「あークソッ、なんでこんなに暑ちーんだよ!」  
長雨がようやくあがったと思ったら一気にカンカン照りですか!  
うちにはクーラーなんてぜいたく品ねェからこの時期拷問なんだよな。  
 
雨続きで溜めていた洗濯物、取り込まなきゃ。オレはサンダルをひっかけ  
物干し台のある軒下に行く。  
 
「ただいま、明神さん!」  
あ、ひめのんが帰ってきた。  
 
「今日の晩御飯なにー?」  
そう問うオレに、ひめのんはくすくすと笑いながら「しょうが焼き定食だよっ」と答える。  
 
ああ、可愛らしいなぁ。オレ早くに親を失くしてずっと一人ぼっちだったから、  
妹ができたみたいで嬉しかったんだ。  
そう、嬉しかったんだよ最初はただ純粋に。  
なのにいつ頃からだろう、可愛らしいという感情が愛しいに変わったのは。  
 
細い肩、きゃしゃな体、いい匂いのするさらさらの黒髪。  
抱きしめたい、と思った。ぎゅ〜ってして髪に顔をうずめて、  
そいでさくらんぼみたいな唇にちゅ〜って!  
 
……やべーオレマジで捕まるかも。  
 
瞬間、背後からものすごい殺気を感じてオレはとっさに身をかがめた。  
頭の上をデカいハンマーがよぎる。  
「っにすんだよガク!!」  
振り向いたそこには陰魄顔負けの禍々しいオーラを出しているガクがいた。  
 
「……なんか殴らないといけない気がした」  
ぎくり。  
ハンマーをかまえ、じりじりとガクが詰め寄ってくる。  
 
「お前なにか不埒なことを考えていただろう、そうだろう!」  
「うっせー考えてねェよ!!」  
内心ドキドキしながらガクの攻撃をよける。いつものやりとりが始まっちまった。  
 
あ、エージとツキタケが面白そうに見物してやがる。  
いい気なもんだぜ全く。  
 
 
 
「こらぁ―――――!!!!やめなさい二人とも!!!!」  
ぴたりとオレ達の動きが止まる。首にタオルをひっかけたひめのんだ。  
シャワー浴びてたのかな。  
 
「おおスィート、君の髪から滴る雫の一粒にオレはなりたい……」  
ぷるぷると震えながらガクがひめのんに近寄っていく。  
 
「もー二人ともよく飽きないよねー!」  
半ばあきれたような表情でひめのんは部屋に戻っていく。  
 
ゆらりとオレのほうを振り向くガク。  
「ふん、お前なんぞ相手にしている時間はない。行くぞツキタケ」  
「はーい」  
「んだよまた修行?」  
エージが野球のボールをいじりながら言う。  
 
 
 
「今度戻ったときが明神、お前の命日だ!墓でも掘って待ってろ!」  
「吠えてろ!二度と戻ってくんなペッペッ!」  
 
 
薄暗くなりかけた町並みにガクとツキタケが消えていくのを見送りながら  
怒鳴っていると、エージとあずみがなにやら支度をしている。  
「なに、どした?」  
 
「エージが花火につれてってくれるって!」  
そう嬉しそうに跳ねているあずみ。そういや今日、近所の土手沿いで  
花火大会があるんだっけ。  
 
「あずみちゃんよかったね」  
ふいにひめのんの声がした。  
「花火大会見に行くんだっ…て……」  
ってひめのんその格好は!  
 
「えへへー、似合う?」  
オレはつい見とれてしまった。はにかむひめのんが着ていたのは浴衣。  
ピンクの花模様があしらってある白地の浴衣は、ひめのんの黒髪によく映えていて――  
 
か、可愛い…!!  
 
「…明神さん?」  
オレの顔の前で手をひらひらさせてるひめのんにようやく気づく。  
「は、あぁ、に、似合ってるよひめのん!」  
「わーい、ありがと明神さん!」  
 
 
 
浴衣とセーラー服とナース服は男の永遠の憧れとはよく言ったもんだぜトミさん!  
 
 
夕食の後、オレとひめのんは屋根の上に登って花火見物をすることにした。  
お、そういやトミさんから貰ったアレがあったっけ。アレも持ってこう。  
ひめのんはアイスやらお菓子やらを抱えている。  
「そんなに食ったら太るぞ〜」  
「育ち盛りだからいーんです!」  
 
ああもう、ふくれっつらも可愛いなぁ。  
 
 
「よいしょ」  
「気をつけて」  
浴衣姿のひめのんを支えてやりながらオレ達は屋根に登る。  
 
程なくして、遠いところからヒュルルル…と音がして、直後夜空いっぱいに  
花火が光り輝いた。  
 
「うわぁ、きれーい!」  
「たーまやー」  
ぱたぱたとうちわであおぎながら、氷を入れたグラスにトミさんからの差し入れを  
注ぎのどに流し込む。ぷはー、うめー!!  
 
「のど渇いちゃった、明神さんもらうね」  
とひめのんはオレのそばに置いていたそのグラスを手に取る。  
ああいいよ、と言いかけてオレははっとした。  
 
「ちょっと待ってひめのん!」  
止める前にひめのんはグラスに入っていた琥珀色の液体を飲み干してしまっていた。  
「…おいしー!甘酸っぱくておいひーね、らにこれみょーじんさぁん」  
 
オレは顔面から血の気が引いた。  
グラスに入っていた琥珀色の液体は麦茶でもなく勿論めんつゆでもなく、  
トミさん自家製の梅酒なのだから!  
 
「あはは、すごーい花火がたぁくさぁ〜んあがってるぅ〜」  
いや一発しかあがってませんから!  
「ちょ、ひめのん大丈夫か!?」  
焦ってひめのんの顔をのぞきこんだオレはさらに顔面蒼白になる。  
 
「あり?みょーじんさんもたぁくさぁ〜ん」  
め、目が据わってる!!!  
 
「おわッ!危ないからじっとしてて!」  
「やだぁ、花火見るのぉ〜!」  
じたばたと暴れるひめのんを抱え、オレは彼女の部屋に向かう。  
とりあえず畳の上にひめのんを座らせる。布団敷かなきゃな、押入れの中かな?  
 
 
押入れを開けようとしたオレに、後ろからどーーん!とひめのんがタックルしてきた。  
「ぐはっ!?」  
思いっきりふすまに顔をぶつけちまった痛ってー!  
「おとなしくしててよひめのん……  ?」  
床に座り込んだオレに、ひめのんが腕をまわして抱きついている。  
「ひめのん?」  
 
「―――すき」  
 
 
 
はい?  
 
 
ぎし、とオレは固まる。目だけおそるおそるひめのんに向けると、  
彼女は真剣なまなざしでオレを見上げていた。  
「みょうじんさんが、すき」  
 
 
 
はいぃぃぃぃ!?  
 
 
つーか胸!胸があたってるんですけどォォ!!  
頑張れオレ!理性だ理性、ひめのんはまだ高校生、未成年!  
20歳超えてるオレが手ェ出したら捕まるから!  
 
 
「みょうじんさん…」  
ひめのんがするりと浴衣を肩からすべらせると、真っ白な肌とほんのりピンクに色づいた  
乳首が、  え、   ち、     乳 首!?  
 
 
 
はだけた浴衣はなぜこんなにもエロいのですか神様―――!!!!!  
 
 
 

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