最近、2人の様子がおかしい。
1人は私が住んでいるうたかた荘管理人の明神さん。
もう1人は同じくうたかた荘に住んでいるガクリン。
その2人が、最近やたらと仲が良いのだ―――――。
異変(と言ってはなんなんだけど…)に気づいたのは、つい2日前。
学校に行こうとしていた時の事―――。
「ひめのん、今日、いつ帰って来る?」
「………え?」
「だから、その…今日、いつ帰って来る?」
突然の質問にきょとんとしていた私に、明神さんは気まずそうに再び問い掛けて来た。
いま思えば、最初から様子がおかしかったのかもしれない。
私の目の前に来た時から、目線は泳いでいたし、(こう言うのもなんだけど)何より出会った時以来の不審さが滲み出ていた。
そして極めつけは、
「ひめのん、今日は俺達が迎えに行くから待ってて」
何時の間にか明神さんの後ろに控えていたガクリンの姿だった。
違和感。
それがその時私の頭を過(よぎ)った印象だった。
おかしい。
何か根本的におかしいのは瞬時に分かっていた。
明神さんとガクリンが一緒に居る。
これだけで結構、というかあまり有り得なかったパターンだ。
今までどちらかとともに居る時は、また一方が寄ってくる事は多々ある。
それは「洗濯物が終わったよ」とか、
「散歩に行くけどひめのんも行かない?」程度のものだけど。
2人いっぺんに、と言う構図と、「俺達」、と言う単語も気に掛かった。
普段は犬猿の仲で、近寄ると(主にガクリンからだけど)喧嘩が絶えない。
そんな間柄だった筈なのに―――。
(何時の間にか仲良くなったのかな)
そんな事を少し嬉しく思いながらも、
「うん、わかったよ。帰りは3時半くらいになるけど、それでも良いならお願いします」
ぺこり、といたずらっぽく頭を下げると2人は笑っていたから。
何時の間にか違和感は消え去っていた。
ちらりと視線をやった腕時計から飛び込んできた時間も、
忘却というシステムを手伝ったのかもしれない。
「行ってきます」
朝の日差しを浴びて、できるだけ早足で登校する。
何度も通った通学路。
この道をまっすぐ行って、右に曲がると信号機。
更にそれを渡ると小学生の集団登校にかちあたる。
「お姉ちゃん、おはようー!急がないと学校に遅れちゃうよ!」
声をかけてくれるいつもの子。今日は機嫌がいいみたい。
「うん、ありがとう!じゃあここから走って行くね。バイバイ!」
すれ違い様に、にこりと返事を返して走り出す。
「気をつけてねー!」
人懐っこい笑顔が眩しい。やっぱりかわいいなぁ。
それからは暫く走った。
たったったったっ。
軽快な、それでいてリズミカルな自分の足音は、調子がいい合図。
(これなら間に合いそう。今日も頑張らなきゃ―――。
それに、今日は2人が迎えに来てくれる!掃除当番じゃなきゃいいけど)
学校、明神さんとガクリンに思いを馳せつつ、目の前の坂を登り切った。
挨拶運動中の校門の先生におはようございます、と挨拶をして、
下駄箱に靴を入れ、教室に向かう。
一時間目は国語。さあ、頑張ろうっと。