物心ついたときから、その行為は私にとって自然なことだった。
それは、小人さんやぺらぺらさんが見えるのと全く同じに。
「ん...ふ、ぅ...」
夕闇が落ちた部屋の、ベッドの上。
学校帰りのセーラー服のまま、うつ伏せになった私は自分の体を弄っていた。
これがどういう意味を持つ行為かを知ったのは随分後のこと。知ったからと言って罪悪感などかけらも感じなかったし、なにも変わらなかったけれど。
「ん...」
だって、気持ちいいコトは、いいコトでしょう?
空間に微笑みかければ、彼が嗤う気配がした。
闇があれば、そこに彼はいる。
「神野さん...みてる...?」
返事はない。
でも、見られていると思うと、何故か快感が増した。
どろ、と奥から熱い体液が染み出てきて、私の本能は交合の準備が整いつつあることを告げる。
そういえば、中世の魔女と呼ばれた女達の夜会は、性の饗宴だったとも言われていたのだっけ。
その宴の生贄のようにくったりと、セーラー服の前を肌蹴て下着も下ろし、
スカートは態と捲れたままで横向きに転がる。
目を閉じて、手を延べて、背後の闇にねだった。
「ね...神野さん、抱っこして」
「...仕様がないね」
ーーその声のあと、すべての音が一瞬消えた。
闇が集まりーーその澱みから白い顔が覗くのを、肌が感じる。
「君にそんな声で頼まれては、ね?」
瞼を開ければ、手を取られて慣れた風に抱き起こされる。
甘えて絡めた腕を窘めるように背後から抱きしめられると、
お腹がきゅうっと切なくなる。
「神野さん...」
「何かね?」
わかっているくせに、心を読む夜闇の魔人は態と問う。
でも、このやりとりは嫌いじゃない。
「意地悪...」
振り向くと、笑み交じりにキスをされた。
ついばむように二、三回、一度唇を離すと今度は深く。
舌を絡めて、ぴちゃぴちゃ舐め合って、零れる唾液を淫靡に啜る。
それはまるで濃密な蜜の、若しくは強いお酒のように私を痺れさせていく。
「もっと気持ちよくなりたい...神野さんにされると、気持ちいいの」
「随分お強請りが上手になったものだ」
「だって本当なんだもん...」
ちょっと駄々っ子みたいに、唇をとがらせてみた。
応えて、するりと白い手が腿の内側を滑る。
五指がゆるやかに肌の上をなぞる感覚に身を委ねれば、
力の抜けた膝裏を押し上げられて、あられもなく両足を広げた格好にされた。
目の前には大きな姿見が、さっき脱いで掛けたばかりのコートの隙間からそんな私を映している。
「...此方は自分で弄れるね?」
こり、と硬く膨らんだ芽を押し捏ねられて、甘く囁かれて。
オトナのオトコの腕の中で、乱れたセーラー服の私が蕩ける鏡像は確かにイケナイ感じ、なのかも。
「うん...でも、奥が届かないの...」
「君の手は小さいからね」
そう言って彼は濡れきった私の指をちゅぷ、と吸った。
「おや...我が愛しの魔女の指は、随分淫らな味がするね」
笑いながら私を支える腕を包む黒衣の固い生地が擦れて、胸の突起がつんと硬くなる。もどかしい。
もっと、もっと。
「はぁ、っ、あ、神野さん」
鏡の中の私の瞳が揺れる。腰が震える。花弁が充血して脹らんでいく。
「もっと...気持ちいいこと、知りたい、の」
腕に縋り、手首を甘噛みする。
その掌が頬を撫で、ワルイコの私を叱るように軽く抓る。
同時に、もう片手が一番欲しかったところに届き、
びちゃびちゃ水音を立て始めた。
「あっ、あんっ、ああんっ...」
「気持ちいいかね?」
「気持ちいい、気持ちいいよぉ...神野さん...っ、あん、あっ」
長く骨張った彼の指は、的確に私のいいところを擦る。
思わず背を反らし、頭を胸板に擦り付けると、降りてきた唇が耳朶を食む。
にちゃにちゃと粘液をかき混ぜて蠢く指は決して早い動きではないのに、どんどん追い詰められていく。
動かなくなっていた私の指も巻き込んで愛撫は続く。
「あっ、あ、も、くる...かも」
「...では、今日は一つお勉強をしようか」
ずれた体を抱き直され、脈打つお臍の下をきゅうと押される。
「ここに力を入れてご覧、...そう、いい子だ」
「ん...ん、っ、こう...?」
言われたとおりにすると、入口から這い登る快楽が奥深くと繋がる感触がした。
あ...こうやって、受け入れるんだ...
「そう...ほら、子宮口が開いて来ている。上手だね」
幼子に言い聞かせる様に柔らかな囁き。
でも、深く深く押しいる指は私を雌にしていく。
開いた隙間をさらにこじ開けるように、ぐちゅぐちゅ、じゅぷぢゅぶ、する。
「もう、もうだめっ...!ほんとうにきちゃうからぁ...っ」
くすり、と彼が笑う。その気配だけで、強まる抱擁の感触だけで、
あ、もう、もう...
「あっあ...っ、あああああぁー...っ...!」
絶頂の刹那、ぎゅうううっとナカが収縮し、出されてもいない精液を呑みこもうとびくびく蠕動する。
腰ががくがく痙攣して、下腹の左右にある臓器が甘く疼いて、こえにならない声が漏れてしまう。
「あっ、あ...ふ、ぅ」
ぷちゅ、泡を弾けさせながら、奥から残りの愛液が流れでて、どろどろ彼の手を汚す。
ゆっくり引き抜いて、粘つき糸を引くその指を目の前で見せ付けられた。
「...見たまえ、こんなに沢山の蜜が君のココから溢れてきたのだよ?」
「ん...きもち、よかったんだもん...」
快楽の余韻に揺られ、とろりとわらうと、優しい悪魔の手が滑り落ちかけたセーラーカラーを直した。
「...ね、神野さん、魔女は契約をするものよね」
「君にそんなものは必要ないが」
「うん、でも、したいの」
「それがどういう行為を指すか」
「わかってるよ?あ...でもね」
「今ではない、かね」
さっきまでの出来事が嘘のように乱れた制服を脱いで、
少女らしい部屋着に着替えた私を見てやれやれというように彼は嗤う。
その笑みのまま子供にするやり方で私の頭を撫でた。
「女の子は複雑なんだよ?」
まだセーラー服を着ていたい。
ぜんぶなんてもったいない。
いまはまだだめ、は常套手段だけど。
でも、脱がされるなら...脱がされたい相手は、たったひとり。
「だけど...いつか最後までしようね、神野さん」
彼は優しくキスをして、私の耳元に囁いた。
「君が望むならね、私の魔女よ」