あやめちゃんとよみこちゃんは双子の女の子。容姿はまったく違うけど、そういうことに  
なっています。  
「さあ、お姉ちゃん。行くよ」  
 よみこちゃんは姉のあやめちゃんに声をかけました。学校指定のコートをローブのように  
羽織って、まるで魔法使いのようです。  
 あやめちゃんはおどおどした様子で妹を見つめます。こちらは臙脂色のケープに身を  
包んでさながらお人形のようです。  
 あやめちゃんはよみこちゃんよりさらに小柄な体で、どちらかと言えばよみこちゃんの  
方がお姉さんに見えます。実際、あやめちゃん自身もどうして自分が姉なのか不思議に  
思うこともあります。しかし現実は非情、運命は残酷なので、仕方なく受け入れるしか  
ありません。  
「うん……」  
 小さくあやめちゃんが頷くと、よみこちゃんはにっこり微笑みました。  
「今日の相手はちょっと厄介な人みたいだよ。でも頑張ろうね」  
 よみこちゃんはあやめちゃんの手を引くと、「神野さんよろしく」とあらぬ方向に  
向かってささやきました。  
 すると二人の体はみるみるうちに薄くなっていき、あっという間に消えてしまいました。  
 二人の暮らす部屋に、ひとときの静寂が訪れました。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 あやめちゃんとよみこちゃんは、何を隠そう、魔法少女です。  
 秘密ではありません。よみこちゃんに訊けばすぐに答えてくれます。「うん、その通り。  
私は魔女だよ」と。彼女の中では魔法少女、略して魔女なのです。  
 ところがあまりにオープン過ぎるせいか、そのことを信じる者は誰もいません。  
 あやめちゃんに尋ねると「え……あ、その…………」と要領を得ない答えが返ってくる  
ので、みんなよみこちゃんに尋ねてしまうのですが、よみこちゃんは一人で納得して完結  
してしまうことも多いために、結局誰も二人が魔法少女であるという認識を持ちません。  
ごく一部の例外を除いて。  
 二人は魔法の力を使って羽間の平和を守っています。羽間の異変は世界にも繋がるので、  
二人は世界も同時に守っているのです。  
 具体的にはここ羽間市にいるあらゆる能力者が暴走するのを防いでいます。この市には  
なぜか超常の力を持つ能力者が多数いて、普通の人達に害をなす者が時々出てくるのです。  
 今日も今日とて二人は平和を守るために出動します。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 よみこちゃんのスタンド、もとい契約神は『神野陰之』。彼と契約したことによって、  
よみこちゃんはとても珍しい『闇』属性の魔法を使うことができます。  
 空間移動も闇属性の力の一つ。よみこちゃんはあやめちゃんを連れて、異変を感じた  
場所へと一瞬でワープしました。  
 移動したその場所は駅前でした。見ると、会社帰りの人々が何かに襲われているようです。  
 普通の人には見えませんが二人にははっきりと見えました。たくさんの小さな犬達が  
「びゃんびゃんびゃん」と甲高く吠えながら人々を追い回していました。  
 よみこちゃんはのんきに「あ、かわいい」などと呟きましたが、優しい性格のあやめ  
ちゃんは慌てて人々を助けようとしました。  
 あやめちゃんの綺麗な詩声が辺りに響きました。  
 その瞬間、詩に巻き込まれるように人々が周囲から消えてなくなりました。  
 標的を失った犬達は戸惑ったように辺りを見回しています。  
 よーく観察すれば、今いる場所がさっきまでと違うことに気付いたでしょう。さっきまで  
いた駅前とは同じなようで違います。その証拠に、看板の文字や道の方向、建物の形などが  
すべて鏡写しになっているではありませんか。  
 あやめちゃんは狙った相手をもう一つの世界に一時的に『隔離』することができるのです。  
つまり人々が消えたのではなく、犬達を元の世界からもう一つの世界に移したのでした。  
あやめちゃんが持つ『神隠し』の魔法の一つです。  
 ちなみにかつてこの魔法を使っていた者はこんな使い方はせず、かわいい女の子を隔離  
していたずらばかり行っていたのですが、あやめちゃんはそんなこと知るよしもありません。  
 
 さて、犬達を隔離したはいいものの、あやめちゃんはこれからどうしようと悩みました。  
とりあえずこの犬達は普通ではないようです。誰かが操っているのでしょう。一体誰が、  
「この馬鹿ども…………」  
 そのとき、苦虫を潰したような機嫌の悪い声が聞こえました。  
 はっと駅の入口を見やると、よみこちゃんと同じ学校の制服を着た少女がむっつりした  
表情で立っていました。  
 綺麗な娘でした。テレビに出てくるアイドルのような愛らしい顔立ちです。しかし、  
むっつりした表情が今はそれをぶち壊していました。  
「まあ、敵が見つかったわけだから良しとするか……」  
 少女は犬達に何かを呟きました。すると犬達は一斉に姿勢を正して座り込みました。  
少女は二人に聞こえないように呟いたみたいですが、耳のいいよみこちゃんにははっきり  
聞こえました。  
「もうちょっとはっきり言った方がいいと思うな。おすわり、って」  
「なっ……!」  
 少女は顔を真っ赤にしました。  
「でもとてもいい子達だね。よくしつけてある。ねえ、お手は? おまわりやチンチンも  
できる?」  
「……うるさい」  
「恥ずかしがらずに言ってみてよ、『お手!』って。あ、チンチンの方がいいかな? さあ  
張り切って言ってみよう。恥ずかしがらずに、大きな声で『チンチンッ!』って、」  
「うるさい、黙りな!」  
 少女の怒鳴り声にあやめちゃんがびくっ、と身を縮めました。  
 よみこちゃんは少しも動じません。柔らかく微笑むと、少女を指差しました。  
 
「そんなに眉を寄せてると綺麗な顔が台無しだよ、ガラスのケモノさん」  
「な……?」  
 少女が怪訝な顔をしました。  
 あやめちゃんも微かに眉を寄せましたが、気にしないことにしました。よみこちゃんは  
時々他人に勝手にあだ名をつける癖があるのです。今回もきっとそうなのだろうと小さく  
ため息をつきます。  
「あなたの魂のカタチだよ。とっても綺麗でとっても鋭利。硬くてしなやかで、だけど  
繊細で、脆い。美しいと思うよ私は」  
「無駄口はいい。どうせあんたは私に殺されるんだから」  
「ん? ひょっとして私達のことを知ってるの?」  
 少女はふん、と鼻で笑いました。  
「答える必要はないね。──行け、犬神ども!」  
 少女の命令で控えていた犬達が一斉に襲いかかってきました。  
 あやめちゃんがきゃっ、と悲鳴を上げましたが、よみこちゃんは微塵も揺るぎません  
でした。代わりに一歩前に出て呟きました。  
「神野さん」  
 呟きに応えるようによみこちゃんの影の中から魔人が現れました。召喚された夜闇の  
魔王はくつくつと嗤うと、マントを広げて右手をつい、と振りました。  
 その瞬間、先頭の犬達が空間ごと削り取られたかのようにかき消えてしまいました。  
「──っ!」  
 少女はあまりにでたらめな出来事に狼狽しました。  
「ガオンッ、てね」  
 よみこちゃんはおどけて言います。  
「神野さんはいろんなものをここじゃない向こう側に『繋いで』くれるの。今みたいに  
削り取るなんてお茶の子さいさいなんだよ。ザ・ハンドだね」  
 よみこちゃんは右腕をぶん、と振って削り取る真似をします。  
 少女はしかし、それをまともに聞いている余裕など持ち合わせていませんでした。  
 次々に消されていく犬達を茫然と見つめることしかできません。後ろで見ていたあやめ  
ちゃんはそれを少しかわいそうに思いました。  
 
「あ、あ、あの……」  
「ん? 何、お姉ちゃん?」  
 よみこちゃんが双子の姉に尋ねます。  
「ちょっと、かわいそう……」  
「んー、そうかもねえ……でもあのガラスのケモノさんは退きそうにないよ」  
「同情するくらいなら最初から正義の味方なんてやらなければいいんだ」  
 少女が吐き捨てました。あやめちゃんはその言葉にしゅん、となりましたが、よみこ  
ちゃんは嬉しそうに頬を緩めました。  
「それでこそガラスのケモノさんだね。でももうあなたの使い魔はいないよ?」  
 いつの間にか犬達は魔人によってすべて消されてしまっていました。少女は悔しげに  
顔を歪めます。  
「さて、訊きたいことがあるの。あなたはどうして私達を狙ってきたの?」  
「……」  
「黙秘? 私、素直な子が好きなんだけどなあ」  
「……」  
「仕方ない。神野さん」  
 魔人は主の呼び掛けに薄く嗤います。  
 瞬間、魔人の影から白い、死人のように白い腕が幾本も伸びました。  
 その腕は触手のように少女の体に絡み付きます。  
「や、何これ!?」  
 初めて少女が焦りの声を上げました。  
「大丈夫、危険なものじゃないよ。ただ、ちょっとだけいたずらさせてもらうね」  
 白い腕は蛇のように少女の体を這い、服の内側に滑り込んでいきます。  
 少女はなんとか逃れようと抵抗しますが、スカートの奥を撫で回されると「ひゃうんっ」と  
可愛らしい声を上げました。  
 太股からおしりにかけてねっとりといじられます。形のいい胸を揉みしだかれ、秘密の  
場所を指でかき回されました。  
 
 強烈な刺激に耐え切れず、少女は喘ぎます。  
「や、やめ……あんっ、そんなところ、さわらないで……ひああっ、だめ、そこよわいの」  
「しゃべる気になった?」  
「だ、だれが……あぁんっ! 奥にはいってくるぅ……いや、突き入れちゃだめえっ!」  
「どうして私達を狙ってきたの?」  
「言う、言うからぁ! だめだめだめ、あ、あ、あぁぁんんんっ!」  
 身震いしてまともにしゃべることもできない少女に、よみこちゃんはさらに問いかけます。  
「どうして?」  
「め、命令されて、やあ、乳首だめ……あぁっ、気に入らなかった、けど、しかたなく  
……きゃうっ」  
「命令? 誰に?」  
「きょ、恭の字……じゃなかった、魔王陛下……いやあああっ! クリトリスこすれて……  
イく、イっちゃうっ、だめっ、あっ、あっ、ああああっっ!!」  
 震える体で辛うじて答えると、少女は直後にイってしまいました。  
 あやめちゃんは真っ赤なになって後ろを向いています。よみこちゃんはうん、と頷くと  
神野に拘束を解くよう言いました。神野はなぜかヤり切ったような満足げな笑顔を浮かべて  
いました。  
 少女は地面に倒れ伏したまま身動き一つとれません。テクニシャン神野のベクター愛撫は  
少女を絶頂の向こう側へと追いやったようです。  
「魔王陛下か。どんな相手なんだろうね、お姉ちゃん」  
「さ、さあ……」  
 あやめちゃんは落ち着きなく答えましたが、そういう挙動はいつものことだったので  
よみこちゃんは特に不審には思いませんでした。  
 
「犬神達もやっつけたし、帰ろっかお姉ちゃん」  
「う、うん」  
「じゃあ神野さん、帰り……はダメか。一日三回までだもんね」  
 神野陰之の力を使えるのは一日三回までです。「おとぎ話の願い事は三回まで」という  
よくわからないルールでそうなっているのです。  
 神野の力を使えないよみこちゃんは、かなり力を制限されてしまいます。本人曰く  
「箒で空も飛べないし、黒猫と話もできない」状態になります。  
 もちろんよみこちゃんは気にしません。  
「しょうがないね。歩いて帰ろう。途中でプリンでも買って、一緒に食べようね」  
「……うん」  
 あやめちゃんが再び詩を詠うと、周りは元の世界に戻りました。  
「それじゃあね、ガラスのケモノさん」  
「ごめんなさい、さようなら」  
 二人は仲良く手を繋いで帰ります。よみこちゃんに引っ張られてあやめちゃんは恥ずかし  
そうにしていましたが、どこか嬉しそうでもありました。変わった双子ではありますが、  
なんだかんだで仲はいいのです。  
 後には身動きできない少女が取り残されました。  
 怒りに肩を震わせながら、それでも立てないので悔しそうに歯ぎしりしていました。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 部屋に戻った二人は、コンビニで買ってきたプリンを仲良く食べました。  
 そのあとお風呂に入って、温まった体のまま暖かいベッドに入りました。  
 とても変な双子の魔法少女は、とても愛らしく穏やかな寝顔を浮かべていました。  
 
 
 
 おしまい  
 

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