※本番はありません。  
 
「…はぁ、つらい。本当につらい」  
共同リビングのソファからずり落ちかけたまま、言葉とともに大きな溜め息を吐いた。  
「何がつらいんだよ、ここんとこ全然仕事ねーのに」  
真っ白な頭をボールに見立て、ぶち当てる勢いで素振りしていたエージが、馬鹿にしたように言葉をかけてくる。  
「子供にはわからん事情があるんだよ」  
「なんだ、溜まってんのか」  
「っ、なんつーこと言うんだコラ!寝ろ!ガキはもう寝ろ!!」  
「…図星かよ。まぁ何でもいいけどよ、ヒメノとかオカズにすんなよな?」  
ケラケラと笑いながら、エージは素振りをやめ二階へと上がって行った。  
「ったく…」  
 
この頃は夜がつらい。  
何がって、風呂が原因だ。風呂が存在しなければいいのにと思うほどに風呂が憎い。  
女が二人になって、風呂上がりの何ともいえない香りが更に強く香るようになった。  
風呂上がりの女は危険だ。湯気に火照らされてほんのり色付いた肌や、拭き残された水滴が色気を漂わせる。夏の薄着が重なって、状況は更に悪い。  
ただの住人としてしか見ていないはずの姫乃にさえその瞬間は“女”を感じるのだから、もう一人に対しては当然その意識も高まってしまう。  
 
「はぁ。オレもとっとと寝ちまおう」  
妙な緊張で凝り固まった首を揉みながら、管理人室へ足を進める。  
「冬悟」  
ドアノブに手をかけた丁度そのとき、運悪く呼び止められた。  
このうたかた荘の中でその名を口にする人物は一人しかいない。振り向くと、最悪の光景がそこにあった。  
「少し話がある。今からいいか?」  
声の主である湟神は丁度風呂から上がったばかりで、タンクトップにホットパンツという涼しげな装いだった。大きく開いた胸元からは谷間が露出し、柔らかそうな太腿は全く隠されていないに近い。  
…よくない。これは本当によろしくない。  
 
こちらの戸惑いや焦りは全く無視して、湟神の手の中にある缶ビールは小気味良い音を立てて開栓された。  
「あー…あぁ。…どうぞ」  
缶の端を口にあてかけたまま鋭く睨みつけられては、そう返事をするしかなかった。  
 
「──…でだな、お前の剄は───」  
缶ビール片手にくどくどと語られること十分少々になるが、話が全く頭に入ってこない。  
視線は湟神に向けることができず、彼女が手に持っている缶に注いでみたりするのだが、時折口元に運ばれるためあまりそればかり見つめてもいられない。缶の口につける寸前に少しだけ開かれる唇に、誘われているような錯覚を起こしてしまう。  
戸惑いを隠せず、視線は畳の目やら窓枠やらあちらこちらへ落ち着きなく移動した。  
「だから──…おい、聞いてるのか冬悟」  
語り口調とは違う少し低めの声で名前を呼ばれ、軽く肩が跳ねた。  
「…あ……いや、その…」  
呆れたように溜め息が漏らされると同時、後ろの壁に背が凭せかけられ、軽くあぐらをかいていた片足が前へ伸ばされた。  
「今陰魄が襲ってきたらどうする気だ、まったく…」  
もっともらしいその言葉も、酒の缶を片手に言われてはあまり説得力がない。  
髪を掻き上げれば胸の谷間の角度がずれ、手を下ろせばそこに軽い揺れが起こる。今は陰魄よりも、目の前に居る男に襲われる危険を考えろと言ってやりたい。  
「湟神みたいに、そればっか考えてるわけにいかねーんだよ」  
がしがしと髪を掻き乱し、あぐらをかいていた足を組み直す。  
「とりあえず、オレに話があるときは上着でも持ってきてくれ」  
「は?どうしてそんなもの」  
湟神の前に置かれた缶の一本を取り、タブを起こした。シュパッと立った爽やかな音ごと、ろくに味わいもせずに喉へ流し込む。  
そんな爽やかさが似合うほど、心の中は落ち着いてはいない。  
「…湟神、もしかして何も考えてなかったりするのか?」  
「失礼な!いつだって自分の梵術…」  
「だから、そういう意味の何もじゃなくてだ」  
「他に何がある」  
「……その…だな、服…とか…」  
「は?」  
いくら遠回しに言っても、受け答えからして、どうやら湟神には男女の意識が全くないらしい。  
そんな馬鹿なことがあるのかとも思うが、そうでなければここまで無防備にしているはずがない。意識してあえて無防備を演じているのなら、指摘されたときももう少し違った反応をするだろう。  
「あのな、オレも一応大人の男なわけだ」  
「っ、」  
ずばり言ってやらないと気付きそうにもない湟神の、くっきりと線をなした谷間をまっすぐに指差してやる。  
あと拳一つ分近くに座っていれば、勢い良く腕を伸ばした拍子にそこに触れてしまっていたかもしれない。  
 
「そんな格好で、しかも風呂上がりにだなー…抑えようったって、よからぬ思いが…」  
そこまで聞かされてやっと理解したらしい湟神の顔が、みるみるうちに赤く染まってゆく。  
「っ…もういい、黙れこの変態が!!」  
「変態ってなぁ!んなもん見せられりゃあ誰だって…!」  
思わず声を荒げて反論すると、乱暴に胸倉が引っ掴まれ、体重の移動がうまくいかず鼻先が触れ合いそうなほど近くへ寄ってしまった。  
間近で視線が絡み合い、ただでさえ赤かった湟神の顔が更に赤みを増した。  
「…真っ赤だぞ、大丈夫か?」  
「ぉ、お前だって赤いじゃないか!」  
がっちりとシャツを掴んでいた手が、突き戻すように放された。  
その手に従って離れはしたものの、距離は掴まれる前よりもかなり近付いた。湟神は何を言うでもなく、それ以上突き放そうともせず、ただそれ以上視線が合うことがないように赤らんだ顔を横に向けている。  
目の錯覚だろうか、缶を握る手が微かに震えているように見えた。  
「もしかして、こういう話苦手なのか」  
「っ、馬鹿にするな!お前、私をいくつだと思ってる!」  
また掴み掛かってきそうな剣幕で顔が向けられた直後、しまった、とでも言いたげに口元が引きつり視線は下に向けられた。  
「そうなんだよ、まさか経験ないわけでもねーだろうし」  
「…ば……馬鹿にしてるのか」  
顎を引き、じとりと睨み付けてくる目も、わずかな瞳の潤みと頬の赤らみが加わるだけで全く違った印象を持たせる。  
「…どうしてくれる」  
「何がだ」  
「そんな顔されたら、ヤバい」  
「っ、」  
ぐっと顔を近付けると、一瞬息を呑みはしたものの避けられる様子はない。  
そのまま唇を押しあて、はねのけられないのをいいことに後頭部に手を添えながら深い口づけに移しても、抵抗されることはなかった。  
ただ、小刻みに震える手の中で缶が凹まされる音だけが聞こえてくる。  
「っん、う……ぁ…」  
控えめに一瞬だけ応えてきた舌先を逃さず吸い上げ、服の上から乳房に触れる。  
息をつぐたびに漏れる甘い吐息に煽られ、手は好き放題に胸を這い回る。服越しに触れるだけでは満足できず隙間から中へ入り込ませ、直に触れる肌の感触を楽しんだ。  
「…あ……」  
這わせ込ませたその手をぐっと下にさげると、大きく開いた胸元から片側の乳房が簡単に取り出せてしまった。元の状態に戻ろうとする服は乳房の下に食い込み、房の垂れを少し上向きにさせる。  
 
裸の乳房を片側だけ見せ、垂れ出た唾液で唇の端を光らせながら息を乱す姿は、欲望を煽るには十分すぎる光景だった。  
この先の時間へ期待を膨らませ、体の疼きが強くなる。  
「酒の所為だ、酒の…でなければお前なぞにこんな…」  
直に触れた乳房は大きさの割にやわらかく、指先に少し力を入れるだけで簡単に形を崩せてしまう。  
「…ならオレは酒に感謝しねーと」  
片手には収まりきらない房を揉みしだきながら、その先にある小さな膨らみを指先で弾いた。  
「っば、…あ……」  
言葉の途中で漏らされた喘ぎ混じりの吐息に、体の芯がゾクゾクと奮い立たされる。  
両肩にある布紐を肘の辺りまで引き下げると、何の障害もなくあっさりともう片側の乳房が姿を見せた。  
「…ノーブラ?」  
「ちが…っ…」  
どうやら、タンクトップの内側に付けられた薄いパッドが下着の役割を担っていたらしい。  
手探りでホックを外す手間がないのは便利かもしれないが、それを外した瞬間にぷるんと動く乳房を見られないのは少し残念にも思う。  
「…へぇ」  
特に意味のない音を息と一緒に吐き出し、ツンと立ち上がった胸の突起に唇を寄せた。そこへ軽く息を吹きかけ、薄く色付いた乳輪をその形通りになぞって乳房の至る所にキスを落としてゆく。  
くわえ込んだ乳頭を舌先で転がせば、房の全体を揉みしだいているときとは違った吐息が漏らされる。その反応と手に触れる感触を楽しみながら、愛撫を続けた。  
「む…胸、好き…なのか…?」  
一通り楽しみ終えて顔を上げると、相変わらず頬は赤く染めたまま、やっと聞こえる程度の声で問われた。  
「あるならあるで好きだな、やわらかいし」  
「そ、そうか…」  
「すっげーやわらかい」  
また視線が逸らされかけた瞬間を狙って、止めていた手を動かした。  
く、と息を止めて抗議するように向けられた視線をしっかりと捉え、そのまま目を見つめながら掠める程度に胸に触れる。  
「見る…な…」  
「ん?」  
「だから、見るなと…!」  
叩き付けるように頬へ当てられた手に無理矢理顔の向きを変えさせられ、首の筋がブチンと嫌な音を立てた。  
「…お前が変な目で見るから、私まで…妙な気分に…」  
痛い、と漏らしかけた抗議の声は、そのとき見せられた表情のお陰で思わず飲み込んでしまった。  
妙な気分になってもらうのは大歓迎だ。けれどこのまま続ければ、折角ここまで進めた事を拒否されかねない。湟神の要望通りに視線を逸らし、乳房に添えていた手も放した。  
 
「じゃあ…」  
湟神の背と壁の間にある少しの空間に入り込み、足を開いてそのままそこへ腰を下ろす。  
胸板を押し付けるように後ろから腕を回し、シャンプーの香りを漂わせる髪越しに首筋へ顔を寄せた。  
「これでいいか?」  
「っ、…」  
息を飲み込んだだけで反論する様子がないのをいいことに、露出した肌の至る所に手を這わせる。  
姿が見えなくなったことで安心したのか、それとも誰にまさぐられているかもわからないその体勢に興奮しはじめたのか、漏らされる吐息に艶が増した。  
「あっ…」  
腰回りをぴっちりと覆っているホットパンツのファスナーを下ろし、半ば乱暴に押し込んだ手でショーツ越しに秘部を荒らしてやる。  
脱がせきっていないそれは、もっと弄れとせがむようにぐいぐいと手を押し付けさせた。  
「あ、ぁ…っ…」  
皮のごつい指先でもわかるほどショーツには愛液が染み、動きに合わせて湿った音を立てる。  
「…ぐちゃぐちゃだ」  
耳元で呟くと、その言葉に反応して肌が赤く染まった。また溢れ出た愛液の上を、濡れた布がぬるぬると滑る。  
節を軽く曲げ、布ごと中へ差し込んだ指で浅い場所を掻き回してやる。  
「ひぁ、あ、あ…っ!」  
されるがままに喘ぐ湟神は、見慣れた姿とはまるで別人だった。  
ホットパンツやらを脱がせようと手を掛ければ、素直に従い片側の足が抜かれる。脱がせ残したままの片脚の内側に膝を差し入れ、絡ませた自分の足ごと股を大きく開かせた。  
「っ、とー…!んっ……」  
口先だけの抗議は唇で塞ぎ、愛液を絡ませた指先で、ぷっくりと膨らんだ肉芽を弄くる。  
「んぅ、っは…ぁあ!」  
小さいながらにツンと勃起したそれの先を指の腹で捏ね回してやると、背を仰け反らせ甲高い声が上げられた。  
反応の良いそこを弄り続けながら、別の指で秘部の入り口辺りを引っ掻き回す。止めどなく溢れ出る愛液がぐちゃぐちゃと淫らな音を立てた。  
「あぁっ、あ…あ…!」  
ずぶずぶと容赦なく中を犯す指から逃れようと捩られた腰が後ろに下がり、勃起しはじめている肉棒をジーンズの上から撫でつけてきた。  
「っ、く…」  
一度そうされればその刺激の心地良さからは逃れられず、擦り寄せられた腰にジーンズの盛り上がりをぐいぐいと押しつける。  
一瞬体を強ばらせた湟神は、それから逃れようと身を捩り腰を前にずらした。  
その動きで、中に入れていた指が更に奥へと入り込んでしまう。  
 
「い…やぁぁあ…」  
掠めた場所が気持ち良かったのか、これまでにない甘い声を上げ、指を抜かせようと手首が掴まれた。  
必死に握りしめてくる力に逆らい、その場所を狙って激しく抜き差しを繰り返す。  
「いや…だ、あ、あぁ!冬…悟っ、はな…せぇ…」  
中を犯すものを掴み、次第に前のめりに倒れ込みながら喘ぎ続ける姿は、自慰に溺れているようにも見える。  
「あ、あ…ぁ……っくる、はぁあっあ…あぁぁ!!!」  
ビクン、ビクンと下肢が痙攣を起こし、指を差し込んだ隙間から愛液がごぷりと漏れ出る。  
ぎゅうぎゅうに締めつけてくる肉壁に逆らって指の抜き差しを繰り返すと、達したばかりの力ない喘ぎには合わない力でそれが抜き捨てられ、畳の上を這うようにして体が離された。  
「は…あ、はぁ…あぁ…」  
ガクガクと震える腕は半畳分も進まないうちに力尽き、畳の上に崩れ落ちてしまった。  
四つん這いの上半身だけ地に落とし、愛液でぐちゃぐちゃの秘部はこちらに向けて突き出されている。先の座らせたままの愛撫で垂れ出た愛液は後ろにまで回り込み、そこにあるもう一つの穴の回りも膣口さながらに艶かしく潤していた。  
体の昂りを鎮めるための深い呼吸は突き出した腰を揺らし、愛液に塗れた秘部がそれに合わせてヒクつく様を見せつけてくる。  
「はぁ、あ……とう…ご…」  
その光景の卑猥さに見入っていたところへ名前を呼ばれ、虚ろな視線を向けられた。まだ取り出していない肉棒がジーンズの内側で大きく脈打った。  
普段の湟神なら、こんな誘うような仕草をするはずがない。酒が回っているのか、それとも快楽に溺れて我を忘れてしまう体質だったのだろうか。  
どうであれ、お互い理性がとうに消えていることは確かだ。脱いだシャツを放り、湟神の元へ足を進めた。  
「あっ…」  
やわらかな丘を撫で、その中心ですっかり姿を晒してしまっている淫らな口を軽く一撫でする。きゅんと窄まったそこはすぐに緩み、物をねだるようにヒクついた。  
そこへ舌をさし入れ、反応させる間もなく吸い付く。  
「ひぅ…っあぁぁ!!?」  
じゅ、じゅ…と淫猥な音を立てながら、ぬめりを帯びた薄い肉に吸い付いては愛液を誘い出す。  
いくら舐め取っても止まるどころか次々に溢れ出、掬いきれなかったものは顎を伝って下に落ちた。  
 
「あ、あっ……とう…っいやぁぁあ…」  
爪が畳の目を引っ掻き、ぶちぶちと音を立てる。逃れようと揺らされるの動きは、舌をもっと奥へ差し込めと誘われているとしか受け取れない。  
崩れ落ちそうになる腰を押さえ付け、尖らせた舌を抜き差して中を犯し続けた。  
「っは、ぁ…」  
片手でジーンズの前を開け、いつでも突き立てられるよう取り出した肉棒を扱き硬度を上げる。その快感に浸りながら荒い息を吐くと、中へ熱を吹き込まれた秘部がヒクついた。  
今でもこれだけ淫れる体なら、肉棒で深くを犯されればどんな反応を示すのだろう。  
張りつめた肉棒への直接の刺激と視界に入るいやらしさに興奮が増し、湟神の敏感な場所を更に激しく責め立てる。  
「あああぁぁ…っあ…あ……ーぁ…───」  
女陰を求めて勃起しきったそれをついに侵入させようと構えかけたそのとき、ひっきりなしに上がっていた喘ぎの声が途絶え、腰を支えていた手にかかる重さが増した。  
「ん、……湟…神…?」  
呼びかけても反応はなく、支えにしていた手から力を抜くと、その体は力なく畳の上に落ちてしまった。  
愛液塗れになった口回りを拭いながら眺めてみるものの、意識があるような風ではない。  
「──…生殺しは勘弁してくれ……」  
肉棒は隆々と、湟神の中に入ることを期待してすっかり勃起しきっているが、意識を飛ばしてしまった相手を犯すのは流石に気がひける。できないことはないが、後が恐ろしい。  
汗や愛液を光らせる裸体を目の前にしながら、一人で事を済ませるしかなかった。  
 
 
 
あばらの辺りにやわらかいものが当たる感覚に目を覚ますと、すぐ目の前に湟神の頭があった。  
あの後、服を着せてやろうにもショーツは愛液でぐっしょり濡れ、また着けさせるのも気がひけた。どうするか悩んだ挙げ句タオルケットをかけるだけにしたのだが、その所為で今、互いの体の間では裸の乳房が押し潰されている。  
「……」  
昨夜の痴態を思い出し、頬が熱くなるのを感じながら、その体を抱き寄せ髪を撫でる。  
部屋から転がり出てしまうほどの寝相の悪さは、湟神が背中に回していたたった一本の腕に防がれたらしい。  
「……ん…」  
鼻にかかった息が漏らされ、閉じていた瞼がゆっくりと開かれた。  
「っ、冬悟!?」  
「あー…起こしたか、わりい」  
「な、何だ、どうし……ーっ!?」  
目を覚ましてすぐとは思えない勢いで布団から飛び出したかと思えば、素っ裸の自分に気付き大慌てでタオルケットを引っ張り寄せる。  
こちらの裸の上半身が現れたことに驚いたのか、ずり退がるように壁際まで逃げてしまった。  
「…まさか、覚えてないのか?」  
すっかり動揺している湟神の前にしゃがみ込み、恐る恐る問うてみる。  
「……し…、したのか…?」  
「まぁしたっちゃしたけど、途中で気絶されたからなぁ…えーと…」  
「だ、だからその後だ!その後、その…」  
どうやら記憶はあるようで、その先は口ごもったまま、心配になるほど真っ赤になった顔が俯けられる。  
あの乱れ様とのギャップに、妙な恥ずかしさが起こった。  
「いや、それは…できなかった」  
一瞬ほっとしたような表情を見せた湟神とは逆に、昇りながらも不発に終わった行為を思い出し複雑な気分だった。  
 
「けどまさか、気絶されるとはなぁ…」  
「っそれは!お前が…あんな……」  
「あんな?」  
「あ…あんな、恥ずかし…」  
言葉ははっきりしなかったが、恥ずかしいやら、しつこいやらと言ったように聞こえた。  
ぼそぼそと呟くうちに顔は髪ですっかり隠れてしまうほど俯けられ、タオルケットを握りしめる手が震えていた。  
「湟神って意外と可愛いんだな」  
「な!?何が…っ」  
気に障ったのか、小さく丸まっていた体が勢いよく起こされた。  
その拍子に落ちてしまったタオルケットの端を慌てて引き上げようとする体を引き寄せ、力一杯抱きしめてみる。  
「なんか可愛い。なんか」  
「……失礼な…」  
小さな呟きの後、強ばっていた体から力が抜かれ、無言のまま額が寄せられた。  
 
 
(おわり)  
 

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