「うー…寒い」  
はぁ、と手に息を吹きかけて擦り合わせても、寒さは一向に治まらない。  
少し前に姫乃がドラッグストアの安売りで買ってきてくれたカイロもあっという間に使いきり、大切に使  
わなかった罰だと言って、当分はそのまま過ごせと放られてしまった。  
生者一人分だけの家賃収入では、ボロアパート一軒分の水道光熱費と自分の食費にやっと回せる程度で、  
安物の暖房器具でさえ買う余裕がない。更にキヨイたちが住むようになってからは、近くでの陰魄騒ぎも  
そうそう起きず、収入は前よりも悪くなっていた。  
 
そんな悲惨な男を助ける素振りも見せずに、つい少し前に突然現れて管理人室に上がり込んできた客人は  
自分だけ温々とニットの上にコートを着たままスープを啜っている。  
そのスープまで自分と姫乃の分だけを持ってきたのだから、意地が悪すぎる。  
「で、なんでオメーはそんな温そうなもん着てるんだ?」  
「自分の金で自分のものを買って何が悪い」  
「悪かねーけどよ、俺見て何とも思わないか?」  
「思うとでも思ってるのか?」  
「………」  
言い放たれた瞬間、畳の上に突っ伏した。  
…鬼だ、鬼が居る。  
黙って座っていれば目の保養になるほど器量も良いのに、口を開けばすぐに人を打ちのめすような言葉を  
平気で吐く。おまけに沸点が低く、手も足も出るのが早い。  
見た目は良くても中身は…と思いながら、それがどうしてこんな関係になっているのかはよくわからない  
ままだった。  
「今日は泊まっていく」  
コトン、と音を立ててカップが置かれたかと思えば、突然そんなことまで言いはじめる。  
もう陽も落ちる頃、小さな鞄を提げて食事まで済ませて上がり込んできたのは、どこかへ出かけるついで  
に立ち寄ったのだとばかり思っていた。  
泊まるつもりならば電話なりで先に連絡を入れておいてはくれないか、客用の布団もしばらく干していな  
いのにと、小さな文句ばかりが浮かんでくる。それがいつから声になっていたのかはわからないが、最後  
に浮かんだものは確実に声に出してしまっていた。  
「風呂の湯だって、バカになんねーんだけどなぁ…」  
「姫乃と一緒に入れば文句ないだろ。何ならお前と入ろうか?」  
「な!?何馬鹿なこと…っ」  
「…馬鹿はお前だ。本気にする奴があるか、このドエロ」  
 
一瞬でもその風呂場の様子を思い浮かべてしまったことを、心の底から後悔した。  
普通に考えて、この湟神澪に限ってそんなことをするはずがない。それだというのに、そんな現実を無視  
して想像してしまうのは、相当溜まっている証拠なのかもしれない。  
「二人居れば、この部屋もちょっとは暖かくなる」  
「は?この部屋?」  
「何か文句でもあるのか」  
「…いや、ない……です」  
どれだけ焦っているかには気づきもせずに、餌は呑気に獣の檻の中で寝姿を晒すつもりらしい。  
手を出さないという保証はできないからどうか別の部屋で寝てくれ、という言葉を口にする間も与えられ  
ず、視界を何かに遮られた。  
「寒いんだろ。私が風呂に入ってる間だけ貸してやる」  
投げつけるように被せられた上着には、人肌の温もりが残されていた。それだけならまだしも、ふんわり  
と女の香りまで漂わせている。  
数ヶ月前の夜に酔い任せでしてしまった事は、結局最後まで手を出しきれずに終わらされたままだった、  
それを改めて意識してしまった体には相当きついものがあった。  
「…はぁ」  
とりあえず妙な気を起こす前に寝てしまったほうがいいだろうと、被せられた上着は頭に引っ掛けたまま、  
押し入れから布団を引きずり出した。  
 
 *  
 
どうやら風呂は本当に姫乃と一緒に入ったらしく、しばらくして、廊下の辺りで二人が話している声が微  
かに聞こえてきた。  
風呂上がりの女の香りは危険だ。数ヶ月前の夜も、その香りに惑わされて、理性がおかしくなったような  
ものだった。  
できればこのまま二人の話がはずんで、姫乃の部屋で寝るようにしてくれればいいのにと思いながら、脇  
の下に挟んでいた掛布団と毛布を掴み上げ、鼻が隠れるほどすっぽり埋もれた。  
けれど願いは叶わず、背中を向けた部屋の入り口で蝶番の軋む音がした。  
「冬悟?」  
カーテン越しの月明かりしかない薄暗い部屋に驚いたのか、少しだけ高めの声で名前が呼ばれた。  
「…俺はもう寝る」  
「で、私の分の布団は」  
「押し入れ。適当に敷いて寝てくれ」  
「それが客に向ける態度か…」  
振り向かずに腕だけ布団から出して押し入れを指差すと、呆れ気味に溜息を吐いた後、足音はそちら側へ  
向かって進められた。  
少し機嫌を損ねたようで、布団を床に下ろすにも、すぐ近くで人が寝ていることなどお構いなくバサバサ  
と乱暴に扱われた。  
 
気配だけで確かなことはわからないが、どうやらそう離れていない場所へ並べて敷か  
れたらしい。  
布団を動かす音が止んでも、しばらくの間無言のままで居た。  
「なぁ湟神」  
「……」  
「湟神?」  
振り向いて見ると、澪は背中を向けたまま顔の半分が埋もれるほどすっぽり布団の中に収まっていた。け  
れど眠入っているような風ではない。  
掛け布団を被ったまま隣りに並べられた布団の側へ移動して、顔を覗き込んでみる。起きているのは明ら  
かなのに、それでもまだシカトを続けられたのが癇に障った。  
どうにかして反応させてやろうと布団越しに腕を回してみる。  
「んっ」  
小さく声は上がったものの、他には何の動きもない。  
無言のまま同じ布団の中に潜り込んで腕を回し直すと、驚いたのか喉の奥からヒュッとしゃくり上げたよ  
うな音が聞こえた。  
「あー…こりゃあったかくていいや」  
「っ、冬悟」  
意識を掻き乱してくる、あの匂いがする。悪戯心が先走って考えなしに近づいてしまったことを後悔した  
矢先、嗜めるように名前を呼ばれた。  
吐息混じりのその声に、押し殺していたものがぞくりと波立った。  
一瞬ためらいはしたものの、長い黒髪の隙間から覗く項が目の前にあっては抑えきれるはずもなく、そこ  
に食いつくように口付けを繰り返した。  
「ん、んんっ」  
首筋へ、耳元へと唇をずらしながら、回していた片手で服越しの乳房に触れる。パジャマと何枚かの下着  
で少し硬めになっているそれを掴むように揉みしだくと、微かに聞こえる吐息に荒さが混じった。  
胸に這わせた手の上に重ねられた手は、制止をかけるように掴みかけたまま、力任せに引きはがそうとは  
せずそのまま置かれた。逆の手は、掛布団を握りしめて顔を隠している。  
腰のくびれと敷布団の間にできた隙間に腕を押し込み、前へ回り込ませた手でズボン越しに秘部の割れ目  
を撫で上げた。  
「きゃあっ」  
肩が竦むと同時に、両腿ががっちりと閉じられ手を挟み込んでしまった。  
拒否なのか、それとも誘われているのか、手を抜き取ろうとしても動かすことができない。  
少しの間、そのまま沈黙が続いた。  
「……」  
腿の合わさりが少しずらされた拍子、挟み込んでいた手の指が秘部に押し付けられてしまう。その瞬間に  
漏らされた甘い声を合図に、挟まれたままの手を乱暴に動かし秘部を荒らした。  
 
いつの間にか服越しでもわかるほどぬるついた窪みを撫で、控えめに芯を持った肉芽を指先で何度か転が  
して、手探りで下着の中へ手を押し込んだ。  
「いやっ、冬悟!」  
布団から這い出てまで逃れようとはせずに、抱き込んだ腰が捩られる。  
その声が、少しだけ涙混じりだったように聞こえた。  
未遂に終わった数ヶ月前にも、嫌だという言葉は何度か聞いていた。けれど今出されたこの声だけは、本  
当に拒否されているように聞こえた。  
「嫌だったら、蹴り飛ばしてでも逃げてくれ」  
逃げやすいよう、中へ差し込みかけていた指を止めて下着から手を抜き取り、抱き込むように回していた  
両手を離して体の距離を置く。  
少しの沈黙の後、ずっと背を向けていた体がこちら側に向けられた。  
「…顔が見えないのが、嫌だ」  
シャツの胸元を掴み引きながら、額をすり寄せるように抱きつかれる。  
控えめに体が寄せられ、乳房の膨らみが軽く押しつけられた。  
「人の体をこんなに好き放題しておいて、お前こそ今更やめる気か」  
呟かれた言葉は、普段からの雰囲気ではとても口にしそうにないものだった。  
顔が上げられ、視線が合うか合わないかですぐにまた俯けられてしまう。  
「この前は顔見るなつったのに」  
「違う、そうじゃない」  
 
目を閉じる度、澪の瞼の裏には別の影がちらついていた。  
数ヶ月前の夜も、後ろ側から回された手に別の人を思い出してしまった。どんなに行為を進めてもその幻  
は消えることなく、逆にそれが本物のような錯覚まで起こさせていた。  
──せめて真っ白な髪が視界に入っていれば、幻からも引き戻されるかもしれない。  
 
「私は見る。けどお前は見るな」  
「勝手だなぁ」  
「見たら殺す」  
「…はいはい」  
気を取り直して、仰向けに寝かせた上に覆い被さりながらパジャマのボタンを外してゆく。中に着込まれ  
たシャツをたくし上げ、ブラジャーのフロントホックを外すと、中央に寄せられていた乳房がぷるんと両  
脇に離れた。  
大きめの乳房は仰向けに寝ても膨らみを残したまま、外気の寒さに晒され頂をツンと尖らせた。  
「見るな」  
「こんなもん目の前に転がされたら普通見るだろ」  
たくし上げていたシャツを上に引き上げると、素直に従って首と腕が抜かれた。  
鳥肌立った体を撫でながら、ぴったりと真上に覆い被さり唇を重ねる。少しでも多くの温もりを求めるよ  
うに、首の後ろへ腕が回された。  
 
「寒い」  
「すぐ平気になる」  
「大した自信だな」  
「うるせー」  
首筋を唇で愛撫しながら乳房に手をかけても、甘い息を吐いているというのに可愛らしくない言葉ばかり  
続けられる。それが澪なりに恥ずかしさを紛らそうとしているのだということは、少し前から視線が合い  
そうになるたび避けられていることで何となく察することができた。  
下を脱がせ自分の服も脱ぎ捨てた後、毛布とともにもう一度覆い被さった。  
「ん、っ…」  
布団の中へ潜り込み、まだ触れていなかった乳房の頂を舌先で転がす。存在を主張するように、それは更  
に固く丸みを持った。  
胸への愛撫を続けながら下へ手を伸ばすと、秘部はまだ潤いを保ったままだった。放っている間にまた少  
し濡れたのかもしれない、指を這わせるとすんなり滑り込んでしまった。  
「あっ、うぁ…あ…」  
ツンと立ち上がった肉芽の先を親指の腹で転がしながら、別の指で膣口の周りを撫で回す。  
時々中へ差し込みかけてはまた口周りへ戻すと、もどかしいのか甘い声を上げながら腰が捩られた。  
酒が入っていないからなのか、中を慣らす間に上げられる声は前よりもずっと控えめだった。  
十分に解れたそこから指を引き抜くと、膣口はそれを名残惜しむようにヒクつかされる。  
「あ…」  
抜き去ると同時に上げられた声は、体の反応と同じように、まだ欲しいと言っているように聞こえた。  
代わりを求めて小さく動かされる膣口に、愛撫している間に硬度を増した肉棒の先端を押しつける。  
「あ、あぁぁっ」  
押し広げられたそこは、喰らいつくように収縮を繰り返しながら肉棒を中へ誘い込もうとする。  
それに従って、遠慮なく突き込んだ。  
軽く引いてはまた押し込みながら、入るだけ奥へ収めきって顔を上げると、肩を小刻みに震わせながら  
喘ぐ艶かしい横顔があった。  
「あ…ぁ…、はぁ…あ…」  
「…湟神」  
その姿に煽られ、中に収めた肉棒が脈打ちまた硬度を増した。  
顔を見下ろす視線と中の感覚に気づき、睨みつけられる。赤らんだ頬と半開きの唇があっては、いくら強  
く睨みつけられても体の熱を上げる元にしかならない。  
「っ、見るなって…言っただろ」  
「無理」  
まだ文句を言おうとする唇を塞ぎ、ゆっくりと抜き差しを始める。  
苦しそうに眉根が寄せられ、口から吐き出せない息が鼻腔から少し漏れた。  
 
「ふ…っあ、あ…!」  
動きを強めるにつれて頬は赤みを増し、喘ぐ口元に締まりがなくなってゆく。  
はじめのうちは控えめに開かれていた脚の力も徐々に弱まり、だらしなく外側へ広げられた。  
開かれた腿に腕をかけて持ち上げ、更に深く繋がれるよう体重をかける。  
「はぁっ、あ…あ…──ッ…」  
「っ、…」  
組み敷いた体が一瞬引き攣れるように跳ね、枕を掴む指が布との間にギチギチと音を立てた。  
ヒクつきながら締め上げてくる肉壁の中を何度か行き来させた後、限界まで張りつめた肉棒を引き抜き、  
梵痕の浮き出た腹の上に精を吐き出す。  
脇腹にあるその痕に何か少しだけ違和感を感じはしたものの、堪えていたものを吐き出せた後の脱力感の  
ほうが強く、同じように荒い息を吐く澪の上に倒れ込んだ。  
 
どちらからともなく唇を重ね合い、汗ばんだ肌をすり寄せて少しの間余韻に浸った。  
 
一度は脱力したというのに体の熱はなかなか治まる気配を見せず、更には下半身に妙な違和感が起こった。  
視線をやると、それは萎えているどころかまたすぐにでも始められるように起き上がってきている、とい  
うよりも、そうなるよう無理に促されているような感覚がある。  
「っ…何した」  
「べつに、何も?」  
「嘘つけ」  
「…元気になっただろ」  
挑発的な笑みを浮かべたかと思えば、艶かしく腕や足を絡み付かせてくる。  
誘われるままに首筋へ口付け、やわらかな乳房を掴みながらもう一度何をしたのかと問い直すと、吐息混  
じりの声で一言、私の力を忘れたか・とだけ返された。  
「こんなもんでも使えるのか…」  
感心というよりも、呆れに近い溜息が出た。脱力感は起こったものの、体の一部はやたら元気に脈打っている。  
「ある意味これも治癒、かな」  
「かな、じゃないだろ。つーか治癒でもねーよ、強制労働だ」  
口先だけの文句を言いながら、上半身の至るところへ吸いつき乳房や腿をまさぐり続ける。  
抵抗するでもなく、腿に手をかければ無言のまま開かれた。  
「……しても、いいのか?」  
「よくなかったら、そんなことするわけがない」  
体を撫でられ「はやく」とまで言われて、ためらいを持っていられるはずもない。  
疼きやめない肉棒を、もう一度澪の中へ突き込んだ。  
 
「ん…っあ、あぁ…っ」  
互いに達した直後の体では上りつめるのも早く、あまり間を置かずに激しい交わりに変わった。  
 
仕掛けてきた澪本人もそれに身を任せ、先の行為よりも強く掻きついてくる。首の後ろに回された腕に  
がっちりと引き寄せられ、耳のすぐ近くで荒い息遣いと抑えもしない喘ぎが聞かされる。  
「きゃあっ、あ、あぁぁっ」  
どうにか吐精を堪えようとしても、生温かい肉壁は貪欲に喰らいつき、耳までその声に犯されて、性感は  
煽られ続けた。  
「湟神、はなせっ」  
「い…やぁ…」  
引き抜こうとする動きは絡みつかされた足に阻まれ、肉壁の締めつけが更に強められる。  
掻きつかれた腕で顔を上げることさえ許されず、そのまま中へ熱を注いでしまった。  
「っ、…」  
「あ…ぁ…」  
ぴくり、ぴくりと体を震わせながら、注ぎ込んだものを更に搾り取るように肉壁がヒクつかされる。  
流されてそのまま出してしまったことをマズイと感じる理性も、その心地よさに掻き消されてしまった。  
そうして一度諦めてしまえば後はずるずると、落ち着きかけてはまた引きずり込まれ、何度もそれを繰り  
返してしまった。  
 
 *  
 
 
何度目かを終えた頃にやっと熱も落ち着き、汗が冷えて奪われた体温を少しでも補い合おうと、肌をさら  
け出したままの体を抱き寄せ合った。  
間を置かずに続けた所為か、澪の体はぐったりとして、引き寄せるにも少し重みがあった。腕の中に収ま  
った肩が小さく揺らされ続ける。  
「なぁ湟神。…無理、しなくてもいいぞ」  
腕の中の肩が、驚いたように一瞬引き攣れた。  
「わかってるから、無理しなくていい」  
「…ずるいな。するだけしてから言うのか」  
「悪い」  
「悪いのは私のほうだろ」  
腕の力を強めると、突き放されることなく胸に頬が寄せられる。  
ゆっくりと背中に回された腕に力が込められ、それ以上近くならない距離を無理に縮めようとするように、  
やわらかな肌が押しつけられた。  
 
「人肌の温度っていいもんだなぁ…離したくなくなりそうだ」  
「なら、放さなくていい」  
 
 
 
(終)  
 

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