時刻はお昼ご飯時。  
ここ南家では事件が起ころうとしていた。  
きっかけは次女カナが三女チアキの大切なぬいぐるみに醤油をこぼしたことである。  
あいにく長女ハルカは本日友達の家に泊まりに行っているのでいつものまとめ役がいなかった事が災いし喧嘩が勃発した。  
「チアキ、お前は私には勝てない。これが世界の真理なのだ!」  
一方的にカナにポコポコ叩かれたチアキは怒り心頭。バカ野郎に立場を分からせることに決めた。  
「アイツはどうせこの後昼寝をするだろう。その時がチャンスだ。」  
チアキは道具の準備を始めた。  
 
「チアキ、私は少し眠るよ。夕食時になったら起こしてくれ。」  
先程の喧嘩をすっかり忘れてカナは自分のベッドで昼寝を始めた。  
「ふふふ、バカ野郎め。今日こそキチンと反省させてやる。ハルカ姉様もいない今がちょうどいい。ふじおかの痛みを思い知れ!」  
チアキはコッソリとカナの部屋に入り先程用意したなわとびを4つ取り出した。  
そしてぐうぐう寝ているカナの手足をベッドの柵に固定しカナを起こした。  
「おい、起きろバカ野郎。」  
「ん、 むにゃ。夕食にはまだ早いよチアキ。」  
どうやら寝ぼけていて状況の把握がまだ出来ていないようである。  
チアキは黙って両手をカナのわき腹に伸ばした。そして絶妙な力加減で指を動かし始めた。  
「うひゃ、あはははは、なっ、何だ?あはははは、はは体が動かない!?」  
カナは唐突なわき腹からのくすぐったさにたまらず身をよじろうとしたがなわとびの拘束がそれを阻止した。  
チアキはいったん指を止めカナに語りかけ始めた。  
 
「状況がわかったか?お前は今まな板の上の鯉も同然だ!」  
先程のくすぐりで目に涙を溜めたカナ息を整えつつ返事を返した。  
「ちょっ、チアキ!これは一体どういうことだ?お前には姉をこんな風に拘束する趣味があったのか?」  
チアキはため息をついた。どうやらバカ野郎にはまだこの状況が理解出来ていないらしい。  
ベッドによじ登りカナに馬乗りになる。そして再び両手を伸ばして今度は両の脇に手をおく。  
その様子を見て慌ててカナは叫ぶ。  
「待ってくれチアキ。冗談だ!何でこんなことをするんだ!」  
何でだと?チアキは自分の下にいる姉を見下ろした。人の大事なぬいぐるみに醤油をこぼした上に抗議した自分をポコポコ叩いた行為を忘れているのか?  
チアキは首を横に振った。バカ野郎には自分の罪を自分で気がつかせる必要がある。ここで教えては為にならない。  
「自分で考えてみろバカ野郎。」  
そう言ってカナの脇の下で指を踊らせた。  
「あははは、やめ、チアキ、やめはははは。ほんと、ダメ、やめあひゃははは!」  
カナは暴れようにもチアキに上に乗っかられている上に縛られているので何も出来ず唯一自由に動かせる首を振り回した。  
「ははっ、いいざまだな。お前は私に勝てないんじゃなかったのか?」  
カナが笑い狂っているのを見てチアキは若干の楽しさを覚えていた。いつも何を言われてもさっぱりこたえた素振りを見せない姉が自分の指先だけでこんなにも苦しそうに暴れている。だが反面可哀想にもなっていたのでそろそろやめてあげようかと思い始めた。  
「どうだ?苦しいかバカ野郎?」  
「あっはっははは、くっ、苦しいよチアキ、もう、やめあはは、ゆるし、あははは」  
カナは首を縦にガクガク振り許しを乞うた。その様子があまりにも必死だったのでチアキはひとまず指を止めた。  
「何が悪かったか分かったか?」  
「はあはあ、さっきの喧嘩のことだね。ふじおかに醤油をかけたことを怒っているのかチアキは?」  
カナは顔を赤くし荒い息を吐きながら答えた。ようやく思い出したらしい。  
チアキは大きく頷くと一言だけ言った。  
「謝れ。」  
「すいませんでした。」  
あっさりカナは謝った。それだけさっきの行為が苦しかったのだろう。いつものように軽口を叩く素振りも見せない。  
これで面白くないのはチアキである。さっきは可哀想に思えてやめたが実はもう少しカナが笑い悶えるところが見たかった。  
「ふん、いやに素直じゃないか。だがただ謝っただけで許すと思うなよ。」  
「ええっ、そんな!勘弁してくれよチアキ!」  
チアキはニヤリと笑い首を振った。  
「ならもう一度キチンと謝って貰おうか?」  
「ううっ、わかったよ。ごめ、うひゃひゃ!」  
カナは謝ろうとしたがチアキの指が脇をくすぐり邪魔をした。  
「何を笑っているんだバカ野郎。真面目に謝らないと許さないぞ?」  
「だってチアキがくすぐるんじゃないか・・・ふじおかに醤油をうくく・・・こぼして・・・うひゃん・・・ごめんなさい。」  
「まあ顔が笑っているが・・・仕方ないな、許してやるよバカ野郎。もうするなよ?」  
そう言うとチアキはベッドから飛び降りカナの拘束をほどいた。  
「さっ、ご飯の仕度をするぞ!」  
「ううっ、全くひどい目にあった・・・」  
 
意気揚々と台所に向かうチアキとボロボロのカナ。南家に起きた事件は終わりを迎えようとしていた。  
 
 
 
 
 
 
 
 
「見ていろチアキ・・・夜は私がお前に乗るぞ・・・」  
ハルカが帰るのは明日である。  
 

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