−ちゅっ。
「…ッ、きゃあっ!?」
皮膚の薄い場所に、啄むような口付けを繰り返される。
突然の刺激に、姫乃は驚いたような、くすぐったそうな声を上げていた。
その声音の奥に見え隠れする、僅かに混じった艶。
姫乃自身も気付いていないそれをもっと聞きたくて、明神は姫乃の首筋に口付けを繰り返した。
「はっ、あ、ん…ッ!」
口からは、自分が自分でないような喘ぎ声が漏れ始めていた。
明神から逃れようと、懸命にもがく姫乃。
しかしその抵抗は、明神が姫乃の身体にしっかりと回した腕に阻まれていた。
回された腕を除けようと、明神の腕に手をかける。
(やだ、すごい力…!)
自由を奪われた姫乃の力程度では、びくともしない。
それどころか逆に、止まない明神の責めに耐え兼ねて、その腕にしがみつくようにも見えていた。
「ひゃ…!?」
そんな姫乃の仕草に物足りなさを覚えたのか、明神は姫乃の首筋に舌を這わせる。
つう、と舐め上げて耳元にも這わせるだけで、姫乃は震えるようにして身体を跳ねさせた。
「…ッ、く、ふぁ…!」
「………」
ぴちゃぴちゃという音が耳元で響く。
生暖かくてざらりとした明神の舌が耳元を這い回る。
姫乃の顔や身体は、うっすらと赤く染まっていた。
そんな様や、声や仕草や匂いや体温。
全てが明神の五感と理性を奪い、衝動に突き動かされるようになっていた。
(やべ…。もう限界だな、こりゃあ)
何も知らないだろう少女に、こんなことをしている。
本人の意思とは裏腹に、無理矢理に官能の扉をこじ開けている。
もっと端的に言えば、自分が今姫乃の『身体を開発』している。
もっと啼かせたい。
乱れさせたい。
この身体を、抱きたい。
姫乃の首筋や耳元を責めながら、身体へと視線を滑らせる。
回していた両腕を緩めると、明神は姫乃のパジャマのボタンへと手を伸ばした。
−ぷち、ぷちっ…。
片手で姫乃の身体を支え、もう一方の手で器用にボタンを外していく。
半ばまで外された辺りで、異常に気付いた姫乃が声を荒げる。
「やッ、やだ…!!」
「………」
明神はそんな姫乃の声に構うことなく、ボタンを全て外してしまっていた。
姫乃の白い肌と、淡いクリーム色の下着が露になる。
下着に包まれた、控え目だけれど柔らかそうな姫乃の膨らみ。
そして耳元で響く明神の荒い呼吸に、姫乃は羞恥から頬を染めていた。
「…ひめのん…」
低く掠れた声。
明神が、姫乃の耳元で囁く。
乱れた呼吸音と熱い吐息に、姫乃は身体を震わせた。
「オレと、ヤろう」
「……!!?」
驚きのあまり、明神の方を向いて目を見開く姫乃。
その言葉の意味が、分からない程子供でもない。
反射的に明神の方を向いた。
顔が、近い。
「え…、あの、えっと…」
「オレのこと、嫌いか?」
「き、嫌いじゃ、ない…よ」
「なら、いーだろ?」
「よ、よよ、良くないよっ!」
「なんで」
「……ッ!」
間近で瞳を覗き込まれる。
姫乃の心臓が、どきりと跳ねた。
「あ、その、…ぅ…」
「…冗談だよ」
「…え」
そう言って笑いながら、姫乃を宥めるように肩を抱き寄せる明神。
いつもと変わらない笑顔に、奇妙な違和感を姫乃は拭えずにいた。
(…冗談なら。何で、離してくれないの…?)
「ひめのんが、本当に本気で嫌だってんなら止める」
「…え、うん…。………ッ!?」
「いくら何でも、嫌がる女の子と無理矢理ヤる趣味はねぇからさ」
「あ…ッ、んん…!」
明神の手が、姫乃の腹を撫で上げる。
そのまま、クリーム色の下着に包まれた胸に手が触れた。
下着越しとはいえ自分以外の、しかも男の人に触られている。
その事実が、姫乃の羞恥心を余計に煽っていた。
「ひめのん…」
「…んッ、明…神、さん…!」
耳元で囁く声。
ほんの少し遠慮がちに、揉まれる胸。
全身を何かに支配されるような感覚。
それが怖くて、思わず全てから顔を背けた。
「本気で嫌なら、大声上げるなり暴れるなりしてくれな?」
「…あッ!んん…ッ!!」
「でないとオレ、もう、我慢出来ねぇから」
「…や、あぁ…」
「ひめのんの声…、すげえ可愛いけどやらしいから、な」
膨らみを撫でる指先。
直接触れ合っている感覚に、体温が暴走しそうになる。
そして再び、曝け出された姫乃の首筋に明神が口付けを落とした。
「ッ、あ、あぁ…ッ!!」
突然の刺激に姫乃の身体が大きく跳ね、一際大きな嬌声が漏れた。
傍らにあった明神の腕に顔を埋め、身体を震わせる。
「…はぁ、…ん…」
瞳に涙が滲む。
息が上手く出来ない。
乱れた呼吸はそのままに顔を上げると、姫乃は凍り付いた。
(やだ…、やだ…ッ!!)
柱に掛けられた鏡。
普段なら気にも留めないそれに、姫乃の視線は釘付けになっていた。
鏡の中には、明神に抱きすくめられた自分の姿。
パジャマのボタンを外され、あられもない姿を晒している。
そして、自分の顔。
紅潮した頬に潤んだ瞳。
鏡の中の自分は、明らかに物欲しそうな顔をしていた。
初めての快楽に、呑み込まれながらも男を欲する女。
それが、今の姫乃の姿だった。