摩津方IN木村圭子は近頃焦っていた。
「どうし、てっ…ひゃぅっ…わたしはいつも……んっ!」
自分の手は、最近気が付けば自分の股をまさぐっていることが多くなった。
頭の中では違う者の手という妄想と共に。武巳の手にやられているという妄想の中で。
「小僧…ぁ…小僧…っく…ひゃぁ………」
粘着質な音。か細くあげられる苦しげな声。切ない吐息。求める瞳。
いつ頃からこれほどまで人間に戻ってしまったのか。何故戻してしまったのか。
それは解っている。この頭の中にいるこの男が悪いのだ。
「ひゅぁっ! あっ! やっ! 小僧…小僧ぉ………!」
木村圭子の影響もあるが女の体になった自分が真っ先に好いた男。
やはり女は男を求める。実感が湧く事にやや自嘲する。
心では男だと、しかも人から外れた人ならざる者だと思っていた自分も、今では完全に女に染まっている。
だが女になった事を今の自分は後悔しない。死ぬかもしれないという緊張の中で、一瞬だけでも人間に戻れたのだ。
「っ…きゃぅっ…」
あと少しの勇気が必要だった。神野陰之に立ち向かうよりももっと大きな勇気。
真っ白になっていく意識の中でも輪郭を、そして色を残している大切で、好きで大好きで仕方ない愛しい自分の弟子の名前を呼ぶ勇気を。
「た………武巳くん………ひゃんッ、あッ!!」
びくっ、と体が震えた。
微睡みに居るようにはっきりしない意識。疲弊した体。
「はぁ…はぁ…」
ただ、会いたくなった。
携帯に手を伸ばし番号を押す。もう夜も終わり外は太陽の光を浴びて青白く輝く世界だ。既に起きて居るだろう。
『こんな時間にどうかしたんですか?』
ほら、やっぱり起きてた。眠そうな声を聞かせてくれる。
「いや、ただ声が聞きたくて…今から会ってくれる?」
『意味がわかりませんよ…まぁ、良いけど』
「では桜の樹の下で」
そう言い摩津方IN木村圭子は電話を着ると楽しそうにクローゼットを開き服を選ぶ。
共鳴するように雀が数匹何処かで楽しげに歌っていた。
保守