湟神澪は兄弟子である。  
師匠が別なので修行仲間と言った方が正しいが、彼女は自分よりも先に梵術の修行を始めていた。  
そして自分より強い。仲間、とひとくくりにお互いを呼ぶのは、なんだか抵抗があった。  
そしてその上下意識は態度にもあらわれる。  
今日の澪との手合わせで、白金は20回目の空を舞った。  
 
 
磨き上げられた道場の床に、派手な音をたてて叩きつけられた白金を見下ろして澪はため息をついた。  
「お前なあ、ちょっとは攻撃しろ。受けるばっかりじゃ今みたいに隙をつかれたら一発だぞ」  
「ご、ごめん」  
「私も攻撃型じゃないから気持ちはわかるけどさ・・・何でそんなに投げられるんだ。お前Mか」  
「そんなんじゃないよ・・・澪じゃあるまいし」  
「何か言ったか」  
「いいえ言ってません」  
Sの気がある澪に踏みつけられる前に、すばやく起き上がって裾を正す。  
呆れたように白金を眺める澪に、声には出さないが言い訳をする。  
(だって澪は兄弟子なんだもん。)  
白金は性格上、世間体や人間の上下関係を過度に意識してしまう癖があった。  
師匠達や、兄弟子である澪には自然と一歩引いてしまう。  
手合いの瞬間にも攻撃をためらう。結果投げられっぱなしになってしまうのだ。  
だめだだめだと思いながらもなかなか改善できない性格に、白金自身が悩まされていた。  
こればっかりはどうしようもない。なんとか師匠と修行をくり返して、慣れていくしかない―――そう自分の中で結論づけ、今日の稽古は終わりにしようと顔をあげた途端、白金は目を見開いた。  
澪がにっこりと満面の笑みを浮かべていたのである。  
めったに見られない極上の笑顔にぞくっとして、おもわず立ち上がって後ずさる。澪が同じだけにじり寄る。  
「いいことを思いついたぞ、白金」  
「な、なに?」  
聞きたくない。本当に聞きたくない。澪が笑顔で自分から言い出すことは大抵ろくなものじゃないのだ。  
気がつけばとうとう道場の壁まで追い詰められ、白金は恐怖におののきながら目の前の澪を見つめた。  
「ご褒美をやろう」  
「は?」  
そう言うなりなんと、澪はいきなり白金の袴を両手で掴んで一気に引き摺り下ろした。  
下着ごと取り払われて下半身があらわになる。白金は絶叫した。  
「ちょっとなにしてんの!?」  
「だからご褒美だって。おとなしくしてろ」  
「無理!」  
なにこれ?立場逆じゃない?と言うよりも早く、澪は晒された白金のモノへ手を伸ばす。  
必死の抵抗も、いきなりのことに混乱した動作では功をなさず、やすやすと握りこまれてしまった。  
鍛えているとはいえ女の細い指で、やわやわと触られて反応する。澪は片手を動かしながら面白そうに覗き込んでいた。  
「ふうん。ちゃんと起つんだな。白金の事だからもしかしたら起たないかもとか思ってた」  
「すっげえ失礼なこと言うなよ、ていうかやめろって!」  
一転すれば男にとって最大の急所となりうる場所を支配されて満足な抵抗もできない。  
「しゃがむなよ」  
という声になにをするのかと思えば、握りこんだ右手はそのままに、澪は自分の腰帯を緩めると襟の合わせを左手で大きく開いた。緩ませたサラシの間から、まだ未成年にもかかわらず豊かな胸が零れ落ちる。その光景に息をのんでいると、澪はやっと白金のモノから手を離した。  
ほっとしたのもつかの間。  
澪は白金の前に跪いたと思うと、今度はその胸でそれを挟み込んだ。  
 
「ぅあ――・・・っ!?」  
そのやわらかい衝撃に思わず唸る。膝がくじけそうになるが「しゃがむな」という澪の声に咄嗟に壁に手をついてしまう。  
澪は両手で乳房を掴むと外側から強く押さえつけ、ずりずりと細かく擦りあげる。  
「く、ぁあ・・・っ、ちょっと澪、なにを――」  
「嬉しいだろ?」  
手を動かしながら澪が首をかしげる。  
「こうすると男は喜ぶって明神が言ってたんだけど」  
(あの糞野郎!!!)  
気持ちよさに朦朧としながら白金は頭の中で絶叫する。立場とか一瞬吹っ飛んだ。  
どういう状況でそんな会話になったのだろうか。  
そしてそれを簡単に実行してしまう澪の無防備さにも頭が割れるように痛い。  
もしかしなくてもあの男に言いくるめられたのだろう。余裕の態度の理由は経験か。  
澪は白金のまったく逆のタイプで、自分が有利な立場であると認識すると気が大きくなるのだ。  
一体なんと言ってこの行為を抵抗無しに行うように仕向けたのだろうか。その話術をご教授願いたいくらいである。  
しかしなぜこの状況でこの行為に及ぶのか見当がつかない。澪に聞こうにもまともに喋れない。  
澪の胸は恐ろしいほどに気持ちがよかった。身体につりあわないほど成長した胸の大きさとやわらかさ。  
挟んで根元からすりあげる刺激に頭が漂白される。このまま達してしまいそうだ。  
こんな時にも頭をよぎるのは彼女との立場とか、師匠達へのいい訳とか、そんなくだらない事だ。  
うんざりしながらもその思考に引きずられてなかなか達せれない。  
白金の抵抗と逡巡がわかったのだろう、澪は不服げに眉根を寄せると唇を尖らせて呟いた。  
「気持ちよくないのか」  
「んっ・・・なわけ、ないでしょ・・・!」  
「じゃあさっさと出してしまえ」  
「でっ、できるか!」  
「ならば」  
と言って、澪は胸で挟み込んだままのモノを、なんと深く咥え込んだ。  
「――――っ!?」  
熱い口内でねっとりとした舌を絡められた瞬間、白金は我慢できずとうとう欲望を吐き出した。  
雷のように突き抜ける快感の中で、まず白金が感じたのは行為からの解放の喜びだった。  
 
行為の後のけだるさでぐったりとした白金とは正反対に、澪はなにやらさっぱりとした表情で、手ぬぐいで白  
 
金の欲望を拭っている。  
自分の道着を整え、ついでに白金のものも整えてくれながら「それで?」と口を開いた。  
「気持ちよかった?」  
そりゃあ。  
「・・・気持ちよかった」  
「そりゃよかった。じゃあ今度からはこれな」  
「は?」  
「手合わせで私に全勝できたら、ご褒美に毎回これをやってやるよ」  
すがすがしい笑顔を澪がにこにこと言う。引きつった笑いを浮かべながら白金は思った。  
(勝てるわけ無いだろう・・・!)  
いろんな意味で。  
行為は気持ちよかった。そりゃ気持ちよかった。しかしそれ以上に、澪が怖かった。  
 
 
後日。  
行為におびえて負け続ける白金に痺れを切らせた澪が、『前払い』と称してしょっちゅう襲い掛かっていたこ  
 
とや、  
それ以来白金が極端に師匠との修行を希望し、風の梵術をものすごい速さで習得して行ったのは―――まあ、  
 
別の話である。  
 
 
 
終わり  
 
 

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