夕食時もつつがなく過ぎ(安全策を取りピザにしたため)チアキの宿題もバッチリ終わった。あとは寝るだけである。
「じゃあ私は先に寝るぞ。おやすみバカ野郎。」
「本当にご挨拶だな!おやすみチアキ。」
カナはチアキに背を向けニヤリと微笑んだ。逆襲タイムの始まりである。
カナは忍び足でまず洗面所に行く。歯ブラシ発見。使えそうなので確保。(ハルカの)
次に風呂場に入る。ボディーソープ発見、確保。
リビングへ向かう。チアキの習字セット発見。中から筆を取り出す。確保。
「よし、これで完璧!いや忘れてた!」
慌てて洗面所に戻る。大きなタオル確保。
「・・・これも使えるかな?」
くし確保。
「よぅし・・・ふふふ、チアキめ。姉の力を今こそ見せてやるぞ・・・」
カナは勇んでチアキの部屋の前に立つ。・・・開かなかった。
「うぬぅ、鍵を閉めるとはこしゃくな奴。だが姉は諦めないぞ!」
カナは扉の後ろに隠れ携帯電話を取り出した。
「確か・・・あった!」
録音ボイスを再生。
「ただいまー、帰ったよー。」
バァン、とドアが開く。チアキは寝ていたのではなかったのか?
「ハルカ姉様?おかえりは明日のはずでは、あれ?」
キョロキョロしているチアキの後ろからカナは飛びかかった。あっという間に大きなてるてる坊主の出来上がりである。
「おい、バカ野郎。これはなんの真似だ。今すぐに降ろせ!」
後ろから見たらリビングの天井から巨大なてるてる坊主がぶら下がっているように見えるだろう。しかしれっきとしたチアキである
「そうはいかないよチアキ。おまえの体に後悔を味あわせるまではね。」
そういってカナは両手をわきわきと轟かせる。チアキは自分の身に何が起きるか想像した。そしてぞくりとした。
「ま、待てカナ。話せばわかる!」
カナはニヤリと笑いチアキの右足を掴んだ。そして・・・
「っつ!うわぁあ、・・・あれ?」
不思議とくすぐったさはなかった。むしろ心地よさがチアキを包んだ。
「どうだ、チアキ!くすぐったいか?くすぐったいだろう?」
「いや、全く。むしろ気持ちいいから左足もやって欲しいくらいだよ。」
理由は簡単である。カナが力を入れ過ぎなのだ。だから指圧になってしまっているのである。
「もう私を解放しろバカ野郎。今なら許してやるから。」
「くっそー!いや、まだだぁ!」
チアキは密かに安心していた。こんなにもカナのくすぐり方が下手ならいくらくすぐられても何の問題もないからだ。しかし・・・
「おい・・・それは何だ?」
カナが隠し持っていた道具類を出し始めてから一気に血の気が引いた。
「私がくすぐりが下手なことは私自身よく知ってる。だから道具を使うのさ。」
そして筆を持ち再びチアキの右足を掴んだ。チアキはもがくが大した抵抗も出来ず筆を足の裏に当てられてしまう。
「覚悟はいいねチアキ?こちょこちょこちょ!」
「くっ、ぅぅう・・・カナぁ・・・」
チアキは首をいやいやするように振りながらも大声で笑うことはしなかった。チアキのプライドがそれを許さなかった。
面白くないのはカナである。これではチアキに勝利したことにはならない。筆を色々な場所に走らせる。踵、土踏まず、足の指。
「うあぁ!やめろ、くっカナ!」
「おや?反応が大きくなったねぇ?」
カナはチアキの弱点を発見しほくそ笑んだ。が、いきなり弱点を責めあげてもつまらないと考える。そして筆を放り出しくしを取り上げた。
「そろそろ我慢も限界だろう?笑ってしまいなさいよ。」
「誰が、うっ、ひゃ、ははははは!やめ、はははは!」
チアキはずっと耐えきるつもりだったが不可能だった。くしの先が猛烈な速さで足の裏を駆け回り思わず笑い出してしまう。
「あははは、ひっ、はははははは!やめ、や、あははははは!」
あまりのくすぐったさにまともな言葉を喋ることも出来ない。くすぐりがこんなに苦しいモノだったとはチアキは知らなかった。
「どうだチアキ?苦しいでしょう?それをお前は私にやったんだ!」
くしの動きを止めチアキの反応を見る。チアキは最初がくりと首を垂れていたがやがてカナの方をみて一言。
「変態め。」
「なっ!ふふふ、愚かな妹だよ。自分の立場がわからないとはね!」
チアキは正直暴言を吐いたことを後悔してはいた。が、どうしても言っておきたかったのだ。
「私はお前の弱点は責めずにいようと考えていた。だがそんな甘い考えはすてる!お前が泣くまでくすぐるのをやめない!」
そう叫んでカナはチアキの両足にボディーソープを塗りつけた。そして歯ブラシを取り出す。
「お前!それはハルカ姉様のじゃないか?」
「そうだよ?」
「このバカ、うひゃぁはははは!」
バカ野郎の言葉は中断させられてしまった。それだけ歯ブラシの刺激は強烈だったのである。
「あはははははは!バ、あはは、はははは!ひゃあはははは!」
「今のうちからそんなに笑っていると弱点にたどり着いたとき死んでしまうぞ?」
ハルカの歯ブラシは確実に足の指に向かって上がっていく。たどり着いた。
ビクン、とチアキの体が跳ね上がりそこが弱点であることをカナに教える。
「では綺麗にしましょうかね。」
足の指を広げ一本一本丁寧に歯ブラシで磨いていく。
「うひはははははははは!頼む、もう、あはあはあははは!」
チアキの目に涙が溜まっているがカナは気がつかずに磨き続ける。そして・・・
「あっ」
チアキは気絶した。カナは笑い声がしなくなったのに気がつきチアキの方を見た。
「チアキ?・・・チアキ!チアキ大丈夫か?」
ピクリともしないチアキに焦り出すカナ。
「うわぁ!チアキが笑い死んだぁ!」
チアキを下ろしさめざめと泣き始めるカナ。
「ごめんよぉ、私がやりすぎたからチアキは、チアキはぁ!」
「生きてるよバカ野郎。あんまり引っ付くな暑苦しい・・・」
目を覚ましたチアキは速攻でカナを突き飛ばした。
「あっ、チアキ生きてたのか!よかった、よかったよ!」
「うるさい、もうお前の顔など見たくもない。片づけておけよ!」
そう言い捨ててカナを置いてけぼりにして自分の部屋に入ってしまう。おそらくハルカが帰ってくるまで口を聞いてくれないだろうとカナは考え寂しく片付けを始めた。
ハルカが帰るのはもう今日である。
チアキはくすぐられていた時のコトを思い出し部屋の中でぼそりと呟いた。
「あの感覚は何だったんだろう・・・くそ、バカ野郎め。」
そのまま布団を被って眠りについた。