「っ・・・・・・!」
鏡から伸びた腕が、容赦なく俊也を鏡面に叩き付ける。顎を引きつけ、かろうじて頭は打たずに済んだものの、もろにぶつかった肩や背の痛みに頭がくらむ。
「てめえ・・・・・何のつもりだ!離しやがれ!」
ぎり、と俊也は魔女を睨み付けるが、魔女は笑顔を浮かべて「それはできないなあ」と首を振った。
「ふふ・・・・・前からずっとずっと気になっていたんだよねえ、貴方のこと。シェーファーフントである貴方は、どんな風に鳴くのかなって、ずっと気になっていたの・・・・・。
だから君をこのサバトに呼んだんだよ?ここは、貴方の為だけに開かれたサバト・・・・。さあ、遠慮せずに、貴方の鳴き声を聞かせて?」
純粋な笑顔を浮かべながら、とんでもないことを言ってのける詠子。俊也は服が伸びるのもかまわずに、力の限り身を乗り出した。
「ふざけんなっ!誰が・・・・・・・っ!」
思わず息を呑んだのは、一対の手が俊也のズボンのベルトをはずし始めたからだ。
カチャカチャと、金属が触れあう音が響く。
「なっ・・・・・・やめろ!魔女!」
「だって、こうするのが一番いい鳴かせ方でしょう?」
君は殴られるのは慣れちゃってるもんねえ、と詠子は笑った。
「君の快感に酔う声はどんな声かな?君はどんな風に溺れていくんだろうねぇ・・・・・。私はね、シェーファーフント君、とってもとっても楽しみなんだよ。だって私は、本当に貴方を好きなんだもの・・・・・」
「ん…………っ、ぁ」
冷たい外気に曝された俊也自身を、それ以上に冷たい屍肉の手が包み込んだ。
そのまま、ゆっくり上下に扱きだす。冷たい手が自身を撫で上げる感触に、俊也は身震いをした。
「我慢しないで、シェーファーフント君」
気を抜けば漏れそうな声を必死で抑える俊也に、魔女はそう微笑んだ。
俊也はぎり、と魔女を睨む。言いたいことは山ほどあったが、この状態でまともに話せるとは思えない。俊也は黙って耐えるしかなかった。
「っ………く、ん………っ……!」
カリ、と先端を引っ掻かれ、食いしばった唇の間から声が漏れる。びくりと反応した俊也を、見逃すわけがなかった。
一本の手で扱きつつ、もう一本の手で先端を刺激する。声を抑えようと努力するも、鼻から空気の抜けるような音が出て、空回りにしかならなかった。
「ふ、ぁ………っ、ん、く、ぁアッ!!」
ぱたたっ、と音を立てて、自身から白濁色の飛沫が飛び散った。
「は……、畜生っ……」
異性の前でイカされた、その羞恥に身体が熱くなる。俊也は悔しげに顔を俯ける。
「んー……やっぱり強情だねぇ、シェーファーフント君。手だけじゃ、たいした声なんて聞かせてもらえないか……」
少し残念そうに魔女は言った。
「やっぱり私がやるしかないのかな……。ね、神野さん?」
『さて………』
ざわり、と闇がうごめく。魔女の周りにあった闇が見る間に凝縮し、一人の男を形作った。
『それが一番有効な方法であることは認めよう……。が、わざわざ君が手を下さなくても、君の願いは叶う……時間はかかるがね。どんな人間も、持てる意思には限界というものがある。このまま彼を責めさいなめ続ければ、いずれ彼も堕ちるはずだ……。さて、君はどうするね?』
「勿論」
にこりと魔女は笑った。
「お願いするよ、神野さん。見てるだけもつまらないしねぇ……」
『そうかね……なら』
神野は陰鬱に笑うと、掻き消えるようにして闇に溶けた。
「ありがと、神野さん」
詠子はそう御礼を言うと、俊也のほうに向き直った。
「っ………な……?」
「フタナリ、って言うんだっけ、こういうの。一度でいいからやってみたかったんだよねぇ……。どんな感じなのかな?他人のナカに入るっていうのは……」
詠子に付いている、男のソレ。それは小柄な少女の身体にはいやにアンバランスで、想像するよりもはるかにグロテスクだった。
これから何をされるか、わからない程俊也も鈍感ではない。
「っ………嫌だ……」
後ろは鏡、それ以上後退できるはずもないが、俊也は無意識に足を後ろに運んだ。こつ、と軽い音を立てて、足は鏡面に当たる。
恐怖に顔を青ざめながらこちらを睨む俊也に、魔女は困ったように微笑んだ。
「そんな怖がらないで?大丈夫だよ、痛いのは最初だけ……。痛みを通り越せば、後は快感に変わるよ。それに貴方は、痛いのは慣れてるでしょう?」
確かに、俊也は何度も叔父に腹を殴られ、背を蹴られ、鍛えぬかれて育って来た。人よりもいくばくかは痛い目に遭うのは慣れていると言えるだろう。しかしそれは、あくまで格闘技上でのこと。詠子が言う痛みとは、まるで種類が違う。
態度が変わらない俊也に、魔女は少し考えるそぶりをみせた。
「どうしても嫌?」
「当たり……前だ……」
「そっか……なら仕方ないな。でもねぇ、これ、一回は抜いておかないと取れないんだよねぇ……。影の人でも相手にしようかな?」
「なっ……やめろ!空目は………!」
「だって、シェーファーフント君、嫌なんでしょう?」
俊也が承諾しないなら、空目に―――。魔女の言葉に、初めて俊也の意思が揺らいだ。
自らの命を投げ出してでも、守ると決めた少年。自分と彼、どちらが大事かと問われれば、それは明らかだった。
「…………わかった………」
ぎり、と悔しさに歯を軋ませて、俊也は自らの身を差し出した。
嫌々ながらも俊也が魔女の要求を飲んだ途端に、俊也を拘束していた手が離れる。今なら魔女を殴って逃げ出すことも可能だが、そうなれば空目が狙われる。
「くそっ………」
小さく悪態をついて、ずるりと鏡に背を預けて座り込む。詠子はその前にすとんとしゃがむと、首を傾げて俊也を見上げた。
「……やっぱり、影の人が傷付くのは嫌?」
「…………当たり前だ………」
視線で人が殺せるのなら、今すぐ詠子はそこに転がるだろう。ありったけの殺気を込めて、俊也は魔女を睨んだ。
しかし魔女はそんな俊也の態度さえも嬉しそうに、無邪気な笑顔で受け流した。
そして、俊也が少し力を入れれば折れてしまいそうな華奢な腕を、俊也の頬に添える。自分は膝立ちになり、俊也の顔を少し上に向けさせて、その瞳を覗き込む。
俊也は決して抵抗はしないが、代わりに思い切り憎悪を込めて睨み付ける。先刻よりもはるかに近い距離で、詠子は俊也の殺気を受けた。
抵抗はしないが服従もしない。そんな俊也を、魔女は大いに気に入ったようだった。
「綺麗な眼―――あくまで自分の信念を貫く―――濁りのない眼だね……。影の人が羨ましいな……私にも貴方みたいな犬がいればいいのに」
そう、愛おしそうに目を細める。
「………御託はいい」
「ふふ、そう?じゃあ……」
低い声で俊也が言うと、魔女は笑って俊也の頬から手を離した。
そして、自分の指を二本、俊也の前に差し出した。
「っ…………!」
それの意味するところが何なのか理解し、俊也は屈辱に顔を歪めた。
魔女はあえて何も言わず、ただ俊也が行動するのを待っている。
「………………、」
一度逡巡してから、俊也はその指を口に含む。己の浅ましい姿に、吐き気がする。
一通り指が濡れたのを確認すると、詠子は指を俊也の口内から引き抜いた。銀の糸が、つ、と後を追う。
「じゃ、力抜いててね」
その言葉と同時に、俊也に舐めさせた二本の指を俊也の後孔に押し当てる。
「っ、ぅ………」
狭い穴を押し拡げつつ、詠子の細く長い指が俊也の内に入ってくる。俊也の唾液で濡れた指は、微かな抵抗を受けながらも、根本まで入り込んだ。
気持ち良い、訳がない。元々排出器官のソコに、何かモノを突っ込まれても、得られるのは吐き気を催す程の異物感。入口をこじ開けられ、内壁を擦られても、幾何かの痛みを生じるだけ。
耐えられない感触ではないが、すぐにでも吐き出してしまいたい衝動に駆られるのは事実だ。
「く…………」
詠子はしばらく試すように指を動かしていたが、ふと思い出したように手を止めた。
「そういえば……。ん……と、ここかな?」
言葉と共に、指を限界まで入れられる。指の先端が、前立腺をかすった。
「っ―――――!!」
突然の感覚に咄嗟に口を押さえる。痛みに似た快楽。痺れるような感覚が背筋を走った。
「い……やだ、そこ……っ、さわ、んな………!」
ぐ、と詠子の肩を押すと、意外にあっさりと詠子は引いた。
「そうだね………もう、いいかな?それじゃ、シェーファーフント君、力は抜いててね。慣らしたから、痛くはないと思うけど……」
軽く俊也の首筋にキスをして、詠子はそのまがい物の楔を俊也のソコにあてがった。
「……んっ……」
軽く呻いて、腰を動かす。詠子の指によって慣らされたソコは、その太い楔の先端を受け入れる。―――が、その全てを受け入れるには至っていなかったらしく、ぎちりとそこで動きを止めた。
「――――ぅあああああっ!!!」
結合部が、引き裂かれそうな痛みに襲われる。身体が熱い。電流が全身を駆け抜けた。
「大丈夫………後少し、だから………」
力抜いて、と優しく言われても、できるわけがない。焼かれるような痛みに、歯をくいしばるだけで精一杯だ。
詠子も締め付けられて苦しいのか、少し眉根を寄せている。だが相変わらずその口元には笑みが浮かんでいて、俊也との違いを見せ付ける。
「いっ………や、嫌だっ……も、ひ、ぃあああぁァッ!!!」
再び、引き裂かれる痛みが俊也を襲う。ぎち、と、俊也が受け入れられる を大幅に越えて、ソレは根本まで俊也の中に埋まった。
本来は何物にも侵入されることのない場所。とてつもない存在感、吐き気がするほどの異物感は、指の比ではない。
全て入ると、今度は詠子は腰を打ち付けてきた。一度侵入を許したソコは、二度目三度目の侵入も、回数が増える度に抵抗を少なくしていく。
「あっ……ん、や、ふっ……!」
痛みが、快楽に取って代わるのは、そう長くはかからなかった。
引き裂かれるような痛みは次第に痺れるような快感に変わり、悲鳴じみた叫び声しか出せなかった喉も、今は甘い喘ぎ声に満たされている。
「はっ……ん、んんっ……!」
自分の、いつもとは違う声を聞きたくなくて。両手で口を押さえて、溢れる声を押し潰す。口が使えないので呼吸が難しくなるが、自分の痴態を聴き続けるよりははるかにマシだ。
「………駄目だよ、シェーファーフント君」
「っ!?」
ぐい、と口を押さえている手を後ろから引っ張られる。見れば、一度は引っ込んだはずの出来損ないの腕が、再び鏡面から生えているのだった。抵抗する暇もなく両腕は鏡面に括りつけられ、自由を奪われる。
「貴方の鳴き声に興味があるのに……押さえられたら聞けないでしょ?」
にこりと微笑む様は、まるで天使のそれだった。
しかし言っていること、やっていることは悪魔に等しい。
出来損ないに腕を拘束させたまま、再び動き出す。
「ぃああああっ!あっ、ぅ、うぁっ!!」
先程確かめた前立腺を、容赦なく突かれる。気力だけで抑えようとしていた声は、呆気なく漏れ、鏡回廊に自身の声が響き渡った。
「やっ、め、……や、嫌だっ……嫌っ……!」
目をつぶり、涙を飛び散らせ、いやいやをするように首を振る。
詠子がもう一度前立腺を突き上げると、ひくりと小さく反応し、腰をのけ反らせて――――。
「あああああああああっ!!!!」
悲鳴と共に、果てた。
射精した衝撃で、詠子のソレもきつく締め付けられて、ほぼ俊也と同時に達する。
「はっ………ぁ………」
荒い呼吸と共に射精しおわったソレを引き抜くと、俊也から安堵したような深い溜息が洩れた。
俊也の腕を拘束していた出来損ない達はいつの間にか消え、後には詠子と、鏡面に力無く寄り掛かる俊也だけが残った。
俊也は射精の衝撃か、目は虚ろで、汗だくで荒い呼吸を繰り返していた。詠子は用済みのソレを取り、地面に捨てた。精子で塗れたソレはべちゃりと地に落ち、蛞蝓のように溶け消える。
「……ごちそうさま、シェーファーフント君」
なかなか良い声だったよと、魔女はそう悠然と微笑んだ………。
fin.