ひっそりと収穫(前>>993-999)とネズミ退治中(前>>1000)の摩津方IN木村圭子と武巳。
いつものように武巳が摩津方IN木村圭子を肩車してあげ、摩津方IN木村圭子が縄を切るという作業形態である。
女子の生活に溶け込みきった摩津方IN木村圭子は最近では肩車が少し恥ずかしそうである。
もはやお前誰だよ。
だが仕方ないのだ。摩津方と言えども女子に混じったら最後、強大な洗脳能力の前にはあらがう術無く伏せるしかないのだから。
そういう訳で、
「小僧、もうちょっと右…きゃっ!?」
「っと、危ないな…ちゃんとバランス良く乗らないと落ちるぞ」
女子への階段を高速で上る摩津方IN木村圭子である。
こうして見るとほのぼのだが実際は魔女との最終決戦が近い為にほのぼのは出来ない。準備は一応完了してある。
そんな時期でもこうして首吊りがたまに実る。
「よいっと…収穫完了か?」
肩に乗る摩津方IN木村圭子を下ろすべく腰を低くしながら武巳が問う。
「うん、あとはこれを人柱と鼠柱(?)として捧げるだけかな」
死体には使い道はある。ひたすら柱として捧げ、魔女を少しでも邪魔するのに使うのだ。
鼠柱はよく解らない暇つぶしのようだ。
「小僧…貴方は大丈夫なの?」
ふと摩津方IN木村圭子が口を開いた。やや重く暗い雰囲気を漂わせて。
残念ながら口調のせいでかつての威厳を感じられない。
「今更どうしたんだよ」
武巳はすっかり友達口調である。これぞ劇的ビフォーアフター。
「…気付いてると思うけど、今の私は木村圭子の精神と限りなく同調してる。
もはや自分が小崎摩津方なのか木村圭子なのかも曖昧で。
だからもしかすると敗北する………ううん、間違いなく負ける。もし引き返すなら今の―――きゃっ!?」
小さな悲鳴と共に言葉が途切れる。武巳が無言で摩津方IN木村圭子の肩を掴み振り向かせたからだ。
「ふざけるなよ…どんだけ木村圭子と同調しようがお前は小崎摩津方だ…今まで色々なモノを奪った小崎摩津方だ」
凄まじい怒りだった。
摩津方IN木村圭子が一歩退こうとするが肩を捕まれてる為に退けない。
目がぴったりと合ったまま逸らせない。
「………」
摩津方IN木村圭子はただ眼球を震わせた。やがてじわりと浮かぶ水滴。
これほどの存在だったのか、という小崎摩津方としての驚愕。
そして目の前の怒りに対する木村圭子としての純粋な恐怖。
「勝てよ。焼かれても、刺されても、斬られても。敗北は絶対に許されないんだ」
「でも相手は神野陰之だよ? 今の私に勝てるわけないよ………ッ」
「…解ったよ。勝たなくても良い。ただ負けることは許さない」
「それと勝つことの何が違うの!? 負けるなって事は勝てって事でしょう!?」
摩津方IN木村圭子は激昂する。だが武巳はあくまでも冷静だった。
「これは贖罪だ。罪を反芻し、罪を償う。負けることは更に罪だよ
怖いなら…俺が支えてあげる。俺は怖くないからな。もう怖いって感覚も解らないしさ。
大迫歩由美、木村圭子…他にも沢山の、貴方が為の犠牲者全てを背負うのが重いの俺が背負うよ」
「小僧…」
その日、形はどうあれ小崎摩津方は人として、人の前で涙した。
武巳は頭を撫でながら決心した。
神野という神の如く存在するそれを必ず玉砕する、と。命を賭けてでも。
想像する。文芸部員とのまた笑顔で居られる日を、そこに摩津方IN木村圭子が混ざってる光景を。その光景には…
―――。
残念ながら稜子は忘れられてしまい姿はどこにも見えなかった。