その日、近藤武巳がそんなことを思ったのは、単なる偶然だった。  
 
「──あっ、と。そういえば……」  
 
 旧校舎の見える渡り廊下を横切ろうとして、武巳はふと思い出した。  
 
(ちょっと歩けば魔女≠フいる場所だな……)  
 
魔女=A十叶詠子。  
 ここ聖創学院大付属高校において、たとえ会ったことはなくとも、その名前だけは全生徒が知っていると言っても過言ではない──まぁ、要するに不思議少女である。  
 武巳も名前は知っていたが、二ヶ月程前に友人の空目恭一が失踪した際に僅かな時間会ったのが初めてだったし、その後何か接触があったわけではない。  
 そう、それっきり一度も会っていないのだ。  
 
「一応世話になったんだし、お礼くらい言っとくべきだったかなぁ……?」  
 
 彼女がそんなことを気にする人間ではないことは、あの数分の会話を見ているだけでも理解出来たが、この場合そういう問題ではない。  
 
(……今から会ってみるか?)  
 
 ふと、そんなことを思った。  
 非常識といえば非常識だが、それこそ、彼女はそんなことを気にする人間ではない、だ。  
 それに、武巳は変わった奴が大好きなのである。  
 流れている噂の内容が内容なので今まで会おうとも思わなかったが、空目を見つける手掛かりを教えてくれたし、そう悪い人ではないのだろう。多少頭がアッパッパーかもしれないが、空目とはまた方向性の違う霊能者≠ニ話してみるのも、面白いかもしれない。  
 
(うん。ちょっと行ってみよう)  
 
 決めて、武巳は旧校舎の池を目指して歩きだした。  
 

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