだもんなあ。  
なるほど、と一人ごちていると、  
「私、嬉しいです」  
またですか。  
「そ、そう?」  
「牧村さんと二人きりになれて」  
両手で俺の右手を包み込む。  
それを捧げ持つようにして、俺と目をあわせてくる。  
「牧村さんは」  
一瞬の躊躇の後に、  
「唯芽ちゃんの事、好きですか?」  
………今日のかりんちゃんは絶対ヘンだ。  
かりんちゃんじゃなくてもこの話の流れはおかしいだろ。どう答りゃいいんだ。  
少し考えて、  
「………好きだよ。大事な友達だし」  
本心、だ。照れる。  
心なしか俺の手を包み込む力が強くなったような気がした。  
「じゃあ、私の事はどう思っておられるんですか?」  
来た。絶対聞かれると思っていた。  
今度は大した間もおかず答られる。  
「好きだ。女の子として、特別」  
簡単に言う。これ以上難しく言うことも出来ないが。  
ぽろ、と涙をこぼすかりんちゃんに顔を近づけ、  
「んっ」  
唇を奪う。  
勢いって大事だ、と思った。  
 
かりんちゃんの表情はふにゃ、とすぐに緩んだ。  
ぶっちゃけ、拒まれたらどうしようとかも思っていたので、こちらも緩む。  
風邪が伝染るのも気にせず、舌を差し込む。  
むぅ………不味い………エリスこんなもん飲ませやがったのか?  
奴が飛び去った窓を睨む。  
「ぅう…ん」  
目をそらした事を咎められ、首にかりんちゃんの両腕がまわされる。  
体勢的に無理が出てきたので、俺もベッドに乗る。  
二人分の体重を受け、軋む。  
うわ、なんかもの凄くいい匂いが………  
自分の性癖に疑念を抱きつつ、組み敷いたかりんちゃんの胸に触れる。  
「ん………」  
かりんちゃんがうめく度に、生温かい吐息が俺の頬をくすぐる。  
ブラはつけていないらしく、柔らかな中でも感触の違う部分をすぐに探り当てる事が出来た。  
掌で包み込み、人差し指でその部分を円を描いて刺激する。  
「ぅん………おふ、ぉ」  
ピク、と反応し、何事か訴えてくる。  
ぴちゅ、と水音を立て、唇を自由にする。  
「牧村さん………私まだ、お風呂に………」  
あ、そうか、風邪だもんな。  
「別に気にしないけど」  
むしろ歓迎する。  
「でもっ」  
やっぱり嫌なんだろう、またその瞳が潤みはじめる。  
っ、そんな表情されると………そうだ。  
洗面器に入っているタオルを手にとり、かりんちゃんの首の辺りに浮いた汗を拭き取る。  
 
「牧村さん?」  
余りにもナイスなアイデアに、唇が歪むのを抑えきれない。  
「え、っちょ、牧村さんっ」  
こちらの意図を察したらしいかりんちゃんが、こちらの手を止めようとする。  
「いいから」  
良くないのは百も承知だ。  
手を避け、パジャマのボタンに手をかける。  
「〜〜っ」  
あきらめたのか、大人しくなったかりんちゃんの上半身をあらわにする。  
全体的にしっとりと湿っており、形の良いふくらみが呼吸に合わせてゆるやかに上下している。  
口づけたい、という衝動をどうにか押さえ込み、タオルを脇腹にそっと当てる。  
「んっ」  
拭き取るというよりは、ぽんぽんと軽く押さえるようにしていく。  
イチイチびくっと反応する様が異常にいやらしく感じられる。  
 
胸にタオルを当てる。先端をわざと外し、周囲だけを刺激する。  
汗を拭くことなど最早二の次にしていた。  
「っつ………まき、ふぁ、牧村さん………」  
もどかしげな声。  
「なに?」  
答えられる筈も無く、困った時の表情を浮かべたままこちらをじっと見るかりんちゃん。  
これは………楽しすぎる………頬がピクピクする。  
生暖かくなったタオルを水につけ、絞る。  
広げ、胸を覆い隠すようにそっと乗せる。  
「ぁっ」  
冷たさに声を洩らす。  
「ごめん………」  
詫び、タオルに覆われた胸に指先を乗せ、砂浜に文字を書く様に軽く引いてゆく。  
「ぅ………あぁ…っ」  
何度も乳首の辺りを軽く掻くように刺激すると、  
タオル越しにもはっきりとわかるほど、その硬さが増してきた。  
そのまま柔らかなパイル地に口をつける。  
「っ………あ」  
先端に達し、タオルが含んでいる水分ごと、ちゅう、と吸い上げる。  
「や………うっ……ぁ」  
動いた拍子に、タオルがずれ、片方の胸が外気にさらされる。  
戻そうとすると、手首がつかまれた。  
「あ、あのっ……もう、」  
「止める?」  
「いえ、あ、汗とか、諦めますから………」  
返事はせずに、タオルを取り払う。  
 
胸の間に口をつけ、そのまま下へと舌を滑らせてゆく。  
「ん………っ」  
残るパジャマに手を掛け、ずり下ろす。  
ショーツ一枚になったかりんちゃんは軽く身を震わせ、  
「くしゅっ」  
くしゃみをした。口を手で塞ぎ、申し訳なさそうにこちらを見下ろす。  
「ちょっと寒い?」  
こく、と頷く。  
惜しいと思いつつ、足元にある毛布でお互いの身体を覆う。  
毛布の中でかりんちゃんが遠慮がちに抱きついてくる。  
どこか子供っぽいその様子に苦笑してしまう。  
「………いい?」  
漠然とした俺の問いに、またも頷く。  
もぞもぞと毛布の中でかりんちゃんの身体を探り、ショーツの中に指を差し込む。  
むっとした濃密な空気を掌に感じた。  
「んー……っ」  
俺の肩がかりんちゃんに強く抱かれているため、どうも動きづらかった。  
とりあえず自由になっている手首の動きをつかって、その部分を撫でさする。  
さわさわとした茂りの感触。指先をくにくにと動かし、入り口を刺激する。  
ぬる、と中指の第一関節までを差し入れる。  
「あっ!」  
こちらの動きが全く見えなくなったせいもあるのか、ビクンと大袈裟に反応する。  
目を見開き、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。  
そんなかりんちゃんを落ち着かせるように頬に軽くキスをし、  
「痛かったら言って」  
愛撫を再開する。  
差し入れた指を軽く回転させる。滲んできた蜜で、その動きを徐々にスムーズにする事が出来る。  
さらに深く差し込み、ゆっくりと前後させる。  
「は……っ、っ!ぅ……」  
先程よりも辛そうに眉を寄せるかりんちゃん。  
俺もかりんちゃんの身体はほとんど見えないので、見えている表情の変化に敏感になる。  
 
「かりんちゃん、我慢しなくていいから」  
肩を上下させながら、俺をきょとん、と見つめてくる。  
「嫌じゃ、ない?」  
そこまで言って、やっと俺の言った意味が分かったらしい。  
「い、いえ、ちょっと気持ちよかったです………」  
言いづらいのか、最後の方は消え入るようだった。  
『ちょっと』か。………毛布の中に潜り込む。  
「ま、牧村さん?」  
無視し、かりんちゃんのショーツを剥ぎ取る。  
暗闇の中では、息づくそれを視認出来なかった。  
顔をそこに近づけると、鼻から吸い込んだ空気に、自分の肺まで熱くさせられる。  
その部分を両手で割り広げ、舌を差し込む。  
「んぁ………」  
味蕾を刺激するかりんちゃんの味。  
蠢く襞に、逆にこちらの舌を弄られているようだ。  
舌先に溜まったそれを飲み下し、何度も舌を上下させる。  
意図せずして、時折陰核を掠る。俺の頬近くにある太股がその度にびくりと反応する。  
それが楽しくて、  
「く……っ、んぅ、ぅ……っ!」  
その部分を強く吸い上げてみる。  
尖らせた舌先で刺激してやると、それが徐々に大きくなるのを感じる。  
「……牧村さんっ…」  
なにかを訴えかけるようなかりんちゃんの声に、俺もたまらなくなってしまう。  
 
「かりんちゃん………」  
呟いて毛布を取り去り、自分のものを取り出す。  
かりんちゃんは何も言わず、呆然と俺の下腹部に目を向けている。  
「いい?」  
気恥ずかしさを隠して問うと、こく、とかりんちゃんの首が縦に振られた。  
一切その部分から目をそらそうとしないかりんちゃんにやり辛さを感じつつ、徐々に体重をかける。  
「っ、ん……ぅ!」  
俺の肩を掴んでいる指に力が込められ、強く食い込んでくる。  
かりんちゃんは、ぎり、と歯を軋らせ苦痛に耐えている。  
「うっ……くっ」  
俺を吐き出そうとするかのように収縮する内部と、溢れた愛液の熱さに思わず声が出てしまう。  
ようやく根元まで収まった所で、軽く腰をゆする。  
そうして快楽を得ている俺とは対照的に、背を柳の様にしならせているかりんちゃん。  
そらされた胸に、口をつける。  
「ぁ………?」  
口内に含んだ先端部分に甘く歯を立てる。  
「ん!」  
声に合わせ、内部の締めつけが高まる。  
危うく出してしまいそうになり、口を離した………あ。  
引き抜いた拍子に、情けない………  
腹部にかけられたそれに目をやり、  
「終わり………でしょうか………」  
安堵の表情のかりんちゃん。  
いや、もっとしたいけど………そういうわけにも。  
病人相手にやりすぎだ。とりあえず頷いておく。  
「ちょっと、疲れました………」  
見えているのかいないのか、その目がすう…と細められ、閉じられる。  
「え?ちょっと、かりんちゃん!?」  
熟睡モードに入ってしまったかりんちゃんをよそに、一人慌てふためく俺であった。  
 
 
翌日。  
登校すると同時に、エリスの店に直行。  
一晩中看病していた疲れもあったが、そんな事はどうだってよかった。  
ばんっ、と思いっきりドアを開ける。何事か言おうとするエリスを睨みつけ、  
「エリス、なんだアレは」  
問い質す。  
「な、なんの事だ?」  
「しらばっくれる気か」  
びっ、と粘着テープを取り出し、ロールから剥がす。  
「ひ? あ……あれはな、その、誰もが等しく理解しあう為の薬だ」  
「分かり易く」  
逃げようとしやがったエリスをとっ捕まえ、顔を近づけて問う。  
「………媚薬。ああ?止めろ、正直に言っただろう!」  
無視。  
「大体オマエだって楽しんだんだろ、そもそもアレはある程度の好意が無いと効果が―――」  
ぐるぐる。ぽい。  
んーんー唸る声を無視し、ドアに『本日休業』の看板を設置して講義に向かった。  
 
 
おわり。  

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