「今からクリスマスパーティを始めまーす!」
「おぅ、メリークリスマス!」
今日は待ちに待ったクリスマス。
みんなを部室に集めて、クリスマスパーティの開催をこの私、日下部稜子が宣言する。
でも返ってきたのは武巳クンの声だけ。
亜紀ちゃんは呆れたような顔で溜め息なんか吐いてるし、村神君は壁にもたれかかって腕組み。椅子に座ればいいのにね。そして魔王様に至っては本を読む始末。
せっかく武巳クンと二人でツリーの飾り付けしたりケーキを買ってきたりしたのに(だって他の人は手伝ってくれないんだもん)これじゃつまんない。
サンタさんの帽子だってかぶってるのに。
「今日はクリスマスなんだよ! もっと楽しくぱーっとやろうよ!」
私がみんなに言うと武巳クンも「そうだそうだ」と頷く。
すると魔王様は読んでた本を閉じて、やっと口を開いてくれた。
「いいか日下部。クリスマスというのは……」
「キリストの誕生日でキリスト教じゃない私たちが祝うのはおかしいって言いたいんでしょ。……ふんだ」
やっぱり魔王様は魔王様だ。
小難しい講義が始まる前に話を打ち切るもんね。
「まったく。稜子、むくれるのはやめな」
「むくれてなんかないもん」
思いっきり拗ねた声が亜紀ちゃんに返ってしまった。
「はぁ……。わかったわかった、一緒に祝うから機嫌直して」
亜紀ちゃんの言い方がワガママな子供をあやすみたいで少しむっとなる。
でも祝ってくれるのは嬉しいな。
「ま、クリスマスが恋人がいちゃつく日じゃないってのは恭の字に同意だね」
「えー、亜紀ちゃんにはロマンスがないよぉ」
クリスマスっていうのはカップルがプレゼントを交換したり同じマフラーを巻いて暖まったりする日なのに!
「つーか、木戸野。陛下はなにも言ってないじゃんか」
話を聞いてた武巳クンが突っ込む。それもそうだ。ナイスツッコミ。
「馬鹿者。恭の字が恋人の日を肯定しない事なんてだいたい分かるでしょ」
「まぁ、うん……」
確かに……。武巳クンに同意。
「それじゃ、村神君はどう思う?」
「俺か?」
まだ腕を組んで壁にもたれかかってる村神君に聞いてみる。
「クリスマスなんて祝った事が無いから、よく分からないな」
「ウソ!」
返ってきたのは予想外の答えだった。
信じられない。クリスマスを祝った事が無いなんて。きっとお家の人が厳しかったんだね。村神君、かわいそう。
「それじゃ今日は村神君の初クリスマスだね!」
なんだかやる気が湧いてきた。
村神君に今までの分も楽しんでもらわないとね。
早速村神君のとこに行ってサンタ帽をかぶせてあげる。
うんうん、意外と似合ってる。村神君は困ったような顔をしてるけど。
次は武巳クンに手伝ってもらって、紙コップに全員分のジュースを入れる。後はクラッカーをみんなに配れば準備完了。
「それじゃあ始めるよ?」
せーの、と息を合わせてクラッカーの紐を引っ張る。
次の瞬間、パァーン、という音と共にカラフルな紙が飛び出す。やっぱりこれだよねー。
「みんな」
「「メリークリスマス!!!」」
みんなの声が揃って………あれ?
「やっぱり……二人だけ?」
答えの代わりに二人分の溜め息と紙を捲る音が聞こえてきた。